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43 女子高生も生誕祭を堪能する(朝)

 お泊り会が過ぎた翌朝。ヒカリさんがどうしても異世界に行きたいってなったから早朝から散歩に出かけてる。コルちゃんとリンリンが私の手を握って、ヒカリさんが肩に手を置いて瑠璃が頭に乗ってる。嬉しいけどちょっと窮屈。それに傍から見たらすごくシュールな光景だと思う。


「こんなので本当に大丈夫なの?」


 ヒカリさんが後ろから言ってくる。その疑問も普通だと思う。でも幸いなことにその直後に視界が一変した。一瞬暗くなったと思ったら賑やかで騒がしい街中へと飛ばされた。


「人多っ!」


 リンリンが来て早々見た感想を言ってる。確かに人の通れる隙間がちょっとあるくらいで通りはどこも人の山で溢れてる。


「今日は生誕祭って聞いたよ。外からも人が沢山来るんだって」


「なるほど。街並みも豪華になってますね」


 通りには蔦や花で飾ったアーチがいくつもある。建物と建物の間にポールで繋いで大きな旗が垂れてる。普通の建物も色の付いた文字で彩られて、カラフルな植物で溢れてる。


「ほ、ほほほ……」


 ヒカリさんが貴婦人みたいな笑い声を出してる。大丈夫?


「本当に異世界があった!」


 そう言ってカメラでパシャパシャ連射してる。うん、大丈夫だった。


「おぉ、何かどこからも良い匂いがするな」


「生誕祭は色んな人が料理を振舞うんだって。どれも無料でもらえるって言ってたよ」


「無料!?」


 リンリンが面食らって驚いてる。現代人の感覚だと絶対にありえないよね。


「随分と詳しいですね」


「うん。この前ムツキに聞いたんだー」


 聞いておいて良かった。もし今日が本番だったら驚きの連続で気持ちに整理が出来なかったと思う。


「いらっしゃいませー! 央都おうと名物の大盛り肉チャレンジ如何ですかー。1位の方は賞金10万オンスですよー!」


 声の方に目を向けるとセリーちゃんが長い看板を掲げて叫んでた。燻製の香りもするから皆で寄っていくと酒屋の前では店内の机や椅子を並べられて巨大な肉の塊が机にドンと置かれてる。大きさ的に熊まるごとクラスだと思う。

 椅子には挑戦者の人が静かに佇んでる。見るからに巨漢の男の人ばかり。そんな中に不似合いな青い髪の女の子が座ってる。ムツキだ。


「あ、ノリャお姉ちゃん! 来てくれたんだね!」


「セリーちゃん、おはよー。すごく賑わってるね」


「うん! たいしょーが毎年してる大食いチャレンジって言ってたよ!」


 酒屋の扉が開いて狼頭の大将さんと鴉頭の店員さんが手に巨大肉を持って空いてる机に置いていく。その圧巻さには観戦する人も続々増えてる。


「ノリャお姉ちゃんご一行様も挑戦する?」


 セリーちゃんが首を傾げながら尋ねてきた。チラッと視線を送るとコルちゃんもリンリンも全力で首を横に振ってる。うん、この量は厳しいよね。ヒカリさんに至ってはずっと写真撮ってる。


「そっかー。じゃあ私特製サンドをあげるね」


 セリーちゃんが看板を置いて酒屋前に置いてあった木箱を持って来てくれる。中には例の如く小さなバーガーが沢山入ってる。でも前のと違って頭に小さな旗が刺されてて可愛い。

 それに具材も肉や野菜、色んなソースが混ざって綺麗なタレが落ちてる。

 セリーちゃんが笑顔で渡してくれた。


「お姉ちゃんも食べましょう」


「え、何々! わ、美味しそー!」


 ヒカリさんが寄って来るとまずはカメラに収めてる。さり気なくセリーちゃんも撮ってた気がするけど。


「頂きまーす」


 旗を取って早速食べると口の中に重厚な肉汁と甘いソースが広がる。直後に辛味も乱入してきてそこにリガーの汁が流れ込んでくる。味が常に変わって食べてて全然飽きがこない。

 美味しい。


「今まで食べた中で一番かも」


「肉が美味い!」


「生地も柔らかくて食べやすいです」


 リンリンもコルちゃんも大絶賛してる。


「ありがとう! たいしょーがせっかくの祭だから出し惜しみなく使えって言ってくれたんだよ。商品化はお金の問題で難しいって言ってたけど!」


 普段は使わない食材を贅沢に使ってるのかな? せっかくだし味わって食べたいけど美味しくて一瞬で食べ終わっちゃう。


「それこっちもください!」


「私も!」


 早速通行人の人達も一杯寄って来てセリーちゃんがてんてこ舞いになってた。流石は色んな所から来てるだけあるかも。


「邪魔したら悪いし私達も行くね」


 セリーちゃんが手を振ってくれる。


「ムツキもバイバーイ!」


 そこで初めてムツキもこっちに気付いて驚いてた。ずっとお肉眺めてたけど気付いてなかったんだ。ムツキは軽く手を振ってくれた。


「これが異世界の料理か。興味深いわねー」


 ヒカリさんがバーガーを食べながらソースや肉をマジマジと見てる。コルちゃんもリンリンも食べ終わってるけど、すごく丁寧に食べてる。


「あそこにいるのはレティちゃん達かな?」


「おー、っぽいな」


 店の前にタープテントが張られてて幕の下にレティちゃん、フランちゃん、シャムちゃんが机に料理を並べてる。共同作業もありなんだねー。ケモミミ3人が集まると見映えもすごくいい。


 するとさっきまでのんびりしてたヒカリさんがバーガー咥えたまま一目散に走って行っちゃう。おまけにカメラを連写してる。そんな様子にレティちゃん達が驚いてて、隣に立ってるコルちゃんも溜息を吐いてた。


 私達も近付くと向こうも気付いてくれて手を挙げてくれる。


「皆様! ようこそおいでくれました!」


「いらっしゃいませ~」


 レティちゃんとフランちゃんが丁寧にお辞儀をしてくれた。シャムちゃんはレティちゃんに無理矢理頭を抑えられて下げてる。


「すばらしい! 耳に尻尾に綺麗な髪! 最高! 幸せ!」


 ヒカリさんが興奮して手が止まってない。


「おい、ノノムラ! こいつは何でやがるですか!」


 シャムちゃんが身の危険を感じてレティちゃんの背中に隠れてる。私が説明する前にコルちゃんがヒカリさんのカメラを掴んだ。


「お姉ちゃん、これ以上節操をなくすようでしたらカメラ壊しますよ?」


 コルちゃんが黒い笑みを見せて言うと、ヒカリさんがビクッとしてカメラを下ろした。

 多分コルちゃん本気で怒ってたと思う。


「皆も料理出してる感じかな?」


「はいっ! せっかくなので是非是非どうぞ!」


 レティちゃんが両手を出して召し上がれと言わんばかりに言ってくれる。

 机にはココナッツの殻を半分に切ったのがいくつも置かれて、殻の中には黄色い米粒が一杯入ってて緑や白のお肉、リガーを細切れしたのや薬草を千切って入れられてる。一見だと焼き飯に見える。

 フランちゃんが木製のスプーンをくれたので手を合わせて食べてみる。


「おぉ、もちもちしてる」


 米粒というより餅米? でも餅米よりふんわりしてる気がする。それにお肉と薬草がまた合う。


「当然でやがるです。生地を一から作って分離させたです。滅茶苦茶手間かかったです」


「もしかしてこれ全部一粒一粒手作業で?」


 そうだとした手間どころじゃないと思うけど。


「シャム、嘘はいけませんよ。全部分離魔法で一発じゃないですか」


 レティちゃんの補足にドヤ顔してたシャムちゃんの顔に冷や汗が流れてる。


「余計なこと言うなです! 手間暇かけて美味しいのを作ったと思わせるのが大事なのです!」


「調理の大部分はフランがしてましたけどね」


「ボクは分離したです! レティは何もしてないです!」


「ふっふー。実はそうでもないんですよねー」


 レティちゃんが椅子の上に置いてあった木箱の中から水色の飲み物を出してくれる。


「後味最高のハイポーションですよー」


 手渡してくれたから飲んでみる。おぉ、爽やかな味で変に癖もないしすごく飲みやすい。これはこの料理にも合うね。


「すごい。すごいわ! こんなお店があったら毎日通いたいくらい!」


 ヒカリさんが感動して大絶賛してる。その気持ちはすごく分かる。


「うん、本当に美味しい。セリーちゃんのお店で商品化して欲しいよね」


「なー。いっそライバル店で店開くのもいいかもな。見映え的にも」


「店を合併して片方を料理屋にすればよいのでは?」


 リンリンとコルちゃんが頷いてる。シャムちゃんがいれば出前も出来て最高だね。


「えぇー! 無理だよー、無理!」


 フランちゃんが冗談って思わず本気にして否定してる。可愛い。


「私の店が潰れた時は一考の余地ありですね」


「あ、冗談だったんだね」


 レティちゃんが乗っかるとフランちゃんが真顔になった。この順応力の早さ。


「全く……食べたならさっさと行くです。こっちも暇じゃねーです」


 腕を組んでシャムちゃんがそっぽを向く。ツンツンモードに入ってる。


「うん。シャムちゃんもありがとう」


「かっ、勘違いするなです! 1日限りの祭なんだから色んな所回った方が楽しいでやがるです!」


 そんなシャムちゃんを見てレティちゃんとフランちゃんがにやにやしてる。コルちゃんとリンリンも察して微笑んでる。

 シャムちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。


「だーもう! ノノムラ! こいつ持ってさっさと行けです!」


 シャムちゃんが私の手に小包を握らせてくる。透明の包みだったから中が見えてる。

 中にはちょっと不恰好なクッキーが入ってる。でも綺麗な色のソースを使ってて美味しそう。


「シャムちゃんの手作り?」


「わ、悪いですか。料理なんて普段からしないでやがるです」


「全然変じゃないよ。ありがとう、大切に食べるね」


 お礼を言うとシャムちゃんが今にも蒸発しそうな勢いで耳まで赤くなる。


「受け取ったらさっさと行けですっ!」


「うん、また後でね」


 素敵なケモミミさん達と別れて他の出店を見に回る。今日は本当に楽しい。

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