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42 女子高生もすき焼きを食べる

「まだかな~」


「もうすぐじゃね」


 リンリンと一緒に家の庭でモフモフ達の相手をしながら時間を潰してる。リンリンがフリスピーを投げると柴助と瑠璃が競争してどっちが先に取れるか勝負してる。瑠璃は飛べるけど純粋な速さは柴助には敵わない。あ、また柴助がジャンプして取った。瑠璃が怒って柴助からフリスピーを奪おうとしてる。それで柴助も地面に置いて譲ってる。ほほえま~。


 それから少しして家の前に車が停まる音が聞こえた。リンリンと仲良く外に顔を出すと白いミニバンがあってコルちゃんとヒカリさんが丁度降りた所。

 挨拶のつもりで手を挙げると2人が手を振ってくれる。


「いらっしゃ~い。野々村家にようこそ~」


「ふふ、今日もいつものノラさんで安心します」


 コルちゃんが微笑んで鞄を両手で持ってる。今日約束した勉強会の宿題だと思う。


「何だここ! 動物園か!」


 ヒカリさんが庭にいる我が家の家族を見て驚いてる。


「皆ノラノラのペットですよ」


「マジですか」


「マジマジ」


 リンリンが軽く説明してくれてマジ助かるよ~。


「猫、犬、狸、狐、スライム、ドラゴン、恐竜がいます」


 コルちゃんが教えるとヒカリさんが絶句してる。


「前半は分かる。後ろのスライム、ドラゴン、恐竜って何……?」


 その言葉を合図にしたように瑠璃がヒカリさんの目の前に飛んでいった。


「ぴー!」


「うわっ。空飛ぶトカゲ!」


「瑠璃だよ~。ドラゴンなんだよ~」


「え、本当なの?」


 ヒカリさんがコルちゃんに答え合わせするように目を向けると頷いてる。


「いやいや、ドラゴンって。というかどこから捕まえて来たの?」


「異世界」


「は? 異世界?」


 ヒカリさんが段々混乱してきてる。こんな反応も久し振りかも。最近は近所の人も慣れてきて驚かないし。というか元々驚いてなかった?


「さぁさぁ。お姉ちゃん早く入ってください」


「ちょっとー! 色々説明が足りてないってば!」


 白髪の姉妹を招いて家の中に入った。といっても庭の見える縁側の居間だから中って感じはしない。机を囲むと今日の目的でもある課題に取り組む。夏休みの基本は宿題をさっさと終わらせることってリンリンが教えてくれたからね。


「本当に勉強会とはね~。学生は大変だねぇ」


 ヒカリさんが縁側の廊下に座って庭のモフモフを眺めてる。


「お姉ちゃんも大学生でしょう。課題は出ていないのですか」


「課題なんて3日あれば十分。丸一日徹夜して20時間。それプラス2日間で10時間ずつで計40時間。完璧ね」


 それ絶対に後で後悔するパターンだと思うけど。


「お姉ちゃんには本当に呆れますよ。よくそれで大学受験受かりましたね」


「試験なんて大抵4択問題だから常に4分の1を引けば問題ないわ」


「まずはお姉ちゃんの頭を4分の1にした方が賢くなるかもしれません」


「いいの? これ以上馬鹿になったら私の理性が制御されなくなるわよ」


 なんという自虐ネタ。コルちゃんは軽く溜息を吐いて課題のプリントを出す。


「コルって普段真面目だけど、ヒカリさんのことになるとすっごい毒舌になるよな」


「好きな人ほどイジワルしたくなるみたいな?」


「それだ。つまり私らもまだ好感度ポイントが足りてないな」


 高校生になって会ったばかりだからね。幼少期から一緒の関係とはまた違うだろうし。


「ノラさんとリンさんは別ですよ。お姉ちゃんが異常なんです。一種のセクハラですよ」


「酷いわ。子供の頃は喜んでくれたのに」


「純粋で無邪気な時と今を同列にしないでください!」


 ヒカリさんはそんな怒ってるコルちゃんにすらも微笑ましい顔を見せてた。年上としての余裕なのか、コルちゃんが何をしても受け入れられる覚悟があるのかもしれない。

 でも、こうして15になっても姉妹でお出かけに来られるのは良い事だと思うし、お互い言いたい気持ちを素直に言えるって良好な関係なんだと思う。


「の、ノラさんまで微笑えまないでください!」


「ノラちゃんも私の心が分かってくれて何よりだね~」


「いやいや。ノラノラは姉というよりお母さん的な位置だぞ。皆を少し離れて見守る的な?」


 何だか色々言われてる。でも気にしない。


 早速宿題に取り掛かってペンをカリカリと動かす。ヒカリさんは庭の方でミー美と戯れて、たぬ坊やこん子とも触れ合ってる。すごい、人見知りなあの2匹を追いかけずに呼ぶとは只者じゃない。


「無理だー、疲れたー」


 リンリンが机に突っ伏して倒れる。まだ始まって5分も経ってないけど。


「そういえば、さっきノラちゃんが言ってた異世界って何なのー?」


 ヒカリさんが庭の方から声を出すと、リンリンが立ち上がって縁側に向かった。それでスマホの画面を見せてる。


「え、嘘。マジ物の異世界なの。ていうかこの子可愛い! 耳生えてる!」


「向こうだとそういう人もいるんですよ」


 私もスマホを取り出して見せてみる。


「こんな子もいるよー」


 レティちゃんを見せてみるとヒカリさんが凄く食いついた。


「ふおぉぉぉ! なにその子! めちゃキュート!」


 ヒカリさんが今にも卒倒しそうな勢いで叫んでる。そんな姉を白い目でコルちゃんが見てた。


「異世界すごい! 私も行きたいわ! どうやって行くの?」


「ノラノラと手を繋いでたら行けます」


「はい?」


「ノラノラと手を繋いで行きます」


 リンリンが何故か2回説明してる。それでもヒカリさんが分からなそうにしてた。


「ノラさんは異世界にワープする力を持ってるんですよ」


「なんかお参りしてたら行けるようになったんだよ~」


 ヒカリさんは驚いてたけど、それ以上にスマホの画面に注視してる。それで何かを決心したように靴を脱いで私の方に寄ってきて肩を掴んできた。


「私も異世界に連れて行って! それでその白髪の美少女と会わせて!」


 ヒカリさんが興奮して一眼レフも取り出してる。これって浮気現場なんじゃ。コルちゃんをチラッと見ると何も見てない振りして宿題に取り組んでる。


「神様の気まぐれなので行けるか分かりませんけど」


 それに今日は勉強会が第一だし、あんまりうつつを抜かしてもいけないと思うし。

 するとヒカリさんが畳みの上に突っ伏した。余程ショックだったのかな。

 そしたら急にヒカリさんが真顔になって起き上がる。


「お泊り会ね」


「はい?」


「神の気まぐれでも1日そばに居たらいつかは起こるでしょ? だったら泊まり込みするしかないわ!」


 ガッツポーズして叫んでる。まさかの提案だよ。


「おー、泊まりかぁ。面白そうだな」


 リンリンも乗り気。そんな所で襖が開けられてお母さんがトレーにオレンジジュースとクッキーを持ってくれた。すごく嬉しい。


「あら、こんにちは。皆勉強頑張ってるわね」


 もう既に遊びムードだけど。


「野良。今日はお父さんの所へ行って来るけど帰りが遅くなるかもしれないわ」


「そうなの?」


「家の外装が剥がれて善春さんが手伝いに行くの。それで私も向こうの家事を手伝うつもりだから」


 それは大変だ。お祖父ちゃんの家は山の中で1人暮らしだし何かあると大変。

 でもこれって渡りに船?


「それなら泊まってきてもいいよ? 実は皆でお泊り会しようって話をしてたから」


「あら、そうなの? でも何かあったら大丈夫?」


 お母さんの言葉にヒカリさんが手を挙げた。


「私が車も運転できますので任せてください」


 すごい真面目な顔でキリッとしてる。うん、普通にしてたら本当に優等生に見えるね。

 コルちゃんは何か言いたそうにしてるけど黙ってる。


「そう? だったらお願いしようかしら。明日になったら帰ってくるからそれまでお願いするわね」


「分かった~」



 ~夕方~



 お母さんとお父さんが居ない台所。その代わりに集まってるのは幼馴染と白髪の姉妹。

 机の上にスーパーの袋がドドンと置かれてる。ヒカリさんが暇だからって言って買出しに行ってくれた。ただ何を買ってくるかまでは聞いてない。


「今日はすき焼きよ」


 立って腕を組んで言った。確かに袋の中には牛肉や豆腐、白菜や椎茸が見えてる。


「お姉ちゃん。今は夏ですよ?」


 コルちゃんの冷ややかな眼差しを見せてる。日は沈んでるけど気温はまだ暑いくらい。

 ヒカリさんは指摘されて大袈裟に後ずさってる。


「う……だって皆で楽しく食べれる料理なんて限られてるじゃない。それに私はすき焼きが食べたい気分だったわ!」


「んー、いいんじゃないかな。私は好きだよー」


 すき焼きって意外と食べないし、それこそ特別な日に食べる料理ってイメージある。だったら皆でお泊りする今日にはピッタリだと思う。


 するとヒカリさんが私の両手を取ってきた。


「ノラちゃん。私の妹にならない?」


 養子? そうなるとコルちゃんとも姉妹かぁ。


「お姉ちゃんは浮気し過ぎです」


「大丈夫。一番はコルだから!」


 そう言ってハグしにいってる。こうして見るとヒカリさんって大人というより先輩ってイメージが強いなぁ。


「うおっ。この牛肉高っ!」


 リンリンが驚いたから私も見てみる。確かに高い。100g1000円って初めて見た。


「ふふん! せっかくのすき焼きなんだから奮発しました!」


 ヒカリさんが親指を立ててる。本当に良いお姉ちゃんだよ。


「お姉ちゃん、そんなに散財して大丈夫なんですか?」


 コルちゃんが心配そうに聞いてる。確かに大学生ってお金かかりそう。


「大丈夫大丈夫。大学生なんて勉強してるかバイトしてるかのどっちかよ」


 妙に説得力ある言い方。この前も水着奢ってくれたし間違ってない気もしてくる。


「じゃあ今のヒカリさんはどっち?」


「勉強ね。愛する我が3人の妹の教育よ」


「サラッと私も入ってるのか」


 そんな雑談を交えながら、すき焼きを作り始める。せっかくだから台所じゃなくて縁側の居間でカセットコンロで作ることになった。材料は先に切ったから後は調理するだけ。


「妹達はそこで見てなさい。お姉ちゃんに任せなさい」


 ヒカリさんが言うと鍋に牛脂を入れて肉を焼き始めた。焼き過ぎないようにサッと焼いて取り出して、そこから椎茸を炒めて、白菜、豆腐、榎と追加していく。そこに醤油、砂糖、お酒で作った割り下を入れて、更に糸こん、ネギ、牛肉、春菊と追加して蓋をする。すごく手際がいい。


「卵いる人ー!」


 ヒカリさんの言葉に皆仲良く手をあげる。これにはヒカリさんもニッコリ。すき焼きに卵はかかせないよね。お椀や小鉢も一緒に持ってきてくれて机に並べてくれた。


「ヒカリさんって普段から料理作ってるんです?」


 なんとなく聞いてみる。


「これでも1人暮らしだからねー。外食は高いし、お弁当の値段も馬鹿にならないからこういう所で節約してたら自然とね」


 それは素直に尊敬できるよ。私なんて白菜切るだけでもすごく時間がかかったのに。

 ヒカリさんはプロみたいにサーッとしちゃうから本当にすごい。


「コルちゃん。やっぱり私養子になろうかなぁ」


 可愛がってくれて面倒見もよくて遊びにも連れて行ってくれるって姉として最高じゃない?


「ふっふー。ノラちゃんは私の魅力に気付いたようね。毎日被写体にしてあげるね!」


「口を開くと馬鹿になるのが玉に瑕ですよ、本当」


 コルちゃんが憂鬱そうに軽く溜息を吐く。そうしてる間にも鍋から良い匂いがしてくる。この匂い大好き。


「あー、ご飯ってある?」


 リンリンが言った。


「締めにうどんするから炊いてないけど」


「マジかー。私はご飯と一緒に食べたい派なんだよなぁ」


「佐藤のでよかったらあるよ?」


「悪い。もらっていいかな」


「いいよー。コルちゃんは?」


「わたしは大丈夫です」


 こっちはレンジでチンするだけだから私でもできる。えっへん。

 用意ができるとヒカリさんが蓋を取った。湯気がふわっと上がってぐつぐつと良い感じに色が付いてる。


 皆で仲良く手を合わせて「頂きます」って揃った。


 最初に食べるのは榎って決めてる。迷わず取って卵でコーディングしてから口に運ぶ。うん、このプチプチ感好き。


「ぴー!」


 匂いに釣られて瑠璃が庭から飛んできた。お肉を取って卵を付けてからあげると嬉しそうに鳴いて部屋の中を飛びまわってる。私も食べてみよう。

 おぉ、味が染みてて美味しい。柔らかいし、噛む前に喉を通っちゃう。


 不意にパシャッて音がして目を向ける。そこにカメラを構えたヒカリさんが笑顔でこっちを見てる。


「いやー、妹達が可愛いからつい」


 と笑いながら言う。むー撮るなら教えてよー。よしお返しにスマホで撮っちゃえ。

 瞬時にパシャッてあげると急にヒカリさんの顔が赤くなる。それで執拗に髪を整え始めた。


「ちょ、ちょっと! 撮るなら言ってよ。髪乱れてない? 表情変じゃない?」


 すごく照れてる。もしかして撮るのは好きだけど撮られるのは苦手な方? モデルのスカウト断ったって話してたけどこれが理由なのかな。


「まー何だ。誰にでも弱点ってあるんだな」


「お姉ちゃんは弱点だらけですよ。そこがいいんですけどね」


 コルちゃんからの不意打ちの言葉でヒカリさんは益々顔を赤くしてる。

 うん、やっぱりお姉ちゃんになって欲しいかもしれない。

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