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40 女子高生も異世界で猫を追いかける

「野良ー、掃除機かけるから猫丸外に連れて行ってー」


「はーい」


 お母さんに言われて廊下で横になってる猫丸を抱えて玄関でサンダルを履いて庭に出た。

 猫丸はやる気なさそうに欠伸をしてる。そのまま下ろそうと思ったけど何か視界が切り替わって、芝生から石の道になってる。あ、異世界だ。


 ザワザワといつもの喧騒な人の声が聞こえる。すると猫丸が急に暴れだして私の手から離れて走る。


「猫丸ー!」


 私の声に反応せずに路地の方へ行っちゃう。うぅ、猫丸は人見知りだから急な異世界にびっくりしたのかも。抱っこしてたら逃げられずにすんだのにー。


 急いで路地に顔を覗かせた。すると猫丸は器用に石の突起に乗り移って屋根の方に上っていく。普段動かないのにこういう時だけ積極的になるのやめてー。


「猫丸、戻ってー」


「ナーン」


 私の声には反応してくれたけど足は止まってくれない。どうしよう、瑠璃もいないしこのままだと異世界の街に迷子になるよ。というか猫丸を魔物と勘違いして退治されちゃうかも。大変だよ!


 猫丸は屋根に上ってそのままどこかに歩いて行く。このまま闇雲に追いかけても私の運動能力だと追いつけない。


「ここは助けを求めよう」


 路地を後にして出店の並ぶ通りへと来る。私は蔦で覆われた道具屋の扉を開けた。


「レティちゃん、いるー?」


「ノラ様! いらっしゃいませ!」


 いつものテンションでレティちゃんがカウンターから飛び出してきてくれた。

 猫には猫の獣人さんに助けを求めるのが正解、のはず。


「レティちゃん助けてー。家族の猫丸が脱走したのー」


「なんと!」


「これくらいの大きさで瑠璃に翼がない感じなの。レティちゃんに似た耳と尻尾があるんだけど動きが早くて」


 頭を下げてお願いするとレティちゃんが手を引いてすぐに動き出してくれた。


「急いで探しに行きましょう! 場所はどちらですか?」


「あっち」


 指を差すとレティちゃんが早歩きで向かってくれる。こんなすぐに動いてくれるなんて思ってなかったけど、すごく助かるよ。


「屋根に逃げたんだけど……」


 路地の方に来て建物の屋根を見るけど下からだと殆ど見えない。どの建造物も高いってのもあるけど。もうどこかに隠れたかもしれない。


 レティちゃんが困った様子で顎に指を当てる。


「そうです。お師匠様ならすぐに見つけられると思います! 頼みにいきましょう!」


 ノイエンさんかぁ。学園長だから色んな魔法を使えるし手掛かりを得られるかも。さすがはレティちゃんだね。


 私とレティちゃんは急いで魔術学園に向かった。思えば街から歩いて学園に行くのは何気に初めてかも。学園は出店の通りの先にある噴水広場を抜けて、天球塔のあるオフィス街みたいな所から西に進んだ街中にあった。


 外観は暗い茶色のレンガで造られた高い建造物だった。日本の学校と違って屋上の方に円錐の塔が点在してるのが特徴だった。それに外壁に蔦や枝が混じって自然を感じる雰囲気。


 校門からの入り口がガーデンアーチになっていて、緑のトンネルを潜るみたいになってて凄いお洒落。せっかくだからスマホで写真を撮っておこう。

 今度リンリンとコルちゃんにも見せよう。


「もっと無機物な所だと思ってたよ」


「魔法は自然との調和が基本ですからね。というかまるで初めて来たような反応です」


 アーチの中を抜けながらレティちゃんが話す。マントを羽織った生徒と何度もすれ違っていく。


「うん、初めてー。レティちゃんと来れて嬉しい」


「あれ、ノラ様は学園に来ていた覚えがありますが……。こ、これはボケなのでしょうか。私には解読が……。ノラ様! 私を思い切り叩いてください! そうしたら分かるかもしれません!」


 レティちゃんが頭を突き出してきて叫んでる。そういえば転移の話してなかったなー。

 優しくその頭を撫でてあげる。うん、やっぱりモフモフしてて気持ちいい。


「この包容力、この優しさ。はっ、分かりました! 神様になりきるボケだったんですね!」


 全然違うけどレティちゃんが可愛いからいいや。


 アーチの道はそのまま学園の玄関に繋がってて中に入れた。こっちは靴に履き替える必要がないからそのまま廊下になってる。そういえばサンダルのままだから、ちょっと恥ずかしい。


 廊下は相変わらず薄暗いけど、でもほんのり壁が光ってる気がする。魔法かな。


 レティちゃんに付いて廊下を歩いては階段をあがっていく。途中通り過ぎて行く教室の中から爆発がしたり、窓が激しく揺れてたりする。魔法の勉強、なのかな。


 廊下には時々プランターがあって緑もある。偶に根っこみたいな植物がプランターから抜け出して歩いてるけど大丈夫なのかな。


 それでとにかく階段をあがっていた気がする。うん、正直疲れてきた。

 長い道のりの果てに塔のある階まで来てた。そこまで来ると生徒は殆どいなかった。なるほど、学園長だから最上階の塔にいるんだね。


 廊下を歩いてる途中に立派な白髭のサンタさんとすれ違う。あ、途中から授業受けた時の先生だ。確か魔力なしってことで同情してくれたんだよね。


「おや、君達。職員に用かね?」


「はい。おししょ……フェルラ学園長はご滞在でしょうか」


 レティちゃんが途中で言葉を変えて尋ねる。サンタさんは長い髭を触りながら答える。


「学園長ならついさっき用事があるといって街の外に出て行ってしまったよ」


「えぇ!?」


「何か急用だったかね?」


「い、いえ。すみません」


 レティちゃんが頭を下げるとサンタさんが穏やかに微笑んで立ち去って行く。


「すみません、ノラ様。ここまで来て無駄足になってしまいました」


 レティちゃんがシュンと落ち込んで俯いてる。街の外ってなると帰って来るのは遅くなりそう。


「レティちゃんは悪くないよ。それにここなら街を一望できるし見つけられないかな」


 ガラス張りのない四角い空洞から外に目を向ける。かなり高い所だから街の屋根を見渡せる。でもこの広大な街から小さな猫を探すのは骨が折れそう。


 そんな時、隣で身を乗り出してレティちゃんが指を差した。


「もしやあれですか!?」


 その指先を追って視線を向ける。石の建物がいくつもあって1つずつ注意深く眺めていると確かに小さな生物が動いてるのが見えた。よくあれを見つけられたなぁ。

 やっぱり動物だから視力がいいのかな?


「レティちゃんお手柄だね。あれが猫丸だよ」


 レティちゃんが恥ずかしそうに頭を掻く。

 問題はここからどうやってあの屋根まで移動するかなんだけど。学園から出て建物をあがってる時には別の所に行ってそう。

 私が悩んでるとレティちゃんが壁をよじ登って空洞から出ようとする。


「レティちゃん、危ないよ!」


「大丈夫です! これでも猫族ですのでこれくらい平気です!」


 そう言って飛び出したから慌てて私も顔を出した。でも私の心配を他所にレティちゃんは壁の突起を足場にして器用に下りて行く。なんて身軽さ。


 ピョンピョン飛んでまっすぐ伸びてる支柱の壁を蹴って別の建物の屋根に下りた。うん、なんというかこっちの人達は訓練され過ぎじゃない?


 レティちゃんが屋根の間を飛んでは猫丸のいる建物まであっさり到着する。それで猫丸を捕まえて手を振ってくれてた。おぉ、さすがだ。


 それで学校を後にして街の通りでレティちゃんと合流した。猫丸はレティちゃんの手の中で丸まって寝てる。うーん、このお騒がせさんめー。


「レティちゃんありがとう。おかで助かったよ」


「いえいえ。それにしても不思議な魔物ですね。なんだか見ていて安心感があります」


「私の所の猫って言ったら大体そんな感じだよ」


「なるほど……。随分と小さいのですね」


 こっちだと大きいの? まいっか。その話はまた今度聞こう。


「本当にありがとう。せっかくだしお店にお邪魔してもいいかな?」


「はい! わたしはいつでも大歓迎です!」


 それで猫丸を話のネタにしながらレティちゃんと楽しい一時を過ごした。

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