74 女子高生も異世界渓流を目指す
放課後。今日はテストだったおかげで授業はお昼で終わった。皆が楽しそうに下校していくのを見送りつつ、ぼんやりと窓の外を眺めてると真っ白の粒粒が降ってるのが見えた。
「雪だ!」
思わず口に出ちゃった。
「おー。今年一番の雪かぁ」
「やはり山奥というだけあって結構降ってますね」
「そうだな。雪が降ると大抵翌日は積もってるぞ」
リンリンとコルちゃんも雪を見て話してる。
最近結構寒いと思ってたけどもうそんな時期なんだね。この前まで皆で夏祭り行ったのがまだ最近だって思うし。
「ノラノラも準備がいいな。今日に限ってマフラーしてきてるし」
「とても可愛いマフラーですね」
今日は寒くなるって天気予報で見たから準備してあったんだよね。
「ずっと前にフランちゃんから貰ったんだぁ。中々巻く機会がなかったけどやっと使えるよ~」
銀色でもこもこしてて肌触りもいいから早く使いたいって思ってたし。
「あの狐の子か。でもマフラーよりあの子とくっ付いてた方が温かそうだけどな」
確かにフランちゃんの耳や尻尾はふわふわしててあったかくて気持ちいい。あんまり触ってたら本人が悶えちゃうんだよね。
「ノラさんもあったかそうですけどね」
まさかのコルちゃんの意外な発言。私はケモミミもないから普通だと思うけど。
「ノラノラ捕まえた~」
リンリンが悪ノリして抱きついてくる。でも人肌も温かくて悪くないかもしれない。
「お、おぅ。何かノラノラ効いてないな」
リンリンが恥ずかしそうにして離れていく。むー至福の時間がー。
「寧ろがっかりしてます?」
「うん。コルちゃん、代わりにくっつく?」
「手ならいいですよ」
「やったー」
そんな感じでバス停まで仲良く手を繋いで行った。それからは皆と分かれて1人ボッチの寂しい下校。リンリンの家も学校からちょっと遠くて自転車通い。雪が積もると帰るのも大変だから急いで帰ってた。
雪って見る分には綺麗だけど積もったりすると大変なんだよね。川が凍ったら水が使えなくなるし、屋根に雪が積もったら雪かきしないと駄目だし。
雪だるま作るのは楽しいけど。
家に帰ったらミー美と瑠璃が大はしゃぎしてた。そういえばどっちも雪を見るのは初めてになるのかな? 異世界だと雪は珍しいみたいだし、確かユキガエルがいないと見れないんだっけ。他のモフモフ達の姿がないから寒くて家の中にいるのかな?
「ぴー!」
「ミー!」
瑠璃とミー美が寄ってきた。ミー美の背中には雪が積もってて寒そうだけど何だか平気そう。瑠璃は手に雪玉を作って齧った後がある。うーん、瑠璃の判断が食べれるかどうかになってる気がするけどいっか。
「ただいま。お留守番ありがとう」
せっかく寄って来てくれたからモフモフしてあげよう。もふもふ。
やっぱりミー美は温かい。毛がふわふわしてて肌触りもいい。瑠璃は、まぁうん。
「んー?」
戯れてたら異世界に来てた。変なタイミングかも。ミー美と瑠璃はちょっと残念そうな顔をしてる。雪はお預けだねー。きっと帰ったら積もってるからそれまでのお楽しみ。
「そうだ。せっかくこっちに来たんだしフランちゃんの所に行こう」
これから寒くなりそうだし、あたたかく出来そうなのが欲しいかも。そうと決まったらレッツゴー。
街はいつも通り人が賑わってて、気候もいつも通り。日本は冬だけど異世界は寒くない。夏も普通だったし四季がないのかな。ずっと春って考えたら住みやすい所だと思う。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。ノノムラさんだ!」
「フランちゃん、こんにちは。今日は服を買いに来たよー」
「そうなの?」
「うん。私の所は寒くなってきてね、暖かい格好をしてないと風邪を引いちゃうから、何かないかなーって来たんだ」
「そっかー。あ、そのマフラー私があげたの! 身に着けてくれてるのすごく嬉しい!」
フランちゃんが耳をピンとさせてぴょんぴょんしててかわいい。
「でもでも、ノノムラさんなら特注で服を作るよ。今もユカタ借りたままだし!」
そういえば貸したままだった。すっかり忘れてたよ。
「好意は嬉しいけどいつも悪いかなーなんて」
こういうのって多分慣れたら甘えっぱなしになって駄目になるって言うし。
「でしたらまた採取に連れて行ってくれません? それなら前と同じで大丈夫じゃない?」
その発想はなかったよ。確かフランちゃんの服は特殊な綿が必要で近場で手に入れにくいだったっけ。それに今日はミー美もいるからタイミングがいいかもしれない。
「じゃあそうしてもらおうかな。そうだ、せっかくだしレティちゃんも誘ってみる?」
レティちゃんも調合の材料が必要になるだろうし、いい機会だと思う。フランちゃんは喜んで頷いてくれた。
「後は、シャムちゃんは仕事で忙しいだろうから、あ、シロちゃん誘うってのはどうかな?」
「いいと思います! 私もモコと行きたい!」
シロちゃんもこの街に来て結構経つと思うけど、まだ皆との交流も多くないだろうしこの機会に仲良くできたらいいな。それにレティちゃんとフランちゃんなら同じ種族だからそんなに気を使わなくていいと思うし。
そうと決まったら早速皆を呼びに行こう!
~門前~
レティちゃんとシロちゃんを誘ったらどっちも喜んで来てくれた。とりあえず街の外まで来たけどどこを目指そうかな。
「どこか良い場所ないかな? なるべく安全な所だと嬉しいんだけど」
こっちだと魔物もいるし、危険な所だと何が起こるか分からない。そしたらレティちゃんがピシッと手を挙げてくれた。
「ではでは、南東にある渓流を目指すというのはどうでしょう。昔にお師匠様の修行の一環で行きましたが素材も豊富ですし、危険な魔物も少なかったと思います」
それは今の私達にぴったりな場所だね。特に異論もなさそうだからそこを決定しよう。
「決まりだね。じゃあ皆、ミー美の背中に乗ってー」
ミー美が腰を下ろしてくれたから全員で背中に跨った。4人もいるけど何とかぎりぎりいけそう。私が先頭で後ろからレティちゃん、フランちゃん、シロちゃんって続いて乗ってる。瑠璃は私の肩に掴まってる。
「しゅっぱ~つ」
合図と共にミー美が駆け出した。こんなに多く乗せてるのにスピードは衰えてないのがすごい。でもミー美も気を使ってくれてるみたいで前にフランちゃんと一緒に乗った時よりもゆっくりめに走ってくれてる。おかげで心地いい風が頬に伝ってくる。
「ふわぁ。フィルミーに乗れるなんてすごく贅沢。こんなの一生経験できないと思うよ」
後ろからシロちゃんが言った。
「馬車には何度か乗ったことあるけど、やっぱり気持ちよさが全然違うなぁ」
「分かります。馬車って道が悪いとガタガタしてて酷いですよね。私も央都に来る時乗りましたが酔ってしばらく動けませんでしたよ」
馬車かぁ。こっちだと車がないから移動手段も限られてるんだね。
それからレティちゃんに道を聞きながら先を目指していった。大体川の流れに沿って進んだらいいだけだからそんなに苦労もなく、大きな山が見えてくる。山って言ったら緑色ってイメージがあるけど、異世界の山は真っ白。まるで雪が積もったみたい。所々に色のある木があって、キャンパスで塗られたみたいにカラフル。これは写真撮りたくなる。
「ミー美、止まって」
「ミー」
「ありがとう。ここからは歩いて行くね」
「ミー!」
丁度山の麓みたいな所まで来れたからここからは歩いて行こうかな。ミー美から下りて目の前に広がる森を眺める。見た感じ、中も道があって雑草もそんなに伸びてないから探索にはぴったりだね。
何があるか今から楽しみ。




