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47 女子高生も異世界で雪を見る

「柴助ー、ミー美ー散歩だよー」


 毎日が休みだから朝の日課の散歩に行こうと庭に出た。すごい日射が照り付けて眩しいし暑い! テレビで日中の最高気温が35度近くまで行くって聞いたけど、その情報だけで既に溶けそう。朝だからまだマシだけどそれでも30度近くはあると思う。


 そのせいか、いつもなら真っ先に駆けつけてくる柴助も今日は日陰で横になってる。向かいの塀の前ではミー美も座って休んでる。たぬ坊とこん子は床下の所で丸くなってる。

 猫丸も廊下で倒れてた。皆暑さに参ってるねー。


「ぴー!」


 そんな中、屋根の方から瑠璃が元気に飛んで来た。おぉ、暑さをものともしてない。さすがドラゴン。


 とりあえず桶に水を入れて皆に飲ませる。熱中症には注意しないとね。

 水を飲んだら柴助とミー美が重い腰をあげてくれた。よしよし、いい子だねー。

 リードを繋いで早速庭を出て行った。瑠璃も相変わらず付いてくるみたい。


 歩道を歩いてると畑の方では農家さんが朝からせっせと働いてる。こんなに暑い日に外仕事は過酷そう。心の中でエールを送っておこう。

 気候がよくなったせいか、至る所に女郎蜘蛛を見かける。見た目がちょっと怖い黄色い蜘蛛さん。普通の所で巣を張るのはいいんだけどガードレールの下とか微妙な所にいたりするとびっくりする。


 歩道を歩いていると前の方から小学生くらいの男の子2人が虫取り網と籠を持って歩いてるのが見えた。


「うぉっ! すっげー!」


「かっけー!」


 男の子達はミー美と瑠璃に興味津々になってる。せっかくだから近くに行ってあげよう。


「触りたい?」


「いいの!?」


「いいよー。優しくしてあげてねー」


 すると男の子達は網と籠を置いてミー美をモフモフしては瑠璃を抱っこしてる。暇そうにしてる柴助が私が撫でてあげよう。相変わらず尻尾を振り回してるねー。


 それから少しして満足してくれたみたいで網と籠を拾い上げてた。


「ねえちゃんありがとー!」


「ばいばい」


 男の子達は楽しそうに走って行った。元気だなー。


 そんな調子で散歩をしていたら急に視界が変わって異世界の街並みになってた。最近はそこまで驚かなくなってきた。柴助も訓練されたのか平気そう。ミー美だけは急な人にちょっとびっくりしてる。瑠璃は相変わらず元気に飛んでる。


「んー、なんか寒い?」


 さっきまで灼熱の所にいたせいなのかな。いやでもこれは寒い。かなり寒いよ、うん。肌がひんやりしてきた。いつにも増して寒い気がする。

 何となく街の人達を見ると皆が長袖を着たりマントでくるまってたりしてる。


 半袖なのは私だけ。なんか浮いてる。


「んー? あれ、これって雪?」


 今気付いたけど空から白い粉が降ってる。でもすごく透明で地面に付く前に消えてる。


「おー、嬢ちゃんじゃねーか」


 声がして振り返ったら鳥頭の店長さんがいた。店の通りだったみたい。


「こんにちは。今日は寒いですね」


「ああ。この時期は雪蛙が川に流されてやってくる頃だからな」


「雪蛙です?」


「そうだ。雪蛙は魔物の一種で名前の通り雪を降らす力を持つと言われてる」


 へー、こっちの蛙は雨じゃなくて雪を降らすんだね。


「一匹では大した魔力を持ってないが、数が揃うと天候にも影響を及ぼすんだ。丁度街の外で流されてると思うから見てきたらどうだ?」


「はい。教えてくれてありがとうございます」


「いいってもんよ。リガーもついでにどうだ?」


 そういえばストックがなくなりそうだった。巾着を取って金貨1枚分のリガーを受け取る。相変わらず袋一杯に詰めてくれてサービスしてくれた。

 瑠璃が欲しそうに見てくるから1つあげると嬉しそうに食べた。


「あ、ノノじゃん!」


 街の外へ向かって歩いてると後ろの方からリリの声がして振り返る。


「リリおはよー」


「おはよ。ノノも雪蛙を見に行くの?」


「うん。さっきお店の人が教えてくれたから行ってみようと思って」


「奇遇ね。じゃあ私と行こ」


「いいよー」


 リリも一緒に来て街の門を抜けて外に出た。その向こうには多くの人が集まってる。


「デコデコデコデコ。デッデッデッ」


 奇妙な声も聞こえると思うと人だかりの先を見ると川が真っ白になってて氷が流されてる。

 でもよく見たら氷と思ってたのはどうにも動いてて目も付いてた。おぉ、あれが雪蛙かー。

 ウシガエルを真っ白にした感じかな。川の色と相まってすごく綺麗。そして寒い。


 私が肌を擦ってるとリリが黙ってマントを脱いで羽織ってくれる。


「リリ、ありがとう」


「雪蛙なんて想定できないから仕方ないよね」


 リリは優しいなー。


 川の周辺では特に雪が多く降ってるけど、どれも途中で消えてる。というか空を見上げたら何もない空間から降ってるような?


「カエルさんが雪を降らしてるんだよね?」


「そうね。山から流れて来る雪蛙は多くの魔力を宿してるからそれを放出する為に雪を降らせてるって習ったわ」


 ほうほう。そういえば山の水には多くの魔力が含まれてるんだっけ。


「そっかー。これだと雪は積もらないね」


「お日様も出てるしね」


「真夏に雪合戦したかったなー」


 こっちは寒いけど日本の暑さに比べたら全然天国。日中はこっちで過ごしたいくらい。

 柴助とミー美も居心地がいいのかその場に座って寛いでる。瑠璃はちょっと寒そうにして私にくっついてる。


「ゆ、雪合戦? せ、戦争でもするの?」


 リリが驚いて後ずさってる。雪が積もらないから雪合戦というのもないのかー。


「雪を丸めて相手にぶつける遊びだよ。子供に大人気」


「ノノの国の子供は物騒過ぎない?」


 なんか私のイメージより変な想像されてる気がする。


「それにしても一杯いるねー。やっぱり皆海に行くの?」


「また山に帰るのよ。それで体内に魔力を取り戻すのね」


「んー? この川って海に流れてるんじゃないの?」


「一部はそうだけど大半は山に繋がってるよ?」


「そうなの? 下流に行くから上に戻れなくない?」


「自然の風魔力が水を山に戻すって聞いたわ。垂直に舞い上がってるのは中々壮観よ」


 滝の逆バージョンってこと? それはそれですごく見てみたい。


「雪蛙も一説では気候バランスを中和する為とも言われてるわ。暑くなり過ぎないように温度を下げてるんだって」


「ほえー。自然の神秘だねー」


「ま、本当かは分からないけどね」


 リリがおかしそうに笑って言ってる。


 異世界には私の知らないことがまだまだ沢山あるみたい。これからも一杯知れるといいな。とりあえずこの風景は動画にとってリンリンとコルちゃんに自慢しよう。

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