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39 女子高生も海へ行く

「海に行こう」


 家に遊びに来てるリンリンが口にした。猫丸にねこじゃらしで構ってる無反応。代わりに瑠璃が飛んで来てチョロチョロしてる。瑠璃が動く度に尻尾がリンリンの顔に当たってるけど無表情。強い。


「いいね~。電車で行く?」


「だな。コルコも誘ってみる」


 リンリンがねこじゃらしを置いてスマホを手に取った。


「お、コルコも来るってよ~」


「わーい」


 そうと決まったら早速準備しないとね。そう思ったらリンリンが「あ」って声を出す。


「なんかコルコのお姉さんが送迎してくれるって」


「コルちゃんってお姉ちゃんいたんだ」


「1時間くらいでこっちに来るってよ」


「分かった~」


「よし、私も家帰って準備してくる」


 リンリンが出て行ったから私も準備をする。すごく楽しみ。


 ~1時間後~


 リンリンが戻って来てモフモフと戯れてたら時間はあっという間に過ぎていく。それから家の前に白のミニバンが停車した。助手席の窓が開くとコルちゃんが顔を見せた。


「お待たせしました。どうぞ乗ってください」


 そう言われるとドアが勝手に開いた。おぉ、初めて見たよ。

 私は家のモフモフ達に手を振って別れる。今日は瑠璃もお留守番。他の人に見られたら驚かれるからね。瑠璃は不服そうにしてたけど、何とか納得してくれた。


 それから私とリンリンが仲良く乗るとドアが閉まった。運転席にはすごく美人な人が乗ってる。白い髪が長くてサラサラ。橙色のサングラスをしていて、タンクトップにシャツという夏らしいお洒落な格好をしている。一目で大人な雰囲気がしてるよ。


 お姉さんが振り返ってサングラスを頭に被せて静かな笑みを見せてくれる。


(ひかり)よ。今日は宜しく」


 すごく爽やかな人だ。正直パッと見ただけだとモデルさんにすら映るよ。ていうかモデルさん?


「野良です」


「燐です」


 何か緊張して真似して名前しか言えなかった。リンリンも続いて何か芸人みたい。するとヒカリさんが口元に手を置いて笑ってる。


「コント?」


 このチャンスを逃さない為にリンリンの肩を掴んだ。


「リンリン、ネタ振って。漫才のチャンスだよ」


「んな、無茶振りな」


 リンリンに軽く頭叩かれる。その様子も笑われてる。


「もうお姉ちゃん、早く出してください」


「はいはい」


 車が動き出して道路を走っていく。赤信号に捕まって止まるとヒカリさんが話す。


「それでヒカリさんってやっぱモデルなんです?」


 リンリンがズバッと聞いてくれた。それは私も気になってた所。


「嬉しいこと言ってくれるね。でも残念。モデルじゃないんだなー」


「えぇ! めっちゃ綺麗なのに!」


「撮られるより撮る方が好きだからねー」


 へー、何か意外。今気付いたけど首から一眼レフのカメラ提げてる。もしかして本職さん?


「お姉ちゃん! 普通でって言ったじゃないですか!」


「なによ~。お姉ちゃんがいないと悪い男が寄って来るかもでしょ」


「お姉ちゃんがいると余計目立ちます」


「美人は辛いわ」


 何かこんな態度のコルちゃんを見るのは凄く新鮮。姉妹だから気を許せるんだろうね~。


「お姉ちゃん。今日はほんとーに、何事もないようにお願いしますよ!」


「コルは心配性ねー。そんな心配しなくても安全運転よー」


「運転の話ではなくてですね」


 何か2人のやり取り見てると微笑ましいというか、羨ましいなぁ。

 幼馴染とはまた違った感覚なんだろうね。


 そんな調子で車が走り続けて海沿いまで来た。海水浴場近くの駐車場は一杯で家族連れが多い。どこも考えてるのは一緒なんだねー。ヒカリさんが華麗にバックで車を停めると荷物を持っていざ出発!


「海に来るのは子供時以来だから楽しみ~。海って何があるんだろ~?」


「先輩の私が答えてあげよう」


 リンリンが得意気に笑って寄ってくる。


「海にはな」


「うん」


「海がある!」


「ほえー、すごい」


 リンリンの渾身のドヤ顔を隣でヒカリさんがすごく笑いを堪えてる、気がする。

 それで道路を渡ると防波堤があって、その向こうには透明で青緑色の大海原が広がっていた。白く肌色の砂浜には大勢の人達で賑わっている。雲1つない快晴だから皆も来てるんだねー。


「さぁ海よ、海! あがってきたわー!」


 ヒカリさんが拳を突き上げてノリノリだ。


「本当お姉ちゃんは調子がいいです」


「コルちゃんは海によく来るの?」


「お姉ちゃんに半ば無理矢理にです」


 確かにヒカリさんはアウトドアなイメージがあるなぁ。でも、どちらかと言うとコルちゃんが目的な気がしなくもないけど。


 サンダルで砂浜に足を踏み入れるとフカフカのクッションみたいだけど、砂利が爪先に入ってくすぐったい。水着も下に着てるからこのまま脱いでも問題なし。でもヒカリさんが荷物を置いてパラソルを設置し出す。


「先に日焼け対策しときなよー。紫外線は乙女の天敵ぞー」


 そうだった。パラソルの陰に入って服を脱いで水着姿になる。派手なのはちょっと自信なかったからフリルタイプ。コルちゃんはワンピースタイプで、リンリンはビキニ。あれ、ヒカリさんは着替えてない?


「ヒカリさん水着着てないの?」


「私の目的はこっちだからね」


 ヒカリさんはビーチチェアを用意してそこに座って、それでカメラを構えてはパシャパシャ撮り出した。


「いい。すごくいいわ! 流石は我が妹ね」


「お姉ちゃん。通報しますよ?」


「何で!?」


 ヒカリさんが涙目になってコルちゃんに懇願してる。何かギャップがすごい。それでカメラがこっちに向いたけどすかさずコルちゃんがガードする。


「常識を考えてください!」


「目の前に女の体があって撮らない方が失礼よ!」


「わたし達はグラビアじゃないんです!」


「なによー。別にSNSにアップもしないしいいでしょー」


「そういう問題ではありません!」


 ここまで感情を出してるコルちゃんも新鮮かも。普段とのギャップがすごい。


「お姉ちゃんの馬鹿。もう嫌いです」


「き、嫌い……? 嘘だと言ってよ、コルー」


「嘘じゃないです。デリカシーのないお姉ちゃんは嫌いです」


 コルちゃんがツンツンになってヒカリさんがその場に崩れちゃう。なんというか修羅場になってきた。


「だからお姉ちゃんを連れて来たくなかったんです……」


「でも良いお姉ちゃんだと思うよ」


「そうそう。仲悪いより仲良い方が全然いいって!」


「そうですね。突然お風呂に乱入してきたり、一緒に寝ようと言ってきたり、寝顔を撮ったりする良いお姉ちゃんです」


 駄目だ、コルちゃんの目が完全に死んでるよ。


「まぁまぁ。ヒカリさんも悪気がないみたいだし、コルちゃんも大目に見てあげたら? 私は気にしてないよ」


「最初は驚いたけど、こうやって送迎もしてくれてるしな」


「う。それを言われると辛いですね。もうお姉ちゃん、いつまで落ち込んでるんですか。あんなの冗談じゃないですか」


 コルちゃんに言われてヒカリさんの目に光が戻った。なんというかさっきまでの大人びた印象が一気に変わっていくよ。


 それから日焼け止めのクリームをリンリンと仲良く塗る。コルちゃんの方にはヒカリさんが行こうとしてたけど、普通に拒否されてた。

 それで私がコルちゃんの背中を塗ってあげる。その様子を後ろからパシャパシャされてる気がするけどコルちゃんは何も言わなかった。


「海に来たらまず何をしたらいいのかな?」


 日焼け止めも塗り終わって聞いてみる。


「そりゃあ海だろう!」


「海ですね」


 海だねぇ。それでパラソルから出たけど砂浜が熱い! お日様も熱い! リンリンが一目散で海に飛び込んだから私とコルちゃんも続いた。


「つめたーい」


 足が海に浸かるとひんやりして凄く気持ちいい。


「うりゃあ!」


 リンリンが水をかけてくる。ちょっとー、心の準備がまだなのにー。

 コルちゃんが私を盾にして後ろに隠れてるよー。こうなったら2人の手を引っ張って海にドボーン。


「え、ちょっ!」


「ひゃっ!」


 バシャァァン。


 綺麗に水飛沫が飛び上がったね。仲良く3人で海にプカプカ浮かんで太陽に向かって笑った。このままボウッとして海に流され続けていたい。


「ねーリンリン知ってるー?」


「おー?」


「海の中の石にはね、願いを叶えてくれる石があるんだよー」


「マジか! ちょっと探してくる!」


 リンリンが本気にしてダイビングした。んー、これは冗談って言えないパターンだ。


「コルちゃん。海の豆知識ってあるー?」


 プカプカ流されながらながら聞いてみる。


「ありますよ。ノラさん、実は海はですね」


「うん」


「飲むと凄くしょっぱいんです!」


 コルちゃんが自信満々に言った。


「コルちゃん、最近リンリンに似てきたよね」


 主にボケ方が。


「あ、あれ? もっと受けると思ったのですが……。申し訳ありません! わたしも魔法の石を探してきます!」


 コルちゃんが恥ずかしそうにダイビングした。2人共若いなー。私には泳ぐ体力もないよ。

 このまま無人島まで流されたい。


 そう思ってたら波打ちの揺れで顔に思い切り海水がかかった。うん、コルちゃんの言う通り凄くしょっぱい。


 立ち上がってパラソルの方を見るとヒカリさんが何やら食べてるのが目に入る。

 気になって歩いて行った。ヒカリさんはサングラスしたまま可愛いプラスチックの容器のジュースを片手にビーチチェアで寛いでる。なんというか熟練者感ある。


「お、ノラか。色々買ってきたけど何か食べる?」


 指差した先にはたこ焼きや焼きそばと色々置いてある。この一瞬で買出しに行くって凄い俊足じゃない?


「えっと。じゃあ飲み物貰ってもいいです」


「オッケー」


 そう言って中身が青いジュースを手渡してくれる。


「……スライムジュース?」


「スライム?」


 ついあっちの癖で口に出しちゃった。最近青イコールスライム系の食べ物という固定観念になってきてる。危ない危ない。

 ストローで中身を吸うと甘いブルーハワイの味だ。


「ありがとうね」


「んー?」


 急にヒカリさんにお礼を言われる。私なにか大層なことしたっけ。それとも高度なボケ?


「コルと友達になってくれて」


 ヒカリさんが素潜りして顔を出すコルちゃんとリンリンを見ながら話す。2人は目的の石が手に入らなかったのかまた潜っていった。


「私らはこんな見た目だから、子供の時から周りと浮いてたっていうかさ。近寄って来る人は皆見た目ばっかり言ってくるしさ。それにコルって真面目でしょ? だから周りと距離置いてる所あったから」


 ヒカリさんが水平線をぼんやり眺めながらジュースを飲む。


「私はそんな真面目系は受けないぞーって言ったけど中々聞いてくれなくてね。高校生活もちょっと心配してたけど、でも良い友達に巡り合えたみたいで本当に良かった。本当にありがとうね」


 ヒカリさんは少し涙しながら言った。友達になったのは殆ど偶然だけど、でもコルちゃんが今の性格だったから仲良くなれたのは確かだと思う。

 それを言うのはちょっと野暮かな。


「そうだ。せっかくだしライン交換しない?」


「いいよー」


 鞄からスマホを取り出して連絡先を交換する。すぐにスタンプで変な犬の宜しくスタンプ押されたから、お返しにスライムがお辞儀してるスタンプを送り返す。


「うぉーい! 海に来てスマホはないだろー!」


「魔法の石を集めて来ましたよー!」


 リンリンとコルちゃんが戻って来て手には変わった形の石や綺麗な色の石を持ってた。多分魔法の石はないだろうけど、素敵な思い出になるのは間違いない。


「ヒカリさんが色々買ってくれたから一緒に食べよー」


「すご! たこ焼き貰っていい?」


 そう言う前にすでにリンリンは取ってた。すっごい笑顔で食べてる。


「コルちゃんも食べよ」


「はい」


 私から焼きそばを受け取って陰に座った。割り箸を割る前にヒカリさんの方を向いて頭を下げた。


「お姉ちゃん、いつもありがとうございます」


「……うん」


 色々言い合ってるけどやっぱり仲の良い姉妹だなって思う。

 スマホが鳴ったから目を落とすとヒカリさんが『妹が可愛過ぎて辛い』って送られてくる。とりあえず『私もそう思います』って返しておこう。


 すると『同志』って送られてきた。うん。ヒカリさんはコルちゃんのことになると盲目になるんだね。でも、ちょっとだけ姉になって欲しい気がするかも。

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