37 女子高生も異世界言語を学ぶ
「HRは以上。長い休みだからって気を抜かないように」
担任の先生の言葉を最後に鐘が鳴り響く。それと同時にクラスの皆がわぁわぁ騒いだ。
先生は軽く溜息を吐いてたけど教室から出て行く。
今日から夏休みだから仕方ないよね。
片付けをしてると教室を戸を開けてリンリンが手を挙げてた。今終わったばかりなのに登場が早い。
「夏休みだぞー。自由を満喫するぞー!」
リンリンはご機嫌に叫んでる。この前の期末テストも赤点回避できて補修もなくて喜んでるみたい。私も平均点は確保できてとりあえず大丈夫だった。
「ノラさんは今日の予定どうされるつもりですか?」
「うーん。勉強?」
「ノラノラ、小学生の頃最終日に宿題が終わったってドヤ顔で言って自由研究忘れてたお前はどこにいった?」
皆がいる前でその話はやめてよー。あれ以来ちゃんとチェックするようにしてるんだからー。
「課題じゃなくて異世界の勉強。リリが向こうの文字を教えてくれるって約束してくれたの。お礼にこっちの文字も教えるつもりなんだー」
「それは面白そうですね。異世界の言語はわたしも興味があります」
「じゃあ一緒に来る?」
「抜け駆けは許さないぞ。私も行く」
「じゃあレッツゴー」
そんな感じで夏休み初日は3人で異世界に出発。校門を出てお喋りしながら手を繋ぐ。
瑠璃が頭に乗ってくるのがちょっと重い。昨日のお菓子食べ過ぎだよー。
スクールバスが真横を通り過ぎて風が吹くと同時に景色が入れ替わる。
最近ではお馴染みともいえる異世界の街並み。でもこの石造建築でありながら色んな人がわいわいしてる風景は何度見ても新鮮。
「こんなに早く来れるなんてな。ってノラノラいつまで手を握ってるんだ?」
「そんなに強く握られるとちょっと恥ずかしいです」
この前のお返し。目的地に着くまで離さないからね。
と思ったんだけど、両手が塞がってるから呼子笛を取り出せない。これだとリリを呼べないよ。どうしよう。
「瑠璃。笛吹いてリリ呼んで」
「ぴー?」
うん、この鳴き方は分かってない。残念だけど、コルちゃんとリンリンの手を離すしかないよね。
パッと離してから呼子笛を吹く。すると素早く白い鳩さんが来てくれた。足のリボンを外してノートの切れ端に目印となる看板をシャーペンでデッサンしてから飛ばした。
「今のは何ですか?」
「連絡鳥だって。あれで遠くの人とやりとりするらしいよ」
「なるほど。パソコンやスマホがないのは不便ですね」
本当に文明様様だと思うよ。だからといってこっちの人達が不自由してるようには思えないけど。
雑談して待ってるとリリはすぐに来てくれた。全力でダッシュして手を振ってる。
「ノノー! 来てくれたのね!」
「うん。友達も一緒に勉強したいって言うからいいかな?」
「勿論! 私はリリアンナ・リリルよ。宜しくね!」
リリが長い金髪を捲り挙げて笑顔で挨拶する。その光景にリンリンとコルちゃんが感心してた。
「おぉ。まるでお嬢様だな」
「上品な佇まいから、高名な方だと存じ上げます」
「えっ。友人さんはエスパー?」
リリが私に寄りかかって耳打ちしてくる。金髪って何だか高貴なイメージあるからそのせいだと思う。
「私は如月燐。宜しく」
「空井琥瑠です。宜しくお願いします」
「こちらこそ。素敵な名前だわ」
3人仲良く頭を下げてこれでもう友達だね。でも何かリリの言葉に違和感あるような。
「私の時は変わった名前って言われた気がするけど」
「ち、違う! ノノは特別なの! それにあの時は授業中だったし!」
「そっかぁ。ありがとー」
特別って言われたら悪い気はしない。でもリリの顔が赤い気がするけど大丈夫かな。
「それで勉強ってどこでするんですか?」
コルちゃんが言った。
「やっぱりリリの家?」
「そうね。魔術学園でもいいけど、あそこだと自習室は私語できないし」
やっぱり学園にもそういう場所あるんだ。魔法試すスペースとかもあるのかな?
決まったら早速出発という時に綺麗な青髪の子を発見する。市場の野菜をマジマジと見ては慎重に買い物してる。ムツキだ。
「ムツキー」
私が言うと結構遠いのにムツキはすぐに気付いて振り返った。おぉ、耳がいい。
それで買い物を済ませてこっちに来る。
「ノラにリリアンナ。久し振り。それに、友人?」
ムツキがリンリンとコルちゃんを見ると2人は軽く自己紹介する。ムツキも倣って簡単に済ませた。
「ムツキは買い物?」
「うん。1人暮らしだから」
自炊かぁ。それは普通にすごい。
「これからリリの家で勉強するんだけど、ムツキもどう?」
「えっと」
ムツキは遠慮しながら皆の顔を伺ってる。皆大歓迎って感じで親指立ててた。
それを確認すると小さく頷いた。
「やったー。ムツキご招待ー」
ぎゅーってしてあげるとムツキの顔が真っ赤になる。やっぱりムツキは可愛い。
それで仲良く5人で歩いてた。こうしてると皆昔からの友人って感じがして心地良い。
「しかしまぁ、こんな美少女に囲まれてノラノラも幸せもんだねぇ」
リンリンが急に言ってくる。
「髪色の違いでしょうか。すごく綺麗ですよね」
「それ言ったらコルコもだろ。普通にこっちに馴染んでるぞ」
確かに白髪だから全然違和感ない。レティちゃんからローブ借りたら着こなしそう。
「でもノノもリンも茶色っぽい感じじゃない。変じゃないけど」
「これ染めてるだけだよー。元は黒だから」
「えっ、そうなの!?」
それを聞くとリリが私の頭を観察してくる。こっちだと髪を染めるのも珍しいのかな。
「……でも、コルの髪は白い」
「わたしは体質みたいなものでして。自国の人は黒色が普通なんですよ。海外では金髪や白髪もいますが、それ以外は珍しいですね」
「……そうなんだ」
ムツキもコルちゃんの髪をマジマジと見てる。傍から見たら身長差のせいか姉妹にも見える。雰囲気も似てるし。
「ぴー!」
頭の方で瑠璃が騒いでる。話題に入れなくて怒ってるのかな。両手で抱えて頭を撫でてあげると満足そうにしてくれる。
そんな雑談をしているとリリの屋敷に到着するのもすぐに感じられた。
門番の人や庭の湖を見ると皆が驚いてる。
「本当にお嬢様だったのか」
「本の中でしか見たことないです」
リンリンとコルちゃんが言って、ムツキも同意するようにコクコク頷いてる。
リリは恥ずかしそうに照れてる。
「えっとー。確かにそういう身分だけど、あんまり気にしないでくれると嬉しいなぁって。別に言葉遣いで捕まったりはしないから」
「リリは身分差の違いで他より浮いてたみたいだから、皆もこのままでねー」
「ちょっとノノ! それは言わないでよ!」
リリが肩を掴んで揺さぶってくる。フォローのつもりだったんだけどなぁ。
屋敷の玄関をリリが開けると相変わらず大勢のメイドさんが廊下を駆け回ってて、リリに気付くと大層にお辞儀をしてる。奥には執事のおじいさんもいた。
「今日は友達と勉強会するからよろしく」
リリが執事さんに言った。すると執事さんはハンカチを取り出して目元を拭う。
「ようやくリリアンナお嬢様にもこれだけのお友達ができて、この爺め感激でございます」
「ああもう! そういうのいいから! さっ、皆入って入って」
屋敷の中に入ると相変わらずメイドさんが荷物持ちをしてくれそうになったけど、丁重に断った。それで2階のリリの部屋まで来る。その広くてファンシーな部屋にまたまた皆が驚いてる。
「……すごい。私の家の5倍はある」
ムツキが感動してる。部屋じゃなくて家? アパートにでも住んでるのかな。
皆で机の前に移動して鞄を置くと早速椅子に腰を下ろして勉強道具を用意した。
「第1回異世界言語講座の始まり~」
「えっ、講座だったの!?」
「……初耳」
リリとムツキが新鮮な反応を見せてくれる。
「気にしなくていいよ。ノラノラって時々変なこと言うし」
「いつものノラさんです」
私の親友達は素っ気ない。でもそういう所も好きだよー。
「この講座の目的はお互いの国の言葉を勉強するのが目的だよー」
「あの、1ついいですか?」
「何かなー?」
コルちゃんが手を挙げたので聞いてみる。
「マンツーマンですと人数的に1人余る気がするのですが」
5人だから確かに足りない。でも大丈夫。家庭教師方式にする必要はない。
「授業形式にすれば問題ないよー。ムツキお願いー」
「わっ、私……?」
ムツキが自分を指差してこっちを見てくる。緊張してるのかな。確かに大勢の前で講座するって大変そう。ここは最強のアイテムが必要だね。
私は鞄の中から伊達眼鏡を取り出してムツキに渡した。
「何でそんなの持ってるし」
リンリンが冷静にツッコミをくれる。眼鏡かけると賢くなった気分になれるからだよ。
「今なら瑠璃もサポーターとして貸し出すよー」
「ぴ!」
瑠璃がムツキの肩に乗った。ムツキも眼鏡をかけて立ち上がる。想像以上に美人さんになった。
机の前に移動してペコリとお辞儀をする。大人のお姉さんだ。これは期待できる。
「で、でででは」
「うん」
「やっぱり無理……!」
ムツキが瑠璃を抱きしめてその場にしゃがみ込んじゃう。
「おーい、ノラノラー。責任とれよー」
リンリンに怒られた。私が指名したんだし、間違ってない。よし、完璧にフォローしてみせるよ。
「ムツキー。ごめんねー」
私が手を引いてあげると立ち上がってくれる。
「緊張する時はねー、こうやって2本指を立てて手を横にして目元に持ってくるといいよー」
「えっと、こう?」
「そうそう。キラキラー」
腕を組んで仲良くポーズを決めてみたよ。リンリンからやる気のない拍手を送ってくれた。
不人気アイドルは辛い。
「記念に撮っておきましょう」
「コルちゃんありがとー。キラキラー」
「キ、キラキラ……」
ムツキも乗ってくれたよ。熱心な信者さんも獲得したしこれで問題なしだね。
「もうグダグダじゃない。言語講座はどこよ?」
「リリアンナお嬢様、気にしたら負けだぞ」
「お嬢様って呼ぶなー!」
リンリンに言われて、リリが片手を突き出すとすごい突風起こしてる。ノートやペンが全部飛んでいったよ。
結局勉強は全然捗らなかったよ。




