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54 女子高生も異世界人を招待したい

 夏休みも残り1週間を切った。思い返せばあっという間だった気がする。

 でも心残りはないと思う。海にも行ったし、すき焼きも食べたし、生誕祭も堪能したし、歌も歌ったし、夏なのに雪も見たし、怪談話もしたし、タコパもした。


 なんか異世界の思い出ばっかりな気もするけど、いっか。課題も後少しで終わるし、今年の夏は本当に楽しかった。


「のらー。柴助の散歩に行って来てー」


 お母さんが呼んでる。


「はーい!」


 丁度暇してた所だし行ってこよう。部屋を出て階段を下りたらお母さんが台所で煮物を作ってた。あれ、机に何か紙が置いてある。


 手書きの花火のイラストとポップなリンゴ飴とかのイラストが載ってる。


「夏祭り! 忘れてた!」


「わっ。急に何?」


 夏の一大イベントを忘れて夏休みを終えるなんて心残り所じゃないよ! いつも毎年してるのに私も異世界に感化されてたみたい。


「あー、祭りね。聞いた話だと今年の花火はすごいらしいわよ」


「そうなの?」


「関東の方で花火大会が中止になったでしょ? その花火がその祭りで使われるんだって」


 そういえば大雨でお祭が中止になって花火が無駄になったってニュースで見た気がする。

 これは最高のチャンス?


「ありがとう、お母さん。友達誘って皆で見る!」


「いつもしてるじゃない」


「違うよー。異世界の友達呼ぶ」


「はいはい」


 お母さん信じてないなー。まぁいっか。この紙をもらって柴助の散歩に行こう。

 庭に出たら我が家のモフモフ達が楽しそうに遊んでた。柴助だけが私に気付いて寄って来る。


 ミー美の散歩も連れて行こうと思ったけど瑠璃と楽しそうに遊んでるソッとしておこう。


「今日は私達だけでいこっか」


「わふっ!」


 庭の柵を開けて外に出る。柴助とだけの散歩は久し振りな気がする。最近はミー美や瑠璃が一緒だったし。


 町はお祭の準備で人があちこちで集まって作業したり楽しそうに談笑してる。お祭の雰囲気も好きだけど、こうやって準備してる期間の雰囲気も好き。

 骨組されてない屋台や、手作りの看板を作ってたりしてるのを見ると1人1人の頑張りが重なって大きなイベントになるんだなって実感する。


 そんな町中を歩いてたら視界がボヤけた。んー、もう少し雰囲気を楽しみたかったけどお預けかぁ。


 でも異世界に来たからには皆に声をかけていかないとね。早速に目に入った酒場の前で足を止める。流石に柴助まで入るのはダメだよね。あれ、でも狼頭の大将さんも狼だし問題なし? 


 うーん。魔物と勘違いされても大変だしやっぱり外で繋いでおこう。


「いらっしゃいませ! ノリャお姉ちゃん!」


「こんにちは、セリーちゃん」


 酒場の方は相変わらずたくさんの客が入ってて賑わってる。セリーちゃんも両手にトレーを持って忙しそうに料理を運んでる。来た当初とは比べられないくらいテキパキしてるなぁ。


「お1人様ですか?」


「実はセリーちゃんにこれを招待したくて」


「えっと?」


 チラシを見せたけどよく考えたら日本語が読めるはずなかったよ。


「私の町でもうすぐお祭があるの。それでセリーちゃんを招待したくて」


「本当!?」


「うん。5日後なんだけど、予定は大丈夫かな?」


「5日後……。あ、そういえばその日に遠征中の冒険者の人が帰って来るから忙しくなるってたいしょーが言ってた気がする」


 それはタイミングが悪い……。私も忘れてたからもっと早く言えてたらなー。


「こちらは問題ない」


 聞こえてたのか厨房の方から狼頭の大将さんが料理しながら言ってきた。

 セリーちゃんは迷ってる様子だったけど首を振った。


「ううん、私たいしょーを手伝う。一杯お世話になったから忙しい時くらい手伝いたい」


 セリーちゃんが真っ直ぐな目をして言った。なんというか少し見ない間にすごく成長したような。


「うん。お祭ならまたすると思うからその時にまた誘うね」


「ありがとう、ノリャお姉ちゃん!」


 それで酒場を後にして、尻尾を振って待ってた柴助と一緒に次の場所を目指そう。

 街を歩いてたら早速顔見知り発見!


「シャムちゃーん、ムツキー」


「ノノムラ! それに犬っころ!」


「わふっ!」


「ひゃあ! 相変わらず見境ない奴です!」


 柴助がシャムちゃんにじゃれついて変な声だしてる。相変わらずのスキンシップだねー。


「ノラ、おはよう」


「おはー。そういえばムツキは初めてかな。私の家族の柴助だよー」


「へっへっ」


 するとムツキは柴助に驚くでも優しく頭を撫でてる。柴助も座って嬉しそうに尻尾を振ってる。異世界人にして手慣れてる。


「ムツキは怖くないの?」


「害のない魔物を無闇に殺したらダメだから魔物に触れる練習もする」


 そうなんだ。でも柴助は魔物でもないし害もないから大丈夫だね。


「そうそう。2人は5日後って予定空いてるー?」


「何かあるでやがるです?」


「うん。実は私の町でお祭があるから2人も是非来て欲しいなぁって思って。美味しい屋台とか色々あるんだよ」


「ノノムラの国の!? うぅ、めっちゃ気になるでやがるです! でもその日は仕事一杯入れてしまったです!」


「私もその日は合宿訓練があったと思う」


 わおー。これまたタイミングが悪い。でもいつも皆の予定が空いてる方が稀だよね。仕方ない。


「急に言ってごめんね。お土産買ってくるから」


「気にしなくていいでやがるです。ノノムラに気を使われるほど残念なんて思ってねーです!」


 シャムちゃんが涙声で言ってる。うん、これはお土産沢山買ってあげよう。


「ノラにはいつも楽しませてもらってるから気にしないで」


「うん、それじゃあね」


 手を振って別れて次の目的地へ。それで噴水広場に来るとそこには綺麗な歌声が聞こえてくる。


「~♪~♪」


 この声はミツェさんだね。丁度歌が終わった所みたいで集まってた人から拍手と投げ銭もらってる。相変わらず目は瞑ってるみたいだけど。


 ちょっとして人集りが減ってから近く寄ってみる。


「片翼の~天使だよ~」


 私の声を聞いたらミツェさんは目を開けて優しく微笑んでくれた。いつ見ても美人さんだね。


「5つの日を跨いで~私の故郷で~賑やかなお祭~歌姫さんも~一緒に踊ろ~」


「優しきノラ~私は罪な女~日が傾く時~私はこの街に縛られる~」


 ありゃ、この様子だとミツェさんもその日は用事があるみたい。でもそれよりも。


「初めて名前で呼んでくれたよね、ありがとう。ミツェさん」


 それでハグするとミツェさんは顔を赤くして優しく返してくれた。

 一緒に行けないのは残念だけどミツェさんの心が開いてくれてるのが何より嬉しい。


 ミツェさんは顔を赤くしたまま投げ銭してもらった籠の中の小銭を回収してる。殆どは銅貨だけど時々銀貨や金貨も混じってる。果樹園でも働いてるしミツェさんも勤勉だなぁ。


「ミツェさんはこれを本業にしないの?」


「は、恥ずかしい、から」


 歌ってる時は普通に思うけどミツェさんからしたら歌うのは話すのと同じだから?

 時々歌うのはミツェさんなりのストレス発散なのかも。


「また一緒に歌おうね」


「はい。また」


 ミツェさんとも手を振り合って別れを告げる。んー、この様子だと誰も来れないかも。

 よく考えたら異世界の人達って私の年くらいでも働いてる人ばかりだし、そう考えたら義務教育って結構すごいのかもしれない。


 せっかく最高のサプライズになると思ったになー。柴助は私の気持ちも知らずに楽しそうに異世界の通りを先先と歩いて行くし。


 とりあえずあの街角にある植物が壁に這いずってる店に入る。


「おめでとうございます! ノラ様!!!」


 入った瞬間に名指しで祝われたよ。多分、前半はレティちゃんの癖だろうけど。


「こんにちは、レティちゃん。5日後に私の町でお祭があるんだけど一緒にどうかな?」


「わ、私とですか!?」


「うん。忙しかったら無理強いはしないよ」


 するとレティちゃんは何か小言を呟いてからすごい勢いで店を出て行った。窓から外を見たら向かいのフランちゃんのお店に駆け込んでる。


 なにが起こったんだろう?


「とりあえず付いていこっか」


「わんっ!」


 店を出て柴助を外で待機させてから、私も洋服店に入った。


 カランカラン。


「フラン! 外国に着ていくお洒落な服を特注で用意してください!」


「えぇ……?」


 レティちゃんがカウンターに身を乗せそうな勢いでフランちゃんに言ってる。


「あ、ノノムラさん。いらっしゃいませ」


「おはよー。フランちゃん、5日後って空いてる? 一緒に私の町のお祭に行きたいんだけど」


 そこでフランちゃんが納得して手をポンって叩いてた。


「大丈夫だよー。ノノムラさんの国の服とか気になるから!」


 目をキラキラさせて言ってくる。最近忘れてたけどフランちゃんは知らない服に興味深々になるんだった。


「もうレティ。そうならそう言ってよ」


「だって外国ですよ! しかもノラ様の! 無様な格好でいけないじゃないですか!」


「ラフな格好で大丈夫だよー」


 私なんて学校の制服でこっちに来ること多いし。でもこの様子なら2人はオッケーなんだね。ちょっと安心したかも。


「こっちが大変なら無理しなくて大丈夫だよ。お祭は今回限りじゃないから」


「大丈夫だよ。それにこんないい機会を逃せないよ!」


「はいっ! 一日お店を空けたくらい売り上げはスライムの涙です!」


 レティちゃんとフランちゃんが意気投合して「だよね!」って笑ってる。流石仲良し。

 でもスライムって泣くの?


「ありがとー。当日になったらまた来るからよろしくねー」


「はい! 心からお待ちしてますっ!」


 店を出てからも中から2人のわいわいした声がする。喜んでくれたら誘った甲斐もあったかな。


「後は……」


 柴助を連れて残る友人のいる魔術学園に行った。柴助を連れてるから中に入るか迷う。

 でも人も多いし校門前に置いていくのもなぁ。


 おろおろしてたら門のすぐ近くで見慣れた人影が2つ見えた。おぉ、あれは。


「リリー、ノイエンさーん」


 珍しく2人が一緒に歩いてたから声を出して手を振ると気付いてくれた。


「ノノじゃん! それにシバスケも!」


「わふっ!」


 ちゃんと柴助の名前を覚えてくれたんだ、嬉しい。


「時間って大丈夫かな?」


「大丈夫大丈夫。ちょっとフェルラ先生に氷魔法の扱い方のコツを聞いてただけだから」


「魔導書をいくら読んでも分からないから実践してくれって、あたしを何だと思ってるのかねぇ」


「この学園で一番すごい魔法使い、かな?」


「ふん。随分過小評価されたもんだね。そんな奴には教えてやれないね」


「この世界で一番お強い大天才の魔法使い様!」


「何か腹立つねぇ」


 リリは頬を膨らまして文句を言いたそうにしてる。


「それでノノ。何か用があるんでしょ?」


「そうそう。5日後にお祭あるんだけど2人もどうかなって」


 夏祭りのチラシを見せるとリリもノイエンさんもマジマジと見てくれる。


「行く行く! 絶対行く! この文字、ノノの所でしょ!?」


「うん。私の地元のお祭だよー」


「そんなの行かないという選択肢がないわ! 今からでも行くわ!」


 おぉ、リリアンナお嬢様の熱意が半端ないよ。


「ノイエンさんもどうですか?」


「こんなババァも誘ってくれるのは嬉しいけどやめとくよ。若い連中の水を差すつもりはないからね」


 なんだか気を使ってくれてるみたい。


「私はノイエンさんとも一緒だと嬉しいですけど。困った時に助けてくれるおばあちゃんって感じがしますから」


「やれやれ、あんたが学園の生徒だったら今の言葉は消し飛ぶ所だったね」


 おばあちゃん呼びは不味かったかー。リリも隣で笑いそうになってるし。


「行きませんか? この前、私の世界に興味があるって話してましたから」


「本当にいいんだよ。ノラ、あんたは若い。今あんたが過ごしてる時間は、10年後に過ごす1日よりもずっと貴重だ。だからそんな時間をババァの相手に使うんじゃないよ。あたしなんかあんたの年頃の時はそれはもう派手に生きてたよ」


「ノイエンさんと過ごす時間は私にとって貴重ですけど……」


 そう言ったらノイエンさんは頭をくしゃくしゃに掻いてる。うーん?


「とにかく! あんたは優し過ぎるんだから誰彼構わず尻尾を振るんじゃないよ! どうしても気が収まらないならその祭りって奴がどんなのだったか後で聞いてやる。以上!」


 反論許さずって感じでノイエンさんが去って行っちゃう。やっぱり気を使われたように思うけど、あそこまで言われたら引き止めるのも悪いかな。


「ノノは流石ねー。あのフェルラ先生をあそこまで振り回せるのは多分あなただけよ」


「そう?」


「それにしてもお祭かー。暫く楽しみで眠れなくなりそう」


 遠足前の子供かな? 気持ちは分かるけど。


「それより魔法のことはよかったの? ノイエンさん、どこか行ったけど」


「あっ! 忘れてたぁっ! ノノ、また今度ね! シバスケも!」


「わふっ!」


 リリは慌てて走り出して、途中振り返って手を振ってくれる。あの様子のノイエンさんに何を言っても無駄だと思うけど黙っておこう。

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