79 女子高生もプレゼントを贈りたい
12月も半ばを過ぎてもうすぐクリスマス。普段は遠く出歩かない私だけど今日は違う。久し振りに都会の方までやってきた。いつもプレゼントを貰ってばかりだから偶には私から皆に送ろうと思って田舎からはるばるやってきた。電車賃も馬鹿にならなかったし、絶対に手ぶらで帰れない。小遣いも残り少ないけどもうすぐお正月だから何とかなる、と信じたい。
「ぴー!」
瑠璃が都会の街並みを前にして大はしゃぎしてる。どうしてもお留守番が嫌だったみたいだから連れて来た。サンタの帽子に手袋に赤い服を着せて完全にサンタコス状態。電車の中でも大人しくしてくれてたから人形として完璧。瑠璃は賢い。
「瑠璃~、あんまり遠く飛んだら駄目だよ~」
注意しても瑠璃は都会の電子板とかに興味深々津々。それに時期が時期だからイルミネーションもすごく多い! 歩道に生えてる木も結構デコレーションされてて凝ってる。
「でも寒い~。早くどこかに入ろう」
フランちゃんから貰ったマフラーをぐるぐるにして巻いてるけど、やっぱり冬はすごく寒い。田舎と違って雪は積もってないけどそれでも空気はひんやりしてる。
とりあえず駅前の百貨店に行こう。徒歩だからあんまり遠くにも行けないしね。瑠璃を抱いて中に入ったらいい具合に暖房が効いててこれだけで生き返る。代わりに人口密度は増えたけど。
「休みだから仕方ないか~」
家族連れとかカップルが目に入る。なんか1人で来た私が寂しく思えてきた。
「う~、これならリンリンとコルちゃんも誘えば良かったかな」
「ぴ!」
何か私の気持ちを察してくれてか瑠璃が声をあげてくれてる。そうだった。1人じゃないね。瑠璃を連れて正解だったかも。
「とりあえずどこを回ろうかな~」
百貨店に来るのも久し振りだし、それに皆のプレゼントも全然考えてないからすごく無計画。近くには洋服さんに雑貨屋さんも見えるな~。どうしよっかな。
ぼうっと立ち往生してる間にも周りの人がせかせかと歩いて行く。都会の人は歩くのが早いなー。
「あれ、ノラちゃん!?」
何か聞きなれた声がした気がする。どこ?
「こっちこっち!」
「こっちってどっち?」
「後ろです!」
肩を叩かれて振り返ったらそこには白い髪の美人なお姉さんが立ってたよ。
「ヒカリさんだ~。やほー」
「やほやほ。まさかノラちゃんと遭遇するとは思わなかったな~」
相変わらず綺麗なルックスだけどサングラスしてるのは何でだろう?
「もうすぐクリスマスだから皆にプレゼント用意しようと思って」
「奇遇ね。実は私もコルにプレゼント買おうと思って来てたの」
「へ~、そうなんだ~」
やっぱりヒカリさんは妹思いの良い人だね。
「にしてもこれまた可愛い人形を買ったわね」
ヒカリさんが瑠璃を見て笑ってる。あれ、気付いてない。
「ぴ!」
「うわっ、喋った!」
「サンタコス中の瑠璃だよ~。可愛いでしょ?」
「本物の人形と思ったわ」
ヒカリさんも間違えるならここにいる間は大丈夫そうだね。瑠璃も大人しくしてくれてるし完璧。
「そうだ。ヒカリさんにプレゼントの相談したいから一緒に買いに行かない?」
「寧ろこっちから言おうと思ってた所よ。最近のコルの趣味も分からないからノラちゃんがいると助かるわ~。それにノラちゃんともデートが出来る!」
私女子だけどって言うべきなのかな。ヒカリさんが嬉しそうだから言いづらい。
「あそこに売ってる服かわいい~」
「よーし、じゃあまずはあそこからね」
早速行ってみたらかわいいお洒落な服が沢山売ってる。こうやって見てると自分用にも欲しくなっちゃうんだよね。
「それでノラちゃんは誰にプレゼントするの?」
「えっと。友達と異世界の人の皆だよ」
「後半で一気に増えたわね……」
「いつもお世話になってるし仲良くしてるから何かあげたいなーって」
「となると小物やアクセサリー系がいいかもしれないわね。服はその人の好みもあるからプレゼントにオススメしないわ。それなら手袋や肩にかけられるストールみたいなアクセントのあるのがオススメね」
ヒカリさんがそれらしいのを次々に持って来てくれて手慣れ感がすごい。流石都会暮らしなだけある。
「どういうのが喜んでくれるかな? 皆の好みも全部把握してないからちょっと不安かも」
向こうの人の価値観もあるから私の趣味を押し付けるだけになったら嫌だし。
「自分の為に必死になって考えてくれたなら、その時間を想像しただけでおつりが来る」
「うん」
「ってありえないから、マジで。事前に欲しいの言ってるからそれ買って来いよ。と私の友人が彼氏に向かって言ってました」
「えぇ? ってことはやっぱりプレゼント作戦は難しい?」
「それはあくまで恋人同士限定だと私は思うけどね。前に私がノラちゃんにイーブイあげたでしょ? あの時ノラちゃんすごく喜んでくれたじゃない。私もね、これノラちゃん好きそうだなって思って取ったからきっとその気持ちがあれば伝わると思うよ」
確かにあの時はすごく嬉しかったのを覚えてる。今でもずっとベッドに置いてあるし。
「もし私が異世界の人だったら、そうね。こっちの物だったら何でも嬉しいわ。だって実質外国の物を貰えるようなものでしょ? それが食べ物でも服でもきっと喜んでくれるって思うかな」
やっぱりヒカリさんは大人だな~。私はそこまで思考が巡らないよ。でもそれなら大事なのは私の気持ちになるのかな。
「ありがと~。やっぱりヒカリさんが居てくれたら助かるかも~」
「ふふん、お姉さんに何でも聞きなさい」
「そういえばさっき彼氏さんって言ってたけどヒカリさんは大丈夫なの?」
そしたら急にヒカリさんの目が暗くなって私の肩に手を置いてくる。
「ノラちゃん、私ね、男より女の方が好きなのよ」
やっぱり言った方がいいのかな。でもこの目は本気な気がする。
「クリスマスに皆が彼氏とーってライン送って来るのに対して私だけぼっちで悪かったわねって思うけど!? 今年も孤独な女ですけど!?」
何かヒカリさんに変なスイッチが入った気がする。このワードは禁句だったのかもしれない。今度から気をつけないと。
「そうだ! ノラちゃん、クリスマスの予定空いてない!?」
手を合わせて懇願されちゃった。でもヒカリさんと一緒ならきっと楽しそう。
「いいよ~。私もヒカリさんと一緒だと嬉しい~」
「ノラぢゃーん! 私の癒しはあなただけよ!」
ヒカリさんが全力ハグしてきて息が苦しい。周囲の人の視線も気になるけど、本人は気にしてなさそう。
「ヒカリさんってすごく美人なのに男の人と縁がないって意外なんだよね」
そう言ったらヒカリさんが真顔になって私の目を覗いてくる。
「いい、ノラちゃん? 急に何の接点もない男が話しかけてきたらそれは99%地雷よ」
妙に迫力があって説得力がすごい。もしかして何かあったのかな。でもこれ以上聞くのはよそう。
「そういえばコルちゃんにプレゼント贈るって言ってたよね。何か決めてある?」
「それがまだなのよ~。だからノラちゃんと出会えて本当に助かったの~」
さっきと態度がコロッて変わっていつものヒカリさんに戻った。やっぱり男関係はヒカリさんにはタブーだね。
「コルちゃんが好きなのか~。休憩時間とかよく本を読んでる気がする。後はホラー系が好きって言ってたよ?」
「その辺は私も把握してるんだけどホラーって言っても色々あるでしょ? コルってどういうのが好きなのかなぁ」
私もそこまで詳しくは知らないなぁ。こういう時は。
「本人に聞いてみよう」
「えぇっ! それは駄目じゃない?」
「大丈夫だよ。私から聞くから。ヒカリさん流で本人が欲しい物をプレゼントする作戦でいこう」
「私の作戦じゃないんだけど」
とりあえずラインを開いて通話ボタンを押す。すぐにコルちゃんは出てくれた。
『もしもし、ノラさん?』
「コルちゃーん。コルちゃんが今欲しいのを3つ教えて?」
「ちょっ、ノラちゃん。それは何でも単刀直入すぎない?」
ヒカリさんが小声で囁いてくるけど気にしない。
『今、ですか。うーん』
コルちゃん悩んでる様子みたい。これだと今すぐ欲しいのはなさそう?
「そういえば何か騒がしいけどどこかに出かけてる?」
『はい。実はリンさんと百貨店に来てまして』
「あれー? もしかして○○百貨店?」
『あれ? ノラさんもですか?』
「ってノラノラじゃん! どうなってんの!?」
何か目の前をコルちゃんとリンリンが歩いてて目が合った。これは偶然を通りこした運命かもしれない。
「お姉ちゃんも一緒じゃないですか」
ヒカリさんは気まずそうに髪を弄ってる。
「異世界の皆にプレゼント買おうって思って来たんだよ。ヒカリさんとはさっきそこで偶然出会ったんだよ」
「そんで私らとも偶然出会ったと。ノラノラは運命の神様か何かか?」
それは違うと思うけど。クリスマスが近いから皆考えてることは一緒なんだと思うな。
「いつもノラさんにお世話になってますから、こっそりプレゼントを用意しようと思いましたけどこれだと駄目でしたね」
「ちょっ、コル! 言ったら駄目だろ!」
「どの道このままだと気付かれるじゃないですか」
「それはまーそうだけどさ」
そうだったんだ。それは普通に嬉しい。
「お世話って私何もしてないけど?」
「いえいえ。ノラさんには異世界に連れてもらったりして楽しませてくれてますから」
「なー。ノラノラがいるだけでこっちは毎日楽しくて仕方ないって。田舎生まれも悪くなかったわ」
気にしてなかったけどよくよく考えたら毎日のように異世界にいけるってだけでも退屈してないのは確かかも。
「ありがと~。じゃあお礼に私も何かプレゼントするー」
「これじゃあサプライズにもなんないな。味気ないっつーか」
「私はプレゼント貰えるだけで嬉しいよ~」
「ならいいけどさ」
やっぱり一緒にお買い物するのは楽しいよね。
「それでお姉ちゃん、さっきのノラさんの電話ですけど、お姉ちゃんの仕業でしょう?」
コルちゃんの一瞬の名推理で事件は解決されそうだった。流石姉妹。
「え~、私知らないよー」
ヒカリさんが裏声を出して口笛吹くみたいに暢気な声で答えてる。これは寧ろ墓穴な気がする。コルちゃんも軽く溜息を吐いてた。
「お姉ちゃん。私は別にプレゼントなんていいですよ。もう子供じゃないんですから」
「嘘嘘! 何言ってるの! ノラちゃん達とはプレゼント交換するんでしょ!?」
ヒカリさん、最早隠す気もないみたいで食いついてる。
「これは友達だからです!」
「ひどーい。私も友達みたいなものでしょ?」
「昔クリスマスに物凄く大きなホールケーキをプレゼントしてくれましたよね」
「そうそう。コル、泣くくらい喜んでくれたでしょ?」
「食べるのに困って泣いたんですよ!」
今日も姉妹仲は良好みたいで見ていてホッコリする。
「まぁまぁ。せっかくヒカリさんも一緒なんだし、皆で買い物した方が楽しいだろうよ。私はヒカリさんがいた方が盛り上がると思うよ」
リンリンが息を吐くように仲裁してる。こういう所をさり気なくできるのはすごい。
「リンちゃーん! 私はあなたが大好きよ!」
「だったら公共の場で抱き付かないでくれますかね」
この場で一番目立ってるのはヒカリさんなのは間違いない。周りの視線に気付いたみたいで静かに離れてる。
「このマグカップ、ノラさん好きそうじゃないですか?」
コルちゃんが雑貨屋の棚にあるカップを見せてくれる。
「動物が沢山写ってる!」
デフォルメされた犬や猫、熊にリスがちょこんと座ってて可愛い!
「これいいかも~。お揃いで買わない?」
「いいですね」
「待て待て! 2人だけってずるいぞ! 私も買う!」
「だったら私も!」
リンリンとヒカリさんも飛びついてきた。これだとプレゼント交換というより只の買い物のような気がしなくもないけど……。
楽しいからいっか♪




