218 女子高生も決意する
それから異世界でふらふらして、特に当てもなく街の外を歩いてた。
皆と話して気付いた。私は私が思ってるより皆に助けられてたって。
誰も私を無理に引き止めようとしなかった。年齢も殆ど変わらないのに、もしも私が相手の立場だったらどうしてただろう。
スライム街道を歩く。空も暗くなってるけど、そんな街道で魔法の練習をしてる人がいた。こんな遅くまで誰だろうと思って近づく。
サラサラの金髪でお姫様のような綺麗な女の子が必死に魔法を使ってる。
「ここの流れいまいちね。次はもう少し……」
リリはメモ帳をにらめっこしてペンを走らせてる。ずっとしてたんだ。
それで足音に気づいたみたいでこっちに振り返った。
「わ! ノノ!」
「リリー!」
それでリリはメモ帳をしまってこっちに走って来た。勢いあまって抱き付いてくる。
「こんな時間まで自習なんて感心だねー」
「追い付くにはこれくらいしないとダメだからね」
誰に、って聞こうと思ったけどそれは後にしよう。
「リリ。探してたよ」
「私を?」
異世界の友人とはもう話した。だから後はリリだけだった。
使い魔を使えばすぐだったかもしれない。でも直接話したかった。
「あのね。もう少ししたら私こっちの世界に来れなくなるかもしれないの」
そしたら静寂が流れて風が吹いた。草原と森の木々が揺れる音が妙に耳に残る。
リリは少し放心してたけど空を見上げた。
「それはまた急な話ね」
「うん。私も今日知ったばかりで」
「そっかー。それなら仕方ないわね」
なんて軽く相槌をうってくれるけど、その反応はどこか余所余所しい。
「こっちに転移してこれたのは神様の力だったの。その神様がもうすぐ力が使えなくなるって言って、それで日本に戻ったらこっちにはもう来れないって」
リリは空を見上げたまま動かない。そしたら急にこっちを見て私の手を取った。それでスライムのいる草原に走って、それでそのまま原っぱの上に倒れ込んだ。手を引かれてたから私も近くに転がっちゃう。
仲良く夜空を見上げた。星がいくつもあって、暗い夜景を照らす。
「ノノはもう決めたの?」
「ううん、まだ。皆と別れるのはやっぱり悲しいし」
こうやって仲良くできたのに全部がリセットされるかもしれないって思うと辛くて仕方ない。リリが体を起こしてこっちを見た。
「私もノノと同じ立場だったらすごく悩むと思うわ。なんて思ったけど、私にはそんなに友達いないからそこまで深刻にならないかもしれないけど」
苦笑いして言ってる。
「あーあ。せっかく同い年で最高の友達ができたって思ったのに神様って残酷ね」
それは私も同じ。異世界で初めてできた友達はリリだった。だからこの世界では誰よりも特別。それを手放すなんてできない。
「こっちに残ろうかなぁ。今なら魔法だって使えるから、魔術学園に通うのも悪くないかも」
「ノノ。嘘はよくないわ。ノノはそんな単純な理由でリンやコル、ヒカリを見捨てるような人じゃないわ」
リリには全部お見通しだったみたい。さすがは親友。
「でもだからってリリとお別れなんて嫌だよ。嫌だよぉ!」
枯れたと思った涙が今更になって溢れて来る。本当にどうしてこんな選択をしなくちゃいけないの? 親友を大事にしたいって気持ちはそんなに悪いの?
リリが近くに来て肩を寄せてくれた。その手は少し震えてる気がして、ようやく気付いた。私と同じくらいリリも辛いんだって。でも私に気を使って無理して笑顔を見せてるんだ。
「方法はないの?」
「多分、ないよ。今日皆と話したけど可能性はほぼゼロだって」
「そっか。そうね。よし!」
リリが顔をあげて立ち上がった。
「ノノ。私、将来の夢が決まったわ」
「え?」
泣いてる私の前でリリが笑顔を見せてくれる。
「私、この世界で転移魔法の術式を完成させるわ。希代の大魔法使いになってみせる! それでノノの国とこの世界を繋ぐわ!」
リリが自信満々に言った。転移魔法って私が今までしてた? リリは気付いてないのかな。それがほとんど不可能だって。ノイエンさんですらできなくて、何百年と生きてる魔族の人ですら不可能だったのに。
「あ。その顔はできないって顔をしてるわね? そんなのやってみないと分からないでしょ? 今までの人はノノの国を知らなかったのだし無理もないわ。でも私は知ってる」
確かにリリは何度か招待したけど、それでも?
ううん。違う。リリはいつだって顔をあげてた。
今の私にそんなリリを否定する資格はない。
それも違う。できないも不可能も誰が決めるんじゃない。
皆言ってくれた。諦めるなって。
だったら諦めない。私も。
草原を立ち上がって涙を拭く。もう泣かない。泣くだけの人生は嫌だ。
「じゃあ私も約束する。私の世界からこの世界を繋ぐ!」
やり方も方法も分からない。でも分からないって言って言い訳するのはもうやめよう。
分からないなら考える。できないならどうすればいいか反省する。
荒唐無稽だと馬鹿にされようとも、周りから理解されなくても、この道を絶対に完成させる!
そんな時、夜空に輝く星が欠けた。白い光の線が地上に降り注いでる。
「あっ! 星砕きだわ!」
リリが指さしたら星の欠片が流星群のように落ちて来る。このタイミングで起きるなんてこれは偶然? ううん、これは未来への祝福。でも願いは言わない。運命も神様の力も借りない。そんな力で繋がってもまた同じになるだけだから。
「リリ。私、夢を追いかけるよ」
「じゃあさよならは言わないわ。次会う時はまた央都の街で会いましょう?」
「うん、約束する」
手を繋いでリリと最後の時間を過ごした。流星群が消えるその時まで。
※天球塔・最上階※
「ノラ子よ、それでよいのか?」
「うん。これがいい。もう迷わないよ」
自分の道が決まったから、後はその為の努力をするだけ。
「少し見ない間に大きくなったな。いいや、それが人の本質なのかもしれないな。だがその道は険しくなろうぞ?」
神様の力を借りられない意味はまだ分かってない。でもだからといって諦めるには早い。
私にとってそれだけこの世界が大好きだから。
「迷いはない、か。ならば最早何も言うまい。ノラ子よ、其方の道に幸あれ」
目の前が真っ白に染まっていく。現実の世界に戻る。
ありがとう、ダイちゃん。この世界を知らなかったら私の人生は平凡なまま終わってたよ。
視界に色が戻ると私の部屋だった。机の上には進路の紙が置いてあった。
「お母さん、私夢が決まったよ」




