57 女子高生も夏祭りを楽しむ(3)
「屋台も結構回ったしアレ行かない?」
お腹も膨れたしリリ達もこっちに馴染んできてると思う。だから提案してみる。
「あーアレかー。ノラノラも好きだよなー」
リンリンだけ察して言ってくれる。他の皆は「あれ?」って感じで首を傾げてる。リンリンとは昔から一緒に行ってたから分かるんだよね。
それで私とリンリンが先に歩いてそこへ向かった。屋台のある所から少し離れて小さめグラウンドがある。今年も結構人が来てるみたいで中々賑わってる。
「ここって学校ですか?」
コルちゃんが聞いてくる。
「そうだよー。もう使われてなくて廃校になってるんだ」
おじいちゃんの代は人も多くて学校も多かったみたいだけど最近は少子化の影響で人も減ってるから必然的に学校も合併されたり廃校になったりしてる。ここもその1つ。
電気は通ってるらしいけど窓の中は真っ暗。学校の入り口の方で禍々しい看板が大きく出てるのが見える。
「ノラちゃん。私の目に狂いがなかったらアレはお化け屋敷かな?」
「そうだよー。毎年夏祭りになると色んな人が準備して盛り上げてくれるんだー」
普通廃校になった学校は取り壊されたりするけど、ここが残ってるのはお化け屋敷として使われるって理由もあるみたい。それで街の人達がお化け役したりして一杯怖がらせてくれる。
「いやぁ! やめてやめて! 私そういうの本当に無理だから!」
ヒカリさんが後ずさるようにして叫んでる。あれ、もしかして怖いの苦手だったのかな。
「お姉ちゃんはこう見えて怖いのが大の苦手なんですよ」
コルちゃんがこっそり教えてくれる。そっか、じゃあリンリンと同じだね。
「何々? また新しい催し!?」
「そうだよー。中に一杯怪物がいるんだよー」
「怪物!?」
リリも驚いて後ずさってる。
「それは面白そうですね! 私は行きたいです!」
「お化けって幽霊だよね? 私幽霊って見てみたかったんだ」
レティちゃんとフランちゃんは乗ってくれた。
「嫌よ! 嫌! 行くなら皆で行って来て!」
「大丈夫だよ。別に死ぬ訳じゃないし、ちょっとびっくりするだけだよー」
「ヒカリさん、無理だって。ノラノラは小学生の時から行ってるけどずっとにこにこしながら廊下歩いて全然驚かないから私らの感覚を理解できてない」
「むー。でも本当に大丈夫だよ。昔リンリンがびっくりし過ぎて変な所行こうとしたらお化けが出口まで案内してくれたもん」
「その話はやめて!?」
リンリンが私の口を塞いでくる。別に悪いことじゃないのに。だってここのお化けさんは皆悪い霊じゃないし。
「お化けが道案内!? すごく気になる!」
「絶対見たいです!」
レティちゃんもフランちゃんも火が付いてるし、これはもう行く以外の選択肢がないよね。
「お姉ちゃん、この中で一番の年上なんですからしっかりしてくださいよ」
「怖いに年は関係ないでしょー。もう分かったわよ! 秒で行って秒で帰る!」
ヒカリさんがヤケになったみたいで1人突撃して受付に走ってる。おー、気合が入ってる。
「リリも大丈夫?」
「も、勿論よ! ノノの誘いを断るなんてありえないわ!」
ちょっと声震えてるけど大丈夫かなぁ。でも皆と一緒だったらそんなに怖くないと思う。
一度1人で行ったことあるけど、リンリンと一緒の時の方が安心感あって落ち着いてられたし。
そんな感じで順番を待ってたら私達の番が回ってくる。係員の人が扉を開けて笑顔で見送ってくれる。私達が入ると扉は閉じられて鍵も閉められる。今年のお化け屋敷はどうなってるかな~。
入ったら早速長い廊下。古い学校だから敷地もそんなに広くない。1階、2階、3階ってあってそれぞれの階に教室とトイレがあるだけの本当に古い学校って感じ。その分、教室の数は多くて1階だけでも10クラスくらいはあったと思う。
「確かまずは1階の1-7教室に行って鍵を取るんですよね?」
コルちゃんが事前に渡してくれた手書きの地図というか案内の紙を見ながら教えてくれる。妙に達筆に書かれてるから雰囲気がある。
「うん。順番に鍵を取って最後は裏口に出る感じだよ」
1階廊下の一番奥が裏口に繋がってて、そこの鍵を手に入れるのが最終目標。でもその為には色んな教室に入っていかなくちゃダメでどこも鍵がかかってるから本当に大変。
廊下には電気が切れそうな蛍光灯がいくつも付けられてチカチカ光ってる。毎年こうだからギリギリのを事前に用意してるって思うとすごい。
「どこも黒くて全然見えません」
レティちゃんが教室に目を向けて言ってる。教室は黒いカーテンで覆われてるから廊下からは見えないんだよね。
「コル、絶対に手を離さないでね」
「はいはい、分かってますから」
ヒカリさんはコルちゃんにぴったりくっ付いて歩いてる。いつもの爽やかさも今は見る影もないよ。
廊下を歩いてるから私達の歩く音だけが静かに響く。それで途中、蛍光灯の電気が点いてない所に行き当たった。丁度、1-6の所。この先を行かないと鍵が手に入らないけど怪しそう。
それで皆で一緒に歩いてたら急に教室の窓がバンバンって叩かれた。見たら赤い手形も付いてる。
「ひゃあぁぁぁぁぁ! 死ぬ死ぬ! 死んだ!」
ヒカリさんが大絶叫をあげてる。窓を叩かれただけで死なないよ、多分。
「びっくりしたぁ。これがお化け屋敷かぁ」
フランちゃんも胸をなで下ろして窓に目を向けてる。
「私、お化けの正体が気になります! 中に入ってもいいですか!?」
レティちゃんに至っては全く動じてなくて興味津々。中に入ったら幻滅すると思うから止めておこう。
「もうお姉ちゃんいつまで抱きついてるんですか」
「だって怖い~」
ヒカリさんは涙目になって訴えてる。今になってちょっと同情してきたかも。
「リンリンは平気?」
「あ、ああ。いや、驚いたは驚いたけど何かあれだな。自分より怖がってる人みると冷静になるな、うん」
リンリンがヒカリさんを見ながらしみじみ言った。そんなものかな?
そういえばリリの声がしてない気がする。
「リリ?」
返事もない。気になって辺りを見たらリリはずっと窓の方見て放心してる。顔の前で軽く手を振って見たら我に返ってくれた。
「はいはいはい。なるほどね、こういうパターンか。もう慣れたわ」
流石お嬢様、順応が早い。
それで最初の驚かしも越えて1-7の教室前に来た。相変わらずカーテンで覆われてるから中は見えない。
「誰から入る?」
「私は絶対無理だから!」
ヒカリさんはコルちゃんの背中に隠れて叫んでる。リンリンも愛想笑いしながら後ろに下がってる。やっぱり私かな?
扉を開けようとしたらリリが私の手を掴んだ。
「待ちなさい、ノノ。ここは私が行くわ」
「大丈夫?」
「平気よ。普段から魔物と戦って鍛えてるって所を見せてあげるんだから!」
まるで生死をかけた戦いみたいに言ってるけどそんな危険はないよ?
でもリリは聞かずに勢いよく扉を開けた。中はシーンと静まり返ってる。
「教卓の上に鍵がおいてあるそうです」
「教卓?」
「あの台の上だよ」
目と鼻の先だったからリリも意気揚々と中に入って行った。でも何もなかったみたいで鍵を取って手を挙げてる。それでそのまま戻って来ようとしてたけど、丁度振り返った時に教室の後ろを見てピタリと足が止まった。んー?
「きゃあぁぁぁぁ! 亡霊出たぁぁぁぁぁ!」
リリが叫んで全力ダッシュしてこっちに向かって私の胸に飛び込んでくる。
「やばいやばい! ノノの国やばい! ここ呪われてるわ!」
「何があったの?」
聞いてもリリは指を差すだけで何も言わない。それでそうっと顔だけ覗かせて教室を覗くと教室の真ん中の方に白い着物を着た人が座ってる。でも首から上がない。なるほど、リリが言ってたのはこういうことかー。多分顔を隠して着てるだけだと思うけど。
その人は私の方を見て手を振ってる。私も手を振り返して静かに扉を閉めた。
「ね? ね? いたでしょ?」
「いたねー」
「は、はやく行きましょ。幽霊を使って催しするなんて恐ろしいわ」
リリは完全に幽霊を信じちゃってる。でもネタばらしするのも味気ないし黙っておこう。
鍵も手に入ったし次はコルちゃんによると3階に行くみたい。それでこの鍵を使って教室に入ってそれで裏口に出れる鍵が手に入るみたいだね。階段を上がっていると遠くからお経みたいのが聞こえてくる。多分2階の教室からかな?
ぽーんぽーんって音もしててちょっと雰囲気が出てる。
「今度はなにぃ?」
リリが完全に怯えて私に引っ付いてる。ヒカリさんに至ってはコルちゃんに引っ張られて歩いてる感じだし。2階に着いたらお経が急に止まった。それで少ししてから急に男の人の「うわあぁぁぁぁぁ!」って断末魔が響いた。
教室のドアが叩かれて、しかも廊下の奥から何かが走って来る音もする。
「いやぁ! もう帰りたい!」
「ここはもう地獄よ!」
ヒカリさんもリリも腰を抜かして動けなくなってる。仕方ない、ここは私が頑張ろう。
廊下の奥の方に歩いてそこに立ってみる。
「ここは私に任せて皆は先に行って」
漫画でよくみるアレ。人生で一度でいいから言ってみたかったんだよね。
「そんなノラ様!?」
「ノノムラさん!?」
レティちゃんとフランちゃんも真に受けて信じてる。
リンリンとコルちゃんに目配りすると2人は頷いてくれる。
「行くぞ。ノラノラの死を無駄にしちゃダメだ」
リンリン、私まだ死んでないよ。
「ノラさんの為にも先に行きましょう」
コルちゃんが階段のある方に歩いて皆を誘導してくれた。
「ノノー! 嫌よ! 私はノノを置いてなんか行けない!」
「そうだよ! まだノノムラさんに何もお返しできてないし……」
「私、ノラ様とこんなお別れは嫌です!」
流石は異世界の人達はノリがいいなぁ。リンリンだったらネタを知ってるから絶対に乗ってくれないし。
無言で親指を立てて皆を見送った。階段の方から皆の泣き声が聞こえたけど本気で死ぬと思ってそう。ちょっと悪ノリが過ぎたかもしれないし後で謝らないと。
廊下の奥には人体模型みたいな人が立ってた。私達の芝居中も待っててくれたみたい。頭を下げて私も階段を上がった。
戻ったら皆が驚いて私を見てくれる。
「ノノ、無事だったの!?」
「無事だよー。仏様の加護があるから」
「よかった。本当によかった」
リリが本気で泣いてる。流石に申し訳ないからハグして慰めてみる。
「最後の鍵取って来ましたよ」
コルちゃんが鍵を持って帰って来る。
「コル! 1人で行かないでって言ったじゃない!」
「まぁまぁ。十分楽しみましたからいいじゃないですか」
きっとコルちゃんも気を使ってくれたんだね。ありがとう。
「そういえばコルちゃんは怖いの平気なの?」
「寧ろ大好きですよ。ホラー映画やホラーゲームって面白いですよね」
まさかの隠れ上級者。そういえばこの前の怪談でも本当に怖いの話そうとしてたね。
それで皆で仲良く裏口から出ると係員の人に笑顔で出迎えられてお化け屋敷は何とか終わった。
「楽しかったね。年々怖さが増してると思う」
「だなぁ。クオリティも高かったし」
その内本当に本物の幽霊さんが採用されそう。
「それとごめんね。中のお化けは全部人が演じてるんだよ」
「えぇ!? そうなの!?」
「うん。だから本当に危険はないよ」
それを聞いてレティちゃんとフランちゃんも納得してくれた。ヒカリさんは知ってるだろうけど、それでも怖かったみたい。
「ノノー! それならそうと言ってよー。私泣き損じゃない!」
「ごめんね。リリが可愛かったからつい」
「か、かわ……もう、ノノだから許すけどあんな心臓に悪い冗談はやめてね?」
「うん。約束する」
やっぱり、リリは優しい。でもリリが私の為に本気で泣いてくれたのはちょっと嬉しかった、なんて恥ずかしくて言えないかな。




