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24 女子高生も魔法使い3人に囲まれる

 昼休憩が終わってからの授業は眠い。コルちゃん曰く、ご飯を食べるとインスリンが上昇するからって言ってたけどよく覚えていない。

 それに物音しない教室っていうのも余計に眠く……ん? 物音しない?


「あれ?」


 気付いたらソファに座ってる。周りには本が詰め込まれたな棚がいくつもあって、ちょっと誇りっぽい部屋。目の前には木製の机が置かれてて、その上には紙の書類が山盛り。

 その先に椅子に腰下ろしてる灰色髪のお団子頭のおばあちゃんが私の方を見てる。


 見覚えのある顔だった。孤児院の院長をしてるノイエンさんだ。普段と違って眼鏡をしてる。


「あんた、どうやって入ってきた?」


 ノイエンさんは羽ペンを持つ手を止めて言って来た。


「えっと、転移魔法的な?」


「ああん? あんな理論だけの魔法があんたみたいな小娘に使えるって? それが本当ならあたしは学園長を今すぐ辞任しなくちゃならないよ」


 相変わらず口が悪いけど今学園長って言った?


「ここって魔術学園ですか?」


「それ以外にどこだと思うんだよ」


「普通の学校?」


 私の言葉を聞くとノイエンさんは眼鏡を外して頭を大袈裟に掻いてる。


「ノラ。あんたは一体何者なんだい? 正直に話してくれとは言わないが少しくらい説明してくれるとこっちも色々助かるんだけどね」


「私はこの世界の人じゃないんです」


「おいおい、こんなババァをからかって楽しいのかい?」


 ノイエンさんが私の目を覗き込んでくるから私も相手の目を見た。嘘を言ってないからちゃんとしないと。


「本気なのかい?」


「はい」


「あーくそ。けどそうなると色々合点がいかなくもないが……。ということは今来たのも魔法じゃないのかい?」


「多分、そうだと思います」


 ノイエンさんは飲み込みが早い。もしも私が相手の立場だったら信じられるか怪しいし。


「はぁ、分かった。あんたが無害なのは知ってるからね」


「ありがとうございます」


「それで何か用かい?」


 ノイエンさんが再び眼鏡をかけて書類に目を通してる。次々と払い退けては時々チェックをしている。


「用って訳じゃないんですけど、この転移は自分の意思で使えないんです」


「そいつは面倒だねぇ。それで偶然ここに来たってわけかい」


「はい」


「竜の従魔といい、あんたを見てるとあたしの価値観が揺らぎそうになるよ」


 それはどういう意味だろう。尋ねようと思ったら不意に後ろの方からノックの音がした。

 綺麗に3回鳴る。


「入りな」


「失礼します。すっ!?」


 振り返ったら扉の前には薬瓶を持ったレティちゃんが入って来た。私の顔を見て驚いてる。


「レティちゃん、久し振りー」


「ノラ様じゃないですか。こちらで会うとは思ってもいませんでした。まさかノラ様もお師匠様の弟子だったんです!?」


「レティ。その落ち着きのなさはいい加減に直せと言ってるだろう。あたしが無闇に弟子を取るはずもない」


「えっと、レティちゃんはノイエンさんの弟子なの?」


 何となく流れに乗って聞いてみる。


「はい! 私に調合と錬金術を教えてくれたのは紛れもなくお師匠様です!」


「そうだったんだ。それで学び終えて店を開いた感じ?」


 そういうとレティちゃんは片手を突き出して首を振る。


「そんなそんな。私のような未熟者が店を開けませんよ。あれは元々お師匠様のお店です」


「おい、レティ。あんまりベラベラ喋るんじゃないよ」


「いいじゃないですかー。お師匠様だって客としてすら来てくれませんし、実質私の家になってますしー」


 するとノイエンさんが指を動かしてレティちゃんの持つ薬瓶を浮かせて机の上まで運んだ。

 おぉ、すごい。それで蓋を開けると一気に中身を飲み干してる。


「ノイエンさんは身体が悪いんですか?」


「あんたは若いから分からないだろうが、歳を食うと否応なくガタがくるんだよ。こうやって少しでも進行を遅らせる。それだけさ」


 一見強く振舞ってるように見えるけど本当は無理してるのかもしれない。

 レティちゃんはペコリとお辞儀をしている。やっぱり師弟関係なんだね。


「レティちゃんも魔術学園の生徒なの?」


「いえ、私は学園に通っていません。お師匠様から教えて貰った知識だけです。行き倒れてる所を偶然拾ってもらったんです」


「へー」


 やっぱりノイエンさんは良い人だ。孤児も放っておかずに面倒見てるし困ってる人を放っておけないんだね。


 そうこうしてるとまた後ろの扉がノックされた。早い感覚でコンコンコンと鳴る。


「今日は来客が多いねぇ。入りな!」


「失礼しま……。ノノ!?」


「あ、リリだ。やほー」


 金髪の青目清楚女子のリリだー。手に一杯の書類を抱えてて指を動かして扉を閉めてた。


「おいおい、ノラ。あんたはこっちにどれだけ溶け込んでるんだい?」


「今回は偶然だと思います」


 私も今の状況には驚いてる。


「ちょっと待って! ノノはフェルラ大先生と知り合いなの!」


「実は私も気になってました! なんなのでしょう!」


 リリとレティちゃんがぐいぐい寄ってくる。


「知り合いって程じゃないよ。ちょっと()()……」


 言おうとしたら言葉が出ない。ノイエンさんが指先を透明に光らせているから、何かの魔法?


()()()な事情で知り合っただけさ」


 私の方を見て睨んでくる。もしかして孤児院のことは言わないで欲しいのかな。

 頷いたら魔法を解除してくれた。


「本当に? というか個人的ってどういうこと? 余計気になるんだけど」


「詮索をするならあんたの評価を下げてやるよ」


「ひ、酷いです!」


「あたしが学園長だ。あたしの采配が全てなんだよ」


「この独裁者! 悪魔!」


「ああん? それが目上に対する態度かい?」


 ノイエンさんが右手を赤く光らせて目尻をつり上げる。するとリリと、何故かレティちゃんも萎縮して震え上がってる。


 それからノイエンさんが指を鳴らしてリリの持ってた書類が一枚一枚パラパラと飛んで机の紙の山の上に乗った。


 リリはレティちゃんの方に向いた。


「所であなたは? 私はリリアンナ・リリルよ」


「お初にお目にかかります! 私は道具屋を経営するレウィシア・ウォムシェと言います! 気軽にレティとお呼びください! それとお近づきの証にこれをどうぞ!」


 レティちゃんが素早い仕草で割引券を渡してる。最早名刺変わりになってる気もする。

 それを見たリリが何か納得して声を出してる。


「ああ、あの誰も入ってない道具屋ね」


「グサッ!」


「見かけも陰鬱だし眼中になかったんだよね。目の前に可愛い洋服店もあるし」


「グサッグサッ!」


「でもリリ。レティちゃんの薬は凄いんだよ。お肌を綺麗にするクリームも売ってるし、効果はどれも保証するよ」


「ノラ様ー!」


 レティちゃんが笑顔で抱きついてくる。相変わらず綺麗な耳でもふもふ性能が高いねー。


「へー。最近肌が荒れ気味だったから今度寄ってみようかな」


「はい。私はいつでもお待ちしておりますっ!」


 手を取り合って仲良くなれたみたいでよかった。レティちゃんのお店は本当に効き目がいいから色々と損しているんだよね。


「ったく。学長室は生徒の雑談部屋じゃないんだよ」


「ごめんなさい」


「ノラ、あんたはいい。さっきからギャーギャー騒いでるそこの馬鹿共だ」


 ノイエンさんが2人に向かって指差す。


「教師なのに差別よくない!」


「お師匠様の贔屓!」


「うるせぇ! さっさと出て行きな!」


 ノイエンさんが腕を振るとリリとレティちゃんがすごい勢いで部屋の外に投げ飛ばされた。

 扉も勝手に開いてたし魔法って本当にすごい。

 外からはドンドンと扉が叩かれてるけど開く様子はなさそう。


「これだから若い連中といると疲れるんだよ」


「それならどうして学園長や院長をしているんです?」


「前にも言ったろ。ただの気まぐれってやつさ。あたしは途中で投げ出すのが一番嫌いなのさ」


 性格も豪快だけど芯は真っ直ぐ。それにリリやレティちゃん、それに孤児達からの慕われ方を見るとなんだかんだ言って良い先生って感じがする。接しやすいっていうのかな。


「あんたの素性は秘密にしておくよ。だからあたしのことも他言無用だよ」


「はい」


「何か困ったなら相談に来な。話だけなら聞いてやる」


「ありがとうございます。ノイエンさんって優しいですよね」


「はぁ。あんたのその暢気さが一番恐ろしいよ」


 んー、おかしなこと言ったつもりないけど。それから10分もしない内に元の世界に戻ってた。授業中に抜けてたから先生に驚かれてたけど、コルちゃんの弁明のおかげで何とか難は逃れられた。

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