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58 女子高生も夏祭りを楽しむ(4)

 屋台も回って、お化け屋敷も堪能したから空も大分暗くなってきた。スマホで時間を見たら結構いい時間。


「もうすぐ花火あがるんじゃないかな?」


「もうそんな時間か」


 お祭に来る人は花火目当ての人も多くて、さっきよりもかなり人が増えてる。


「花火?」


 リリとレティちゃん、フランちゃんは知らないから首を傾げてる。


「見てのお楽しみだよー」


 生誕祭で魔導砲を見させてもらったからネタバレはしたくない。


「でもここだと見辛いんじゃない?」


 ヒカリさんに言われる。一応花火を近くで見れる所はあるけど、その殆どは先に来た人が場所を取ってる。学校のグラウンドは既に人が一杯で混雑してる。


「じゃあ神社で見ない? あそこなら階段で腰を下ろせるし見渡しもいいよ」


 私とリンリンだけが知ってる絶景スポット。お祭の場所から結構離れてるから来る人も殆どいない。異論がないみたいだから早速出発。


 屋台や人集りから離れていくと喧騒な声も提灯の赤い光もなくなって暗い夜道になっていく。街灯が時々光ってるのが目印になって皆で歩いた。


 神社のある鳥居が見えてそれを潜ると木々に囲まれて階段がある。皆で階段を上がってると後ろからドーンって大きな音がした。


「な、何の音?」


 リリが怯えた声で聞いてくる。これはお化け屋敷の刺激が強過ぎたかもしれない。


「皆、振り返って」


 その言葉でリリ、レティちゃん、フランちゃんがその場で後ろを向いた。


「わぁ!」


「すごいです。こんなの初めて見ました」


「綺麗……」


 それぞれが素敵な感想を言ってくれる。私も同じ気持ち。木陰から見える花火はいつ見ても本当に綺麗。オレンジ色の小さな火花がいくつも散らばって大きな円を描いてて何度見てもこれは言葉が出なくなっちゃう。


 ヒューって音がするとドーンドーン、パチパチパチって響かせては次の花火が上がっていく。


「今年は関東で中止になった花火を使ってるんだって」


「そうなの? 最高の一時になりそうね」


 ヒカリさんはカメラを構えて後ろから写真を撮ってる。何気に私達も撮ってるよね。でも多分それは本当にいい一枚だと思う。


「足場が悪くてアレだけど座ったら。1時間くらいあるんじゃない?」


 リンリンは浴衣でもお構いなしにその場に座って足を伸ばしてる。じゃあ私も座ろー。


「ノノの国って本当にすごいわね。魔法がないって言ってたけどアレも全部そうなの?」


「うん。職人さんが何日もかけて作ってるんだって」


「そうなんだ。この一瞬の為に何日もかけるって何だか儚いわね」


 でもそれがいいんだと思う。一瞬で消えていくからこの瞬間を見ていたいって思うから。

 火花が消えてまた新しい光が空を飛んでは弾ける。弾けた一瞬だけ町中を照らしてそれがまた綺麗。


 花火の色によって輝きも変わって、緑だったり青だったり紫だったり。でもどれも一瞬だから気を取られてる内に次があがってる。消えた花火は空の中に消えていく。本当に儚い。


「本当に夢のようです。はっ、もしや夢なのでは? フラン、ちょっと頬を引っ張ってください!」


「ちゃんと現実だよー。気持ちは分かるけど」


 レティちゃんもフランちゃんも耳と尻尾をぴこぴこ動かしてるのが見えて可愛い。


「本当はムツキやシャムちゃん達とも見たかったけど」


 それだけが心残り。この一瞬は動画で見てもきっと感動できないから。


「では来年にまた招待してみてはどうでしょう? 楽しみや予定がある方が毎日に張り合いがでるそうですよ」


 コルちゃんが言ってくれる。そうだよね、今来れなくてもまた来年。それがダメでも再来年。いつだって招待する。違う文化を見て困ったりする時もあるけど、こうやって同じ好きを共有できたら素敵だと思う。


「本当に魔法のようだわ」


 リリが呟く。私達にとって当たり前でもリリ達にとっては当たり前じゃない。

 魔法、そうかもしれない。


 ※


 花火があがってから大分時間が経ったと思う。誰も喋ったりしないけど、この静かな時間も嫌いじゃない。

 花火も段々と豪華になっていて視界一杯に火花が散っていく。胸の鼓動にまで響く音がずっと反芻してる。


 ドーン!


 空を覆い隠すような一面に広がる小さな火花。虹を表してた色合いが本当に花のようで満開に咲いた瞬間に見えた。


 それを最後に次はもう上がらなかった。今も火花が少しだけ残ってて徐々に消えていくのが切ない。


「あ……終わり、なんだ」


 リリが呟く。最後の花火があがった後って少しセンチな気持ちになるよね。いつか終わるって分かってても終わって欲しくないって思うから。


 花火が終わるとそれを見てた人が歩道を歩いて家に帰っていく。屋台は店仕舞いして今年の夏祭りもお終い。でも誰も立ち上がって動こうとしない。


「さて、と。ずっとここに居ても迷惑だし行きましょ」


 最初に動いたのはヒカリさん。やっぱりこういう時に動けるのは大人って感じがする。


「そう、だね」


 フランちゃんが惜しそうにしてる。リリもレティちゃんも未だに空を見てる。


「最後に皆で集まって写真撮らない? 今年の夏は今日だけだしね」


 そっか。当たり前だけど今日という日は2度と来ないんだ。来年はあっても今年はない。このメンバーで笑って遊んだ時間は今日という一瞬だけ。


「でもお姉ちゃん、ここだと暗いですよ」


「うーん、そうねぇ」


 暗いと皆の顔もはっきり映らなくて心霊写真みたいになりそう。


「だったら私の火の魔法で明るくするわ」


「そういえばリリは魔法使いだったね」


「ノノー。それは忘れないでよー」


「ごめん。何かリリとはもう同級生って感じだったから異世界の人って気がしてなくて」


 向こうに行ってもご飯食べたりお喋りばっかりだし、よく忘れちゃう。

 リリは何か恥ずかしそうに視線を逸らしてたけど何でだろう?


 それで掌に小さな火の玉を作ってた。おー、ちゃんとこっちでも使えるんだ。

 周囲が赤く照らされると一気に明るくなる。


「そんな風に魔法使うんだ」


「ヤバ。見惚れてて写真撮っておけばよかったわ」


「お姉ちゃん、早く準備してください」


 ヒカリさんが石段の上にカメラを置いて戻って来る。状況が分かってないリリ達を手招きして近くに寄せてみる。7人もいるし引っ付かないと収まらないと思う。


「え、え? どうしたらいいの?」


「笑顔笑顔」


「ピースピース」


 私とリンリンで手本を見せてみる。レティちゃんとフランちゃんがぎこちなく真似してくれる。そうこうしてる間にカメラが光ってシャッターが切られた。

 なんかちょっとグダッた気がするけど、それを笑い合えるのが私達だと思う。


「写真も撮りましたし、これからどうします?」


「普通に考えたらお開きだよな」


 コルちゃんとリンリンが言った。夜も遅いしあんまり遅いとお母さん達も心配するかもしれない。


「まぁまぁ待ちなさいって。ずっと外にいたし冷えたでしょ? だから皆で温泉に行かない? 私、この近くにある温泉に行ってみたかったのよね~」


 ちょっと崖の近くにある温泉のことかな? 山の中にあるから自然も堪能できるんだよね。


「私は賛成だよ~。まだ皆と一緒にいたいし」


 少しでもこの時間が続いて欲しいと思うから。


「決まりね。それじゃあ私の車で行きましょ」


 ヒカリさんは他の人の意見も聞かずに階段を降りていく。コルちゃんが呼び止めてるけど気にしてない。


「ふふ、ノノの国の人は皆いい人ばかりね。今日はありがとう。素敵な1日だったわ」


「こんな楽しい経験は一生できなかったと思う」


「貧乏人には天国のような時間でした!」


 皆がそれぞれ感想を言ってくれる。少しでも楽しんでくれたなら嬉しい。


「礼を言うにはまだ早いぞ~。温泉に行くなら風呂上りのラムネを堪能しないとな」


「そこはコーヒー牛乳では?」


「なっ。ここに敵がいるぞ!」


 リンリンとコルちゃんが論争し出す。私はアイス派だけど黙っておこう。


 私の夏はまだ終わらない。だからこの1分1秒を大切にしたい。

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