53 女子高生も異世界でたこ焼きパーティをする
「たこ焼きが食いたい」
私の家で遊んでる時リンリンが急に言い出した。いつものことだけど。
「お昼食べてない?」
「いや食ったけど無性にたこ焼き食べたい時ってない?」
「夏の夜に食べると美味しいですよね」
「それな! 今は昼だけどわたしゃたこ焼きが食いたいぞ! ノラノラもコルコもそうだよな!?」
リンリンのスイッチが入っちゃったみたい。コルちゃんは苦笑しながら頷いてるし、私も特にお腹減ってないけど「食べたい」って言っておこう。
「流石は我が親友だ。話が早い。今日はタコパだ」
リンリンが謎のドヤ顔をしてる。あ、そうだ。
「ねぇねぇ。せっかくだし異世界でタコパしない? この前の生誕祭で色々ご馳走になったからそのお返しも含めて」
「それは名案ですね。ずっと無料で頂いていたので少し恐縮していたんです」
分かる。こっちの感覚だとタダで食べ物貰えるって何か変な気分だよね。
「よし! そうと決まったら早速準備していこう! 機材なら私の家にあるからそれ持って行く!」
「リンさん、念を押しておきますが向こうで電気は使えませんよ」
「分かってるって! ガスコンロの奴持って行くから」
リンリン滅茶苦茶張り切ってるなぁ。これは私もやる気を見せないと。
「そうだ。先に下地とか作っておいてすぐに焼けるようにしておかない?」
向こうに着いたらバタバタして落ち着いて料理も出来ないだろうし。
「それがいいと思います。具材はタッパに小分けしておいて向こうで取り出しやすいようにするのがいいでしょうね。後は人も多いですし量が必要ですよね。わたしが買出しに行ってきますよ」
「ありがとー。お金部屋から持って来るね」
「私は家から戻ってから払うよ。今財布ないし」
いい感じにタコパ計画が進んでる。何だか楽しくなってきたかも。
~2時間後~
「下地はこれくらいで大丈夫かな?」
おでんに使う鍋一杯にたこ焼きの下地の元が入ってる。ほぼ満タンだから持つのも一苦労だよ。
「タコに葱に紅生姜、鰹節と青海苔、ソースとマヨネーズがあれば大丈夫でしょうか」
「これを忘れちゃいかんよ!」
そう言ってリンリンが柚子とポン酢を見せ付けてくる。
「普通のたこ焼きも勿論美味いけどせっかくだしちょっと変わった味も実食して欲しいじゃん?」
「私柚子ポン大好きー」
柚子の香りとポン酢の酸味がいいアクセントになるよね。
そんな感じで大量の材料を鞄に入れて機材と屋台みたいにする台やポールもバラして準備する。流石に1人だと持ちきれない量だけど皆で分担して持ったらぎりぎりいけそう。
「じゃあ行こっか」
そう言ったものの向こうに行けるかは運試し。それまで庭の縁側で休むことにする。瑠璃が興味深そうに私の頭に乗ってる。君もタコパに参加したいんだねー。食いしん坊さんめ。
それから少しして視界が変わった。いつもの異世界の街並み。
「よし。とりあえずどこで作る?」
「大通りだと通行人の邪魔になりますし、店の周りですと営業妨害にもなりそうですね……」
確かに。お金取るつもりないから間違っても酒場の前なんかでしたら狼大将さんに燃やされちゃう。
「だったら店の通りの向こうの噴水広場でしない? あそこだったら人目もあるし、周りに店もないからピッタリだと思う」
ミツェさんもあそこで歌を披露してたから多分屋台をしても大丈夫だよね?
「そうと決まったら早く行こう。これ結構重いわ」
リンリンがポールとか担いでで足が震えてる。かくいう私も下地の鍋を持ってるから結構両手が震えてる。
早足で移動してたけど、周囲の人達の視線が結構こっちを見てる。うん、傍から見たら大きなリュックや鉄の棒に鍋を持った女の子が慌てて歩いてるから不思議だよね。
「よし着いた! まずは台を準備するか」
リンリンがリュックを下ろして中から分解してある台のパーツを手際よく繋いでる。まるで職人さんみたいでちょっと格好いい。
屋台が完成したら早速たこ焼き作り!
「誰が作る?」
「皆で分担して作るというのは?」
「私たこ焼きひっくり返す役やりたい!」
リンリンが目をキラキラさせて即答してくる。もしかしてたこ焼き食べるのよりそれがしたかったのかな?
「ではわたしが穴に下地を埋めていきますからノラさんは葱や生姜をまぶしてもらって構いませんか?」
「おっけー」
「ぴー?」
瑠璃は自分はって感じで鳴いて来た。手伝いを自主的にしてくれるなんて成長したねー。
「じゃあ皆呼んできてもらってもいい? 色んな人に声をかけてくれると嬉しいな」
「ぴ!」
瑠璃が小さい手で敬礼してから飛んで言った。どこでそんな挨拶を覚えたんだろう?
ぼうっとしてたらコルちゃんがもうコンロに火をつけてる。ここからは時間との戦いだから気が抜けないね。頑張ろう。
~10分後~
私達のタコパに興味深そうに見に来る大勢の人が既に周囲に集まって来てる。やっぱりたこ焼きはこっちで珍しいのかな?
「ノノムラ! これは一体何事でやがるですか!」
「す、すっごい人の集まりだよ」
「すごく良い匂いがしますっ!」
最初に来たのは異世界モフモフ組のシャムちゃんにフランちゃんにレティちゃんだね。
丁度たこ焼きがいい具合に焼けた所だったからリンリンが受けの紙皿にたこ焼きを乗せて行ってくれる。最後に青海苔と鰹節をまぶしてソースとマヨネーズをかけたら完成。
別の皿には柚子ポン味も用意してあげよう。それで爪楊枝を刺したら完成。
3人分できたからそれを持って行ってあげる。
「この前生誕祭で一杯ご馳走になったから今日は私の国にあるたこ焼きをご馳走するよ~」
「なんでやがるですか! めちゃくちゃ美味そうなのです!」
シャムちゃんが目を輝かせてマジマジと見てる。
「中が熱々だからフーフーして食べてねー」
「ありがとう、ノノムラさん」
「僭越ながら頂きますっ!」
3人が仲良く爪楊枝を持ち上げて同時にたこ焼きを口に入れた。あ、これ不味いんじゃ。
「~~~っ!!」
「あひゅ! あひゅい!」
「はふいれふけど、おいひぃでしゅ!」
皆たこ焼きの熱さにやられてる。たこ焼きあるあるだけどね。それでハフハフしながら何とか飲み込んでた。
「うめーですっ! こんなうめーの食べたことないでやがるですっ!」
「この辺だと珍しい味付けかも……。この白いソースも不思議な味」
「それはマヨネーズって言って私の国だとメジャーな調味料だよ。こっちのスラースに近いかも」
「ほえー」
お気に召してくれたみたいで3人仲良くゆっくり食べてくれる。よかった、たこ焼きはこっちでも大丈夫みたいだね。
「ノノー!」
「……すごい人だかり」
次に来てくれたのは魔法使いのリリと騎士のムツキ。ちらっと屋台を見たら私がフランちゃん達と雑談してる間にもう次が出来上がりそうになってる。
「コルちゃん多忙押し付けてごめんー」
「こっちは大丈夫ですよ」
「ノラノラは皆の相手してやりなって。ノラノラは皆のアイドルなんだからな」
リンリンがたこ焼きを皿に乗せて茶化してくる。そんなのじゃないのにー。
「リリー、ムツキー。出来立てのたこ焼きどうぞー」
「なになに? ノノの手料理?」
「私の国にある食べ物だよー。リンリンとコルちゃんに手伝ってもらって、皆に食べてもらう企画だよー」
「相変わらず聖人ねー」
「うん。聖女様」
もー2人もリンリンみたいに言う。でもたこ焼きの爪楊枝を手にとって口に運んだら目をキラキラさせてくれた。
「おいしっ! 何これ! すご!」
「ふわふわで熱くて味付けも知らない味」
「よね? 美味し過ぎてこれ何個でも行けそう」
「うん。軽く100個はいけそう」
「いや100個は……あなたならやりかねないわ」
リリもムツキも気に入ってくれたみたいでよかった。自分の国の料理をこうして異国の人が美味しいって言ってくれるのってすごく嬉しい。
「ノノ、ありがとう。いつも悪いわね。色々してもらって」
「……もらってばかり」
「寧ろ私の方がいつもお世話になってるよー。2人がいなかったら魔物も倒せないもん」
私だけだったらこの異世界で歩くのも大変だったと思うし、こうして仲良くしてくれる人には本当に感謝しても足りない。
リリとムツキは何かジーンとして今にもハグしてきそうな勢いだけどたこ焼き持ってたから流石にしてこなかった。
「ノリャお姉ちゃーん!」
次に来てくれたのはセリーちゃんの所の酒場のご一行さん。鴉頭の店員さんと狼頭の大将さん。
「セリーちゃん、それに鴉さんと狼さんもいらっしゃいませ」
「何か作ってるカァ?」
「私の国にあるたこ焼きって食べ物です。是非皆さんに食べて欲しいです」
それで3人分の紙皿を持っていって渡す。
「中が熱いのでよく息を吹きかけて食べてください」
忠告したけど鴉さんも狼さんも勢いよく口に放り込んでる。大丈夫かなぁ。
と思ったけど普通に飲み込んでた。これは上級者。
セリーちゃんは必死にフーフーして食べてる。可愛い。
「美味い」
狼頭の大将さんが静かに親指を立ててくれる。鴉頭の店員さんも驚いて翼をバサバサさせてくれてる。よかった。
「すごく美味しい! こんな料理もあるんだー!」
遅れてセリーちゃんの満面の笑みの感想。なごむー。
「うん。私の国の調味料を使ってるよ」
「全部ノリャお姉ちゃんの国の食べ物!?」
「そうだよー。中の具も海にいるタコって生物の足だよー」
「すごーい! ノリャお姉ちゃんありがとー!」
セリーちゃんの眩しい笑顔を見れたらそれだけ企画した甲斐もあったよ。
そうこうしてると人の数も増えて来てる。それでリガーを売ってる鳥頭の店長さんとトカゲ頭の人も来てくれてる。瑠璃の仕事振りすごい。
「なんかやってるみたいだけど俺も来てよかったのか?」
鳥頭の店長さんが翼の手で頭を掻いて申し訳なさそうに言ってる。
「勿論です。いつもリガー売ってもらってお世話になってますから」
「本当に嬢ちゃんは上客だな、ありがとう」
「勉強熱心で接待上手とはお前さんがトカゲ種なら告白してる所だったよ。はっはっは!」
どっちもたこ焼きを頬張って美味しそうに食べてくれる。うんうん、いい感じいい感じ。
いい雰囲気になってると人混みの向こうで海が割れたみたいに皆がサッと横に道を退いた。
何事?
「やれやれ。あんたの周りはいつも騒がしいねぇ、ノラ」
「ノイエンさん!」
学園長兼院長のノイエンさんも来てくれた! きっと忙しいのに無理して時間を作ってくれたんだろうね。リンリンからたこ焼きを乗せた紙皿を受け取ってそれを渡す。ノイエンさんは興味深そうにそれを見てる。
「私の国のたこ焼きって食べ物です。ノイエンさんにもお世話になってますから是非食べてください。熱いからなるべく冷まして食べてください」
そう言ったんだけどノイエンさんは爪楊枝を軽く動かしてたこ焼きを口の中に投げ入れた。しかも全然熱そうにしてない。ここまでで一番の上級者かもしれない。
「ふん、うまいじゃないか。素材も味も全部知らない味だ。長く生きて色んな飯も食ったつもりだったが、まだまだ未知があるんだねぇ」
ノイエンさんが素直に褒めてくれる。これはすごく嬉しいかも。
「こっちは柚子ポン酢で味付けしてあるから持ち帰ってゆっくり食べてください。今も忙しいですよね?」
「ガキがいらぬ心配するんじゃないよ。こっちもイケルじゃないか。ノラ、ありがとうね。こんな年になってもまた新しいを経験できるとは思ってなかったよ」
「いえ。気に入ってくれたら私も嬉しいです」
ノイエンさんはちょっとだけ口元を緩めて私の頭をぽんぽんと叩いてからその場を後にしていった。今日は機嫌がいい日だったのかな? すごく丸かった気がする。
「ノラー。もう渡していってもいいかー?」
リンリンが遠くから聞いてくる。集まって来た人が美味しそうな匂いにもう敗北寸前みたい。もう顔見知りに全員渡った?
「待ってー! 後2つ頂戴ー。それで大丈夫だからー!」
「おっけー!」
たこ焼きの紙皿を受け取って人集りを避けていく。あの柱の隙間に見えたのは間違いなく大切な私の親友。
「ミツェさん、来てくれたんだね。嬉しい」
「は、はい」
盲目の歌姫さんは人集りから離れて遠くから見てたみたい。
「私の故郷の味~受け取って~」
「ありがとう~優しい私の片翼~」
「お味はいかが~」
「とっても~おいしいわ~」
ミツェさんがにこにこしながら食べてくれる。ミツェさん、大分明るくなった気がする。
これは普通に喋ってくれる日も近いかも?
「ぴー!」
瑠璃が仕事を終えて私の所に戻って来た。
「瑠璃、お疲れ様。これ食べていいよー」
「ぴーぴー!」
瑠璃は爪楊枝も使わずに素手でたこ焼きを口に放り込んでる。あー、そんな食べ方するからソースで手汚れてる。後でお手拭もらわないと。
「ミツェさん、ゆっくり食べててね。私は皆の手伝いしてくるから」
「はい。行って、くだ、さい」
手を振り合ってその場を後にして地獄の戦場となってる屋台に戻って来る。そこではリンリンとコルちゃんがひーひー言いながらたこ焼き作ってる。行列が既に店の通りの先まで行ってるけど材料持つかなぁ?
でも皆の笑顔を見れたからもう大成功って言っていいよね。
「ノラノラー! 見守ってないで手伝ってくれー!」
「追加の材料用意してくださいー!」
うーん。これは大変な1日になりそう。でもそれも含めていい思い出になるよね、きっと。




