83 女子高生も大掃除をする
「大掃除をしよう」
年末だし少しでも片付けをしておかないとね。外は雪だしこの様子だとお出かけも出来ないから丁度いいと思う。
目に見えやすい所は普段から綺麗にしてるから、今日は普段しない所を綺麗にしよう。窓の淵とか、タンスの後ろとか埃って隅っこの方に溜まりやすい。後はあまり着なくなった服もこの際に処分していこう。増えた分だけ物を減らさないと部屋が狭くなっていくからね。
後はカーペットを退かして床も綺麗にしないと。床を掃除するならついでに廊下や階段も綺麗にしよう。うーん、これは大掛かりになりそう。とりあえず部屋で寝てる瑠璃とすら吉を居間へと運んでおこう。よし、頑張ろう。
~2時間経過~
「うん。こんなものでいいかな?」
自分なりにかなり頑張って掃除した。でも前とそこまで変わった感じはしない。ま、いっか。部屋の窓から外を見たけど雪は止んでない。これは明日も積もるなぁ。
「そうだ。ミー美は大丈夫かな」
冬になると我が家のもふもふ達は家の中で過ごす。でもミー美だけは大きいから庭の隅にある物置小屋の中で過ごさないと駄目。心配だから見に行こう。
階下に降りたら居間で瑠璃やたぬ坊達が温かくして過ごしてる。丁度ストーブも焚いてるみたいでヤカンがことこと沸騰してる。おかげで皆眠そうにうとうとしてる。瑠璃だけは炬燵の上に座ってミカンを頬張ってるけど。
私の視線に気付いて瑠璃がこっちに飛んで来た。んー、退屈してたのかな。だったら一緒に行こう。
「う~、寒い~」
外に出たたけで体温が一気に下がった気がする。それに雪も結構積もってるみたいでこれは長靴じゃないと歩けないなぁ。とりあえず一歩一歩進んで庭の奥まで歩いて行く。それで小屋の戸を開けた。
もう長く使ってなくてボロボロな木の戸。今にも外れそうなくらい風化してる。
「ミー!」
開けたらミー美が元気そうに寄ってきた。うん、私みたいに風邪で寝込んでなくて一先ず安心。
「ミー美~、ご飯のリガーだよ~」
ポケットに入れておいたリガーをあげたら嬉しそうに食いついてる。瑠璃がジーッと見てたけど、さっきまでミカンを食べてたのを知ってるから放っておこう。
「思ったよりボロボロだなぁ」
この小屋はお祖父ちゃんが昔に造った物らしくて、それで狩猟道具とかを収納してたって聞いた。お父さんはここを使わなくなったから手入れもされなくてそれで小屋自体も脆くなってる。実際壁の板とかも所々剥がれてて微妙に風が入ってくる。ここで夜を越すのは辛そう。何か方法がないかな。
悩んでたら外の方で古いエンジン音が聞こえた。家の前で止まった気がしたから一旦小屋を出て見に行ってみる。そしたら家の前に白の軽トラが止まってた。
「おじいちゃんだ!」
「お~、ノラじゃないか。元気にしてたか?」
「元気だよ~。おじいちゃんも元気そうだね」
「ははは。ワシはまだまだ死なんぞ」
そう言っておじいちゃんが親指を立てた。今年で80になったって言ってたけど、元気そうで安心。
山奥で住んでるからこの辺よりももっと寒いからすごく厚着してる。
「しかしノラよ。その飛んでるトカゲはなんだ?」
「瑠璃だよ~。新しい家族だよ」
「ぴ!」
瑠璃は飛びながら右手を上げて返事をしたから、おじいちゃんが瑠璃をマジマジと見てる。
「変わった動物だ。何て動物なんだ?」
「えーと、ドラゴン」
「ドラゴン?」
そう言ったらおじいちゃんがまた瑠璃をジッと見つめる。
「それは、アレか。小説に出てくるアレか」
「うん。山で怪我してたから保護したの」
「うーむ。ワシも長く生きてきたつもりじゃが山でこんな動物は見たことないぞ」
ごめん、異世界の山だからなくて当然だと思う。
「そうだ。おじいちゃん、あの小屋直して欲しいんだけど今大丈夫?」
「あれはワシが使ってた物置小屋か。何かあったのか?」
「うん。実は穴が空いてて風が入ってくるからミー美が寒そうだなぁって思って」
「行ってみよう」
それでおじいちゃんを連れて小屋の中に入った。それでミー美を見たおじいちゃんは流石に額に手を置いて唸ってた。
「ノラよ。これは何だ?」
「ミー美だよ?」
「いや、名前はいいんだ。こんなのどこから連れて来た?」
「えーっと、森の中でばったり?」
こっちも異世界の、だけど。
「馬……にしては大き過ぎる。かといって熊とは似ても似つかん。こんなのが森の中でいるものなのか」
おじいちゃんが1人唸ってて瑠璃とミー美が顔を合わせて首を傾げてる。こればっかりは普通の反応だから仕方ない。
「だがまぁ、そうだな。確かにこのままだと冬を越すには辛いだろう」
「うん。何とかできないかな」
「確かここにいらない板と杭があったはずだ。一先ずこれで応急処置をしよう」
そう言っておじいちゃんは物置小屋の中にあった物を使って手際よく板で穴を塞いで行ってくれた。流石はおじいちゃん、こういうのは昔から器用だったんだよね。
「後はワシの知り合いに馬を飼ってる奴がいるから、そいつに藁を少し分けてもらうとしよう。それを敷けば少しは温かくなるだろう」
「ありがとう、おじいちゃん!」
「ミー!」
長生きしてるだけあってこういう時は本当に頼りになる。私だったら小さい穴1つ塞ぐだけで1時間はかかるだろうし。
「いいってもんよ。かわいい孫の頼みだからな。しかしノラよ、1つ聞きたいんだがお前さんの夢は動物園を開くことか?」
「えー、違うよー?」
「そ、そうか。ならいいんだが」
家の皆は家族で大切だから見世物にしたいとは思わないし。
それで小屋の修理をしてもらったから、おじいちゃんと一緒に家に向かった。玄関を開けたらお母さんが気付いてこっちに来た。
「あら、雪蔵さんじゃない。今日いらしたのね」
「ああ、ひさしぶり。偶には顔を見せないと思ってな」
「それならここで一緒に暮らしたらいいのに。あんな山奥で1人で暮らすのは大変でしょう?」
「誰かに頼って生きると己が腐る。こればっかりは譲れんよ」
お母さんも言っても無駄だって知ってるからそれ以上は何も言わなかった。それで家に上がっておじいちゃんと一緒に居間に付くと我が家のもふもふ達がおじいちゃんに気付いて一斉に飛びついた。
普段顔を見せないけど皆良い子だから顔や匂いを覚えてるんだね。
「元気そうだな」
「うん。皆おじいちゃんに会いたかったんじゃないかな?」
私も含めてね。おじいちゃんは手慣れた手付きで柴助やたぬ坊、こん子を撫でてる。大雑把そうに見えて力を全然入れずに撫でてるのがよく分かる。だから皆よく懐いてる。猫丸は何故か私のほうに寄ってきたから撫でてあげる。
「それであの水槽に浮かんでるのはなんだ?」
「すら吉だよ」
「またペットか」
いよいよ、おじいちゃんも慣れて来たみたいで普通な反応をしてくれた。諦め半分かもしれないけど。
「そいつもそうだが、どれもワシの知らん動物ばかりだ。まるでノラは別の国に行って捕まえに行ったとしか思えんな」
「そうだよ。皆異世界で捕まえたんだ~」
それを聞いたらおじいちゃんが絶句してた。
「外国ではなく異世界か」
「うん」
「どうやって行くんだ?」
おじいちゃんはわりと真剣に聞いてくれた。昔から私の話はよく耳を傾けてくれたなぁ。
「神社に毎日5円玉を投げてお参りしたら、急に行けるようになったんだよ」
それを聞いたおじいちゃんは目を瞑って腕を組んだ。
「あの神社か。ならば全ては仏が与えたご縁というわけか。ノラはご縁を得られる何かを授かったのかもしれんな。ならばその出会いはきっと意味がある。これからも大事にしなさい」
おじいちゃんはそう優しく教えてくれた。確かに異世界に行ってからは多くの出会いがあった気がする。もう片手じゃ足りないくらいの縁はあった。それなら今度のお参りで仏様にちゃんとお礼を言わないとね。だって、リリや瑠璃と出会えたのも仏様のおかげだから。




