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50 女子高生も異世界でダイエットをする

 ミー美の散歩の為に異世界にやってきた。私も休み続きで運動不足気味だったし、食べ過ぎだし、食べ過ぎだし……。何となくお腹を触ってみる。太って、ないよね?

 生誕祭で色々ご馳走になったけど多分大丈夫、だいじょ……。

 うん、今日は遠くまで散歩しよう。


 瑠璃は私の気も知らずにミー美の背中に乗って寛いでる。瑠璃は大食いなのに全然太ってる気がしない。ずるい。


 ミー美を連れて街中を歩いてるけど最近は全然驚かれない。この前、鳥頭の店長さんやフランちゃんが言ってくれたのもあるし、危険がないって分かってくれたのかな?


「あ、ノラ」


「おー、ムツキー。おはよー」


「おはよう」


 相変わらずクールでスタイルのいいムツキさん。思わず身体のラインをマジマジと見ちゃう。無駄な脂肪がなさそうだし、鍛えてるだろうに腕もそんなに太くないし羨ましい。


「な、なに?」


「ムツキってスタイルいいよね」


「そ、そう?」


「うん。実は最近太ったかなーって思って」


「ノラは太ってないよ」


「ありがとう。この前生誕祭で一杯食べたからそれが来た気がして」


 そういえばムツキは大食いにも参加してたのに全然太ってる気がしない。寧ろ私より痩せてる気がしてきた。うーん、このままだと体重計に乗れないよ……。


「ムツキー、どうしたらそんなに痩せられるのー」


「ん、普通に運動して身体動かしてたら、としか……」


 やっぱりそうだよねー。ムツキは一杯身体動かしてそうだし。


「ムツキ、今日は暇?」


「え? う、うん、暇だけど」


「よかったら私を鍛えてくれない? ふにふにを直したいの。それにミー美の散歩にも連れていきたいから、ムツキが一緒だと嬉しいな」


 魔物とか出て来てもムツキがいると安心するし。


「分かった。それじゃあ準備があるから西の門で待ってて」


「おっけー」


 ムツキと分かれて私は早速そっちに向かって歩いて行く。それで門前の所に誰かがジャージみたいな格好でぴょんぴょんしてる。オレンジ色の髪をポニテにしてて可愛い耳とキツネの尻尾が見えた。


「フランちゃん?」


「ノ、ノノムラさん!?」


 声をかけるとフランちゃんが大袈裟に驚いて飛び跳ねてた。


「散歩にでも出かけるの?」


「え、えーっと。何か急に走りたい気分になって」


 何かすごい目が泳いでるけど気のせい?


「もしかしてダイエットしてる?」


「ぴゃあ!?」


 図星なのかフランちゃんは変な声をあげて周囲の注目を集めてた。顔を赤くしてて耳が垂れてる。可愛い。


「実は私もダイエットしようと思ってたの。ムツキが来てくれるから一緒に走らない?」


「え? ノノムラさんも?」


「うん。生誕祭で食べ過ぎて太った気がして」


 するとフランちゃんが私の胸に涙ながら飛び込んで来た。およ、どうしたのかな。


「ですよね、ですよね!? 皆あんなに食べてたのにどうして太ってないの!? 私だけ住んでる世界が変わったって思ってたよ!」


 フランちゃんが私の両手を握ってまるで救世主かのように目をキラキラさせてくる。これは余程追い詰められてたんだろうねー。


「フランちゃんも結構食べた感じ?」


「いつも生誕祭の日は食べ過ぎるから食べる品数は決めてるんだよ。あの日もそれを守ってたんだけど……」


「だったら大丈夫なんじゃない?」


 するとフランちゃんはがっくりと項垂れて暗い表情になる。あれ?


「私の所、料理出してたでしょ? それで前日までレティとシャムと一緒に料理してたんだけど、良いのが出来るまで色々試行錯誤してて、それで味見や試食が重なって……」


 それは辛い。フランちゃんの所の料理は本当に美味しかったけど、やっぱり影でなみなみならぬ努力と汗を流してたんだね。


「でもそれだとフランちゃんだけが太るっておかしくない?」


「うぅ。あの2人は裏切ったんだよ。シャムは仕事で身体を動かしてるからって言って体重変わってなかったみたいだし、レティに至っては私太らない体質なんですーって言ったんだよ!」


 それは辛過ぎる。きっとレティちゃんに悪気はなかったんだろうけど、その言葉は乙女に効くよ。


「じゃあ今日は一緒に頑張って痩せようね」


「うぅっ! ノノムラさんだけが私の味方だよっ!」


 フランちゃんは既にフルマラソンを完走したみたいに号泣してるよ。まだ始まってもないんだけどなぁ。


「おまたせ」


「ムツキー、今日はフランちゃんも……って、ムツキ?」


 ムツキの方を見ると服装は制服にズボンなんだけど、何か全身に剣やら盾やら弓とか武器を沢山持ってて背中には大きなリュックも背負ってる。出頭兵?


「ムツキ。徴収令でも出されたの?」


「あ、いや。前にノラを守れなかったから今回は万全にしようと思って」


 只のジョギングだけで全身武装……。でもムツキなりの思いやりだろうし何も言えない。


「そんなに持ってたら重くない? 大丈夫?」


「それは平気。まだ3個くらい武器持っても走れる」


 わおー。これは強者の発言だね。なら安心。


「え、えっと。今日は宜しくお願いします!」


「うん、こちらこそ」


 軽い挨拶をしてるだけなのに傍から見たら全身武装した騎士が狐の子を従えてるようにしか見えないよ。


「ノラ?」


「ううん。それじゃあ行く?」


「待って。その前にちゃんとストレッチ。急に身体を激しく動かしたら怪我するから」


 そういえば準備運動してなかった。フランちゃんも忘れてたのか、「あっ」って声出してる。

 流石は騎士様。基本をちゃんと徹底してるね。ムツキがいてくれて本当によかった。


 5分くらいでストレッチを済ませてそれで皆で仲良く走り始めた。私もフランちゃんもすごくスローだったけどムツキは並走してくれてる。ミー美に至っては歩く速度と私の走りとほぼ同じだし。


「ミー美。遠くまでいかなかったら走って来ていいよ?」


「ミー」


 それでもミー美は私達の隣を歩いてくれてる。応援してくれてるのかな。それなら頑張らないと。逆に瑠璃が飛んで行ってはしゃいでる。


「自分のペースでゆっくりでいいから。長く走るのが大事」


 ムツキは呼吸も乱さすに言ってくれる。正直、私はもう結構疲れて来たんだけど。

 隣を見たらフランちゃんも同じような感じ。これが運動不足の弊害かー。


「フランちゃん、一緒ならきっと大丈夫。頑張ろう」


「は、はい。私もノノムラさんと一緒に頑張りまひゅ」


 フランちゃんは舌を噛んだのか涙目になってる。これは厳しい戦いになりそう。


 ~20分経過~


「2人共、大丈夫?」


 ムツキは全然余裕そうに並走してる。あんなに重そうな物背負ってるのにすご過ぎるよ。


「まだ何とか……」


 自分のペースで走ってるから余力はほんの少しだけある。でも、もう走ってるのか歩いてるのか分からない。ミー美と瑠璃が走ったりして遊んでるのが癒しになってる。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」


 フランちゃんはもうフラフラしてて今にも倒れそう。


「フランちゃん、大丈夫?」


「いけ、いけま」


 そう言った矢先、フランちゃんが何かに躓いて転びそうになった。でもそれよりも早くムツキが動いて華麗に身体を支えた。


「あ、ありがとう」


「休憩にしよう」


「さんせーい」


 ムツキのお許しが出たので草原の上に倒れて見た。こっちの雑草はいがいと柔らかくて気持ちい。正直私も足が重い。


「ノラ、これ」


「んー?」


「水分補給。それと軽い食べ物。ダイエットも大事だけど無理するのが一番駄目」


 ムツキがリュックからボトルを出して私とフランちゃんに渡してくれた。それに可愛いバスケットまで出してそこにはいい匂いがするサンドイッチが詰められてる。


「わぁ、これムツキが作ったの?」


「うん。口に合ったらいいけど」


 そういえば1人暮らししてるって言ってたなぁ。


「でもあの一瞬でよく用意できたね?」


 私とフランちゃんが雑談してる間に全部準備したんだよね?


「騎士はいついかなる時にもすぐに動けないといけない。真夜中に魔物が街に襲ってくるかもしれないからすぐに食べれる物は常にいくつか用意してある」


 そこまで徹底してるなんてムツキは本当に立派だよ。同じ学生とは思えない。きっとそれだけムツキにとって騎士というのが憧れで成りたい自分なんだろうね。


「ありがとう。じゃあもらうね」


「うん。フラウスも」


「ありがとう。頂きます」


 サンドイッチを頬張ると野菜のシャキシャキ感と口の中に甘酸っぱい汁が広がる。あ、これリガーかな。


「美味しい。こんなの普通に作れるってすごいよ。スタイルもいいし、ムツキは私の憧れだよ」


「私はノラに憧れるけど」


「そうなの?」


 私は憧れられるほど何も特技もないし頭もよくないけど。


「うん。ノラの人柄を見てるとね、私もあなたみたいになりたいって時々思う」


「あ、それ分かるかも。ノノムラさんって誰に対しても親密というか親身になってくれるよね」


 面と向かってそういうのを言われるとちょっと恥ずかしい。


「ありがとう。2人の理想の女になる為に頑張って痩せるよ」


 多分今日だけで痩せられないだろうけど、今の言葉だけでポッキー1箱くらいは我慢できる。


「よし。じゃあ休憩が終わったらこのまま帰ろうか」


「忘れてたぁ! 帰りも走らないとダメ?」


 フランちゃんが涙目になって訴える。


「ダメだよ」


 ムツキが爽やかな笑顔で言ってくる。あ、これムツキはお嫁さんになったら旦那さんを尻に敷くタイプだ。

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