56 女子高生も夏祭りを楽しむ(2)
いつも歩く田舎の歩道。そこにはいくつもの提灯で赤く照らされて、ずらっと屋台が並んでる。家族連れの人や友人同士で来てる人、中には恋人同士で来てる人もいる。そんな中に私達もいる。
「ふわぁ! 素敵な光景ね! 文字は読めないけど美味しい料理があるってのは分かるわ!」
リリはキョロキョロしててすごく楽しそうにはしゃいでる。これは連れて来た甲斐があったなぁ。
「あっ! あれはこの前皆さんが作ってくれたものじゃないですか!?」
レティちゃんが指差した先にはたこ焼きを作ってる屋台があった。見ただけで分かるってすごい。
「たこ焼き食べたい人挙手~」
言ったら見事に全員の手があがったから早速買ってくる。数が多くなったから店主のおじさんがサービスでたこやきの量を増量してくれた。うれしい。
「買ってきたよ。歩きながら食べよ~」
「何か悪いわね。お金、かかってるんでしょ?」
「大丈夫。今日の為にお小遣い溜めてたから」
普段からそこまで散財しないし結構貯金もあったんだよね。
「こっちは普段から異世界観光させてもらってるしな」
「生誕祭でも沢山楽しませてもらいましたから」
リンリンとコルちゃんも同意してくれた。
「大人に甘えるのが子供ってもんよ。お祭は楽しく、分かった?」
ヒカリさんが指差して言うと分かってもらえてた。やっぱりふざけてないヒカリさんはしっかりしてるから説得力ある。でも子供って私達も入ってる?
「ありがとう。本当に皆と友人になれてよかったわ」
「はい! 今日来れなかったシャムの分まで楽しみます!」
多分、今頃シャムちゃんがくしゃみしただろうなぁ。
「本当にありがとう。必ずお礼はするから」
フランちゃんも律儀にそんなことを言ってくれる。分かってくれたみたいだし、早速たこ焼きを配ろう。
「あ、えっと」
渡そうしたらフランちゃんが戸惑ってる。あ、そういえばダイエットしてるんだったね。
「フランちゃんは私とシェアして食べよー」
「はい! それなら!」
丁度爪楊枝も2つ入ってるから半々で問題なし。
「何それ、羨ましいんだけど!?」
「一緒に食べるかい、リリアンナお嬢様?」
「だからお嬢様呼び禁止だってば!」
リンリンとリリも仲良く食べてる。
「レティさんもわたしと食べません? この味はこの前のとまた違ってて美味しいですよ」
「本当ですか! ではでは頂きます!」
コルちゃんもレティちゃんと仲良く食べてる。ヒカリさんだけがポツンとしてたけど無言でカメラ構えてシャッター切ってた。コルちゃんには黙っておこう。
「あ、これシャムちゃんが好きそう」
「ノノムラさん、これは?」
「これはリンゴ飴って言って甘くて美味しいお菓子なんだよー。あっちで言う所のリガー味のお菓子って所かなー。すみませーん、リンゴ飴2つくださーい」
リンゴ飴を2つ買って両方フランちゃんに渡した。
「帰ったらシャムちゃんに渡してあげて。そっちはフランちゃんにあげるね」
「ありがとう! シャムもきっと喜ぶと思う!」
文句言いながらうめーうめー言ってくれたら嬉しいなぁ。
こっちにはベビーカステラが売ってる。これはセリーちゃんのお土産にしよう。
量もあるし鴉の店員さんも狼の大将さんとも一緒に食べれていいよね。ムツキの分も買ってあげよう。ムツキには大盛りサイズの方がいいかな?
向こうのネックレスはすごく綺麗。アレはミツェさんのお土産にしよう。
その横の宝石みたいな小物はノイエンさんにあげようかな。
「リン! この焼きトウモロコシってすっごく美味しいわ!」
「だろー? これも美味しいから食べてみなって」
「何これ、ふわふわ! 綿なのに甘くて美味しい! 異世界だわ!」
「異世界だぞ」
目を離してる隙にリンリンはリリにすっごく餌付けしてる。これは飼いならされるのも時間の問題かもしれない。
「コル様! これは何かの錬金術なのでしょうか!? 氷の塊が粒状になって、あっちから色の液体が出てます!」
「あれはカキ氷と言いまして氷を中で削ってるんですよ。あちらはシロップでして甘くて美味しいです。わたしのオススメはブルーハワイですね」
「それはどんな味なんですか?」
「まるで南国に行ったような味、でしょうか」
「国を味にするなんて……異世界すごすぎます!」
コルちゃんとレティちゃんは仲良くカキ氷を食べて楽しそう。レティちゃんは氷の冷たさにキーンってなって頭抑えてる。かわいい。
そんな感じに楽しんでると背後から突然ヒカリさんに抱きつかれる。
「ノラちゃーん! 私を1人にしないでー!」
そう言いながらクレープ片手に持ってるのは気のせい?
「このままだと私がヤバイ女と思われるかもしれないわ。何とか皆の好感度をあげる作戦を考えて欲しいの」
フランちゃんがいる目の前でそれを話してる時点でヤバイ気がするけど。
「それならアレとかどう?」
丁度目に入った先に射的の屋台があったから指差してみる。景品は色々あって小さな箱菓子から時計や小物と並んでて一番端には大きなすみっコぐらしのぬいぐるみが置かれてる。
脱力した顔が可愛いシリーズ。
「あれ取ったら人気者になれるかも?」
よく分からないけど。
「よし、分かったわ! お姉ちゃんの腕を見てなさい!」
ヒカリさんが意気揚々と歩いて行ったから私とフランちゃんも付いていく。
「何するの?」
「あの筒状の物から弾がでるからそれを当てて景品を落とすんだよ。落としたらそれがもらえるんだ」
「ほえー。でもあんな大きなの落とせるの?」
フランちゃんから見ても厳しいように見えるみたい。正直私も難しいと思う。でもヒカリさんは真剣な目で狙ってた。何か微妙に角度とか変えててそれっぽい。
時間をかけて弾を発射したけど、その弾はぬいぐるみのふくよかなお腹に弾かれてあえなく落ちていった。
私とフランちゃんが無言で見てるとヒカリさんが振り向いてくる。
「今のは確認作業よ! 弾の威力やぬいぐるみの揺れ具合を見てたの!」
そうらしいから第2射も黙って見届ける。でも今度は狙いを定め過ぎて変な所に飛んでいった。
「面白いじゃない。私を本気にさせるとどうなるか、教えてあげるわ」
何か妙なスイッチが入ってるけど大丈夫? でも何発も弾を撃ってるけどぬいぐるみは微動だにもしてない。ヒカリさんも段々と無理だと気付いてるんだろうけど後に引けなくなってるのか半ばヤケになってる気がする。
「あのー。お金払うんで落ちたことにしてもらえませんか?」
遂には店主と交渉してる。大人の黒い部分が見え隠れしたよ。でも結局断られてる。
「なにしてるんだー?」
「射的ですか? お姉ちゃんも頑張りますね」
皆も戻って来てヒカリさんの射的披露会を見始める。するとヒカリさんは銃を持ったまま振り返って何か手を突き出してきた。
「この銃を受け取る覚悟がある奴はいるか!」
自分で取れないと分かってか、プライドを完全に捨ててる。これが大人になることなのかもしれない。
でも見た感じだと私には絶対できそうにない。フランちゃんも同じで首を振ってる。
「あのデカイの狙ってるの? いやいや、無理でしょ」
「そもそもこういう所の遊戯は大抵失敗するようになってるんですよ」
リンリンもコルちゃんも至極全うな意見を言ってる。
残ったレティちゃんとリリだけど、レティちゃんも当然手を横に振って拒否してる。そうだよねー。
「リリルちゃん! あなただけが望みよ! あれを倒して!」
最早化け物みたいにぬいぐるみを指差して懇願してる。確かに吸われた金額は悪魔のようだけど。
「えっと、どうやったらいいの?」
「その引き金を引いたら弾が出るから、それを当てて落とす感じだよ」
リリはおもちゃの銃を受け取って狙いを定める。それで撃ったけど、弾はぬいぐるみのお腹の当たって弾かれて虚しく落ちた。やっぱりダメかー。
「仕方ないよ。アレは取れないって」
リンリンが励ましてるけどリリはぬいぐるみをジッと見てる。
「もう一回やってもいい?」
リリが真剣な目でそう言ったからヒカリさんがお金を払ってた。今度はリリは体勢を低くして構える。おぉ、何かそれっぽい。さっきと違ってじりじりと時間をかけてる。
それで一気付いた時には撃ってた。今度は脳天に命中してぬいぐるみが揺れた!
ゆらゆらして振り子みたいに動く。後少しで落ちそうって所でぬいぐるみは元の位置に戻るように揺れちゃう。あちゃー。
「おっと」
すると店主の人が景品を乗せてる台をちょっとだけ叩いた。すると人形はまた大きく揺れて今度はちゃんと落ちた。それを店主の人が拾ってくれて渡してくれる。
「えっと……」
リリが気まずそうにどうしていいか分からない顔をしてる。でも店主の人は笑ってた。
「はっは! そこのお姉さんが頑張ってたからな。他の客には内緒だぞ」
賄賂は受け取らないけど頑張ってる人には優しいみたい。いい人。
「つまり実質私が取ったようなものね!」
ヒカリさんも黙ってたらヒーローだったのに。でもぬいぐるみが取れてよかった。
「これはどうしよう? っていうかすごく触り心地いいわね!」
ふわふわしてる奴は気持ちいよね。リリが抱きしめてて可愛い。
「私はいらないからあなたにあげるわ」
「ありがとう! ヒカリ!」
リリが満面の笑みを見せて言ってる。あまりの眩しさにヒカリさんが直視できなくて目を閉ざしてるよ。そこはシャッターチャンスだと思ったけど。
「はぁ~。こっちのお祭もすごく楽しいわね、ノノ!」
「でしょ~? でも、お楽しみはまだまだこれからだよ~」
屋台で美味しいご飯を食べるのもお祭の醍醐味だけど本当の醍醐味はこれからだよ。




