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27 女子高生も料理採点を頼まれる

 学校帰りの通学路。私と瑠璃が仲良く歩いていたら通りの脇の方に何やら大きな赤いトラックが見える。あれは月に一度現れる焼き鳥屋さんだ。


 いつもはスーパーの出入口の前に来てるけど稀に通りの店の通りの方に来る時がある。

 丁度私の通学路な上にしかも時間帯がすごくずるい。帰りにあんな焼き鳥の香ばしい匂いを出されたら買いたくなる。瑠璃も興味津々で見てるし。


 私は財布の中身を確認した。野口さんはいない。今月出費多かったからなぁ。

 でも小銭で800円くらいはあるし、ネギと塩を買える。それだけ食べれたら問題なし。


 焼き鳥屋さんは道路を渡った向かいの通りにある。いつもなら車も少ないのに今日に限ってよく通る。うぅ、早く過ぎてー。立ち往生してる間に目の前が暗くなっていく。

 あ、待って! 今はだめ!


 私の心の願いは虚しく景色は異世界の街並みに変わってる。手の中にある300円はどうしたらいいのかな。焼き鳥食べたかったぁ。


「こうなったら自棄食いする」


「ぴー?」


 この足で店の並ぶ通りに来た。私の目指すのは勿論酒屋さん。夕飯前だけど何かを口にしないと気が済まないよ。この前リンリンが食べてた焼き鳥もどきを食べる。うん、そうしよう。


 いざ酒屋へ、と思ったけど扉の前にいつもはない張り紙みたいのがあった。アラビア文字で書かれてるから読めない。え、もしかして休業日? それは殺生すぎるよ。

 と思ったけど急に中から声が聞こえた。正直入っていいか分からないけど、確認してから退散しよう。聞くだけならいいよね。もしかしたら開いてるかもしれないし。


 そうっと扉を開けると中ではセリーちゃんと鴉頭の店員さんが何か口論してて狼頭の大将さんが腕を組んで目を瞑ってる。ほかに客はいなくてテーブルの上には料理が並んでた。


 やっぱりお休みなのかな。そのまま帰ろうかなって思ったけど扉が勢いよく閉まったせいで一斉に注目を浴びちゃう。今日は間が悪い日。


「ノリャお姉ちゃーん!」


 セリーちゃんが手を振ってくれたから返しておこう。今日も髪をサイドテールにしてるけど白い三角巾をしてた。服は給仕服で相変わらず可愛い。


「お、いい所に姉ちゃんが来たぞ」


「うむ」


 鴉頭の店員さんと狼頭の大将さんが何やら相槌をうってる。いい所って?

 そんな間にセリーちゃんに腕を引っ張られてテーブル席の前に連れられる。


「新メニューを考案してる所なの!」


 ほうほう。だから机に一杯料理が並んでるだね。見た所料理は全部パンで具材を挟んだものばかり。

 具がどれも違うから新作バーガー作り?


「セリー曰くうちは女性客が少ないらしい」


「それで女性向けの新メニューとしてこいつを出されたんだが俺としては味気が足りない気がするんだよな」


 2人がバーガー片手に話す。


「ノリャお姉ちゃんも食べて!」


「えっと、お金は」


「いらないよ! 新作の為のしょきとうしってたいしょーが言ってた」


 チラッと狼頭の大将さんを見ると静かに頷いてくれる。本当にタダで食べていいみたい。

 これは焼き鳥を食べられなかった私に嬉しい朗報だね。早速机のバーガーを眺める。

 どれもサイズが大きい。ビッグマックかな?


 とりあえず今の気分はお肉だから、黄色の肉っぽいのとリガー(?)をスライスしたのと青いレタスみたいのと、緑のソースで絡んだのを取った。


 肉汁と野菜の汁、ソースがとろけて、茶色いパン生地みたいなのもふんわりしてる。


 軽く一口頬張ると口の中に優しい味が広がった。まず生地がすごく柔らかい。おかげで噛む力が殆どいらなかった。肉のこってりさが舌に広がったけど、すぐにリガーの甘味とソースが後味をスーってよくしてくれる。


「すごく美味しいよ」


「やったー!」


 セリーちゃんが喜んでる他所に瑠璃がずっとこっちを見て涎を垂らしてる。私がバーガーを口元に近づけると派手に一口で殆ど食べられちゃった。満足そうな顔をしてたから美味しかったんだろうね。


「俺としてはもっと辛さが必要と思うけどなぁ」


「圧倒的に量が足りん」


 私の素直な感想とは裏腹にシビアな判定を下されている。美味しいと思ったのは確かだけど、これを商品化するとなったら話が変わってくるんだろうね。

 せっかくくれたんだから私も真面目にしないと。


「味は問題ないと思うよ。でも女性向けにするならもっと小さくていいと思う。これの半分でも大きいくらい」


 今日は学校帰りでお腹空いてたから食べれそうだけど、なんでもない日にこの量は多いと思う。


「ほら、たいしょー! 私は小さくしよって言ったんだよ!」


「む。そうなのか。俺としてはこれでも小さいくらいだが」


 一品で満足できる量を提供してくれるのがこのお店の良い所。それに動物の人は多分沢山食べるからそれが普通なのかも。

 でもこれは私の感想だからこっちの女性とは違うかもしれない。だから提案してみよう。


「私の友達も呼んで感想を言ってもらうていうのはどう?」


 せっかく一杯バーガーがあるんだし皆を呼んでも全然大丈夫だと思う。こういうのは色んな意見を聞くのが一番だろうし。


「すまないが頼む。俺には女の心が分からん」


 狼頭の大将さんがシュンと落ち込んじゃう。もしかして結構気にするタイプ?


 早速呼子笛を使って酒屋の看板を書いて伝書鳩を飛ばした。更に瑠璃にも頼んで友人を集めてもらう。


 ~半時間後~


 扉をそうっと開けて中を覗いて来たのはリリだった。その隣にムツキもいる。


「えっと~。入っていいの?」


「……呼ばれて来た」


「リリー。ムツキー。いらっしゃ~い」


 手招きすると2人はいそいそと歩いてくる。


「時間、大丈夫だった?」


「うん。丁度休憩してた所」


「何かしてたの?」


 リリとムツキが一緒というのはちょっと気になる。同じ学校の生徒じゃないし。


「リリルと修業してた」


「この前不甲斐ない所を見せたからね」


 そんなことないのに。私なんて何もできなかった。

 するとリリが私に寄って来て肩を叩いてくれる。


「ノノは気にしなくていーの。これは私達の気持ちの問題だから。それよりこれは何の集まり?」


「新メニューの考案です! 是非味見をして欲しいのです!」


 セリーちゃんがぺこりとお辞儀して言った。リリとムツキはちょっと遠慮してたけどセリーちゃんの押しに負けてバーガーを手に取る。


「おぉ、良い味じゃない」


「……これなら何個でも食べれる」


「いや、何個もは無理でしょ」


「……そうだね。20個くらいが限界」


 ムツキが無表情でパクパクとバーガー食べてる。食べ方は私と変わらないけど、手が全然止まってないよ。あっさり完食して2個目食べてる。それも一瞬で食べてた。騎士だから身体動かすしお腹空くのかな。


「これ新メニューで使えるでしょうか?」


 セリーちゃんが恐る恐る尋ねる。するとリリとムツキが唸る。


「んー、どうだろう。狙いは悪くないけどこれに似たのは他の店でも売ってるしなぁ。斬新さが足りない思う」


「味に種類があると嬉しい」


 率直な感想にセリーちゃんがせっせとメモしてる。その姿を見てるだけで一人前の料理人に見えるよ。


「貴重な意見ありがとうございました!」


「こっちこそありがとう。ご馳走様」


「……新メニューできたらまた来る」


 揃って頭を下げるとリリとムツキが私の方を見て手を振る。修業中って行ってたから続きに行くんだね。力になれないけど頑張ってね。応援してるから。


 ~更に10分経過~


 瑠璃が店内をウロウロ飛びまわっていると扉が開けられる。そこには素敵なケモミミの子が来てくれた。


「お邪魔して大丈夫です?」


「良い匂いがします!」


「いらっしゃ~い。おいで~」


 私が手招きするとフランちゃんとレティちゃんがやってくる。

 セリーちゃんが軽く事情を説明すると2人も納得してバーガーを手に取って食べる。

 すると見る見る目を輝かせてた。


「ふわぁ、これすごく美味しいよ!」


「こんな美味しいの食べたのは初めてです!」


 美味しい美味しいと連呼してる2人を見てるとこっちまで微笑ましくなってくる。

 それに耳と尻尾がピョコピョコしてるしモフモフしたいよー。

 完食するまで美味しそうに食べ続けて最後に「ご馳走様」って口を揃えてる。


「これ新メニューで使えると思います?」


「私は大丈夫だと思うけど。でも普段から外食なんてしないからあんまり当てにしないで欲しいかな」


「はいっ! 私なんて今日の朝食何も食べてませんからっ!」


 レティちゃん。それは何食べても美味しいって感じるあれだと思うよ。


「フランちゃんは外食しない派?」


「う、うん。こういうお店って1人だと入りにくいし……」


 あー、それはちょっと分かるかも。1人で外食って勇気いるよね。

 セリーちゃんはしっかりと会話を聞いてメモしてる。


「私としては毎日割引したら売れると思いますっ! ご馳走になったお礼にどうぞ!」


「あ、ありがとう」


 セリーちゃんが割引券を受け取るとレティちゃんとフランちゃんは頭を下げて扉の方へ向かう。店番があるだろうしお別れだね。手を振って別れる。


「これで全員かな?」


 来てくれそうな女子友は帰ったけど、机にはまだバーガーが残ってる。

 それを見て狼頭の大将さんが言った。


「余った分は俺と坊主で食べよう」


「結局商品化は難しいカァ?」


「あと少しで何か掴めそうなんです」


 セリーちゃんはメモとにらめっこして考えてる。そんな時、扉がバンと勢いよく開けられてびっくりして振り返る。そこにはなんとノイエンさんが立っていた。

 ずかずかと入って来て椅子に座る。


「そこのドラゴンに呼ばれて来てやったが何用だい。つまらない用事だったら承知しないからね」


 まさかの学園長兼院長の登場に狼頭の大将さんと鴉頭の店員さんが驚きで凍り付いてる。


「セリーちゃんが新作のメニューを考案してる所です。良かったら味見して評価してあげてくれませんか?」


「セリーがねぇ」


 ノイエンさんは机のバーガーを眺めて呟く。セリーちゃんも言葉をなくしてモジモジしてるけど大丈夫かなぁ。


「おい。極上エール持ってきな!」


「は、ははぁっ!」


 狼頭の大将さんがすごい速さで厨房に走って行ったよ。見た目的には狼さんの方が強そうだけど威厳はノイエンさんの方が上?


 厨房から戻ってきて机に大きなジョッキを置くと、ノイエンさんはグイッと飲んでバーガーを豪快に食い千切った。見てて爽快な食べ方だよ。


 咀嚼してから喉を鳴らして飲み込むとお酒(?)を流し込む。ジョッキが一瞬で空になって机に叩きつける。視線が手の空いてる鴉頭の店員さんに向いて慌てて厨房に走っていく。威厳すごい。


「ふん。安い味付けだね。焼き加減もイマイチだ。肉の旨味を引き出したいのか野菜を主軸にしたいのか分からないね。何もかもが中途半端だ」


 すごく手厳しい意見なのにバーガー食べ続けて言われると正直疑問に思う。

 あんなにあったバーガーは全部ノイエンさんの胃袋に消えちゃった。

 もしかしてレティちゃんの薬って胃薬なんじゃ?


 ノイエンさんはお酒を飲み干すと机の上に金貨5枚を置いて立ち上がる。無言で扉の方に歩いて行って、出る途中に足が止まって振り返る。


「セリー、ご馳走さん。美味かったよ」


 それだけ言って出て行った。ノイエンさんって厳しいけど優しい。

 それにセリーちゃんもノイエンさんに言われた言葉をしっかりとメモしてるから本当にしっかりしてる。


「どう? 参考になりそう?」


 今ので最後だと思うから聞いてみる。するとセリーちゃんは特上の笑顔を見せてくれる。


「うんっ! おかげで思いついたよ! 全員の意見を纏めて考案したレシピ!」


 セリーちゃんがメモ用紙を見せてくれた。そこには可愛いバーガーの絵が描かれていてすごく上手。絵心もあったんだね。

 新メニューのバーガーはサイズが凄く小さめにデザインされてる。これは多分私が最初に言ったのかな。


 小さくした分値段を安くすることで手持ちに余裕のない人にも配慮する。ふむふむ、これはレティちゃんの言葉からだね。


 お持ち帰りも可能にして家でゆっくり食べれるようにもする。なるほど、フランちゃんの1人だと来にくいというのからだね。


「サイズを小さくしたから余った材料から作れるようにしてみたよ! 変に味付けを強調せずにシンプルにしてみる!」


 肉は肉、野菜は野菜という感じにするみたい。そうすれば種類が欲しいっていうムツキの要望やその日の材料によって味が変わるからリリの言ってた斬新さにも対応してる。


「私にはこれが限界だけど、自分の分にあった料理として出したい。たいしょー、駄目ー?」


 ノイエンさんの厳しい意見は今のセリーちゃんの現状を教えてくれたんだね。だから無理して背伸びせずに出来る事をしようと思ったんだ。なんていうか本当にすごいよ。


「……暫く出してみて売り上げで判断しよう」


「やった!」


 セリーちゃんが嬉しそうに跳ねて私の胸に飛び込んでくる。


「これも全部ノリャお姉ちゃんのおかげだよ!」


「ううん。意見を出したのは皆も一緒だし、それに料理を考案して改善してよくしようと思ったのは紛れもなくセリーちゃんの頑張りだよ。おめでとう」


「ノリャお姉ちゃーん!!」


 これで酒屋に新メニューが増えることになったみたい。どんな風に実物として出てくるのか、次来るのが楽しみだなぁ。

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