46 女子高生も歌を送る
今日もコルちゃんとリンリン、瑠璃を連れて異世界に来た。ヒカリさんがバイトで来れないのが残念。
異世界の街はお祭が終わっていつもの日常に戻ってた。建物の飾りやアーチが所々に残ってて余韻があるのはいいと思う。
「それで今日は何をするつもり?」
リンリンが聞いて来る。
「特に考えてないなぁ」
適当に街をブラブラ歩いてるだけ。
「おや、あれは」
コルちゃんが指差すと噴水広場に人が集まってる。目的もなかったから皆で行ってみると綺麗なハープの音色が聞こえてくる。なんだか聞き覚えある。
顔を出してみると噴水の前のベンチにピンク髪の綺麗なお姉さんがハープを引いてた。コロンコロンって心地よい音が出てる。お祭に来てた歌姫さんだ。今日は弾き語りじゃないんだね。
少し黙って聞いてたけどすぐに演奏が終わっちゃった。ありゃタイミングが悪かったかな。
パチパチって拍手が送られると歌姫さんの前に銀貨や銅貨が置かれていく。投げ銭ってやつかな。
歌姫さんは相変わらず目を瞑ったままで横に置いてあったボトルに手を伸ばして水を飲んでる。
「すっごい美人さんだな」
「お祭で綺麗な音色を聞きましたが顔までは見れませんでした」
すごく混んでたからね。そういう意味では私は運が良かったのかな?
歌姫さんは少しジッとしてたけど薄く目を開けた。それで丁度目が合ったから手を振ったんだけどすぐに閉じられた。悲しい。
何か手で顔を覆って蹲ったけど大丈夫かなぁ。
「あの人大丈夫なん?」
「なんだか苦しそうにしてますが」
私の友人も同じ感想みたい。だから仲良く歌姫さんの元に行った。歌姫さんは私達が近付くとビクッと震えてる。足音で分かったのかなぁ。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけたけど変事がない。代わりに魔法線で文字を書いてくれるけどさっぱり読めない。
「私の声を覚えてます? 昨日歌った人です」
リンリンとコルちゃんが首を傾げてたけど気にしない。歌姫さんは蹲ったまま顔をコクコクしてくれた。よかった、記憶にはあるみたい。
「昨日は結局自己紹介も出来ずに終わったので改めて会えて嬉しいです。よかったら名前を教えてくれませんか? 私は野々村野良だよ」
歌姫さんはボソッと何かを呟いたけど小さ過ぎて聞き取れない。
「えっとごめんなさい。もう1度お願いしてもいいですか?」
すると歌姫さんは魔法線で書いてくれる。でも読めない。歌姫さんも分かってるのか文字を途中でクシャクシャにしてた。それで唐突に顔を上げて立ち上がる。でも目は瞑ったまま。昨日は開けてくれたんだけどなぁ。
「演目。『飛べない天使』」
急に歌姫さんが真面目な声で言った。それと同時に歌が始まる。
「空から見える地上は美しくて~天使は地上に憧れて~1人飛び立って~遠い遠い地平線を歩き続けた~」
これは前と同じで歌で会話するのかな? でも内容的に違う気がする。演目って言ったから曲を披露する?
「天使は人の世を知らなくて~無知をさらけ出して~誰もが不思議に思って指差した~気付いた時は~天使は心を閉ざしてしまった~」
……これってもしかして歌姫さん自身の歌?
「人は綺麗な翼と褒めてくれるけど~本当の私を誰も知らない~いつしか天使は空を飛べなくなった~空の青さも地平線の夕日も忘れた~」
どうして目を瞑って歌うようになったのかを言ってるのかな……。
「あなたと私は違う存在~だから~きっと~あなたも~あなたも~……」
そこで歌姫さんの歌が終わっちゃう。それは曲を終えてやめたというよりその先が詰まって言えなくなったのだと思う。あなたって私?
歌姫さんは歌を続けようと口を開けたけど、また閉じてベンチに座っちゃう。
歌姫さんの言いたいこと、それは私と歌姫さんが違う存在だから同じになれないって言いたいのかもしれない。昨日はお祭ムードもあったから勢いで話が出来たけど1日経った今本当の気持ちを教えてくれたのかな……。
もしも、歌姫さんを救う方法があるなら。
瑠璃の方を見ると黙って飛んで行ってくれる。さすがは私の相棒。意図を理解してくれたのかな。一度深呼吸する。歌姫さんが歌ってくれたなら、私がすべきことも歌を返すことだと思う。
だから。
学校の合唱曲で習ったあの曲を歌った。コルちゃんとリンリンも私に続いて歌ってくれる。ありがとう。
歌姫さんは俯いたまま黙って聞いてくれている。
「私の国だとこの歌を子供の頃に歌うの。それで優しさの大切さを教えてくれるんだよ」
少ししてから丁度タイミングをよくしてあちこちからこっちの友人が駆けつけてくれるのが見えた。やっぱり瑠璃は偉い。
「天使さんは変じゃないから。飛べないって言うなら飛べるようになるまで協力するから。空の青さを忘れたって言うなら皆で見に行こうよ。それで皆で歌って笑って楽しい一時を過ごすの」
歌姫さんは顔を上げて目を開けてくれた。2度目の瞳はとても潤んでて大粒の涙を流してた。周りの人達全員を見てもまた目を閉ざすこともなくて。
「とっ、て、も、素敵、そう」
泣きながらそう言ってくれた。
「もう一度歌姫さんの名前教えてくれますか?」
「ミッツェル、シー、シー」
「すごく素敵な名前。私は野々村野良。これで私達は大親友だよ~」
異世界の人を見習ってハグをしてあげたらミツェさんも返してくれた。目は閉じてなくて私を見てくれてる。
「よーし、それじゃあこれから歌いに行く人はこの指に集まれ~」
そう言ったら見事に全員が来てくれる。おぉ、まさか店番のあるレティちゃんやフランちゃん、それにシャムちゃんまで!
「私もいきたーい! 大将に許可もらってくる~!」
セリーちゃんも大慌てで走って行った。リリとムツキも何も言わずに来てくれそう。
勿論、コルちゃんもリンリンも一緒。
「全くノラノラは本当にお人好しだな」
「それがノラさんの良い所ですよ」
離れてリンリンとコルちゃんが話してる。全部聞こえてるんだけど。
「でもそういう性格だったから私とも友達になってくれたのよね」
「うん。これがノラだと思う」
何だかリリとムツキも混じって感慨にふけってるよ。まぁいいや。
「ミツェさん。辛い時、悲しい時はあると思うけどそれでも皆と一緒に楽しい時間を過ごせたらきっと、きっと、ええっと何ていうのかな」
「おーい。そこはビシッと決めろよ~」
リンリンが野次を飛ばして来る。もー私に語彙力を求めないでよー。
「ふ、ふふ」
「ほらーリンリンのせいで笑われたー。責任とってよー」
「私のせいか」
そんな調子でセリーちゃんも戻って来て私の胸に飛び込んでくる。
「歌うの好きだから楽しみ!」
「そっかー。じゃあ私の分もお願いー」
「ノリャお姉ちゃんも一緒に歌うの!」
セリーちゃんが腕を引っ張ってくる。これは聞き専に回れないかー。
「ミツェさんも一緒に歌おう。この前のデュエットすごく良かったから」
「わ、私で……よければ」
そう言ってくれたら手を引かずに入られないよね。それじゃあ楽しいカラオケ大会にご招待~。
歌詞掲載がなろうの規約に違反していたので内容の一部を変更しました。
ちなみに歌っていたのは合唱曲の『Believe』です。




