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29 女子高生も狐娘と出かける

「野良ー。暇なら買出しに行ってくれない?」


 たぬ坊とこん子の騒動が終わった昼間。庭の縁側の廊下で座ってるとお母さんが言ってきた。


「いいよー」


 服も普段着のシャツとスカートに着替えたしシャワーも浴びた。

 我が家のもふもふ達も遊び疲れてか日陰で休んでる。


「ありがと。これ買出しのメモよ」


 お母さんが諭吉さんと一緒に渡して来たから部屋に戻って財布とエコバックを持参して庭に出た。いつもなら柴助や瑠璃が寄ってくるけど、今は疲れたのかこっちに気付いても動こうとしない。


 偶には1人で行こうかな。時間に余裕もあるしゆっくり行こう。そう思ってたけど視界が変わった。異世界の街並み。今日は珍しく人通りが少ないけど、賑やかなのは変わらない。


「うーん。せめて帰りにして欲しかったなぁ」


 現実に戻ってからスーパーに寄ってたら帰りが遅くなるかも。

 でもせっかく来たんだしこっちの世界を楽しもう。

 もしかしたら似た野菜が売ってるかもしれないし。


「あ! ノノムラさん!」


「フランちゃん?」


 声がして振り返ると狐耳の可愛い子が手を振っている。今日もウサ耳パーカーを愛着してる。


「良い所で会えました! この前のお礼の品が出来たよ!」


 そういえばミー美に乗って糸の花を集めたらお礼してくれるって言ってた気がする。

 正直忘れてたよ。


「さぁさぁ早く!」


 フランちゃんが腕を掴んで引っ張って来る。何だかこういう所はレティちゃんに似てるなぁ。


 それでフランちゃんが経営する素敵な洋服屋さんに来た。今日は休みなのか店の扉に文字の描かれた板を紐でぶら下げられてる。促されるままに店内に入った。


「ちょっと待っててね!」


 フランちゃんが店のカウンターへとパタパタと駆けると棚の中をガサゴソと漁ると両手で銀色のマフラーを持ってきてくれる。柄はない無地で生地は薄め。でも毛皮みたいですごくモコモコしてて可愛い。


「本当はマントにしようって思ったけど、多分ノノムラさんには似合わないと思って。それでマフラーにしました」


 そこまで考えてくれたなんて凄く嬉しいなぁ。フランちゃんが早速首回りに掛けてくれて綺麗に結んでくれる。鏡を見せてくれたけど、かなり良い感じ。


「フランちゃん、素敵な贈り物ありがとう。大切にするね」


「いえいえ! 私だけだったら銀光花は手に入りませんでしたから、本当に感謝してます!」


 ペコリとお辞儀してくれる。ここまでしてくれたんだから私も何かお礼をしてあげないと。


「ねぇフランちゃん。今って暇?」


「ふえ? 暇、ですけど」


「じゃあ一緒に出かけない?」


 買出しがあるけどあっちに戻らないと買えないし、それにこの素敵なマフラーを身に着けたままどこかへ行きたいっていうのが本音。


「わ、わ、わ、私と2人っきりで、で、で?」


 何だかすごくパニックになってるけど大丈夫かな。


「うん」


「わ、分かりました。ちょっと待ってください」


 フランちゃんが奥へ走ってツインテールの髪を梳かしたり服の皺を気にしてる。緊張してる?何か私も自分の身だしなみがちゃんとしてるか気になってきた。


「お、お待たせ!」


「じゃあ行こっか」


 早速店を出て2人っきりで歩き出す。とりあえず当てもなくフラフラと出店のある通りを歩いてる。


「フランちゃんはどこか行きたい所ある?」


「私はノノムラさんの行きたい所ならどこにでも行くよ」


「んー。実は私この辺の店全然知らないんだよね。フランちゃんの店とレティちゃんの店、それと狼さんの酒屋以外は行ったことないんだ」


 初めてのお店に行くのって結構勇気いるし手ぶらで帰るのも何だか気まずいし。


「意外。ノノムラさんは色んな所知ってるイメージがあるよ」


「ここに来てそんな日も長くないから。だからフランちゃんの知ってる店を教えてくれると嬉しいな」


 するとフランちゃんは耳をピンと立てながら考える仕草をする。

 見てるだけで触りたくなるけど我慢、我慢。


「私がよく行くのは市場と行商人の店、それと武器屋くらいだよ」


「行商人って?」


「偶に外から色んな物を仕入れた人が来るんだよ。結構変わった品とかも売ってるから見に行ったりするの。時期も時間も不定期だから狙って会えないのがあれだけど」


 そっかー。それだと行商人の店に行くのは難しそうだね。


「もう1つの武器屋って、フランちゃんが買いに行くの?」


 武器ってここの通行人の人が持ってる剣とか弓だよね。フランちゃんは何となく戦うイメージがないけど、意外と熟練者?


「あ、えっと。実際に戦う為の武器じゃなくて調理道具や裁縫道具を買いに行く為だよ。特に針は頻繁に欠けるから」


 なるほど、武器だけじゃなくて日用雑貨も売ってる店なんだ。ちょっと興味湧いたかも。


「じゃあその武器屋に行かない? どんなの売ってるか気になる」


「分かった。案内するね」


 そう言ってくれたけど到着するのに10分も時間はかからなかった。

 通りを真っ直ぐ歩いてると噴水の広場があって、その街角の所に剣の模様が描かれた看板が立ってる。ここの通りには本当に何でもあるね。


 フランちゃんが扉を開けてくれて待ってる。うん、良い子。


「ありがとう」


 先に中に入って後からフランちゃんも続いてそうっと扉を閉める。


「らっしゃい」


 渋い男の人の声がしたと思ったらカウンター奥で熊が座ってる。何かナイフを研いでる。

 本物の熊と同じで茶色い毛をしてる。でも普通に青い作業着を来て野球帽みたいのも被ってる。


「また針か?」


 熊の店長さんが椅子から立って言う。おぉ、3mくらいありそう。大きい。

 でも綺麗な目をしてるなぁ。


「いえ、今日は普通に品を見に来ただけです」


「そうか」


 フランちゃんに言われて熊の店長さんは椅子に座ってナイフを研ぎ始める。

 如何にも仕事人ってオーラがある。


 店内をグルリと見渡してみる。武器屋って言うだけあって剣や槍が壁に1つ1つ丁寧に掛けられてる。どれもシンプルなデザインだけど刃の部分が鈍く光ってる。

 樽の中には弓矢がいくつも入れられてて、私の身長よりも大きな剣が壁に固定されてる。


 奥の方にが棚が並んでてそこには小物系の刃物が置かれてる。小さなナイフや針、他にも鋏や砥石みたいのも売ってる。


 試しにナイフを1つ取ってみる。見た目は包丁に近い。でも刃がギラギラしてる。


「ここのナイフはどれも切れ味が凄いんだよ。力がなくてもかたい野菜を簡単に切れるよ」


「そんなに切れるの?」


「試してみるか?」


 会話を聞いてた熊の店長さんがカウンター近くの棚から掌サイズくらいの石を持って寄ってくる。


「それ、石ですよね?」


 一応確認してみる。熊の店長さんは黙って頷いて作業台の上に置いた。

 切れるか怪しいけど試すだけなら。そう思ってそうっとナイフを下ろした。

 石はちょっとかたい肉を切るみたいな感じであっさり真っ二つになった。


 一瞬信じられなかったからそれが石か確かめて掴んで叩いたりしてみたけど石だった。


「ね、すごいでしょ?」


「でもこんなに切れ味がいいと誤って指を切るのが怖そう」


 人の指くらいなら簡単に真っ二つにすると思う。すると熊の店長さんが棚から黒い手袋を出して作業台に置いた。


「魔装の手袋だ。それをしておけば指を切れない。水洗いで簡単に汚れも取れる」


 まさかここまで想定してるなんて。熊の店長さんには主夫力があるよ。

 せっかくだしお母さんにプレゼントしようかな。かぼちゃ切るの大変って言ってたし。


「これっていくらします?」


「合計で800オンスだ」


「えっと。金貨何枚分です?」


「1枚で足りる」


 私は巾着の財布を取り出して金貨を渡す。すると銀貨2枚を渡された。なるほど、金貨1枚で銀貨10枚分なんだね。


 熊の店長さんは包丁を専用のカバーで刃の部分を納めてくれる。しっかりと固定されてて刃を下に向けても落ちない。


「あ、私も買います」


「毎度」


 フランちゃんもお揃いのを買って店を後にした。

 それから通りを抜けて市場の方に来てる。こっちは人通りも多くて活気がある。

 木箱や樽の中には見たこともない変な形の野菜や果物が沢山売ってる。


「フランちゃんは料理をするの?」


「うん。レティがよく何も食べてないから作ってあげてる」


 確かにこの前のバーガー試食会の日も何も食べてないって言ってたなぁ。


「あ、今日はオーク肉が安いんだ」


 フランちゃんが出店に吊り上げられてる茶色の塊を見て言った。横には大きく文字が書かれてるけど読めない。


「すみません。これ2切れください」


「あいよ!」


 犬頭の人が華麗に長い剣みたいので肉の塊を上手に切り分けた。なんかケバフ作る時に置かれてる肉みたい。

 切られた肉は人の顔くらいあって、それが薄い膜みたいのを張られて紙袋の中に入れられた。フランちゃんは店主にお金を渡してそれを受け取る。袋からはみ出てるくらいの量だよ。


「すごい量だね」


「レティ、小さいの気にしてるから一杯食べさせて上げたいんだ。栄養バランスも考えてあげないと」


 最初に会った時も小さいから年下と思ったら少し悲しそうにしてたなぁ。今度からは気をつけないと。


「フランちゃんはレティちゃんが大切なんだね」


「……レティには小さい頃お世話になったから」


「そうなの?」


「うん。私がお店を開いて間もない時、お客様に聞かれたのをまともに説明できなくて。そんな時にレティが店に来てくれて場を和ませてくれたの。私が今も店を続けられてるのはレティのおかげなんだ」


 確かに道具屋の窓からギリギリ店内の様子も分かりそう。それだけレティちゃんも心配してたんだ。


「私も普段のんびりしてるから皆に一杯助けられてるよ。きっと私1人だけだったらこうしてフランちゃんともお喋りできてなかったと思う」


「ノノムラさんって本当に不思議な人、です。レティとはまた違って、なんというか一緒に居てて安心する」


 そう言ってくれると凄く嬉しい。


「そ、その! これからも宜しくお願いします!」


「こちらこそ宜しくね」


 街の中で仲良くお辞儀して注意を引いてたけど、仲良く笑い合ってそのまま帰った。

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