77 女子高生もメイド服を着る
休日だからいつもみたいに異世界に来てみた。予定は相変わらずないから今から考えよう。
「そういえばリリは大丈夫かな?」
許婚がどうって親と話をするって言ってたけど、あれから会ってないから進展が気になる。リリは説得するって言ってたけど何かあったら大変だし会いに行こう。早速出発。
店を通り過ぎて行ったら道端で青髪制服姿の後ろ姿を発見。あれはきっと。
「ムツキ?」
声をかけたら振り返ってくれた。結構離れてたのに聞こえたなんて。
「ノラ。久し振り」
「こんこんー。これからリリの所に行くんだけどムツキもどう?」
「いいよ。丁度学校帰りだから」
それは良いタイミングだね。それで何となくムツキの髪を触ってみる。
「ノラ?」
「ちょっと動かないでねー」
ムツキの髪をクルクルってして1つに束ねて私の持ってるピンで留めたら良い感じ。一見だと男にも見えなくもない。ムツキって男装したら似合いそうだと思うんだよね。制服もズボンだから男って言い張ったら騙されそう。
「リリ救出の為にムツキも手伝ってー。ムツキはリリの恋人設定だよ」
「え? 何かあったの?」
「多分大丈夫だと思うけど、一応。私は2人の友人設定だよ」
「……それは元からだと思うけど」
ムツキにつっこまれる。言われてみればそうだった。これはうっかりさんだね。
それで仲良く歩いてリリの家のお屋敷にまで辿り着いた。門前には警備の人が立ってる。
「あのー。リリって今日は居ますか?」
「あなたは確かリリアンナお嬢様の友人でしたね。屋敷にいますので中に案内します」
「ありがとうございます」
それで警備の人に付いて屋敷の中に入れてもらった。お屋敷の中は今日も沢山のメイドさんや執事さんが働いてる。何回来ても住んでる世界が違うって思うなぁ。
それで警備の人がメイドさんに説明してくれてメイドさんにリリの部屋まで案内してもらった。部屋をノックしてもらうとリリがドアを開けた。
「ノノ!? それにムツキも!」
「リリー、遊びに来たよー」
「ノラに誘われて来ちゃった」
「めちゃくちゃ嬉しいわ! ささ、入って入って!」
リリがすごくご機嫌になって部屋に入れてくれた。これは来たかいもあったね。
リリの部屋は今日も綺麗でファンシー。ベッドに夏祭りで取ったすみっ子ぐらしの人形を置いてあって微笑ましい。リリは勉強中だったみたいで机の上に魔術書みたいなのを並べてあった。
「もしかして勉強してた?」
「うん。でも大丈夫よ。集中切れて出歩こうって思ってた所だったから」
それならよかった。頑張ってる所を邪魔するのは申し訳ないし。
「それにしてもムツキ、その髪はどうしたの?」
「ん。なんかノラにリリルの恋人役を演じて欲しいって頼まれて」
「えー? どういう……って、あーそういうことね」
リリは納得した様子で手をポンってしてる。ムツキは分からなくて首を傾げてる。
「ノノ、心配してくれてたのね。ありがと。でも大丈夫よ、あの話はなくなったから」
「そっか。それなら良かったよ」
「うん。お父様も私が家出までするとは思ってなくて強引過ぎたって謝ってくれたし、それに爺や屋敷の皆も私を心配して色々庇護してくれたの。だから本当に大丈夫」
それを聞けただけで今日からぐっすり眠れるよ。本当によかった。
「よく分からないけど、リリルも大変なんだね」
「ん。この家柄が嫌になる時もあるけど、でも良いって思えるときもあるから。それにしてもムツキその髪型似合ってるわね」
「でしょー。これなら新しい男でもいけそうじゃない?」
「それはそれで修羅場なんだけど」
何か安心したら気が抜けちゃった。ソファに座らせてもらおう。そしたら丁度ドアが開いてメイドさんが紅茶と果物を細かく切ったのを運んできてくれた。
「ありがとうございます」
なんとなくお礼を言ったらメイドさんは軽く微笑んでくれてお辞儀してから部屋を出て行った。
「んー。メイドさんいいなぁ」
「そう?」
「うん。服もかわいいし」
露出が殆どないのに何でメイド服ってあんなに可愛いデザインをしているんだろう?
「だったら着てみる?」
まさかのリリの提案。
「あるの?」
するとリリが不適に笑って部屋のクローゼットを開けたらそこにはメイド服がいくつか入ってた。
「いつか着てみたいって思ってこっそり拝借してたのよね」
まさかのお嬢様の願望。それを知られたら周りに全力で止められそうだけど。
リリは私にメイド服を一着渡してくれた。これが生のメイド服! すごく生地がふわふわしてる。
「本当に着ても大丈夫?」
「へーきよ。また洗うし」
みたいだから借りさせてもらおう。でもどうせなら……。
「皆で一緒に着ない? その方が楽しそう」
「そ、それは……いいかも!」
「似合うかな……。でも気になるかも」
2人も乗り気みたいだしレッツメイド服!
というわけで着替えてみたけど、想像以上にかわいい! 制服のリボンは外したくなるけど、メイド服のリボンは全然許せる。フリフリもいい感じだし、カチューシャもいい。これを着ただけど一気に日本人っぽさが消えたよ。でもロングスカートって結構動きにくいなぁ。メイドさんはこれでてきぱき動けるのがすごい。
「リリもムツキもかわいいー。似合ってるー」
「そ、そう?」
「普段こういうの着ないから不思議な感覚」
せっかくだからメイド美少女をスマホで保存しておこう。ついでに自分のも取っておこう。
これはメイド三銃士。
「それで、ノラ。メイド服を着て何するの?」
「何もしないよー。だらだらする」
ソファに座ってさっき運んでくれた果物を1つ食べた。甘くておいしー。
「……初日からメイド失格」
「ま、まぁ、こういうのは気分よね」
仲良く皆でソファに座ってお茶会モード。普段と格好が違うだけで新鮮。
「ムツキがスカートってかわいいね。普段は着ないの?」
「動きにくいから……。でも気にならないって言ったら嘘になる」
ムツキも年頃だからねー。これはまた機会を探してかわいい格好にさせるしかない。
「でも一番似合ってるのはノノだと思う」
「それは同感」
まさかの2人の視線が私に向いた。そうなのかな。
「なんだろう。ノノって妙に落ち着いてる所あるから、それがメイドとマッチしてるのかも」
「じゃあここで働く?」
「えっ、本当!?」
リリが目を輝かせて詰めてくる。これは冗談って言えない雰囲気。
「でも料理できないし、窓拭きくらいしかできないよ」
「全然いい! 寧ろ雇いたい! というか来て!」
めちゃくちゃ懇願されちゃったんだけど。
「だったら朝にリリルを起こす仕事はどう?」
ムツキに言われる。確かにそれはメイドさんっぽい。
「じゃあそれ実践するからリリ横になってもらっていい?」
というわけでリリはメイド服のままで布団を被った。でもどうやって起こそう。大声出すのは苦手だし、立場的に布団を無理矢理剥がすのも違うと思う。
となるとリリに近付いて、後は。
「お嬢様、朝ですよ」
耳元で囁いてみる。そしたらリリは顔を真っ赤にして石化しちゃう。ダメだったかー。
「ムツキー、こういう時どうしたらいい?」
「……多分、そっとしておいたら大丈夫なんじゃない?」
「そっかー。ムツキだったらお姫様抱っこして起こしてくれそう」
「試す?」
「大丈夫! もう大丈夫だから!」
リリが起き上がってはぁはぁしてる。やっぱり私にメイドさんは向いてないのかもしれない。メイドの文化から勉強しないと。
「メイドさんごっこはお終い。そうだわ。せっかくだしノノに文字を教えてあげる」
リリの嬉しい提案。
「いいの?」
「うん。色々有耶無耶になってたしね」
「なら私も手伝うよ」
おぉ、これは頼もしいダブル家庭教師だ。これは平均点の私でも名前くらいは書けるようになるかもしれない。
そんな感じで2人に異世界の文字を教えてもらった。おかげで結構文字も読めるようになれてうれしい。




