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80 女子高生もサンタになる(1)

 いつもと変わらない1日。でも今日だけは違う。なんと言っても今日はクリスマス。部屋の窓から見える景色は一面雪模様。銀色の世界は……って感傷に浸ってる時間はないんだ!


 今日は異世界の皆にプレゼントを配って回らないといけない。それに夜はリンリンとコルちゃん、それにヒカリさんの皆と過ごすって約束してる。だからそれまでにサンタとしての業務を完遂しないと駄目。


 今日はサンタになり切るからサンタコスで、って思ったんだけど赤い衣装だと向こうだと怪しまれそうだから帽子だけにしておこう。後はフランちゃんに貰ったマフラーをして完璧。プレゼントはこの前に皆に相談しながら買ったのが鞄の中に全部入ってる。


 うん、準備おっけー!


「すら吉、行って来るね」


 水槽の上で浮いてるすら吉は今日もご機嫌(?)でくるくる回ってた。ばたばたと階段を駆け下りて外に出たら結構雪が積もってる。木の上にも塀の上にも物干し竿の上にも雪がしっとり。


 我が家のもふもふ達は皆小屋の中に隠れて出てこない。ミー美も家の裏の倉庫の中に入ったままみたい。ちょっと寂しいけど冬は寒いから仕方ないよね。


「ぴー!」


 と思ったら屋根の上から瑠璃が降りてきた。部屋にいなかったのは出てたからかぁ。そういえば瑠璃は寒いのにもへっちゃらみたい。竜だからかな?


「瑠璃も一緒に行く?」


「ぴ!」


 行くみたい。だったら今日は瑠璃もサンタ仕様で赤い帽子を被せよう。

 よし。さぁ、いざ異世界へ!


 ……。


 うん。そう都合よく行けないよね。仕方ないから雪だるまでも作ってよう。そう思って玉を転がしてたら石の地面に変わって私のダルマさんがぐしゃってなった。悲しみ。


「早速行こう。えーと、まずは」


 最初に選んだのは異世界の酒屋さんのお店。扉を開けたら今日も給仕服を着たセリーちゃんが出迎えてくれた。


「ノリャお姉ちゃん様、瑠璃様、いらっしゃいませ! わぁ、今日はかわいい衣装だぁ!」


「セリーちゃん、メリークリスマス!」


「え、え?」


「今日はクリスマスだからノラサンタからのプレゼントがあるよ~」


「えぇ!? どういうこと!?」


 やっぱり異世界にはクリスマスという文化はないみたいだね。


「私の国だとこの時期になると大切な人にプレゼントを贈る習慣があるんだよ。だからいつもお世話になってる酒屋の皆にプレゼントを持って来たんだ~」


 幸いお店にお客さんがいなかったからゆっくりプレゼントを渡せそう。狼頭の店長さんと鴉頭の店員さんも気になって寄ってきてくれた。


「酒屋の皆だから食べ物がいいと思ってこれをあげるね~。私の大好きな雪見だいふく!」


「ゆきみだいふく?」


 セリーちゃんが箱のパッケージを見ながら首を傾げてる。狼頭の店長さんもマジマジと見てた。


「もちもちの生地の中にアイスが入ってるんだよ~。味も種類があって気に入ってくれたら嬉しいな~」


 プレーンの奴は箱のを買って、他の味のも売ってる分だけ買って着たから結構な量がある。私は基本バニラ味しか食べないからこんなに種類があるなんて知らなかったなぁ。


「すごーい! おいしそう! ねぇねぇ、今食べてもいい!?」


「いいよ~」


 箱の方を開けてそれを渡した。それで3人が同時にパクッて食べてた。相変わらず狼頭の店長さんは一口。


「もちもちしてて冷たくて美味しい!」


「……うまいな」


「すごいカァ!」


 どうやら気に入ってくれたみたいだね。何か瑠璃が食べたそうに見てるから仕方なく一個上げたらすぐに食いついて丸呑みしてた。ちゃんと味わってる?


「これをあれと組み合わせて売れば新しいメニューになるのでは? こうしてはおれん。早速新作を作るぞ」


 そう言って狼頭の店長さんが厨房の方に走って行った。何かインスピレーションを得られたのかな?


「後、これアイスだから冷凍してもらわないと溶けるから注意してね」


「分かった! ノリャお姉ちゃん、本当にありがとう!」


「セリーちゃん。そこはね、メリークリスマス、だよ!」


「めりーくりすます!」


「メリークリスマス! じゃあね、ノラサンタは次のお家に行ってくるよ~」


「ぴ~」


 セリーちゃんに手を振ってから店を出た。この調子で次に行ってみよう。

 ここから近い所となったら出店の多いあの通りだよね。となったら、あの道具屋さんに決めた!


 古めかしい木の扉を開けたらハーブの良い香りが漂ってきた。


「いらっひゃいまひぇ! ほほろひょりほわひしてまひた!」


 何かの呪文? と思ったらレティちゃんがパンを加えて出迎えて来てくれた。カウンターの方にはフランちゃんもいて、机にサンドイッチみたいなのを並べて食べてる。朝早かったから朝食中だったのかな。これは丁度よかった。


「レティちゃん、フランちゃんメリークリスマス~」


「ぴ~」


 ノラサンタと瑠璃サンタのご登場に2人は目を丸くしてた。でも気にしない~。


「めりーくりすます?」


 フランちゃんが首を傾げてて頭の耳も垂れてる。かわいい。


「そうだよ~。今日は聖なる日だから私の国だと大切な人に贈り物するんだよ~。というわけで2人にプレゼントがあります」


 鞄から出して早速プレゼント。もふもふな2人には勿論もふもふな物って決めてたよ。

 私が包みを渡したら2人共目をきらきらさせて喜んでくれた。うんうん、この反応いいね~


「ノラ様! これは一体なんですか!」


「ストールだよ~。肩から羽織ったり首に巻いたりできるんだよ~」


「ノノムラさんの国の服!?」


 正確には服じゃないけどね。2人共気になったみたいでその場で包みを開封してくれた。


「その前にレティは口元拭かないと。せっかくの生地が汚れちゃうよ」


「そんなお母さんみたいなこと言わないでくださいよー」


「とか言いながら口にスラース付いてるから。ほら、これで拭いて」


「むー」


 レティちゃんが手ぬぐいで口を綺麗にしてて、相変わらず2人が仲良さそうで微笑ましい。

 フランちゃんがストールを広げると目をすごく輝かせてた。


「ふわー! ほにゃー! ふにゃー! ほわぁぁぁ!」


 何か悶絶しててストールを抱きしめてる。そういう使い方じゃないんだけど、気にしないでおこうかな。


「ノラ様。これはどうやって着るのですか?」


「そだね~。これを首にこうやって巻いて、ここをくるってして、はい完成」


「ほほぉ! これはすごく良いと思います! 貧乏人ですが少しだけ高貴になれた気がします!」


 そんなにお高い奴じゃないけど喜んでくれたならよかった。


「ノノムラさん! 私も!」


「いいよ~。基本はマフラーの要領と一緒だよ~」


「でも結構長いんですね」


「うん。私の国だと今の時期は結構寒くてね。だからこういうのがあるんだよ」


「え~、いいな~」


「はい。これでどう?」


「わ~。すごく可愛い!」


 フランちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでる。尻尾もぶんぶん動いてて見てるこっちが幸せになってくるな~。


「後は巻かなくても崩して着てもいいって聞いたよ。レティちゃんなら崩しても似合いそうだと思うな」


 この時の為にヒカリさんに色々聞いておいてよかった。おかげですごく喜んでくれたし。


「ノノムラさん、本当にありがとう! このお礼は必ずするから!」


「はい! なんならこのお店の商品を好きなだけ持って行ってくれて構いません!」


「お礼なんていいよ~。クリスマスを素敵な1日にする為にこういうこともしてるんだよ。だからね、メリークリスマス!」


「「メリークリスマス!!!」」


「ぴ!」


 流石2人はノリがいいね。意味が分からなくてもニュアンスって結構伝わるんだよね。

 そんな時に後ろの扉がぎぃって開いた。


「あー、何か入りずれーです」


「シャムちゃん!」


「お前、ノノムラ!」


 これまた良いタイミングだね~。


「シャムちゃ~ん。シャムちゃんにもプレゼントがあるんだよ~」


「急になんでやがるですか。一応言うですが餌付けしてもノノムラの言うことなんか聞かねーです」


「今日はクリスマスだからプレゼント配ってるんだよ。はい、これ」


「この箱は?」


 白い小さな箱を見てシャムちゃんが怪訝な顔をしてる。


「中を見たら分かるよ」


「なっ! これはなんでやがるですか!?」


 シャムちゃんが口調とは裏腹にすごーく目を光らせてた。箱を開けたから甘い匂いがこっちにも伝わってくる。


「なになに~? わぁ、これって」


「ケーキだよ~。この時期はどこも美味しそうなのが沢山あるから選ぶ迷ったんだ~」


 やっぱりクリスマスって言ったらケーキだよね。シャムちゃんの為に美味しそうなの選んできたよ。


「ななな! こんなの受け取っても全然嬉しく……ねーこともないですけど! 美味そうなんて全然思ってねーですし!」


 リスの尻尾ぶんぶん振ってるシャムちゃんはかわいいなー。


「シャムちゃん、メリークリスマス」


「……め、めりーくりすます」


 ちょっと顔を赤くしててシャムちゃんは良い子だね。


「さてと。本当は皆とゆっくりお喋りしたいんだけど、ノラサンタは皆の為にプレゼントを配らないとなんだよ~」


「え~、もういっちゃうんですか!?」


「私、もう少しノラ様といたいです!」


 私も出来るならこのもふもふ空間に身を委ねたいけど、ここは心を鬼にしてサンタとしての業務を全うするよ。


「サンタは皆の為にあるからね。ごめんね。プレゼント配り終わったらまた来るからそれで許してくれない?」


「分かった! 待ってるよ!」


「お待ちしてます!」


 そんな感じで手を振って別れようと思って扉に手を置いたらシャムちゃんが私の横に寄って来た。


「えっと。ノノムラ、ボクもお前を待ってるです。だからちゃんと来いでやがるです」


「うん、私もシャムちゃんに会うためにまた来るね。それじゃあね~」


 シャムの頭を撫でてから外に出たら不思議と胸の中が満たされていく。やっぱり皆が喜んでくれるのは嬉しいな~。プレゼントはまだまだあるし、次にいかないとね。

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