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81 女子高生もサンタになる(2)

 道具屋を後にして、次へ行こう。こうしてプレゼントを配ってるとサンタさんも大変だなぁ。本物は夜中にこっそり贈るんだからお礼も言われずにって考えたら中々聖人だよね。


 そうこう考えてたら通りの奥の噴水広場に来た。そしたらそこでミツェさんが歌を披露しながらハープで演奏もしてる。相変わらず綺麗な歌声で思わず聞き入っちゃう。


 少ししたら歌は終わってミツェさんがペコリってお辞儀をしてた。そしたら拍手する人やお金をあげてる人がぽつぽついてて、ミツェさんもこの街に溶け込んでるなぁって思っちゃう。


「ミツェさん、こんにちは~」


「ノラ。こんにちは」


 ミツェさんがニコッて微笑んでくれて挨拶してくれた。それが何より嬉しくて思わずハグしたくなったけど我慢我慢。今日の私はノラサンタだからね。いつもより大人なんだから。


「それと~メリークリスマス!」


「ぴ~!」


「ふえっ!?」


 掛け声とほぼ同時にプレゼントを差し出したら案の定驚いてた。やっぱり急にプレゼント渡されたら誰だって驚くよね。


「今日は~私の国は~聖なる夜で~大切な人に~贈り物するの~」


「とても~素敵な~文化ね~ノラ~ありがとう~」


 というわけでミツェさんには白いベレー帽をあげたらミツェさん笑顔で喜んでくれて早速被ってくれた。うん、やっぱり似合うなー。ミツェさんって大人っぽいけど顔は小さいから絶対似合うって思ってた。何かアーティストみたい。歌うから既に本職?


「それとミツェさんに聞いて欲しい歌があるんだよ~」


「是非聞かせて~」


 それじゃあ深呼吸してジングルベルを歌った。


 瑠璃も楽しそうに私の周りを飛びまわってリズムに乗ってくれたよ。歌い終わってお辞儀をしたらミツェさんがにこにこしながら拍手してくれた。


「とても素敵な歌。歌に描かれた世界がとても綺麗」


「うん。クリスマスになると毎年この歌が流れるんだ~。だからこれを聞いたら皆、今日が何の日かすぐに分かるんだよ~」


「ノラの国は、とっても素敵ね。皆が知ってる歌ってすごいと思う」


 今日のミツェさんいつにも増して流暢だ。それに何かそわそわしてるような? もしかして歌いたいのかな?


「じゃあもう一回歌う? 今度は一緒に」


「本当!?」


 ミツェさんが上機嫌だから私もつい時間を忘れて一杯歌っちゃった。注目も少し浴びたけど楽しいから気にしない~。


「それじゃあね、ミツェさん。聖なる日にメリークリスマス!」


「メリ~クリスマス~」


 名残り惜しいけどミツェさんと別れて次の場所へ行こう。噴水広場からだとあそこが近いかな。


 東の木の住宅の所にポツンとある小さなパン屋さん。丁度パンを焼いてるみたいで良い匂いがするよ。それじゃあ行ってみよう。


「シロちゃん、メリークリスマス!」


「ノラノラ! ドラゴンさんも一緒! キタキタキツネです!」


「ぴ~!」


 シロちゃんが鉄のプレートを取り出してお皿にパンを移してる最中だった。今日は三角巾とエプロンをしててとっても可愛い。相変わらずもふもふな尻尾に目がいっちゃう。もふもふしたい~。


「今日は私の国でクリスマスって言って大切な人にプレゼントを贈るの。だから、はい」


 鞄から取り出してシロちゃんにプレゼントを渡した。シロちゃんに選んだのはウールの手袋。色は勿論白! もこもこな感じだからシロちゃんに絶対似合うと思う。


「わぁ! 手袋です! アリガトキツネなのです!」


「仕事でもよく手袋してるから普段から使ってね」


「そんな! ノラノラの贈り物を普段使いなんてできません! これは大切で重要で私にとっての一大イベントの日でないと付けられないよ!」


 それはそれで倉庫で眠ってるだけになりそうだけど。


「私は普段から使ってくれた方が嬉しいよ。こうして会った日に身に着けててくれたら、あっ使ってくれてるんだなって思って嬉しくなるから」


「うぅ……でも汚したらションボリキツネになるです~」


「大丈夫だよ。シロちゃんの服が汚れてるって思ったことないから」


「じゃあホクホクキツネするです!」


 そう言って早速して手袋をしてくれた。うん、やっぱり白には白だよね。どうして白ってこんなに映えるんだろうね~。写真に収めたいけど今日の私はノラサンタだから我慢我慢。


「お礼にパンをご馳走するです! 出来立てだから好きなの選んで欲しいです!」


 そういえばずっとプレゼント上げて走り回ってたから少しお腹空いたかも。


「ぴ! ぴ! ぴ!」


 瑠璃が指を差して遠慮なしに選んでいく。ここぞとばかりに食いしん坊が発動してるよ。


「瑠璃ー。そんなに食べたら瑠璃のプレゼントなしだよー」


「ぴ!?」


 こういう善意に遠慮なしに甘えたら駄目だって思うし、慣れたら手癖も悪くなるからね。


「私は気にしないですよ? ノラノラも好きなの取って欲しいです。今焼いたのも丁度試験的に作ってるのだから」


「そうなんだ。じゃあお言葉に甘えて」


 それでパンを見ていったら隅の方に見覚えのあるパンがあった。


「あ、じゃあこれ貰っていい?」


「モイモイのパン!」


「うん。シロちゃんの焼くモイパン美味しいんだよね」


「ア、アリガトキツネです……。よかったらいくらでもホカホカキツネするです」


 シロちゃんが顔を赤くしてて照れてる。うーん、これも絵になる。


「大丈夫、ありがとう。うん、ホカホカキツネだね」


 モイモイの実は程よく溶けて口の中が甘さで広がっていく。パンを食べたら元気も出たし、まだまだノラサンタは頑張れる!


「シロちゃん、ご馳走様。それとメリークリスマス! 今日という1日を大切にしてね」


「ノラノラ。めりーくりすます!」


「うん。それじゃあね~。また来るから」


 まだパンを頬張ってる瑠璃を無理矢理連れてシロちゃんと手を振って別れる。サンタ業務も大詰め。残りは後数人だね。順番的に考えたら次は魔術学園かな?


 よし、そうと決まったられっつごー。噴水広場から北に進んでオフィス街みたいな所を抜ける。それでこの後は……。


「あれ、魔術学園ってどっちだったっけ?」


 普段通らない道からだと分かりにくい。というか迷ってる気がする。


「瑠璃、道分かる?」


「ぴー?」


 うん、駄目だ。不味いなー。このままだとリンリン達との約束に遅れちゃう。


「あれ、ノラ?」


 声がしたから振り返ったらそこには青髪の騎士さん、ムツキがこっちに歩いて来てた。


「ムツキー。流石私の親友~」


「何かあったの?」


「うん。道に迷った」


「あー。この辺は道が複雑だから仕方ないよ。どこに行くつもり? よかったら送っていくけど」


 持つべきは異世界の友達だね~。これはあり難い申し出。


「魔術学園に行きたいんだけど、こっちで合ってた?」


「こっちは騎士学校だよ。魔術学園は反対」


 これはやっちゃいましたね。


「後、気になってたんだけどその帽子は?」


 ムツキは私の見た目が違うのに気付いてくれたみたいだね~。


「今日はクリスマスだから皆にお祝いしてるんだよ~。勿論、ムツキにもあるよ~。これを受け取って欲しいな」


「これは……リボン?」


「そうだよ~。ムツキはかわいいからこれにしたんだよ~。ちょっと動かないでね~」


 ムツキの長い髪を2つに分けて、それで緑色のリボンで括ってツインテールにしてあげた。

 丁度手鏡を持ってたから見せてあげるとムツキが恥ずかしそうにしてる。


「こ、これちょっと可愛過ぎない……?」


「偶にはこれくらい攻めてもいいんじゃないかな。さらにこれも追加してあげるよ~」


 ピンク色のリボンを騎士の制服の襟元に付けてあげた。こっちはちょっとアンマッチな気もするけどムツキが可愛いからバランスは取れてる、と思う。


「私の学校の制服もリボンがピンクなの。これでお揃いだね~」


「お揃い……いいかも」


 何か気に入ってくれたみたいでリボンをちょんちょん触ってる。こうして見ると騎士っぽさより、乙女っぽさが出てるな~。やっぱり髪型は大事だね。


「ノラ、ありがとう。大切にするね」


「うん。それとメリークリスマス!」


「メリークリスマス?」


 私が両手を出したらムツキも反射的に出してくれてハイタッチ成功。そんな感じでムツキに魔術学園まで案内してもらった。瑠璃もずっと飛んでるのに疲れてムツキの肩にしがみ付いてた。ムツキの髪が青いせいで微妙に擬態になってるのが面白い。


「ムツキ、ありがと~。良い1日にしてね!」


「うん。もう良い1日になったよ」


 手を振って別れたら早速魔術学園に入った。もう昼過ぎくらいだから生徒も結構多い。とりあえず階段を上がって行って学長室の前で来た。3回ノックしたら返事が返ってきたから入らせてもらおう。


「失礼します」


「ぴー」


「ノラか。今日はいつにも増して変な格好をしてるねぇ。そっちのチビ竜もな」


 ノイエンさんは相変わらず仕事に忙しそうで羽ペンを動かしてた。書類は山のようにあるけど数秒見てからいらないのは投げ捨ててる。その紙はゴミ箱に吸い込まれるように流れてるのが不思議。


「今日は私の国でクリスマスって言って大切な人にお祝いする日なんです」


 本当はお祈りするのが正しいみたいなんだけど、別にいいよね。


「へぇ。それじゃあ私に何かくれるのかい?」


 ノイエンさんがぶっきら棒に言って来た。この口調はもらえないって思ってるね。でもそんなことはないんだよね。


「勿論あります。これを受け取ってください」


 私がプレゼントを差し出したらノイエンさんが面食らった顔をして手が止まってた。ふふふー、ノラサンタに歳は関係ないんだよねー。


「あたし何かにあげてていいのかい?」


「ノイエンさんだからあげるんです」


「本当、あんたって子は」


 そしたらノイエンさんが椅子から立ち上がってこっちに歩いて来てくれた。それでプレゼントを手で受け取ってくれる。その動作がちょっと意外に思えちゃった。ノイエンさんは魔法が使えるからそれで回収するのかなって思ってたし。


「開けてもいいかい?」


「勿論です」


 流石に封を開封するのは魔法を使ってた。結んであったリボンがスルスル解けて紙もパラパラって形を変えて宙に浮いてゴミ箱に消えていく。そして箱を開けたノイエンさんは目を丸くしてた。


「これは、ペンかい?」


「はい。万年筆っていう私の国での羽ペンみたいなものです。いつも仕事で使ってますから、これがいいかなって思いました」


 ノイエンさんは万年筆を手にとってマジマジと見つめると穏やかな表情を見せてくれた。


「これは良い物をくれたよ。ありがとよ、ノラ」


「喜んでくれたら私も嬉しいです」


「あたしはあんたみたいな孫が欲しい人生だったよ」


「ええっと?」


 これは冗談なのか本心なのか分かり辛い。困ってたらノイエンさんがニヤッて笑って私の頭を撫でてくれた。


「そうだ。今度お礼にどこか連れて行ってやるよ。あんた、街の外には行ったことあるのかい?」


「渓流や森の中くらいは行ったことあります」


「じゃあ他の街はないのかい?」


「はい」


 転移の場所はいつもこの街だから他の街は行ったことないなー。話には色々聞くけど行くのも大変そうだし。


「なら決まりだね。今度時間がある時に連れてやるよ」


「でも馬車だと時間がかかりますよね? 帰るの遅くなるとちょっと……」


「ふん、あたしを誰だと思ってるんだい。あんな時代遅れの乗り物を使うわけないだろう。ちょーっと空飛ぶ魔法を使えば隣町なんて一瞬さ」


 そんな魔法まであるんだ。流石は学園長だよ。それに私も他の街は気になってたから嬉しい提案。


「ありがとうございます、ノイエンさん。その時はよろしくお願いします」


「ああ。またいつでも来な」


「あ。それとこれを言うのを忘れてました。ノイエンさん、メリークリスマス! 良い1日を!」


「それもクリスマスって奴の文化かい。ふん、だったらノラ。メリークリスマス!」


 ノイエンさんがウィンクをしてくれた。何か当初よりも大分丸くなった気がするけど気のせいかな。それでお辞儀をしてから学長室を後にした。


 これで残るプレゼントは後1つ。意識してたわけじゃないけど、何か最後に渡したいって思ってた気がする。どこにいるか分からないからとりあえず教室のある所をうろうろして見るけど中々出会えない。だから先生や生徒に聞いてみるけど手掛かりはなかった。


 もう家に帰ってる可能性もあるかも? とりあえず家に行ってみようかな。


「ノノ!?」


 私のよく知ってる声。異世界での一番の親友。振り返ったらそこに金髪の女の子が私の前に立ってた。今日の神様は随分と機嫌がいいみたい。運命の人が向こうからやって来てくれるから。


「行こう。聖なる1日だよ!」


「えっ、なになに?」


 リリの手を引いて階段を駆け上がる。瑠璃が先の方を飛んでいってまるで意味を理解してるみたい。それで魔術学園の屋上までやってきた。正直あるかどうかも分からなかったけど、何となく誰もいない所で渡したかったんだよね。


「ノノ、どうしたの? それに赤い帽子も被ってるし。瑠璃もだけど」


「今日はリリにプレゼントがあるんだよ」


「え? 今日って何かの記念日だったっけ?」


 こっちの世界でもそういう概念はあるんだって思ってちょっとクスッてきちゃった。リリが必死に考えてるのを見て答えを思わず焦らしちゃう。


「だー、分からないわ。今日は何の日?」


「今日はクリスマスだよ」


「クリスマス?」


「うん。私の国で大切な人に贈り物をする日。だから、リリにこれをあげるね」


 最後に残ったプレゼントはすごーく小さな箱。掌サイズで片手で包めるサイズ。包装のリボンも小さくて可愛らしい。それをリリの両掌にチョコンと乗せて渡してあげた。


「ノノ、これは?」


「私からの贈り物だよ」


「……開けていい?」


「うん」


 リリはリボンの端を引っ張って解いて包装もめくってその小箱を開けたら言葉を失ってた。


「これって、指輪」


「うん。リリに何が合うかなーって考えたらそれが良いかなって」


 銀色の淵に群青色の原石が入ってる奴。値段もそこまでだったから偽物だろうけど、それでも今の私が贈れる一番の物だって思う。


 リリは暫く指輪を見つめてて、そしたら何かを思い立って、箱をポケットに閉まって急に制服のボタンの上から外し出す。


「えーっと、リリ?」


 流石にこの場で脱ぎ出すのは私でも困惑する。


「違う違う! 別に露出しようなんて思ってないから! よし、外れた」


 リリが首に巻いてた赤いペンダントを手に持った。あー、胸元にあったからボタンを外したのかー。


「これ、ノノにあげる」


 まさかのリリの発言に驚いちゃった。


「クリスマスは大切な人に贈り物をする日なんでしょ? 私もノノが大切な人だからプレゼントする。こんな物しかすぐに用意できなくて悪いけど……」


「そんなことないよ。ていうかこれってすごく高価な奴じゃない?」


 リリの家庭を考えたらこのペンダントの宝石は本物でも信じちゃいそう。


「それはノノの想像にお任せするわ。でもね、大事なのは価値じゃなくてその中にある思いや願いだって私は思う。だからこれを受け取って欲しい」


 いつにも増してリリが真剣な目で言ったから、これ以上言うのも野暮だって思って素直に受け取った。そしたらリリは満足に笑顔を見せてくれた。


 近くで見ると本当に本物にしか見えない。というか絶対本物。


 でもそれ以上にリリから貰った物っていうのが何より嬉しくて。


「リリ、ありがとう。ずっと大切にする」


「うん。私もノノに貰った指輪大切にする」


 それで2人で笑い合ってたら学園の方から『ぽーんぽーん』って音が聞こえてくる。チャイムかな。


「あ、やば。授業始まっちゃう。本当はもっとノノとお喋りしたいけど……」


「ううん、いいよ。リリにプレゼント渡せてよかった」


「ノノ、ありがとね。私、ノノと友人になれて本当によかったって思ってるから」


「うん、私もだよ」


「っとと。早くしないと本当に遅刻しちゃうわ。またね、ノノ」


 リリが階段の方へ行こうとしたから声を出して呼び止めた。まだ大事な一言を言ってない。


「リリ。メリークリスマス!」


 それを聞いたリリは少し考えた仕草をしたけどすぐに理解して。


「ノノ。メリークリスマス!」

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