61 女子高生もケモミミ少女に囲まれる②
今日も異世界にやってきた。いつもは予定がないけど丁度クリーニングに出してた浴衣が帰って来たからそれをフランちゃんに渡そう。あとヒカリさんが撮った写真も現像できたみたいでコルちゃんがくれたから、それも渡さないとね。
カランカラン。
「いらっしゃいませ! ノノムラさんだ!」
フランちゃんが狐耳をピンと立たせて手を振ってくれる。今日も可愛いウサ耳パーカーとロングスカート。夏祭りの時は尻尾を見せてくれたけど普段はやっぱり見えない。
「こんにちは。はい、これ。言ってた浴衣だよ」
カウンターの上に畳んだ浴衣を置くとフランちゃんが目をきらきらさせて浴衣に抱き付いてスリスリしてる。抱き枕じゃないんだけどなー。
「これがユカタ! 私、絶対にユカタを作ってみる!」
「頑張ってね。返すのはいつでもいいよ」
「えっ、いいの?」
「うん。お祭の時しか着ないから次に着るのは来年かも」
「そうなんだ。特別な日にしか着ない服ってすごくいいね。私だったら我慢できずに普段着にしちゃいそう」
フランちゃんだったら狐だから普通に着物が普段着でも似合いそう。腰周り締め付けたら尻尾が窮屈になりそうだけど。
「私の国だとそういうの多いよ。今着てるこれも学校に着ていく制服だし、他にも結婚式をあげたら着ていく服とか、年明けにお参りに着ていく服とか色々あるよ」
「ほえー。いいなぁ。そんなに服に感心があるって私もノノムラさんの国で住みたいなぁ」
フランちゃんが家族になったら親や近所の人に説明するのが至難そう。コスプレで通すしかない?
「あ、それと。この前に撮った写真もできたから渡すね」
「すごい! 本当に皆が映ってる!」
フランちゃんが写真を持ってぴょんぴょんしてる。見てるだけで癒されるなぁ。
「そうそう。実は最近この近くで新しい狐の子が来たんだけどフランちゃんも顔合わせに行かない? まだこの街に来たばかりで色々苦労してると思うから」
シロちゃんに皆を紹介するって約束もしてるし、せっかくだから誘ってみる。
「狐!? それは絶対に会うよ! 今から行こう!」
すごい食いつきだ。やっぱりこの街でケモミミの子は少ないのかな。一緒に店を出るとフランちゃんがドアを閉める。
「レティちゃんも誘って行っていいかな?」
「いいよ。きっとレティも喜ぶと思うから」
丁度目の前だから道具屋の扉を開けてみる。するとすごい量の紙吹雪が宙を舞ってた。
「おめでとうございます! 今日はなんでもない日記念日です! 3品買うごとに特製ポーションが無料で付きます! にゃっ、まさかのノラ様とフランでしたか。これは運命です!」
相変わらず来た客に対してのオーバーさは変わらないレティちゃん。けど、なんでもない記念っていうのは結構好きかも。
「こんにちは、レティちゃん。これからこの街に来た狐の子の所に行くんだけど一緒に行かない?」
「まぁ! それは素敵な出会いですね! 勿論、同行します! あ、その前に紙を掃除しますね」
レティちゃんが自分でばら撒いた紙吹雪をせっせと箒で掃いてる。
「レティちゃんもこの前撮った写真を渡しておくね」
「これがそうですか! とてもいいです! これを服に付けたらいいと思いませんか?」
それはどうなんだろう。私は恥ずかしいけど。でもこんなに潤んだ目で言われるとちょっと言いづらい。
「似合わないよ」
フランちゃんがばっさり切り捨てた。さすが幼馴染、はっきり言うね。
レティちゃんはシュンって落ち込んだけどカウンターの奥の壁に貼ってた。
2人を連れて街に出る。この調子でシャムちゃんも誘いたいけど多分仕事中だろうなぁ。
「てめぇ様、ノノムラ!?」
考えてたら何か街中にシャムちゃんがいたみたい。しかも向こうから声をかけてくれるなんてすごく親切。
「シャムちゃん、こんにちは~」
「相変わらずやる気のねー奴です。そんなので外に出たら魔物の餌になるだけです」
それは否定できない。
よく見たらシャムちゃんはいつものリュックを背負ってなかった。あれ?
「シャムちゃん、配達は?」
「今日は休みです。だから美味しい店を探してるです」
「そっかー。だったら私達と行かない? 美味しいパン屋さんがあるんだよ」
「ノノムラのおすすめは不安しかねーですが、でもノノムラがこの前くれた赤いアレはすごく美味しかったのです。それだけは褒めてやるです。というかアレもっとくれです」
アレってお土産のリンゴ飴かな? シャムちゃんは甘いのが好きだから気に入ってくれてよかった。
「ごめんね、お祭限定だからもうないんだ」
「むぅ。じゃあそのパンで我慢してやるです」
どうにか一緒に来てくれるみたい。
「シャムは本当に素直ですね。リスのように丸くなって私は嬉しいです」
レティちゃんがドヤ顔を見せて言ってる。確かにリスの尻尾は丸い気がするけどちょっと分かり辛い。
「レティ、その例えはおかしいよ」
「レティは昔からずれてやがるです」
幼馴染からいじられてレティちゃんが頬を膨らませてる。そんな顔をされたら頭を撫でたくなっちゃう。
「ノラ様ー」
横から抱きつかれたら歩きにくいけどまぁいいや。
それで少ししたら街角の大木のパン屋さんまで来れた。この前に掃除もしたから雑草もないし木も綺麗なツヤが光ってる。解放されてる窓から良い匂いがしてくる。
早速中に入らせてもらおう。
「キタキタキツネ!」
入店一番のシロちゃんの満面の笑みの挨拶。きたきつね?
「キタキタキツネだよ~。今日は前に紹介するって言った友達を連れてきたよ」
後ろから皆が出て来てシロちゃんを見ては驚いてる。
「あれ、モコ!?」
「モコじゃないですか。央都まで来たんですね!」
「まさかモコの店とは思ってなかったでやがるです」
まさかの顔見知りだったみたい。やっぱりケモミミ社会は顔を覚えられてるのかな?
でも皆の反応とは裏腹にシロちゃんは顔を真っ赤にしてカウンターの下に隠れちゃった。
手だけ出して手招きしてくる。もしかして私が呼ばれてる? とりあえず行ってみる。
奥ではシロちゃんが耳を押さえて蹲ってる。
「大丈夫?」
「ノララー。困ったです。私、皆のこと全然知らないです」
まさかの一方通行の友人関係。
「大丈夫だよ。皆いい子だし、シロちゃんを変って思わないよ。私が保証するから」
「そ、そっか。ノララの友達だもんね。ガンバルキツネ」
シロちゃんはそうっと立ち上がって顔をカウンターから出してる。その先には両手を合わせてるレティちゃんに、頭を下げてるフランちゃんに、申し訳なさそうに視線を逸らしてるシャムちゃんがいる。
「ご、ごめんね。モコのことは村でもよく話を聞いてたから私達を知らなくても無理ないよ」
話し声が聞こえてたみたい。シロちゃんは魔力なしで周りに同情されてたって話してたからきっと皆もそうだったのかもしれない。
「魔力なしって聞いてましたからどう接していいか分からなかったんです。子供心故に許してください!」
「そ、そんな。謝らないで。皆は悪くないよ。私が皆を遠ざけてたんだから」
なんか微妙な空気になってるような。お互い気を使ってるからこれだと心の距離は遠くなっちゃう。何か良い方法はないかなー。そうだ。
「シロちゃん、パン焼いてるよね。あれ、皆に食べてもらったらどうかな」
「それならさっき焼けたのがありましゅ」
シロちゃんは窯炉の近くに置いてあったできたてのパンをトレーに移して持ってきてくれる。それを皆に配ってた。私にも持ってきてくれて、今回も良い匂い。これはモイモイのパンだね。
「おいしい、なにこれ!」
「すごいです! これモコが作ったのですか!?」
「めちゃうめーでやがるです! モコ、やるのです!」
一口食べた瞬間に皆のキラキラした感想が出てくる。うん、やっぱり親睦を深めるなら美味しい物を一緒に食べるのが一番だよね。シロちゃんは少し驚いてたけど顔を赤くして小さく「ありがとう」って言ってる。
せっかくもらったから私も食べよう。うん、ふわふわで食べやすくて美味しい。
「シロちゃん、ここでお店出すんだよね。出すパンは決まった?」
「少しは。でも、レシピはあっても材料がないのも多くて……」
1人で来てたし鞄の中に入るのも限りがあるもんね。何かないかなーって考えたら視界に最高の逸材を発見したよ。
「そうだ。シャムちゃんに頼んだら? シャムちゃんは運び屋の仕事をしてるから頼んだら材料届けてくれるんじゃない?」
「え、でも……」
シロちゃんが申し訳なさそうにモジモジしてるとシャムちゃんがペンとメモを机の上に置いた。
「書くだけ書いてみろです。材料見たら安く仕入れられるのもあるかもだから、そこは教えてやるです」
「本当に、悪いよ」
「モコ。ボクはお前に本当に悪いことをしたと思ってるです。魔力なしって大人に言い広められて、家にいるしかなかったお前にボクは何もしてやれなかったです。だからこれくらいはさせて欲しいです」
レティちゃんとフランちゃんも同じ気持ちなのか静かに頷いてる。シロちゃんは今にも泣きそうな顔をしてたけど必死に我慢して袖で顔を拭った。きっと仲良くなりたかったのはお互い様だったんだね。
「本当にアリガトキツネです。私、央都に来てよかった」
「うん。他にも良い人一杯知ってるから紹介してあげるよ。だから一緒にガンバロキツネ」
「はい。ガンバルキツネ!」
これでシロちゃんはこれからは1人じゃないね。央都に来ようって思ったシロちゃんの小さな勇気が全部を変えたんだと思う。
「ところでずっと気になってのですが、そのガンバルキツネやアリガトキツネってなんなんです?」
レティちゃんが首を傾げて尋ねてくる。因みに私もよく分かってない。
「私もそんな言葉初めて聞いたかも。周りに使ってる人もいなかったし」
フランちゃんも言ってる。狐族の共通言語でもないみたい。
「え、えっと。央都は都会って聞いたから、その、田舎者って思われたくなくて、頑張って、挨拶……」
そこから先はシロちゃんも限界だったみたい。顔が真っ赤でテーブルの下に隠れちゃった。
やっぱりアレはシロちゃん独自の挨拶か~。
「私は好きだよ。何か元気が出るし、それにかわいいと思う。これからも言って欲しいなぁ」
「の、ノララが言う、なら」
街角の小さなパン屋さん。そこには可愛い店員さんがいるって皆に教えないとね。
それで私も言うの。キタキタキツネって。




