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63 女子高生も異世界で流星群を見る

 夏の暑さもピークよりは大分落ち着いてきた。それでもまだまだ残暑が続いてて、夜でも結構蒸し暑い。縁側の廊下で涼んでるけど風も吹いてなくて風鈴が静か。


「散歩にでも行こうかな」


 夕飯は食べたけどお風呂はまだだし、ちょっと気分転換に行こう。外も明るいから大丈夫だよね。庭に出ても誰も誰も来ない。瑠璃も来なくて珍しい。よく見たらミー美の背中で猫丸と一緒に寝てる。


 起こしても可哀相だし1人で行こう。


 夜の田舎は静か。殆どの人は出歩いていなくて家の中で過ごしてる。煙突から白い煙が上がってる所は夕飯中かな?


 でも目を瞑って耳を澄ましたら色んな音も聞こえる。田んぼにいるカエルの声、雑草に隠れてるコオロギの声、川の流れる音、森が揺れるせせらぎの音、時々家の方から賑やかな声もする。


「うひゃあ! また失敗!」


 うん。近くに賑やかな声がしたよ。あれ、近く?


 目を開けたらそこは異世界の街道だった。それで道の上でリリが手を出しては何かしてる。


「リリだー。こんばんはー」


「どひゃあぁ! で、でたぁぁぁぁぁ!」


 リリがすごい勢いで後ずさって行ったよ。さすがに後ろから声をかけたのは不味かったかー。


「って、ノノかぁ。めちゃくちゃびっくりしたわ」


 リリが安堵の溜息を吐いてる。今度からは気をつけよう。


「ごめんね。散歩してたらこっちに飛ばされたんだ」


「そうだったのね。それじゃあ恥ずかしい所見られたわ」


「魔法の練習?」


「うん。今度実技試験があるからその為にちょっと練習しておこうと思って」


 魔法のテストかぁ。それは大変そう。そういえばこの前もノイエンさんに魔法の使い方を聞こうとしてたし、それでだったんだね。


「こんな時間に1人でって危なくない?」


「街中だと自由に魔法を使える場所も限られてるから。学園もこの時間は開いてないし」


 そっか。どこでも自由に魔法を使えたら通行人が怪我するかもしれないもんね。


「じゃあここで見ててもいい? 丁度暇だったんだよね」


「ノノに? それは恥ずかしいかも。今も失敗続きだし」


「大丈夫だよ。私は魔法が使えないから失敗したかも分からないから」


「そう、かな? でもノノに見られてたら頑張れる気がする。やってみる」


 リリが目を瞑って右手を突き出して肘の上あたりに左手を添えて集中してる。少ししてからリリの周囲から小さな風がヒューッって鳴った。風の音は徐々に強くなって最後には周りの草原を寝かせるように風が吹いた。


「ふー。何とか上手くできたわ」


 成功したみたい。やっぱり魔法ってすごいね。拍手しておこう。


「や、やめてよ拍手なんて。これくらいなら練習すれば誰でもできるから」


「私にはできないよ?」


「あー、そうだったわね。ごめん」


「それに騎士の人達も出来ないんじゃない?」


 よく分からないけどファンタジー世界だと魔法使いと騎士って住み分けしてるような気がする。ここも魔術学園と騎士学校ってあるし。


「厳密にはちょっと違うわね。大事なのは魔力の有無だから騎士の人も勉強したら魔法は使えるわ。本当に魔法が使えないのは魔力なしの人だから」


 この世界だと皆魔力を持ってるのが普通なんだね。それは私が魔法使えないって知ったら驚くよね。


「それなら騎士の人も魔法覚えた方が楽なんじゃない?」


 剣や弓で戦うより魔法で戦った方が便利そうだし。


「魔法使うのも魔力を使うし、それに実践クラスの魔法ってなったら学院を卒業するくらいの知識も必要になるし、そう考えたら結構遠回りになるのよね」


 なるほど。理系と体育系の違いみたいな感じかな?


「でも時々騎士の隊長様とかが引退してから魔法を勉強するってのも聞くわね。後は普通に文武両道の人とかも。そこまで行くと天才の域だから私には真似できないけど」


「リリはどうして魔法を勉強しようって思ったの?」


「親がうるさいからねー。将来を考えたら魔法使えた方が色々と便利だと思って。今回の試験もあんまり悪い評価受けると何言われるか分からないし、面倒だけど頑張らないといけないのよね」


 そういえばリリはお嬢様だもんね。そういうの厳しいのかも。それに考えてみたらあの街だと魔法を使った職業も多い気がする。酒場でも魔法を使って料理してるし、シャムちゃんの配達でも魔法を使って物を小さくして軽くしてるし、レティちゃんも調合を使ってたと思う。


「将来なんて全然考えてないなぁ。とりあえずテストでそこそこ良い点取って、そこそこの大学に行くくらいしか見えてないもん」


「分かるわー。何したいか何て全然分からないし。ていうかノノもそうなんだね。すごく親近感湧いたっていうか。ちょっと嬉しいかも。こういうの私だけの悩みなんだろうなぁって思ってたから」


 国や世界が違ってもこれは学生としての共通の悩みなのかも。


「だねー。私達、将来見えてないコンビだね」


「すっごく不穏なコンビねー。でもノノと一緒なら悪くないかも」


 そんな感じで笑ってると不意にリリが「あっ」って言って空を指差した。

 見上げてみたら夜空に輝いてる大きなお星様が少し欠けて、その先から白いキラキラの線が地上に降り注いでる。


 光の雨にも見えてそれはあちこちに落ちて行ってる。丁度夜っていうのもあって光もはっきり見えて本当に綺麗。


星砕(ほしくだ)きね。良い物見れたわ」


「星砕き?」


「うん。時々ね、空にある星が脆くなって砕けるの。それでその破片が地上に降ってくるのよ」


「危なくない?」


 地上に落ちたらそれって隕石になるんじゃないのかな。


「大丈夫よ。落ちる時は本当に小さな星屑になってるし、それに当たってもそんなに痛くないのよ。私も昔に当たったことあるから」


「石の欠片じゃないの?」


「殆どは石だけど中身は魔力の塊だからね。一説だと空にある星の方が魔力が多く秘めてるから、その魔力を地上に分けてくれてるって言われてるわ。実際、星屑の落ちた地はしばらく魔力が豊富になって活性化するんだって」


 ほえー。これまた自然の神秘だね。縁起がいいみたいだから、手を叩いてお願いしておこう。


「ノノ、それは?」


「私の国だと流れ星を見たら願いを3回復唱したら叶うって言われてるんだよ」


 正確には流れ星じゃないかもしれないけどいいよね。


「それは素敵ね。なんて願ったの?」


「んー、リリの試験が上手くいきますようにって」


「えっ、えっ? 私の為に願ってくれたの?」


「うん」


 異世界に来たいっていう一番の願いはもう叶ってるし。


「あ、ありがと。これは頑張らないと」


 リリが顔を赤くして髪をクルクルしてる。早速効果が出たのかな。


 それから急に近くで流れた川がバシャンって音を立てて水飛沫を上げたから慌てて振り向いたら白い光が落ちてる。まさかの近く。


「これはラッキーね。せっかくだし見せてあげるわ」


 リリが川の方に近付いて光ってる所を見つけた。川の底で透明色の石がぼうっと明るく輝いてる。でも水かさも高くて素手で取るには難しそう。


「まずは風魔法で分断して」


 リリが言うと川の真ん中で風が割り込んで水が真っ二つに割れた。こんな風にも使えるんだ。


「で、どうしよう?」


 水は割れたけどそれでも流れは止まらないから入ることもできない。困る。


「水を凍らせるとか?」


「氷魔法かー。氷魔法はまだ上手くできないのよね。普通の魔法は流れに沿って魔法を使うんだけど、氷魔法は流れに逆らって使うから難しいの」


 そういえば一番最初に魔法の授業を受けた時も魔の流れを委ねるみたいのを言われた気がする。それが基本形なのかな。


「でも凍らせるのが一番よね。流れの反対。流れの。あ、これ川の流れを反対に意識したらいけるかも?」


 なんかリリが思いついて手を突き出してる。すると川の向こうで冷気みたいのが漂ってパキパキってゆっくりと川が凍って小さな足場になった。


「や、やった! できたわ!」


 リリが嬉しそうにしてるから、こっちも嬉しくなっちゃう。


 そのままリリが足場に乗って星屑を手にして戻ってくる。近くで見ると本当に小さい。

 1cmあるくらいかな。それでも輝きは失ってなくて白い光がよく見える。


「はい。私はもう持ってるからノノにあげるね」


「これ持ってても大丈夫かな。魔力の塊なんだよね?」


「大丈夫よ。魔力を少しずつ放出してるから最後には輝かなくなるわ」


「そっか。ありがとう。お守りにするね」


「ううん。お礼を言いたいのは私。ノノのおかげでちょっとだけコツを掴めたと思う。だからありがとう」


「私は何もしてないよ。きっとリリが日頃から頑張ってたから成果が出たんだよ」


「もう、ノノは本当に褒め上手ね。本当は魔法なんてあんまり好きじゃなかったけど、少しだけ好きになれる理由ができたわ」


「聞いてもいい?」


 するとリリはまた顔を赤くして視線をどこかに向ける。うーん?


「今はまだ、言いにくい、かな。またいつか話すね」


「うん。また聞かせてね」

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