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33 女子高生もスイカを食べる

 祝日。もうすぐ夏休みだけど、その前に期末テストがあるから私の家で勉強会することになった。縁側にある畳の居間でコルちゃんとリンリンと仲良く勉強。

 廊下には猫丸がこっちを見てて、瑠璃は風鈴に興味を示してさっきからずっと見てる。

 柴助やミー美、たぬ坊、こん子は庭でだらだらしてる。


「ノラノラもコルコもえらいなー。わたしゃ、もう集中力が切れそうだよ」


 リンリンがペンを転がして机に突っ伏した。勉強始まって1時間くらい?


「気分転換は必要だよね。何か息抜きする?」


「そうなれば異世界でしょうか」


 コルちゃんもペンを置いて言った。確かに向こうに行ったら最高の息抜きにはなると思う。


「ダメダメ! 異世界はなしだ!」


「珍しいですね。リンさんなら大喜びすると思いましたが」


「いや確かに嬉しい提案だけど、向こう行ったら絶対に時間を忘れる自信ある。そうなったら勉強会の意味ないじゃん」


 それには一理あるかも。赤点とって補修は受けたくないし。


「じゃあ向こうの人になり切って異世界の気分を味わうっていうのはどう?」


「ほぉ。面白そうだな」


「具体的に誰になりきるのですか?」


「私がリリ役、リンリンがフランちゃんでコルちゃんがレティちゃんっていうのはどう?」


 せっかくだから普段の自分と違う性格の人を演じてみるのも面白いかもしれない。


「あー、狐の子かー。なりきれるかねー」


「全く自信がありませんが」


「へーきへーき。大事なのは気分よー」


「もう始まってる!?」


 それで2人も少し思案してから意を決してくれた。


「あー、ノラノラはー、じゃなくて野々村さんの今日の服とっても素敵だね」


 リンリンが首を傾げながら飛び切りのスマイルを送ってくれる。どうしよう、普段とのギャップがすごくて笑っちゃいそう。コルちゃんも口元に手を当てて笑い堪えてるし。

 リンリンはすぐに顔を真っ赤にする。


「ちょっとー! 私だけ恥かかせる気?」


 リンリンが半ばヤケになって叫んだ。


「フランは昔から照れ屋ですねー」


「レティに言われたくないよっ!」


 おー2人共ノリノリだ。私も負けてられないよ。


「わー、ここが例の道具屋さんね。知ってたけど随分と陰気だわ」


 うん、自分で言ってて確かに恥ずかしくなってくる。これは色々と精神を試されてる。

 するとコルちゃんがノートを丸めてメガホンみたいにしてこっちに向けた。


「おめでとうございますっ! この素晴らしき日に素晴らしい出会い! わたし、感激ですっ! ささ、これをどうぞ!」


 コルちゃんも顔を真っ赤に半ばヤケになってる気がする。ノートの切れ端をくれたから有り難く受け取る。なんというかこんなにテンションの高いコルちゃんは新鮮だよ。


「それでどれがオススメなの?」


「そうですねー」


 するとリンリンが突然机を叩いて声をあげた。


「大変だよっ! 街の中に魔物の大群が押し寄せてきた! 早く逃げよう!」


 あれれ、何か急に和やかムードが一気に殺伐としてきたよ。というかこれってロールプレイする遊びだったっけ?


「何ですって! すぐに避難準備を!」


「駄目だよ! スライムの大群が押し寄せてきて! あぁっ!」


 リンリンがもがき苦しんで机の上に倒れた。何が始まってるのか分からないけど乗りかかろう。


「今助けるわ! ファイアーボール!」


「スライムが蒸発しました。で、でも数が……」


「大丈夫。私はこう見えて元勇者だったの。魔王の好きにはさせないわ」


 とりあえず適当に設定を追加してみる。


「待って! 私も行く。私の大事な服を滅茶苦茶にした魔王を許せない!」


「わたしも薬で皆を助けます!」


「あなた達……。なら行くわよ! 今こそ冒険の幕開けだわ!」


 なんだか色々と迷走している気がする。これからどうしたらいいんだろう。


「こうして謎の魔法使いと狐と猫の獣人が壮絶な旅の末に魔王を倒し世に平和をもたらしたとさ、めでたしめでたし」


 無理矢理完結させると何故か2人から拍手されて、その直後に深い溜息を吐いた。


「なんつーか勉強するよりドッと疲れたわ」


「同感です」


 やっぱり普段と違う自分を演じるっていうのは大変。役者さんはすごいね。

 そんな遊びをしていると居間の襖が開けられて、お母さんが入ってきた。手には盆を持っててスイカが乗ってて机に並べてくれたから、教科書やノートを一旦片付ける。

 ちゃんと塩も用意してくれてある。


「勉強頑張ってるわね。これでも食べて元気だしてね」


「おぉ! ありがとうございます!」


「今年初めてのスイカです。ありがとうございます」


「お母さんありがとー」


 良いタイミングで本当の息抜きを運んでくれたのはお母さんだったね。お母さんはにっこり微笑んでからすぐに向こうに行った。


 手を合わせて、先に塩をちょっとだけ振りかけてスプーンで食べる。うん、塩の辛味とスイカの甘味が程よくていい感じ。水分も豊富で喉も潤してくれる。


 瑠璃もスイカに興味を持って寄ってきたからスプーンで食べさせてあげる。


「スイカ食べると夏だなーって感じがするよな」


「わたしは夏になっても滅多に食べませんよ」


「そうなんだ。私の所だと毎年作ってるから飽きるほど食べるなー」


「これからは毎年夏にコルちゃんを呼ばないとね」


 暑い日に縁側で食べるスイカは本当に美味しい。風鈴の音やセミの鳴き声もあいまって、落ち着くし。


「もうすぐ夏休みですが、ノラさんは何をするつもりですか?」


「私? うーん、多分異世界に行ってると思うなー」


 長い休みになるだろうし、普段行けない所にも行ってみたい。向こうの人とも仲良くしたいし。


「だったら私も誘ってよ」


「わたしもこの機会に異世界をもっと見たいです」


 おぉ、そういうことかー。確かに3人で異世界行ったのはまだ数えるほどだもんね。

 それに2人が一緒なら宿題もはかどるし、良い事尽くしだね。


「いいよー。夏休みを使って3人で魔王を倒そうねー」


「ま、マジか。武器はクワでもいい?」


「大量の缶詰を用意していきます」


 あれ、冗談なんだけど、まいっか。コルちゃんとリンリンとなら何しても楽しいだろうし。

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