76 女子高生も孤児院で料理をする
今日も異世界にやって来た。もうこっちに来るのが半分日課みたいになってる気がしなくもない。でもこっちはこっちで楽しいから毎日来ても全然飽きない。
「瑠璃。どこか行きたい所ある?」
「ぴー?」
珍しく付いて来た瑠璃に聞いたけど欠伸して誤魔化された。うーん、どこに行こうかな。
そういえば最近孤児院に顔を出してない気がする。久し振りに行ってみようかな。
確かリガーを売ってる鳥頭さんの店を通り越して西だったかなぁ。うろ覚えだけどそんなだった気がする。とりあえず行ってみよう。こういうのは場数が大事。
出店の並ぶ通りをずっと歩いて行く。思えばこっちに来るのは久し振りかも? あ、あそこは前にリリが買い食いしてたマイコニドの串焼き屋さんだ。あっちにはモイモイの実も売ってる! 他にも粒状の黄色い実が売ってたり、何かのお肉を解体して吊るしてあったり、はたまた青い飲み物っぽいのも売ってる。色んな八百屋さんやお肉屋さんが多いのはスーパーみたいな所がないからなのかな?
ずっと歩いてT字路になってたからそこを西に曲がった。丁度川の跨ぐ石橋があって何か外国って気がしていい感じ。上から川を見ると下でボートを漕いで犬っぽい人が網を手繰ってる。魚がいるのかな?
それで橋を渡るとさっきまでの街と雰囲気が一転して寂れた場所になった。うん、ここは孤児院のある場所だね。何気に街から行くのは初めてだからちょっと新鮮。
雰囲気は薄暗いけど住んでる人はそうでもなさそうで、普通に楽しそうに雑談してたり、身なりのよさそうな人もちらほらいる。建物はどれもボロボロな木の建物が多い。家というより小屋って感じ? どこも生活感はあって洗濯物があったり、外で炊き出ししてる人もいる。
そんな感じで歩いてると前の通りにピンク髪の綺麗な人が目に入った。あの後ろ姿は?
「ミツェさーん!」
呼んだら振り返ってくれた。うん、本人だったね。ちょっと別人だったらどうしようって思ったけど安心。ミツェさん驚いてたけどすぐに穏やかな顔を見せてくれて手を振ってくれた。
「ノラ~久し振り~」
リズムのある声だけど普通に挨拶な気がする。ミツェさんも私に大分心を開いてくれたのかな。
「これは運命~奇遇という名の必然~だね~」
「神様の~嬉しい悪戯ね~」
手を取り合って笑い合ってミツェさんとの挨拶完了。瑠璃はよく分かってなさそうで空をクルクル回って遊んでる。
「ミツェさん、もしかしてここでもお仕事してるの?」
「い、いえ。ここ、は私の住んでる、所、です」
まさかのミツェさんの住まいがある場所だったなんて。そういえばミツェさんって旅人だったような。それでこっちで住むのにここで暮らしてる?
「ここは~お金もかからなくて~助かるの~」
「それは~初耳だよ~」
この辺は誰でも自由に住める感じなのかな。もしこっちで住むなら私もここで住めるんだね。そうだ。せっかくだしミツェさんに孤児院の場所を聞こう。
「ミツェさん~実は~困りごと~孤児院の~場所が~分からない~」
「ならば~小鳥の案内~行きましょう~」
「私と一緒に~子供の相手~しませんか~」
「嬉しい誘い~お邪魔じゃないかしら~」
「私が嬉しいよ~」
そう言ったらミツェさんは笑顔を見せて頷いてくれた。やった。ミツェさんも一緒に来てくれるんだね。お礼に瑠璃を渡したら両手で抱っこしてくれた。瑠璃も気持ち良さそうにしてる。やっぱりミツェさんには母性があるなぁ。
それで案内してもらってたけどこの住宅街結構複雑というか広い。何度も十字路があって、右だったり左だったり進んでもうどこにいるのかすら分からなくなって来た。これは街に行くのも大変だ。でもミツェさんは迷ってる様子もなく孤児院まで案内してくれた。すごい。
「ありがと~1人だと迷子の子羊だったよ~」
「故郷が森だから~地理は得意よ~」
森に住んでたってのは知ってたけどその様子だと広いのかな。だとしてもこれをすぐに覚えられるのは純粋にすごいと思う。
それで一緒に孤児院の中に入って玄関近くまで行ってみる。さすがに勝手に入れないから誰か居てくれると助かるんだけどなぁ。
「言うこと聞いてってば!」
「やなこったー!」
「セリー怒ったぞー、わー!」
何か中からすごい声がしてる。そうっと中を覗いてみたら廊下の方でセリーちゃんが子供達にからかわれてて大変な状況になってた。
「セリーちゃーん、こんにちはー」
「ノリャお姉ちゃん!? あ、それに歌姫さんだ!」
「ぴー!」
「ドラゴンさんもいる! 良い所だったよー。ノリャお姉ちゃん助けて~」
セリーちゃんが困った様子で私の胸に飛び込んで来る。とりあえず頭を撫でてあげよう。
「どうしたの?」
「今日、ノイばあちゃんが帰って来ないから子供の面倒みてやってって言われたけど全然言うこと聞いてくれないんだよー。夕飯の支度もあるのにもう無理だよー」
ノイエンさんに任されるってセリーちゃんも大分たくましくなったんだね。でもノイエンさんも手を焼いてたみたいだし、子供の相手をするのは大変そう。
「セリーと年そんな変わらないのになんで言うこと聞かねーとダメなんだよー」
「だよー」
っていう野次も飛んできてる。これは一筋縄ではいかなさそう。セリーちゃんも涙目になってる。ここは助けてあげよう。
「じゃあこうしよっか。瑠璃を一番に捕まえた人が相手に言う事聞かせられるってのはどう?」
「何それおもしろそー!」
「やりたーい!」
「ぴ!?」
瑠璃だけ急に指名されて驚いてたけど子供達が一斉に走って来たから急いで外のグラウンドに逃げて行った。子供達も皆外に出て騒いでる。これで一先ずは大丈夫かな。
「これで夕飯の準備ができるかな?」
「ありがとう。やっぱりノリャお姉ちゃんだよー!」
またまたセリーちゃんが胸に飛び込んでくる。良い子だなー。
「せっかくだし私も手伝うよ。ミツェさんもどう?」
「美味しい料理~作りましょ~」
「やった! 一緒に作ろ!」
廊下を歩いて奥の厨房まで案内された。結構広くて家の台所の3倍くらいの広さがありそう。でも半分くらいはリガーとかの野菜が樽や木箱に一杯入ってて保管されてる。子供が多いから食材も一多く保管してあるんだね。冷蔵庫がないのは不便そうだけど。
「何作る~? 私は自分で作れないからセリーちゃんとミツェさんで決めてくれていいよ~」
「うーん、どうしよう。せっかくだから歌姫さんの料理がみたいかも!」
セリーちゃんが目を輝かせて言ってる。それは私も気になる所。
ミツェさんは恥ずかしそうに自分を指差してる。でもコクリって頷いてくれて、木箱や樽の中から食材を探してる。それで木の実や野菜を持って来た。どれも彩りあって変わった形の物ばかり。
そしたらミツェさんがナイフで野菜の皮を剥いていく。すごく丁寧で皮が切れずにどんどん伸びてる。これは料理上級者。
「ふ~ん~ふふ~ん~」
何か鼻歌混じりで料理してる。私とセリーちゃんの視線に気付いてミツェさんが恥ずかしそうに顔を赤くした。確かに料理してる所をジロジロ見られるのは恥ずかしいかも?
「歌……変だった?」
そっちだったかー。
「ミツェさんの歌好きだよー。見てるだけで癒されるから」
フォローしたつもりだったけど余計に恥ずかしくなったみたい。それでセリーちゃんも余った野菜の皮をナイフで切っていった。セリーちゃんもすごく上手。
私はピーラーがないと無理だからミツェさんの鼻歌を真似しておこう。
皮を切った野菜は一口サイズくらいに細かく切っていってる。切り終わると別の果物を持ってきてる。そっちは皮は切らずに軽く水で洗ってから鍋に入れてる。ミツェさんが指をクルクルさせると鍋の下の穴の薪に火が点いた。おー、ミツェさんも魔法が使えるんだ。
そっちの果物は果汁多めだったみたいで火を通してたらどんどん溶けていってる。
「それ掻き回すよー」
ミツェさんがしてたからお願いしてみる。これくらいなら私でもできそうだし、お母さんからもカレーを掻き回すのは上手って褒められたもん。
半時間もしたら果物も解け切ってトロトロのソースになってた。その間にミツェさんがさっき切ってあった野菜を軽く火を通して皿に盛り付けてる。下には新鮮そうな白い葉があってその上に炒めた野菜をいれてる。そして、鍋で作ったソースをかけた。
「私の故郷の味よ~」
見ただけですごく良い匂いがしてくる。見た目もカラフルだし、ヘルシーそうで美味しそう。見てるだけでお腹空いてくる。
「こんな料理もあるんだー。勉強になる! 私も実践してもいい?」
セリーちゃんに言われてミツェさんが指導してる。微妙な焼き加減とかあるみたいだね。
それから料理も楽しく進んで色々メニューができあがった。かなりの量があってそれを別の部屋に運んでいく。横に長いテーブルがあってどんどん並べて行く。なんかパーティみたいでちょっと楽しい。
「良い匂いするぞー」
「お腹空いたー」
丁度外で遊んでた子供達も帰って来たみたい。瑠璃もくたくたにしてて子供に捕まってる。
「ご飯できたから手を洗ってくるように!」
「はーい」
セリーちゃんが言うと子供達は素直に言うこと聞いてた。食欲には勝てなかったみたいだね。それで配膳も終わって皆が揃うといざ実食。
「頂きます」
さっそくミツェさんが作ったサラダを食べてみる。おー、微妙に焼いた野菜とソースの甘味が相まってすごく食べやすい。こっちはリガーかな? うん、美味しいなぁ。
「うげぇ、俺リガー嫌いなのにー」
隣に座ってた子供が言った。
「大丈夫だよ。これすごく美味しいよ」
「うー、じゃあ食べてみる。あれ、全然苦くない」
子供からしたらリガーは苦いのかな。でもソースもあるから大丈夫だよね。瑠璃もガツガツ食べてるし。瑠璃は何でも気にせず食べるけど。
「歌姫さん、すごーい。皆野菜嫌いなのに食べてくれてるよ」
子供の時って野菜嫌いになりやすいよね。それに皆が別々のを嫌うから作るのも大変そう。
「気に入ってくれたなら~嬉しいわ~」
「とても~気に入ったよ~大好き~」
たまには大勢で囲む食事も楽しい。やっぱり食事は賑やかで笑顔で食べたいよね。




