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22 女子高生も薬草採取に出かける

 土曜日、晴れ。今日は休みだからコルちゃんと一緒に異世界に来てる。

 リンリンは家の手伝いがあって来れないのが残念。

 代わりってわけじゃない、その分瑠璃が元気に飛びまわってコルちゃんの両手に下りて抱っこされてる。むむ、私の時は肩しか下りないのに。


「どこ行くー?」


 そう言っても私はこの街についてまだまだ知らないんだけど。

 丁度店の並ぶ通りに来てた。なんというか無意識にこっちに来てる。

 洋服店にはガラス越しでも分かるほどのお客さんが入ってる。邪魔するのは悪そう。


 反対の道具屋さんに目を向けてそっちに入った。


「いらっしゃいませっ! 朝のセールタイムですよー! あっ、ノラ様! それにコル様じゃないですか!」


「ぴー!」


「瑠璃様もいらしましたね!」


 丁度お客さんがいなかったみたいでレティちゃんがぴょんぴょん跳ねながらカウンターから飛び出してくる。相変わらず可愛い猫耳と尻尾。


「顔を見にきたよー」


「お久し振りです、レティさん」


「こんな若輩者の名を覚えて頂き感激ですっ! 特別大サービスで全品半額にしましょう!」


 相変わらずバーゲンしてるみたい。でも棚の商品が結構減ってるのが目に入る。


「調子はどう?」


「ノラ様のおかげで水道代を支払える程度には売り上げが回復しました! この度は本当にありがとうございますっ!」


 レティちゃんが90度のお辞儀をするからこっちも頭を下げちゃった。

 でも、経営が安定したのは素直に嬉しい。


「今日はコルちゃんと一緒に遊びに来たの。どこかオススメの場所知らない?」


「ふむふむ、そうでしたか。人気なのは魔剣闘技ですね」


「魔剣闘技?」


「はい。魔法や剣を使って試合形式の戦いをする勝負です。観戦者は勝つ方にお金を賭けるんですよ。1対1の戦いから複数戦、バトルロイヤル形式と色々あります」


 闘技場かぁ。でも聞いてるだけで危なそうだけどレティちゃんの話からして安全なのかな。

 前にリリが魔導球技も大分安全面を考慮してるって言ってたし。


「レティさんはこれからも仕事ですか?」


「いえ。素材が尽きてきたので採取に出かける予定です」


「自分で調達するのですか」


「はい! 貧乏道具屋なので素材を取り寄せるお金がないのでっ!」


 ここまで堂々としてると逆に清々しい。でもそれを聞いては黙ってられないよね。

 コルちゃんを見たら同じ気持ちなのか頷いてくれた。


「ねぇレティちゃん。その素材取りに私達も付いて行ってもいい?」


「えっ、本当に採取だけですよ? 想像する以上に楽しくないと思いますけど」


「そんなことないよ。レティちゃんと一緒にお喋りしてるだけで楽しいから」


「せっかく知り合えたのでもっとレティさんのことを知りたいです」


 私とコルちゃんが言うとレティちゃんはポケットからハンカチを取り出して目元を拭う仕草をする。


「私感激ですっ! こんなにお優しい友人と仲良くできるのを心からお喜び致しますっ! もう好きなだけお店の商品を持っていってください!」


 それはさすがに出来ないけど、同行していいってことだよね。

 レティちゃんが薬草を入れる為の藁の籠と手袋を人数分用意してくれてそれを持った。


 店を出てレティちゃんに案内されるまま歩いて東門を潜って街の外に出る。

 その先も緑の草原が広がってたけど、川が流れている。流れに抗うように川沿いを歩いていくと、川は森の中に続いていた。

 山のように傾斜はなくて平らな土地に木々が沢山生えてる。


 森の中は鳥の声がよく響いてる。お日様の光は葉の隙間から少しだけ入ってくる。

 雑草が殆ど伸びてないのが一番の驚き。誰かが手入れしてるの?

 でもその分木の高さがすごい。どれもマンションの3階建てくらいはありそう。


「すごい生命力ですね」


「だよね。樹齢300年くらいありそう」


 私とコルちゃんがキョロキョロして見回してる間にレティちゃんが木の近くに寄って樹木の空洞に手を入れてる。中から緑や紫の葉を回収してる。


「ほえー、木の中に生えてるんだ」


「わたしも地面から生えてるものばかりかと」


「高品質の薬草は地面から採れるものが多いですよ。ただその手の薬草は山でしか採れないのでこの辺では貴重です」


 それを聞いてコルちゃんと目を合わせてしまう。山ならこっちで嫌と言うほど見れるけど異世界の人達には貴重なんだね。でも、地元の山でレティちゃんの望む薬草が採れるかは分からないけど、今度持って行ってあげようかな。


「じゃあ木に生えてる草を集めたらいい感じ?」


「はい。手を入れる時は注意してください。薬草を主食とする昆虫もいますので!」


「毒を持っているんですか?」


「有毒性の高い虫はいません。軽い麻痺程度の芋虫が数種類ほどです。でもちゃんとその為の薬も用意してありますのでご心配なくっ!」


 流石は本職さんだ。段取りがいいね。


 それから皆で薬草集めに励んだ。なるべく離れないように誰かの視界に入る限りで行動する。手の届かない高い所は瑠璃が飛んで摂ってくれた。


「そういえばこの辺って魔物は出るの?」


 なんとなく聞いてみる。リリがマイコニド倒してたのも森の近くだったような気がする。


「この辺で出現する魔物は危険性が低いのばかりです。街から近いので人を警戒してるのでしょう」


 そっか。魔物からすればわざわざ騎士団や魔術師団という天敵のいるそばで生活する理由がないもんね。


「ただ人間慣れしていない魔物が極稀に出現することもあるそうです」


「ぴー!!!」


 コルちゃんが説明していると急に瑠璃が大きな声で鳴いた。

 驚いて視線を追うとその先には黒いトカゲのような恐竜っぽい生物が見える。


「んー、何かああいうの恐竜にいたよね? ティラノサウルスじゃなくて何だっけ?」


「イグアノドンだと思います」


 流石はコルちゃん、よく知ってる。二足歩行で歩いてて首がちょっと長い。

 顔は蛇みたいに丸くて可愛い。飛行機の翼みたいな三角の耳がピンと立ってる。

 尻尾は長くて先端がもみじみたいな形をしてる。全体的に黒い色をしてるけど、よくみたら毛だ。お腹の方は赤っぽい色をしてる。


 向こうは瑠璃の声に気付いてこっちを見てる。


「あれはフィルミーですね。草食の大人しい魔物です」


 レティちゃんが説明してくれて安心する。危険じゃないなら大丈夫かな。

 でもこっちに向かって歩いてきてるような?


「ぴーぴー!」


 瑠璃が鳴き続けてる。警告してるように聞こえるけど。


「本当に大丈夫?」


「だ、大丈夫、ですよ。多分」


 すごく小さな声で言った。フィルミーっていう魔物をもう一度見る。ゆっくりだけどこっちに向かってる。遠くから見たから大きさが分かりにくかったけど、普通に3mくらい背がありそう。


「逃げた方がよくないですか?」


「え、ええっと!?」


 レティちゃんがパニックになって動けないでいる。このままだと危ないかもしれない。

 瑠璃が威嚇して火を吹くと一瞬だけびっくりしている。でも気にせずこっちに来る。

 何とかしないと不味いかも。でも私は戦えないし。


 そんな時に樹木の穴に目がいった。中には赤や黄色の芋虫が這っている。

 私は思わず芋虫さんを握んで魔物の方に投げた。幸い近かったおかげで私の肩でも魔物の顔に命中してくれる。芋虫さんは驚いたのか身体の色と同じ体液を出して地面に落ちた。


「ミー!??」


 魔物が可愛い声で鳴いてその場に蹲った。麻痺が効いた、のかな。


 私も何か右手がひりひりする。手袋してても効くなんてすごい効力。


「レティちゃん、大丈夫?」


「は、はいぃ。大丈夫ではないです」


 レティちゃん腰が抜けたのかその場に座り込んじゃった。コルちゃんがすぐに傍に寄って介抱してくた。


 私は目の前のフィルミーをもう一度見る。苦しそうに蹲って弱弱しく「ミー」って鳴いてる。瑠璃が口に火を溜めてるのを見て慌てて尻尾を掴んだ。


「待って瑠璃。この子、本当に危害加えるつもりじゃなかったのかも」


「草食動物が人を襲うのは余程追い詰められた状態だけですが魔物も当てはまるでしょうか?」


「うーん。でも何か悪いことしたように思えて」


 今も目を瞑って蹲ってるし逃げようとしない。警戒心がない気がする。


「ねぇレティちゃん。麻痺を治す薬借りてもいい?」


「ノラ様。で、でも!」


「大丈夫だよ。きっとこの子は襲わない」


 無理言ったけどレティちゃんが鞄から緑の液体の入った瓶を取り出して貸してくれる。

 私はそれを左手で受け取って感覚を失いつつある右手で蓋を開けて寄りかかった。


「ごめんね。これ飲んだら治るから」


「ミー」


 口に近づけてあげると利口に飲んでくれた。少ししてからフェルミーは目をゆっくりと開ける。身体の感覚も戻って立ち上がれるようになった。

 私も一口貰うとすぐに効き目が出た。さすがはレティちゃんの薬だ。


「これも食べる?」


 ポケットから常備してるリガーを与えてみる。瑠璃がこっち見てるけど気にしない。

 フィルミーは小さくかぶり付いて食べてくれた。やっぱり危害はなさそう。

 何となく身体を触ってみる。毛が柔らかくてサラサラしてる。気持ちいいかも。


「ふぅ。もしかすると人に興味を持って近付いてきたのかもしれません」


 レティちゃんが立ち上がって言った。


「そっか。本当にごめんね。ばいばい」


 手を振って別れを告げようとするけど何か離れない。

 仕方ないから私達から離れるんだけど後ろから付いて来てる。


「フィルミーは義理堅い生物だと聞きます。もしかすると恩を返したいのかもしれないです」


「こっちから手を出したのに優しすぎるよ」


 動物には悪意の心がないのかもしれない。でもそうなると困ったなぁ。


「このまま街に帰るとやっぱり大変だよね?」


「従魔もいるので危険性がなければ問題ないです。ただ、魔物と聞くだけで嫌う人がいるのも事実です」


「そうだよねぇ」


 私は籠の中身をレティちゃんの籠に移してそれを返す。

 こうなるとすべきことは1つだけ。


「この子を家で飼う」


「ノラさん正気ですか?」


「うん。元を正せば私のせいだし」


 私が芋虫投げつけて薬を上げなかったら懐きもしなかったと思う。こうなったら責任を取らないといけないっておばあちゃんも言ってた。


「あ、あのノラ様」


「んー、なに?」


「もしも私に手伝えることがあれば何でも申し付けてください。私が変に驚きもしなかったら事態が深刻化もしなかったですから」


 別に気にしてないけど、でもそう言ってくれるとすごく助かる。


「ありがとう。困ったら助けてもらうね。レティちゃんの薬が魔物にも効くって分かったし」


 この先、瑠璃やこの子に何か重い病気に患ってもレティちゃんなら治してくれる。

 魔物は普通の動物病院に連れていけないからね。


「はい! ノラ様になら全品無償提供します!」


 その前にレティちゃんに金銭感覚を教えた方がいいかもしれないけど。


 それからレティちゃんと別れて私とコルちゃん、瑠璃とフィルミーは元の世界に帰った。

 お母さんがすごく驚いて呆れてたけどコルちゃんの協力もあって何とか許してくれた。

 おかげで我が家のモフモフが一気に賑やかになったよ。

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