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28 女子高生もモフモフに翻弄される

 今日は祝日で学校が休み。最近日課になってる早朝の柴助の散歩に行こう。

 庭に出るといつもと様子が違う気がした。

 普段なら柴助が出迎えて走って来るけど今日は来ない。餌を求めてたぬ坊とこん子が走って来るけど今日は来ない。


 とりあえず庭を見渡してみる。ミー美が雑草を食べてる。うん、いつもと同じ。


 柴助が這いつくばって明後日の方向を見てる。んー、なんだろう。


 気になって目で追うと猫丸が塀の近くで座って下を見てる。瑠璃も近くで飛びながら下を見てる。そっちの方へ歩いて行くと、モグラの穴みたいなのがぽっこり出来上がってるのが見えた。

 小さな動物なら一匹くらい入れそう。猫丸も入れそうだけど警戒してずっと穴の中を覗いてるだけ。何かおかしい。


「そういえば、たぬ坊とこん子は?」


 名前を呼んでも出てこない。いつも隠れてる家の床下を覗いてもいない。どこに行ったんだろう。


「……もしかして脱走した?」


 目の前にあるモグラの穴に丁度2匹共入れそう。嫌な予感がすると、瑠璃がそうっと屋根の上に逃げて猫丸がのしのしと縁側の廊下へ歩いて行く。柴助に至っては這いつくばったまま視線だけ外して空を眺めてる。


 君達、知ってたね?


 仕方ない。こんな穴を掘ってたなんて知らなかった私の責任だし、それにこのままだと色んな人に怒られちゃう。それだけは何としても阻止しないと。


「皆ー。たぬ坊とこん子探すの手伝って」


「ぴー!」


「わんっ!」


「ミー!」


 合図をしたら利口なモフモフ達が寄って来てくれた。猫丸だけ廊下で顎を搔いてるけど、まぁいいや。


 とりあえず脱走したなら山に行った可能性もあるし服を着替えないと。今は半袖にスカートだから茂みを歩きにくい。


 家に戻って厚めの長袖とジーパン、それに帽子を忘れずに被る。暖かくなってきたからスズメバチが怖い。黒いのを狙うから髪は絶対に隠さないと駄目。


 長丁場になった時の為にスポーツドリンクを用意して、怪我した時の為に医療道具もハンドバッグと、後はたぬ坊とこん子を誘導する為の餌と檻が必要だね。


 ちょっと荷物が多いけど仕方ない。庭に出ると瑠璃、ミー美、柴助が座って待ってくれてる。先に餌を与えて士気を上げさせて、いざ出発!


 まず最初にモグラの穴がどこに繋がってるか探そうと思ったけど、普通に外の花壇に繋がってた。土が道路に落ちてるけど最後まで追えそうにはない。


「柴助。匂いで追えない?」


 柴助は言葉を理解してなくて舌を出したまま「へっへっ」って言うだけ。

 救助犬じゃないもんねー。


 すると瑠璃が歩道に下りて柴助に何か言った。「ぴー」やら「わんわん」という会話をしてたけど成立してたみたい。柴助は急に地面の匂いを嗅ぎ出して前に進んでいく。

 やっぱり瑠璃すごい。


 朝一だから人通りは少ないおかげでミー美も目立っていない。さっさと見つけて撤収したい。そう願っていると目の前に散歩中のおばあちゃんと遭遇しちゃう。


「野良ちゃん、おはよう。随分と大きな馬を連れてるわねぇ」


 おばあちゃんが頬杖付いてミー美を見てる。思ったより普通の反応でびっくり。

 柴助が寄って行くと頭を撫でられて嬉しそうに尻尾を振ってる。


「おはようございます。イグアノドンっていう馬です」


 ちょっと無理があるかなって思ったけど普通に納得してくれた。

 すると隣で畑仕事をしていたおじいちゃんがタオルで顔を拭きながら寄って来る。


「そんな馬もいるんだなぁ。珍しい種類だろう。人参食べるか?」


 おじいちゃんが取れ立ての人参をミー美の口元に近づけた。するとミー美はパクッと一口と食べちゃって、おじいちゃんとおばあちゃんが微笑ましそうに笑ってる。

 さっき餌上げたのに。瑠璃もなんかじーっと見てるし。


「すみません。何でも食べる子なんです」


「ははは。また来てくれたらいらない野菜あげるよ」


「ありがとうございます。それとこの辺で狸と狐を見かけませんでした? ちょっと太り気味でこれくらいの大きさです」


 手で表現して見て、2人共が軽く唸る。


「そういえば今朝方に歩道を歩いてる動物がいた気がするなぁ。狸か狐かまでは確認してないが」


 多分たぬ坊とこん子だ。のんびり屋だからあまり走ったりしないし。

 軽くお辞儀をしてその場を後にする。今の情報はとても有益。おじいちゃんが指してくれた方角を目指して柴助の嗅覚に賭ける。でも、クンクン嗅いでるだけで中々進まない。

 うーん、困ったなぁ。


「おー、ノラノラー」


 声がして振り返ると歩道の横の野菜畑でリンリンが手を振っていた。手を振り返してそっちへと行く。作業着に長靴を履いて日よけ帽子を被ってる。髪はいつもと同じのポニーテール。

 奥ではリンリンの両親も野菜の田植えをしてて手を振ってくれたから挨拶代わりに手を振る。


「リンリンおはよー」


「おはおは。朝から散歩か?」


「うん。それとたぬ坊とこん子が脱走しちゃって探してるの。見かけなかった?」


 するとリンリンが急に手を合わせて頭を下げた。


「すまん! やっぱアレたぬ坊とこん子だったんだな。捕まえようとしたけど山に逃げられたんだよ」


 そっかー。じゃあここを通ったんだね。また一歩前進できたよ。


「リンリンは悪くないよ。ちゃんと管理できてなかった私に責任あるから。山ってあっち?」


「うん。本当は私も行きたいんだけど手伝いで忙しくって」


「全然大丈夫。また後でね」


「あ、ちょっと待った。山入るならこれしていきなって」


 リンリンが畑の横に転がってる鞄の中からスプレーを取り出して私の全身にふりかけてくれた。そういえば急いでて虫除けスプレー忘れてたなー。


「ありがとー。行って来るね」


「膝より高い雑草地には入るなよ。マムシとかいるし」


「うん。リンリンも頑張ってね」


 リンリンと手を振って別れて、道路から逸れた山へ続く砂利道へと入った。

 傾斜地になっていて車一台が通れるだけの幅が確保されてある。

 道以外の所は色んな木が生えてて、奥の方は雑草も伸びてて人が到底歩ける所じゃない。道沿いの所の雑草は森林組合の人が刈ってくれてるから急に野生動物が飛び出てくる心配はない。


「雑草の方に行ってないのを祈ろう」


 そう思った直後に柴助が「わんわん」って吠え出した。視線を向けると雑草地帯の方でがさごそって音がしてる。姿は見えないけど柴助がずっと吠えてる。もしかして見つけた?


 そっちへ侵入したいけど雑草は勿論、倒れた竹薮や木の蔦、妙に穴の空いて深い溝になってる所もあるから進めない。


「ミー!」


 困ってるとミー美が腰を下ろして鳴いた。乗れって言ってる?

 お言葉に甘えて柴助を乗せてから跨った。するとミー美は軽快な足取りで雑草地に入った。

 竹薮や蔦もあるけど強引に突き破ってる。今の所は怪我はなさそうだけど、帰ったらちゃんと見てあげないと。


 瑠璃が先行して回り込んでくれて茂みの奥へ逃げないようにしてくれる。おぉ、見事な連携だよ。


 目の前でガサゴソと揺れてる茂みにミー美がそうっと近付く。雑草を掻き分けて中を覗くと、そこには可愛いウリボーが2匹いた。


 ウリボーはこっちに気付いてそそくさに走り出して見失っちゃう。

 なんとなく後ろを振り返ると柴助が舌を出したまま景色を眺めてる。うん、勘違いは誰にでもあるから仕方ない。


「ピー!」


 今度は瑠璃が鳴いた。その方向にはたぬ坊とこん子が落ちてる変な実を食べようと匂いを嗅いでる。だめー、野生の物はバイ菌が多いから食べないでー。


「たぬ坊ー、こん子ー。そんなのより美味しいのあるよー!」


「ぴーぴー!」


「ミーミー!」


 瑠璃とミー美も叫んでくれたおかげで2匹もこっちに気付いてくれた。

 ドッグフードと食用マウスをチラつかせたおかげで寄ってきてくれる。

 よしよし、良い子だねー。


 そう思ってたら急に奥の茂みがガサガサ動いてすごく大きな猪が出て来た。

 もしかしてさっきのウリボーのお母さん? しかも何だか興奮してるし、こっちに向かって突進してきてる! 大変だよ、そこにはたぬ坊とこん子がいる!


 そんな時、柴助がすごい勢いで地面に下りて駆けた。


「ウー! ガウッガウッ!」


 全身全霊を込めた威嚇。それにびっくりしたのか猪さんも軌道を逸らしてどこかへ行ってくれる。たぬ坊とこん子もびっくりして腰を抜かしてたけど、柴助が寄って尻尾を振ってた。それで落ち着いたのか2匹も戻って来てくれた。


「一時はどうなるかと思ったけど良かったー」


 ミー美から下りて何とかたぬ坊とこん子を檻に入れられた。柴助はたぬ坊とこん子と一緒に過ごした時間も長いからすぐに動いてくれたんだね。


 ありがとう、柴助。一杯撫でて上げるとほっぺたを舐めて来る。んー、くすぐったい。


「瑠璃とミー美もありがとう」


 両方撫でてあげると今度は擦り寄ってくる。皆甘えん坊だねー。帰ったら遊んであげるから今は我慢してね。

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