75 女子高生も異世界渓流を探索する
森に入って数十分くらい。今の所魔物が出てくる様子もなくカラフルな木の中を歩いてる。レティちゃんとシロちゃんは楽しそうに色んな素材を手にしては鞄の中に入れてた。
「これはワスレナダケじゃないですか! わーレアものです!」
レティちゃんが水色の茸みたいのを手にして喜んでる。
「こっちにはポポポの実が採れるのです! そっちには千年草もあるのです!」
シロちゃんは丸くて黄色い果実と白っぽい野草を手にとって嬉しそうにしてる。
ミー美もその草に興味を持って近付いたらシロちゃんから貰って食べてた。瑠璃も便乗してたけどあんまり美味しくなかったみたいで苦い顔をしてる。
「シロちゃんもこういうのに詳しいんだね」
レティちゃんは素材を自分で集めてるから何となく分かるけど、シロちゃんも知ってるのはちょっと意外。そしたらシロちゃんが照れくさそうに髪を触ってる。
「えっと。お母さんからパンに合う食べ物を聞いたりして、それで時々山に連れて行ったりもしてくれたんです。色々聞いてたら自然に覚えちゃって」
「それは偉いね。私何かそこに生えてる草の違いも分からないよ」
色違いってだけは分かるけど食べられるかどうかまでは分からない。
「私も思いました。モコってしっかりしてると思います」
「だよね。これなら央都まで来ようって思ったのも納得かも」
レティちゃんとフランちゃんもうんうんって頷いてる。
「そんなに褒められると私がホカホカキツネになっちゃうですー!」
シロちゃんが恥ずかしくなってミー美の影に隠れちゃった。残念だけど照れてる姿もかわいいんだよね。
「話を聞いてたら皆の故郷って結構山奥にある感じ?」
「そうだよ。山には魔物が住んでるのが多いけど私達の所は魔物が少ない所だからそういう被害も殆どないんだよ」
フランちゃんが教えてくれる。
「周りに木の実や食べられる山菜も多くて食べるのもそこまで困りませんでしたね」
それは素敵な場所そう。皆の故郷ってなったら住んでる人達も全員ケモミミって考えたら楽園って気もしてくる。
「そこって街から遠いの?」
「そうですねー。馬車で3日と徒歩で半日くらいでしょうか」
それは中々の距離かもしれない。
「もしかしてノノムラさん行きたい感じだった?」
「うん。皆の故郷ってどんな所かなーって。今の聞いてるだけでもすごく良い所って伝わったよ」
「良い所、かぁ。あそこでの生活は当たり前だったからそんな風には考えたこともなかったなぁ」
確かに慣れた生活を改めて見返しても自分では案外分からないよね。
「私は時々故郷を思い出しますよ。流石に帰りたいとまでは思いませんが」
「えぇー。私時々家の匂い思い出すのにー。ションボリキツネー」
シロちゃんはお母さんとも仲良しだったそうだし、ホームシックになるのも無理ないかも。それに街に来てから日も浅いし。
「シロちゃん、寂しくなったらいつでも言ってね。それかレティちゃんでもいいよ」
同じ白髪だから結構似てる気もするから、レティちゃんの肩を掴んでシロちゃんの方に連れて行ってみる。
「わ、私ですか? 母役なんて出来るか分かりませんが、それでモコが満たされるなら喜んで!」
「うーん。レティはお母さんってより幼馴染って方がしっくりくるです。それなら私はノララの方がお母さん適正が高いです」
「がーん!」
「わ、悪い意味じゃないよ! その、レティはずっと前からの友達って感じで、それで気さくだから私も感謝してるっていうか、その、アリガトキツネです!」
それを聞いてレティちゃんはパァッて明るくなってシロちゃんに抱きついてる。確かにレティちゃんのフランクさはいい意味で壁を作らないよね。
「こうやって見たらモコの方がお母さんっぽいなぁ」
「言われてみればそうかも」
嬉し泣きしてるレティちゃんを慰めてる構図はまさにお母さんだよ。
そんな感じで探索も順調に進んで歩いてたら、少しずつ耳にザーッて音がしてくる。不思議に思って辺りを見回してたら遠くに滝みたいのが見えた。
「風の滝ですね!」
レティちゃんがビシッと言ってくれる。近付いたら川の水が上昇して上の方に流れていってた。そういえば前にリリが川はまた山に戻って風魔法で上に行くって言ってた。
実際に見てみるとすごく圧巻。滝というより洪水みたいになってる気もするし、ずっと見てたら上昇してるのか落ちてるのか分からなくなってきた。
でも風はずっと吹いてるみたいでその一帯は木々も激しく揺れてて岩壁も結構削れてる。横から見たら丸い池みたいな所があってそこから上昇してるみたい。水のアーチみたいで綺麗。記念に写真を撮っておこう。
「水の下に風の元素が詰まっててそれで押し上げてるって聞くよ」
「そうなんだ。これ以上近付いたら危ないよね」
「ふっふっふ。実はそうでもないんですよ!」
急にレティちゃんが声をあげてくる。
「あの風に乗って壁の上まで移動できるんです!」
「えー。でも落ちたら怪我じゃすまないよ?」
「それはそうですが」
流石に危ない橋は渡れないなぁ。壁も結構高いしこれを見れただけで満足かな。
「でもあの上は確か山頂になってると思うです」
「そうなの?」
「はい。とても見晴らしもいいです。このまま登ると山頂まではすごく時間がかかるです」
シロちゃんが教えてくれる。うーん、そう言われたら行きたくなる気もしてくる。でも怪我はしたくないしなぁ。そう思ってたらミー美と目が合った。そうだ。
「ミー美、皆を乗せて行けない?」
「ミー!」
そしたらミー美が滝の方へジャンプして上に飛んだと思ったらあっさり地面に着地してる。ミー美の運動神経すごい。これなら万一落ちても平気かな。
「ありがとう、ミー美。皆、ミー美に乗って~」
それでまた皆でミー美に乗った。何か瑠璃が私の袖を引っ張ってくる。何かな?
「瑠璃どうしたの~?」
「ぴ!」
瑠璃は何か私を持ち上げようと頑張ってるけど流石に体格差がありすぎるよ。もしかしてミー美ばっかり活躍してて妬いてる?
「瑠璃も頑張ってるよー。一緒に行こうねー」
瑠璃を抱えてミー美に乗っていざ滝地へ。ドキドキしてる暇もなくミー美がすぐに滝に向かって飛んだ。そしたら急に全身に風を浴びてブワッと飛び上がる。思わず息を止めちゃう。景色がどんどん広がってさっきまでの所がもうあんな下!
ミー美はまるで水のアーチの上を歩いてるみたいだけど、実際は動いてなさそう。それで一番上の崖まで来るとミー美がジャンプしてそこに着地した。
あまりに一瞬の出来事だったけど結構楽しかった。それで山頂に来たけどそこの景色に驚いた。
「すごい」
一面に黄色い綿毛がいくつもあって、中央に川が流れてる。奥の方は湖みたいになってるみたいで川の流れも穏やかになってた。湖には前に見たユキガエルさんがプカプカ泳いでる。
「これ星屑綿だ!」
フランちゃんが目を輝かせて言ってる。
「高価な物?」
「うん! 星砕きで落ちた星屑跡地に綿毛があるとそれが変異して星屑綿になるの。これ、かなりの貴重品だよ!」
リリと一緒に見た流星群のことだよね。確か星屑には魔力が篭っててその地を豊かにするって言ってたからこれもそうなのかな。そうなるとこれってすごく高価な物なんじゃ。
「わー、すごく嬉しい! これならノノムラさんに良い物作れると思う!」
そういえば冬着の注文したのすっかり忘れてたよ。
「これはフランでなくとも欲しくなりますね。私もいくつか採取しましょう!」
「私も欲しいかも!」
皆が星屑綿をせっせと集めてる。よく見たらキラキラしてて本当に綺麗。風が吹いても綿毛が飛ばなくて変わりにキラキラが舞い上がった。これも写真に欲しいかも。
「私、パンを焼いて来たのでここでお昼にしようなのです!」
「モコ、準備いい! 私お腹ぺこぺこ~」
「私もです~」
「じゃあお昼にしよっか」
見晴らしのいい場所だからピクニックにぴったりだね。ユキガエルさんのデコデコ声もなんか気持ちが安らぐし、遠くに見える森の風景も絵になる。遠くから聞こえる滝の音も心地いい。目の前には星屑綿のキラキラで色々と贅沢かも。
シロちゃんが鞄の中に紙で包んであったパンを渡してくれる。包装を解いたらいい匂いがしてきた。モイモイのパンかな?
「ありがとう。シロちゃんのパン美味しいから大好きー」
「そそそ、そんな! ホカホカキツネになるですー!」
さっきもなってた気がするけど大丈夫かな。素直な気持ちを伝えただけなんだけど。
皆にパンが渡ったら「頂きます」って口を揃えて仲良くパンを食べる。うん、やっぱりいい場所で食べる美味しいパンは格別だね。
「ノノムラさん、今日は本当にありがとう」
「んー? 私は何もしてないよ」
「そんなことないのです! ノララのおかげで一杯良い物採れたのです!」
「はい! ノラ様がいなければこんな経験出来ませんでした!」
皆が笑顔で褒めてくれて嬉しい。その前に。
「ならミー美に言ってあげて。ここまで連れてくれたのはミー美のおかげだから」
そうしたら皆が口を揃えてお礼を言ってミー美は嬉しそうに「ミー」って鳴いてた。
瑠璃が私の背中を叩いてくるから、瑠璃にもって言ってお礼を言ってもらう。瑠璃は満足そうにドヤッてしてたけど何もしてないよね。私も言えないけど。
でもこうして皆が楽しそうにしてくれて本当に嬉しい。次来る時はリリやムツキも連れて来たいな。




