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23 女子高生も恐竜っぽい生物に乗って駆ける

 今日は日曜日。丁度リンリンの予定が空いたみたいだから遊びに誘ってみたらオーケーを貰えた。逆にコルちゃんは今日は来れないみたい。


 リンリンが来るまで庭の中で皆に餌をあげながら待ってる。我が家のモフモフ達はいそいそと食事をしていた。瑠璃にはリガーをあげる。いつもなら手に持って食べるのに今日は持ってくれない。仕方ないから持っててあげよう。


 フィルミーことミー()は隅の方で雑草を食べてる。レティちゃんの言う通りすごく大人しい。人に興味があるのかお客さんが来たら寄っていくのは困ったさんだけど、ちょっと叱ったらすぐにしなくなった。


 普段は芝生の上で寝そべっていて、瑠璃や猫丸の遊び道具にされてる。特に抵抗もしないからすぐに皆とも溶け込んだ。


「おーい、ノラノラー! ってデカ!」


 リンリンが来てくれて早速ミー美を見て驚いてる。見た目は本当に大きいからね。


「ミー美おいでー!」


 私が叫んだらテクテクと歩いて来てくれる。この潤んだ瞳にはもう敵わない。

 私が顔を撫でてあげると顔をすり寄せてくる。くすぐったい。


「おー、本当に懐いてるなぁ」


「うん。リンリンも触ってあげて? 喜ぶから」


「じゃあお言葉に甘えて」


 リンリンが恐る恐る首の方を触るとミー美が「ミー」と可愛らしく鳴いた。

 やっぱり人が好きなんだね。


 足元では柴助と猫丸、横には瑠璃が飛んで構って欲しそうにこちらを見てる。

 一匹ずつ撫でてあげたけど全然満足してくれない。


 遠くからはたぬ坊とこん子もこっちを見てる。


「リンリンちょっとこの子達おねがいー」


「おい、マジか」


 遠くに離れてた2匹の傍に寄ってこっそりと追加の餌をあげる。それから撫でてあげるとたぬ坊もこん子も喜んで尻尾を振ってくれる。なんか前よりも尻尾が膨らんでる気がするけど食べ過ぎ? でも見た目はそんなに変わらないけど。


「ノラノラ早く来てくれー!」


 振り返ったらリンリンがモフモフ達に囲まれてあたふたしてる。ミー美と柴助は人懐っこいし瑠璃は悪戯好きだし、猫丸は来る時はすごくグイグイ来る。


 ゆっくり歩いて戻った頃には猫丸はどこかに行って、瑠璃は私の肩に乗った。柴助とミー美だけはまだ離れない。


「今日はミー美の散歩に付き合って欲しいの」


「あーなるほど。こっちだと目立つもんな」


「うん。ここだと窮屈だろうし。柴助ー、帰ったらまた遊んであげるから利口にねー」


「くぅん」


 柴助が残念そうにしてその場に座り込んでしまう。全員を平等に相手するって難しい。

 暫く庭の中をミー美を連れながらリンリンと手を握って歩いてた。はたから見たら奇怪だと思うけど道路に出れないから仕方ない。10分くらいしたら向こうに転移した。


 相変わらず喧騒な街中に出たけど、いつもより声が大きい。あれ、皆こっち見てる。


「ま、魔物だぞ!」


「なんだなんだ!?」


「おい、騎士団を呼んだほうが……」


 想像以上にミー美が目立ってる。どうしよう。弁明しても聞いてくれるか分からないし。


「おいおい。どこをどう見たら魔物に映るんだ? ただの従魔じゃないか」


「そうだよ! 正真正銘、従魔!」


「これくらいで騒ぐなんて心を鍛えなおせってもんだ」


 出店の方から声がしたから目を向ける。そこには鳥頭の店長さん、フランちゃん、そしてスライム牧場のトカゲ頭のおじさんがこっちに手を挙げてた。

 頼もしい味方さんだ。おかげで疑いも晴れていつもの日常になる。


「弁明してくれてありがとうございます」


 私は3人に向かってペコリとお辞儀をする。


「ははは、いいってもんさ。冤罪で罰せられるのを見ると酒が不味くなる。俺は俺の為にしただけだ。じゃあな」


 スライム牧場のトカゲ頭のおじさんが豪快に笑ってどこかに行った。すごく良い人。


「おうよ。嬢ちゃんが居なくなったら店の売り上げも落ちるからな!」


 鳥頭の店長さんも笑顔で言って持ち場に戻っていく。ここにも良い人。

 残ったフランちゃんがパタパタと寄って来る。手にはパンや野菜の入った紙袋を持ってる。買出し中だったみたい。


「ノノムラさんにキサラギさん。急にびっくりしたよ」


 確かに突然3m超の魔物が出てきたら驚くだろうね。配慮が足りてなかったかも。


「フラウスは今帰り?」


「はい。今日は休業日なので朝から買出しに出かけてました」


「ほう。ちゃんと休んでるだな。偉い偉い」


 リンリンがフランちゃんの頭撫でてる。ちょっとずるい。私も撫でるー。

 んー、狐の耳気持ちいい。尻尾ももふもふしたいけどスカートに隠れてるから残念ながらできないよー。もふ対策かー。


 瑠璃とミー美にも擦り寄られてフランちゃんは目をグルグル回してる。

 やりすぎたかもしれない。


「皆ここまで。フランちゃんは繊細なんだよ」


「耳ばっかり触ってた奴がよく言うよ」


 リンリンが何か言ってるけど気にしない。


「はぁはぁ。魂抜き取られると思った……」


 どうやら精神的負担が大きかったみたい。今度から1人ずつにしないと。


 それから私達はフランちゃんの店に向かいながら歩いて行く。


「本当にフィルミーを従えてるのかぁ。ノノムラさんって何者?」


 フランちゃんが瑠璃とミー美を交互に見つめながら言ってる。


「極普通の女子高生だ。心配いらないよ」


 リンリンが代わりに答えてくれた。


「そっかぁ。学校に行ってたら従魔と契約するコツとかも教えてくれるのかぁ。少し興味あるなぁ」


 すごく誤解してる気がする。普通に仲良くしてるだけなんだけどなぁ。


「フランちゃんも仲良くなりたいの?」


「移動に使える大型の魔物が羨ましいなぁって。この街は大きいけど外に出たら草原や森ばっかりで不便なんだよね。時々商人が話してる綿に興味あるけど遠い所に自生してるらしいから気軽に行けないし」


「そっかー。だったら今日は行く?」


「え、ええっ!?」


 フランちゃんが驚いて紙袋を落としそうになる。それをミー美が顔で抑えて瑠璃が両手で掴んだ。見事な連携だったよ。


「あ、ありがとう。それで、あのぅ。本当にいいの?」


「うん、勿論。リンリンもいいよね?」


「大歓迎さ。前から思ってたけど混血ってすごい可愛いよな」


 リンリンがじーっとフランちゃんの耳を見るから、慌てて両手で隠してる。うん、可愛い。


「お願いそれ以上言わないで。私、死んじゃう……」


 顔を真っ赤にしたフランちゃんがぽつりと呟く。私はハグしたくて仕方ないよ。リンリンも同じに見えるけど必死に我慢してる。私も我慢する。


 フランちゃんがお店に寄って荷物を置いて戻って来る。ウサ耳パーカーは健在して、リュックを背負ってる。


「じゃあ行こっか。ミー美もいい?」


「ミー!!」


 ミー美が腰を下ろして背中を低くしてくれる。腰が長いから3人共乗れた。フランちゃんが私の腰にしがみついて、瑠璃が肩に乗る。私はミー身の首を持って合図を送る。


 するとミー美はすごい速さで走り出した。街の人達が驚いて振り返ってたけど気付いた頃にはもう草原に来てる。風を全身に感じて街がどんどん小さくなっていく。

 まるで車だよー。


「フランちゃん、リンリン大丈夫ー?」


「すごく速い!」


「風が気持ちいいな!」


 どうやら大丈夫そう。瑠璃が景色に興味を持ってキョロキョロしてる。落ちないように片手でしっかりとお腹を支えてあげる。


「ミー美も疲れたらペース落としていいよー」


「ミーミー!」


 元気よく返事をしてくれて逆にペースが上がった。もしかして全然平気ってこと?

 隣の木々がどんどん通り過ぎて行く。


 丁度目の前に川があって10mくらいの幅があったけどミー美はそのまま高く跳んだ。

 振り落とされないようにしがみついてたけど、一瞬のお空はすごく新鮮。


 地面に着地してもバランスを崩さず走ってる。

 暫く草原の上を走ってたけど先の茂みに白と黒の縞模様の虎みたいなのが5匹くらい休んでた。尻尾の先が鋭く尖ってて牙も長い。


「あ、あれはバスジャラン! 逃げて!」


 フランちゃんが叫ぶ。でも既に気付かれてて魔物の群れが散開してこっちに走ってくる。


「ミー美、大丈夫?」


「ミー!!」


 前方からこっちを囲むように走ってきてる。でもミー美は臆せず立ち向かって走る。

 お互いの距離が5mくらいになると魔物が一斉に飛びかかってきた。するとミー美が急に立ち止まって、後ろにステップを踏んで、更に横にサイドステップを踏んだ。


 そのままがら空きになった真横を抜き去った走る。後ろから追いかけてくるけど誰もミー美の速さに付いて来れずに諦めてる。


「ミー美すごい」


「ミーミー!」


「フィルミーは足の速い魔物と聞いたけどこれほどとは……」


 おかげで争いを避けられたしミー美には感謝しかない。

 それから1時間くらい走りっぱなしだったけどミー美のペースは全然落ちなかった。

 次第に景色が草原から荒野に変わって遠くに茶色い山が見える。


「あ! あそこだと思います!」


 フランちゃんが山を指差して言った。それに呼応してミー美が飛ばす。

 ちょっと速過ぎだよー。


 10分もしたら山の麓まで来た。山っていっても緑がないし普通より高い丘という表現の方がしっくり来る。所々に断崖があって見上げるだけでもビルと見間違うほど。


「多分この崖にあると思う。ほらアレ!」


 フランちゃんが指差すと崖の至る所に綿毛のような銀色の綿花がいくつも生えてる。茶色い崖だからそこだけ白く輝いてて分かりやすい。


「ミー美、ありがとう。止まって」


「ミー」


 とりあえず地面に降りて再確認する。どれも人が登って採れる位置にはない。多分ここを通った人が取り易い所を回収したのかな。


「瑠璃、お願いしてもいい?」


「ぴー!」


 翼のある瑠璃なら高い所も関係なしだから簡単に綿花を集めてくれる。両手一杯の綿花を見てフランちゃんの目が輝いてた。


「ふあぁぁぁ! 本当に銀光花だぁ! すごい! すごいよ!」


 フランちゃんがぴょんぴょん跳ねて綿花を見てる。それを見てるだけでこっちも癒される。


「喜んでくれてよかったな」


「うん。リンリンも付き合ってくれてありがとう」


「どうした急に?」


「私だけだったら不安だったと思うし、ちゃんと出来るか分からないから」


「そか。……そうだ、この景色コルコにも見せたいし写真撮っとくか?」


「いいね。せっかくだし皆で集まって撮ろうよ。フランちゃん、瑠璃、ちょっと来てー」


 全員集まるとリンリンがスマホをこっちに向ける。全員入る?

 今ならフランちゃんを抱きしめても問題ないよね。


「よし撮るぞー」


「え、なになに?」


「笑顔笑顔」


「ぴー!」


 カチャッって音が鳴ると同時にカメラに向かって瑠璃が飛んだから顔面アップの写真が取れる。しかも滅茶苦茶ぼやけてる。私とリンリンは笑ってもう一枚撮った。

 今度は瑠璃をミー美に加えてもらってやり直し。


 うん、今度はうまくいったね。


「それは何です?」


「こんな感じに撮れるんだよ」


「ほわっ!? すごい!!」


 リンリンのスマホの画面に食い入ってフランちゃんが見てる。狐耳が首に当たってて羨ましい。


 それから瑠璃の頑張りのおかげでリュック一杯に綿花が集まった。それでフランちゃんも満足してくれた。


「この度は本当にありがとうございます。何とお礼をしたらよいか」


「いいよ。ミー美の散歩のついでだから」


「ノノムラさん……。うぅ、駄目! ここまでされてお返しもできないのはおかしい! 今度! 今度店に来たらお礼しますから待っててください!」


 なんだか迫力のある目で言われたから思わず頷いちゃった。


 暫くここで休んでから街に帰った。ミー美も瑠璃も満足してくれて良かった。

 家に帰ったら柴助達の相手で大変だったけど。

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