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65 女子高生も異世界果樹園で働く②

 放課後。皆が校門を抜けて帰って行く中、私だけハチ公みたいに門前で棒立ちしてる。でもリンリンはすぐ来てくれたから手を振ったら返してくれた。


「もしかして待っててくれたのか?」


「うん。今日はリンリンにお願いがあるんだよ」


「何だ、藪から棒に」


「これから異世界に行って果樹園の手伝いをするつもり。それでリンリンにも手伝ってもらえないかなーって」


 山羊さん夫婦の果樹園にはアレから1回して行ってないから何だか申し訳ないし、それにミツェさんが夏祭りにこれなかったのもきっと手伝いがあったからだと思う。

 そう思ったら少しでも役に立ちたい。


「ダメならいいんだけど。蕾落とすだけだからリンリンも慣れてると思って」


「摘蕾か。いいけど。それってお金もらえたりすんの?」


「うん。前行った時は1日働いて金貨15枚だったよ」


 放課後から行くからあんまり手伝えないけど、それでも金貨数枚分くらいにはなると思う。


「そうか、異世界の通貨になるんだったな。よし分かった。私も異世界のお金が欲しいって思ってたし。着替えてきた方がいいか?」


「うーん。多分このままでも大丈夫だよ。前行った時もそんなに汚れなかったし」


「了解了解。それにしても異世界に行ける前提ってノラノラも大分毒されてないか?」


 言われてみればそうかも。最近行くのが当たり前になり過ぎて、平日でも向こうに行って予定立てたりするし。


「さてと。それじゃあエスコートしますよ、お姫様?」


 リンリンが手を差し出してくる。手を繋いでないと一緒に行けないからって悪ノリしてる。

 アイドルだったりお姫様だったりで大変。それでも友達に変わりはないけどね。


 それで仲良く手を繋いで下校してたらいつもみたいに視界がぼやけて別の視界に切り替わってる。何度見ても一瞬だからテレビのチャンネルが変わるより早い。


 丁度街の外に来たみたいで遠目に見える樹海っぽい所を目指して歩いて行く。リンリンが不思議そうにしてたけど多分大丈夫。


「こんにちはー」


「おや。あなたはノラさんだったね」


 樹海に足を踏み入れたら早速山羊の老夫婦さんと出会った。遠くにミツェさんも見えたから手を振ったら返してくれた。嬉しい。


「また手伝いに来ました。今日は私の友達も一緒です」


「如月燐です。今日は宜しくお願いします」


「リンリンは農業の専門家だから期待していいよー」


「おい、ノラノラ! あんまり持ち上げるな! こっちの勝手も分かってないのに失望されたら困る!」


「平気だよー。私でもできたんだからリンリンならすぐだよー」


 実際向こうとそんなにやり方は違わないし。


「ほっほっほ。それは助かります。こちらこそ宜しくお願いします」


 それでリンリンが山羊のおじいさんから軽くレクチャーを受けてそれで試しにしたら、もう大丈夫そうだった。うん、やっぱり餅は餅屋だね。


「そうそう。ここにミツェさんも来てるんだよ」


 リンリンと一緒に行ったらミツェさんが恥ずかしそうに頭を下げてくれる。


「あの時の歌姫さんか。そういえば自己紹介してなかったっけ? 私は如月燐です。リンでいいですよ」


「は、ははい、わ、わわわ」


 ミツェさんがパニックになってる。これは大変!


「リンリン、今すぐきらきら星歌って!」


「え、えぇ? き~ら~き~ら~」


 普通に歌ってくれるリンリンは優しい。ついでに私も歌う。そしたらミツェさんも落ち着いてくれたみたいで優しい表情に戻ってくれた。


「私の~お友達だよ~とっても良い人~」


「素敵な友人さん~素敵な歌ありがとう~私は名も無き歌い手~じゃなくて~ミッツェル~シーシー」


 最近ミツェさんとの会話も大分慣れてきたよ。リンリンはよく分かってなさそうだったけど手をポンって叩いた。


「こうやってー語尾をー伸ばせばーいいのかー?」


 うーん。ニュアンスは近いけどちょっと違う気もする。


「リンリン~感情込めて~気持ちを伝えるんだよ~」


「ミッツェルさん。好きだ」


 リンリンがキリッとして言ってる。確かに感情を込めてって言ったけど、それはどうなんだろう。


 うん、ミツェさん顔を真っ赤にして両手で隠してる。これは直球過ぎるよ。


「リンリン、今のは早過ぎるよ。恋人の段階を飛ばして結婚するようなものだよ」


「漫画でしか乙女心を知らない私に無茶振り過ぎるって」


 じゃあ今の台詞も漫画から? リンリンもそういうの読むんだね。


「ミツェさ~ん~私も~好きだよ~」


「私は罪な女~2人の告白を~どちらも選べない~まずは~お友達から~」


 やっぱりミツェさん的にもいきなりプロポーズはダメみたい。


「仕方ない。わたしゃノラノラとミッツェルさんの歌に口笛でサポートしとくよ」


 それでリンリンがきらきら星口笛バージョンを披露したらミツェさんが何か感動してる。


「ら~ららら~ら~ららら~」


 ミツェさんがコーラス風に歌い始めた。それでリンリンもずっと口笛吹いてる。

 リンリンもミツェさんと通じ合えたんだね。よかった。


 それで3人で歌って作業してると時間はあっという間に過ぎちゃう。


「今日はこれくらいでいいでしょう。ありがとうございました」


 山羊のおじいさんとおばあさんがお辞儀してくれる。大分順調に進んでるみたいで終わりも近そう。


「そういえば1つ気になったんだけどリガーの収穫ってまだですよね。でも街にはリガーが売ってるけどどうしてなんですか?」


 ハウス栽培みたいのがあるなら別だけど普通はどこで作っても収穫時期って重なると思う。でも鳥頭の店長さんの所にはいつも新鮮なリガーが置いてある。


「それはここ以外にもリガーを作ってる所があるからですよ。東都、西都、南都、北都、そして中央に当たるここの央都。それぞれ気温が違って収穫の時期がズレるんです。それで収穫の時期になると各地の街に出荷してそれで年中美味しいリガーを食べれるようにしてるんです」


 それは知らなかった。私が知ってるのはこの街だけだけど、他にも街があるんだね。街を出たら国も一杯あるのかな?


「へー。それはすごい。私の知ってる限りだとそんなに収穫の時期は変えられないと思ってました」


 リンリンも感心してる。それだけ異世界の気候が特別なのかも。雨降ってるのも見ないし、変わりに空気中の成分とかが違うのかな。


「そうでした。丁度今、モイモイの実が取れる時期ですから皆さんも持ち帰ってはどうですか」


「えっと、頂いて大丈夫なんです?」


「勿論です。皆さんに十分助けてもらいましたから、ささやかな気持ちです」


 そう言って山羊のおじいさんとおばあさんが樹海の奥へ歩いて行くから、私もリンリンとミツェさんと並んでついて行く。


 そしたら木々に覆われた日陰の一角に土が耕された場所があった。棒が何本も立てられてあって、その棒に巻きつくようにツルが伸びてる。そのツルの先に紫色の実みたいのがついてて、山羊のおばあさんが千切って持って来てくれた。


「うぉっ! ドリル!?」


 リンリンが驚いてるけど、私もびっくり。紫色の細長いものがとぐろを巻いてドリルみたいな形になってる。山羊のおばあさんが手渡してくれた。


「ありがとうございます。モイモイの実って気温が高いと溶けるんでしたよね?」


「よく知ってますね。その通りです。ですから育てる場合はこのように日陰でないとなりません」


「ノラノラよく知ってるな」


「異世界知識なら任せて~」


 この前シロちゃんに教えてもらったからね。実物の見るのは初めてだけど本当に長いなぁ。ソーセージがグルグル巻いてるみたいにも見えるけど、でも先を引っ張ったら結構伸びる。


「モイモイの実……!」


 気のせいかな。ミツェさんがすごく目を輝かせてモイモイの実を見てる。


「ミツェさんはモイモイの実好き?」


 その質問に首を何度も上下させてる。ミツェさんも甘い物が好きなのかな。


「私の故郷~森の中~果実沢山~とっても好き~」


 果物が大好きなんだね。こんなにニコニコなミツェさんは見ててかわいい。


「だったら今度は私の所の果物あげるよ。売り物にならないけど普通に食べれるの沢山あるから」


「本当!?」


 ミツェさんがリンリンに詰め寄ってる。しかもすごく素面だし。むー、私もまだそこまで仲良くないのにー。


「リンリンずるいー。この前もリリを食べ物で釣ってたしー」


「そんなつもりはないんだけどなぁ。うまい棒あげるから許してくれよ」


 制服のポケットからうまい棒取り出してる。いつも入ってるの?


「私は10円の女じゃないもんー」


「分かった分かった。1日お姉ちゃん券をあげるからそれで勘弁してって」


「嬉しい~。じゃあ私も同じのリンリンにあげるねー」

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