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35 女子高生も孤児院で遊ぶ

 今日は早朝から異世界に来てる。ミー美の散歩が増えて毎日忙しくも楽しくなった。

 おかげで最近は早起きにも大分慣れてきた。辛いのは最初だけっていうのは本当なんだね。


 ミー美は目立つからなるべく裏道の山道沿いを通ってる。地元の人はともかく、徘徊に来たお巡りさんに見られると説明するのも大変。本当は家の庭から異世界に行って散歩したいけど、やっぱり急に街中に出てくると皆びっくりするし。なるべく人目のない所を探そう。


 今日は天気もよくて日差しが気持ちいい。どこからかキジバトの鳴き声が聞こえる。あの鳩さんの声はすごく落ち着く。


「ホーホーホホー」


 真似して口ずさんでみる。このリズムが好きだけど、いつも変な所で「ホ」って言って止まるのがむずがゆい。鳩さんの音感は独特。


 そんな風に考えてると景色が変わっていく。視界が暗くなって異世界へ出発だね。

 周囲を見渡すと寂れた街並みと古い建物が並んでる。多分、孤児院のある地域だよね。


 ミー美と瑠璃を連れて散歩をする。今の所は人と出会う様子はなさそう。前にも来た時も誰ともすれ違わなかったし、ここは建物の数のわりに住んでる人が少ないのかもしれない。


 ふらふらと適当に歩いてると見覚えのある建物を発見する。広いグラウンドと大きな平屋の孤児院だ。柵の隙間から覗いてるとグラウンドの方で子供達が集まって、その奥に灰髪のおばあさん、ノイエンさんが立ってた。


 ノイエンさんは両手を前に出して、それからゆっくり片方ずつ肩からまっすぐ伸ばして、最後には肘を曲げて手の先が胸に来るようにして深呼吸してる。子供達もそれを真似して倣ってる。


「魔法の練習かな」


 ノイエンさんは魔術学園の学園長だから孤児に魔法を教えていても違和感ない。でも、見てるとどうも魔法とは違いそうな気もする。こっちの魔法って発動する時は変な魔法陣が空気中に浮かぶ。今、ノイエンさんがしてるのはどちらかというと……。


「ラジオ体操?」


 私の知ってるラジオ体操の動きとは微妙に違うけど、でも同じ動作を何度も繰り返してるしそんな気がする。


 私が門の前でジッと見てたら、孤児の子が皆こっち見てる。ミー美がいるからかなぁ。

 すると孤児の中から1人が手を振って走ってくる。綺麗な薄緑髪のセリーちゃんだ。


「ノリャお姉ちゃん! 今日はすっごい大きな子連れてる!」


 セリーちゃんがぴょんぴょん跳ねてミー美の周りに寄ってる。他の孤児も皆釣られて来たから、とりあえずグラウンドの中に入った。


「ミー美って言うんだよー。宜しくしてあげてねー」


「ミー!」


「すげー!」


「かわいい!」


 孤児の皆がミー美に興味津々。そんな中で瑠璃が子供の輪の上に飛んでクルクル回ったり、火を吹いたりしてる。おかげで皆の注意がそっちに向いて、ちょっと嬉しそうにしてる。

 瑠璃って負けず嫌いな所ある。


「ノリャお姉ちゃん、この子触ってもいい?」


「いいよ」


 セリーちゃんがミー美の首や身体がなでなですると、ミー美も嬉しそうに「ミー」って鳴く。


「やれやれ。朝から来るとはあんたも暇なのかい?」


「ノイエンさん。おはようございます」


 私が軽くお辞儀をするとノイエンさんも帽子を脱いで軽く頭を下げてくれる。


「今日はミー美の散歩で立ち寄っただけです。街中だと目立つので」


「フィルミーねぇ。あんた、魔物全部飼いならすつもりじゃないだろうね」


「偶々仲良くできただけです」


 うん、偶々。すら吉も瑠璃もミー美もいるけど、多分偶々。そうだと信じたい。

 ノイエンさんは注意深くミー美を見てたけど、帽子を被り直して肩をすくめるだけだった。


「それと中断させてごめんなさい。何かしてましたよね?」


「只の呼吸運動さ。朝にするのが一番効き目あるからね」


「呼吸運動です?」


「体内の不純物を取り除いたり、逆に新鮮な魔元素を取り入れたりね。軽い運動もまぜれば健康にもなれる。ま、こいつらは言うこと聞かないけどね」


 もしかして魔法使いとしての基礎みたいのかな。でも運動とも言ってるし、私の予想のどちらでもあったのかも。


「さて、と。あたしはそろそろ行かなくちゃならなくてね。悪いけど餓鬼共の相手を頼む」


 ノイエンさんが私の肩を叩いて有無を言わさずに門を潜って出て行っちゃう。あれ、もしかして仕事押し付けられた? まぁいっか。私も孤児院には興味あったし。


「ねぇねぇ、姉ちゃん! あれに乗ったら駄目?」


「私も乗りたい!」


 子供達がミー美を指差して目を輝かせる。私が軽く合図をするとミー美が腰を下ろして、定員オーバーになるまで背中に沢山の子供が乗った。それでグラウンドをゆっくり走ると皆楽しそうに騒いでる。


 瑠璃も負けじと子供達と鬼ごっこして遊んでる。しかも絶妙に手加減して子供達に捕まることで好感度もあげるとは、中々策士。


 そんな子供達の雰囲気を外野で眺めていると私の袖を引っ張られる。


「ノリャお姉ちゃんは私と遊んでー!」


 まさかの私指名って嬉しいなぁ。


「いいよー。何して遊ぶ?」


「魔法線でお絵かき!」


 セリーちゃんが指先をピンク色に染めると空気中に絵の具を塗る感じで線を描いていく。

 おぉ、すごい。ていうか、やっぱり子供も魔法使えるんだ。


 セリーちゃんが落書きして色々書いては1分もしたら消えていっちゃう。でも霧散して溶けていく感じがまた幻想的。


「ノリャお姉ちゃんは描かないの?」


「うん。私は魔力がないんだ」


「じゃあ私の使って!」


 セリーちゃんが寄りかかって右手を持たせてくれる。そっか、これなら一緒にお絵かきできるね。私が目のあるスライムを描くとセリーちゃんも真似して描いてる。王冠とリボンを足して可愛くしてみる。何か良い感じ。


「すみませーん。お届けに来てやったですー」


 声がして顔を上げると門の前で帽子を被ったリスの女の子が立ってる。微妙に口の悪い言い回しはシャムちゃんだ。

 私とセリーちゃんが門の前に行くと、シャムちゃんが驚いていた。


「てめぇ様はノノムラ!? なんでここに!?」


「ちょっとした散歩だよー」


「そうでやがったですか。まぁいいです。こいつを受け取れです」


 そう言ってシャムちゃんがランドセルを下ろして中からミニチュアサイズの樽を取り出してそれを地面に置くと魔法で元の大きさに戻した。


「備蓄草の支援でやがるです。とっとと受け取ってお金を渡すです」


 シャムちゃんが腕を組んで言ってる。でもよく考えたらノイエンさんは出払ってるし、支払いってどうするんだろう?

 私がセリーちゃんを見ると同じように首を傾げてる。


「金貨! 金貨1枚でやがるです!」


「うん、分かった! すぐ用意するから中に入って待ってて!」


「待てです。ここには強力な魔力結界があるです。部外者の魔力は感知されて酷い目に遭うです」


 シャムちゃんが門の前に立ち止まったまま言う。するとセリーちゃんがシャムちゃんの前に立って掌にくるくる指でなぞると白く光ってる。それを見るとシャムちゃんは門を抜けてた。なるほど、やっぱり防犯対策だったんだ。というか、私の時は何もされなかったけどこれも魔力がなかったせいだから?


 セリーちゃんが孤児院に走って行くとシャムちゃんと一緒に孤児院の建物の陰になってる所で並んだ。シャムちゃんの視線はミー美に映ってた。ミー美は別の子供を乗せる為に腰を下ろして交替させてる。


「それで何で孤児院にフィルミーがいやがるですか」


「私の家族だよー」


「……前から思ってたですが、何で従魔をそんなに連れてやがるです? 一匹入れば十分です」


「大事な家族だから。シャムちゃんも連れてるの?」


 するとシャムちゃんが指でピーッって鳴らすとどこからともなく群青色の鴉が飛んで来た。

 鴉はシャムちゃんの腕に乗って周囲をキョロキョロしてる。足には黒いリボンが結んであった。リリが連れてる連絡鳥と似てるような?


「従魔と言ったら鳥系の魔物に限るです。契約も楽だし、何より連絡もできて仕事の効率があがるです」


 へー、この鳥さん達も魔物って括りなんだ。ということはリリも従魔と契約していたんだね。シャムちゃんが鴉さんを投げるように腕を振ると鴉さんも空へと羽ばたいていっちゃう。


「どうしてシャムちゃんはそんなにお仕事頑張るの?」


「え? それは、そのう」


 何だか口を濁して俯いちゃう。余計なことを聞いちゃったのかな。必死にお金を稼ぐってことは大きな夢でもあると思ったんだけど。


 丁度間がよくセリーちゃんが戻ってきてくれて金貨と小包をシャムちゃんに渡してる。


「これで大丈夫ですか?」


「この袋は何でやがるです?」


 ちょこんと掌サイズのそれを指差してシャムちゃんが言う。


「お手製のお菓子です! わざわざ遠い所までありがとうございます!」


 セリーちゃんが満面の笑みを見せながらお辞儀をする。シャムちゃんは小包を開けると中からクッキーが3枚出てくる。ピンクや青の粒粒があって見た目が可愛い。仄かに甘い香りもする。

 シャムちゃんがそれを一枚食べると、少しだけ沈黙が流れた。でもすぐに笑顔になった。


「美味いでやがるですっ! 小さいのにこんな美味しいのを作れるとは羨ましいでやがるです! いやー、美味い! 美味いですっ!」


 シャムちゃんが上機嫌になって一瞬でクッキーを食べきった。食べ終えると空になった小包を見ては少し残念そうな顔をしてる。でもすぐにいつもの真面目な顔に戻った。


「べ、別にボクは美味しい物が食べたくてお金を稼いでるわけじゃないでやがるです! そこを勘違いするなです!」


 何も聞いてないのに私の方を指差して走って孤児院の外へと出て行っちゃう。そっか、確かにご飯は一杯食べたいよね。何だか親近感湧いたかも。


「シャムちゃん、お仕事頑張ってね」


「てめぇ様に言われるまでもないです!」


 既に顔が見えないのに大きな声で反論されちゃった。それから孤児院でセリーちゃんと遊んでいたせいで、すっかり時間を忘れたけど学校は多分大丈夫。多分。

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