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最終話 今日も異世界に迷い込む

 10年後



 私は海外の大学に留学した。そこで研究者として働いてる。お父さんとお母さんは驚いてたけど私が本気だったのもあって応援してくれた。

 お金の問題もあったけど、異世界で集めた金貨を全部換金したらすごい額になったおかげで日本を出るきっかけにもなった。


「ノノムラ先生―。ってうわ! なんだこれ!」


 別の部署の研究者さんが部屋に入ってきて驚いてる。ここは1人1人に個室を与えられて研究もできて、そのせいで自分用の部屋になるんだよね。私の場合、部屋に瑠璃とミー美、すら吉がいるから部屋に来る人は皆驚く。


「ソーリー! 瑠璃、ミー美! あっちいって~」


「ぴ~」


「みー」


 部屋の隅っこに移動して丸くなってる。


「なんでしょう?」


「今年度の研究の予算が出されまして。こちらがその書類です」


「サンクス~」


 書類を受け取って中身を確認する。そこには研究の予算が減らされてるのと、その理由が細かく記されてる。実績がでてないのと、異世界について研究してるのが問題だって言うのは分かってるけど溜息しかでない。


 最初は誰も信じてくれなかったけど、瑠璃やミー美の存在もあって今では少しだけ信じてくれる。本当に少しだけ。


「はぁ。困ったなぁ」


 リリと約束してもう10年も経ってる。あれから何の手がかりもなし。

 分かってはいたけど無茶で無謀だっていうのがよくわかる。今の技術だと宇宙の先にこんな星はないって明言されてるし、瑠璃とミー美に関しても変異種扱い。


 スマホを見てみる。ラインにすごい数の通知が来てた。そういえばこの前チェックしたのは1週間以上も前だ。


 リンリンやコルちゃん、ヒカリさんから一杯メッセージが来てる。


『残念だけど異世界に関する情報は手に入らなかったわ。でも諦めない! 次はスペインよ!』


 ヒカリさんは記者になって世界各地を歩いてる。それで異世界に関する情報を探してくれてる。メインの仕事じゃないだろうけど、こうして教えてくれるのは本当に助かる。


「ありがとう、無理のない範囲でいいからね、送信っと」


 そしたらすぐに返事が来てOKのスタンプが押された。


『特設のHP作ったけど碌な意見こないわ。ほとんど遊び半分で嫌になる』


 リンリンからのラインにはそう書かれてる。リンリンはIT系の会社に就職したみたいで、その技術を使って異世界に関する特設のHPを作って情報提供を呼びかけてくれた。でもその多くは漫画やアニメに関するものばかりでダメみたい。一応瑠璃やミー美、すら吉の写真を張ってあるんだけどCGか合成写真と勘違いされてるみたい。


「いつも教えてくれてありがとう。また皆で会いたいね、送信っと」


 すぐに返事が来た。


『帰ってこいー。私も会いたいぞー』


 これは相当餓えてるなー。今度帰省するのもいいかもしれない。


『異世界に似た気候の星はいくつか存在しましたが、魔物や魔法という概念のある星は未だありません』


 コルちゃんからのラインだ。コルちゃんは物理学者になって時間に余裕がある時に宇宙についても調べてくれてる。宇宙は未知の領域だから一番可能性が高い。でも皆で行ったあの異世界を見つかるかはまだ分からない。


「いつも情報ありがとう。今度帰省するから皆で会いたいね、送信っと」


 すぐに返事がきて『いつですか?』ってきてる。まだ分からないけど来月くらいって返しておこう。返事を済ませてスマホを置いた。こうやって皆も手伝ってくれるのは素直に心強い。私だけだったらとっくに心が折れてた。正直今も折れそう。


 机にぐでーって伸びる。


「ぴー」


「みー」


 瑠璃とミー美が心配そうに寄ってきたからなでなでしてあげる。私の癒しはこの子達だけ。


「本当にこれからどうしよう」


 このまま成果が出なかったら追い出されるかもしれないし、だからといってすぐに結果を出せそうにもない。


 あー疲れも取れないー。毎日徹夜に近いから本当ダメだー。

 何かなかったかな。鞄の中を漁る。そしたら小瓶が転がってきた。


「あぶなっ。蓋をしてあったからよかったよ。あれ、これって」


 青と緑が混ざった液体。これ昔にレティちゃんからもらった秘薬だ。確か湖にいってバービーに追いかけられてそのお礼でくれたんだよね。もう10年以上も前だけど飲めるのかな。

 蓋を開けたらシュポって音がした。匂いを嗅いでみる。特に異臭はしない。


 一口ごくり。


 そしたらどうだろう。さっきまであった疲れが驚くくらいに消えていく。一気に飲んじゃった。


「すごい……まるで疲れがなかったみたい」


 やっぱりレティちゃんはすごいなぁ。今も元気にしてるかなぁ。10年も経ったら央都で病院の院長にでもなってたりして?


「それに比べて私は未だに異世界の人に助けられてばっかりで情けないなぁ」


 空になった瓶をみる。異世界に行きたいのに行けない。それで鞄から何かが飛び出してきた。ラビラビのおもちゃだ! 


「きゅいきゅいきゅい!」


 叫んで暴れるから危ない! 薬品とか落とされたら困る! 捕まえようと追いかけたけど、何か絶妙に逃げられる。でも最後に私の元に来て大人しくなった。ほっ。

 さすがはアンセスさんの発明だ。物にぶつかる時にちゃんと避けるようにしてある。


 それで鞄の中を漁ったら向こうで貰ったものや思い出の物がでてくる。

 魔法の杖や魔法棒。星砕きの欠片。魔法石。フランちゃんにもらったマフラーに浴衣。フーカちゃんに貰った絵。ノイエンさんにもらった三角帽子。どれも私の思い出の品ばかり。


 試しに魔法の杖を手に取ってみる。術式も描いてみた。

 そしたら小さな火の玉が浮き上がる。まだちゃんと機能するんだ。


 いつだって異世界は私に夢をみさせてくれる。これに憧れたから今でも追いかけるんだ。


「そうだよ。いつも異世界に助けられてきたんだよ。私1人頑張ったって意味なかったんだ」


 思い立って止まってた機械を動かす。バチバチって周囲に電流が流れた。魔法棒を手に取る。青く光るから魔力はまだまだあるみたい。


 方法は分からない。でも魔法はどんな時も願いを描くなら。


 目を瞑って意識した。


 遠いどこかでリリも同じように努力してるなら。


 転移の術を作ってくれてるなら。


 私の役目はトンネルだ。


 道を作ろう。


 異世界に繋がる道を。


「開け、異世界の扉!」


 無意識に叫んだ。


 同時に視界が真っ暗になった。あれ、停電?


 スマホはどこ?


 手で探ったけど、そもそも何か体の感覚がおかしい。


 そうだ、火の魔法を使えば。


 そう思った矢先、停電は収まった。


 視界にカラフルな景色が広がる。彩の建物に石造りの囲いの外壁。どこか見慣れた洋風の街並み。そんな広場に私が立ってて。


「あ……」


「うそ……」


 目の前に金髪のお姉さんが立ってた。


 お互い意味が分かると泣いた。


 泣いて泣いて、それで抱きしめ合った。


 願いが通じたんだ。


 違う。


 きっと私達の努力が実を結んだんだ。


 ありがとう。


 それとこれからもよろしく、大好きな異世界。






最後まで読んで頂きありがとうございます!

色々後書きに書こうと思ったのですが長くなりそうなので活動報告で書きます!

少しでもほっこりゆっくりして頂けたならば幸いです。

それではまたどこかで~



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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結まで書いてくれてありがとう!
[良い点] >「あ……」 >「うそ……」 てぇてぇ。 [一言] 完結おめでとうございます。 最後まで楽しく拝読させて頂いております。 後日談を書くかもしれないとの事、楽しみにしております。
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