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55 女子高生も夏祭りを楽しむ(1)

 いよいよ今日は夏祭り。朝からずっとスマホの時間ばかり気になってた。こういう時って時間が進むのが本当に遅い。でもそれももうお終い。

 陽も暮れ始めて段々と町の方が賑やかになってる。


「お母さん、変じゃないかな?」


「とっても似合ってるわ」


 お母さんに浴衣を着付けしてもらって何とか着れた。浴衣の色で青とピンクで迷ったけど青にした。


「今日は帰り遅くなると思うから」


「何回も聞いたわ。それで私が1人で夜道を帰って来ないようにって注意するのも何度目かしら?」


「うん。じゃあ行って来るね?」


 浴衣も着たし急がないと。


「あら、もう行くの?」


「異世界の皆を待たせてるから」


「異世界?」


「行ってきまーす!」


 お母さんの質問に答えてる時間はないから急いで下駄に履き替えて庭に出た。もう空は赤くなってて道沿いの方を多くの人が歩いてて騒がしくなってる。


 ミー美と瑠璃も何事かとそわそわしてるけど、柴助は相変わらず尻尾を振ってるし猫丸は縁側で座ってボウッとしてる。


「まずはあっちに行かないとね。瑠璃、おいで」


「ぴー」


 私が呼ぶと颯爽と飛んで私の肩に乗ってくれる。後は仏様に祈ってあっちに行くだけ。


「仏様お願いします」


 両手を合わせて祈りを捧げたら早速景色が変わった。あれ、祈りが届いたのかな?


 異世界の街に着いてこっちも結構暗くなってる。まずは呼子笛を吹いてリリの連絡鳥を呼んだ。数分もしたらパタパタと飛んで来てくれたから足にくくってある紐を解いてメモを取る。そこに太陽の印と私の名前を書いておこう。リリなら分かってくれる。


「瑠璃、悪いけどレティちゃんとフランちゃん呼んで来てもらっていい?」


「ぴ!」


 下駄だから早く歩けないから瑠璃に呼んでもらおう。後は待つだけ。


 5分もしたらまるで息を合わせたようにリリとレティちゃんとフランちゃんが来てくれた。3人共いつもの格好とは違う。リリは花柄の白いシャツに肩より下くらいの短いマントを羽織ってる。青いスカートも可愛い。


 レティちゃんとフランちゃんはお互いが対象となる白黒の服になってる。レティちゃんの上着が白でフランちゃんは黒。スカートもレティちゃんが黒でフランちゃんが白。いつもはロングスカートだけど今日は短くて2人の尻尾が見える。もふもふしてて可愛い。


「皆、おまたせー」


「ノノ!? 何その服すごく可愛い!」


「また新しい衣装!? 見たい見たい!」


「フラン興奮したらダメですよー」


 フランちゃんの熱を冷ますようにレティちゃんが手を引っ張ってる。何かいつもと逆でちょっと新鮮。


「皆も可愛いよ~。それじゃあ行こー」


「そういえばどうやって行くの?」


「私の身体に触れてたら大丈夫だよ~」


「ぴ~」


 瑠璃を肩に乗せて言ったけど3人共ちょっと半信半疑。それもそうかな、こんなの言っても信じてもらえないよね。


「ノノに触って……最高だわ」


「この服触れる……」


「ではお願いしまーす!」


 あれ、意外と順応早くない? ま、いっか。それじゃあ出発!

 意気込んだおかげか、仏様が見てくれてたのか、一瞬で元の世界に戻れた。過去最高の往復時間かもしれない。


 景色は私の庭で我が家のモフモフ達が何事もなかったように寛いでる。


「んー?」


 歩きたいんだけど皆一向に離れてくれない。何かあった?


「大丈夫?」


「ほ……ほ、ほ、ほ」


 リリが梟の真似をしてる。それともお嬢様の笑い方練習?


「本当に来ちゃった! ここがニホン!?」


「そうだよー。ようこそ、皆。我が家へ」


「我が家!? え!? ここノノの家!? あっ、何あの魔物!?」


 リリがまくし立てるみたいにあれこれ言ってる。多分これが普通の反応なんだろうなぁ。


「空が赤いです! それにここって山の中ですか?」


「今は夕暮れだからねー。山だけど魔物はいないから安心していいよ」


 代わりに熊が出るかもしれないけど、それも滅多にないし。


「あっ! あっちに人が一杯! 皆ノノムラさんみたいな服着てる!」


「夏のお祭だと女性はこれを着る習慣があるんだよー」


「そうなんだ。私も用意したかったなぁ」


「今度また貸してあげるから参考にする?」


「本当!?」


 フランちゃんが目をキラキラさせて寄って来る。本当に服が好きなんだね。


「ちょっとノノー! 私の質問にも答えてよ! あの大きい石の棒は何!? 何か黒い線で繋がってるし! それに家の造りだって……うひゃあ! なになに!?」


 なんかリリの周りに柴助やたぬ坊やこん子、それに面倒くさがりの猫丸まで来てる。勿論、瑠璃とミー美も一緒。流石私の家族。皆を歓迎してくれてるんだね。


「全員私の家族だよ。よろしくねー」


「全部!? 従魔の数多くない!?」


 リリは楽しそうだなぁ。見てるだけでこっちも楽しくなっちゃう。


「微笑んでないで教えなさいよー!」


 肩を掴んでぐらぐらされる。こういうのはコルちゃんの役目なんだけどなー。


「お! もう来てるんだな」


「リンリンだー」


 リンリンは赤い浴衣を着てて、いつもはポニテだけど今日は括ってなくてストレート。何かすごく大人っぽい。


「リンリンかわいいー」


「ノラノラもかわいいぞー」


 両手でハイタッチして今日の挨拶完了。


「リン! ノノが教えてくれないからあなたが教えて! あっ、今走っていった鉄の箱は何!?」


「あれは魔法で走る車って奴だ。勉強したら誰でも使えるようになるんだぞ」


「そうなの!? すごいわ!」


 リリが感心して目を輝かせてる。これは信じてるなー。


「リンリン、嘘はよくないよ。私達の世界に魔法はないもん」


「悪い悪い、リリアンナお嬢様の反応が面白くてつい」


「えー、嘘なの!?」


「でも誰でも使えるようになるってのは本当だぞ? 危険だから年齢制限はあるけどな」


 それを聞いたらリリはまたしても驚いてる。驚いてばっかりだなー。


「そういえばこちらに来てから空気が違う気がします」


「異世界の空気は美味しいか?」


 リンリンが言った。そっか、レティちゃん達からしたらここは異世界だもんね。


「とてもいいです! それでお祭というのは!?」


「待って。もうすぐコルちゃんが来るはずだから」


 そう言ったら家の前が明るくなって車が一台止まった。運転席と助手席からヒカリさんとコルちゃんが降りてくる。コルちゃんは白い浴衣を着てて小さくて可愛い。ヒカリさんは運転するからか、いつもみたいなお洒落な格好。


「待ってたよー。ヒカリさんも会いたかったよー」


「私に会いたいなんてノラちゃん良い子ねー。私も会いたかったわー」


 手を合わせあって今にも踊りそうな雰囲気。ヒカリさんとは生誕祭以来だから本当に久し振り。


「コルちゃん浴衣似合ってるよ。かわいいー」


「ありがとうございます。ノラさんも素敵ですね」


 コルちゃんがペコリとお辞儀してくれる。まるで和服美人さんだ。釣られて私もお辞儀しちゃう。これで役者さんは全員揃った!


「おぉ! あの時のケモミミちゃんと金髪美少女じゃない! 再会できて嬉しいわ! 私は光よ」


 光さんが颯爽に自己紹介して、それでリリ達も軽く名前を名乗っていく。


「リリルちゃんにレウィシアちゃんにフラウスちゃんね。ふふ、ねぇ早速で悪いんだけど一枚写真撮ってもいい?」


 光さんがカメラ持ったままはぁはぁ言ってる。既に変なスイッチが入ってそう。

 コルちゃんが呆れて言葉も出てない。


「写真って?」


 フランちゃんが言葉の意味が分かってなくて聞いてる。向こうだとカメラもないんだっけ。


「前に一緒に撮ったあれだよー」


 私がスマホの画面を見せて前にフランちゃん達と撮った画像を見せる。


「何ですこれ! 画面の中にフランが居ます!」


「その一瞬をこうやって置いとけるんだよー」


「私もノノと一緒に撮りたいわ!」


 リリが私と腕を組んでヒカリさんの方に寄っていく。ヒカリさんは待ってましたと言わんばかりに何度もシャッター切ってる。一枚でいいんだけど。


「レウィシアちゃんとフラウスちゃんもどう? 後で現像して写真を送ってあげるよ」


「本当!? じゃあ少しだけ撮ってもらおうかな」


「格好いいポーズでいきましょう、フラン!」


「えぇ!? そんなのないよ!」


 完全にお祭を忘れて写真会になってるよ。コルちゃんも呆れて溜息吐いてる。


「お姉ちゃん。現像するのは私がしますね。余計な写真は必要ないですから」


「ま、待ってよ、コル! 1枚、1枚だけでいいから!」


 すでにコルちゃんの地雷を踏んでしまったヒカリさんはツンになったコルちゃんにそっぽ向かれてる。もしかして妬いてるのかも。ヒカリさんは涙目になって懇願してるし既に面白い状況。


「早く行こうよ。わたしゃ腹が減ったよ」


「うん。そろそろ行かないと人も増えてくるだろうしね」


「そうそう。今日という一瞬は今だけなんだから楽しまないと損損!」


 こうして異世界人と一緒に行く夏祭りが始まった。

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