217 女子高生も異世界人の優しさに触れる(7)
央都の街をふらふら歩いて、気付いたらお城の近くにまで来てた。
どうしてここに来たのかは自分でも分かってない。そしたらお城の階段を軍服を着た人が下りてくる。
「ケルちゃんだ」
「ノラ殿か。こんな所に来るとは国王にでも用事か?」
やっぱりこのお城ってそういう感じなんだ。
「さすがに王様とは知り合いじゃないですよ~」
「それは意外だな」
なんて笑われる。私を何だと思ってるんだろう?
「用がないなら早く行った方がいいぞ。怪しまれる」
「王様に用事はないですけど、ケルちゃんにならあります」
「私も帰りたいのだが」
物凄く嫌そうな顔をされた。
「すぐ終わりますからー」
「はぁ。5分だけだぞ」
改めて向き直って話をするのはちょっと恥ずかしい。戸惑ってたらケルちゃんが溜息を吐いた。
「用がないなら行くぞ」
「ケルちゃん! 私、この世界にいられないかもしれないんです!」
大声で言ったら足が止まって振り返った。
その勢いのまま事情を説明した。
それを聞き終えたケルちゃんは静かに笑ってた。
「ふっ。これでようやくノラ殿の顔を見なくて済むのか。精々するよ」
心配してくれると思ったのにこの態度―。
「まだこっちに残るって選択肢もありますよ?」
「その時は歓迎会でもしてやろう」
えーそういうのってずるくない? ケルちゃんが祝ってくれるなんて一生なさそうだし。
「ケルちゃんはどっちがいいと思います?」
「私に聞くな。自分の人生くらい自分で考えろ」
正論だけどアドバイスとかくれるかなぁって。
「もういいです。ケルちゃんに聞いた私が馬鹿でした」
「それでいい。あなたは人間だ。我々魔族を気にかける必要はない」
もしかして私が余計な心配をしないために突き放すような言動をしてたのかな。
「ケルちゃんって本当に素直じゃないですよね」
「私からすればノラ殿は素直すぎるな」
それは否定できない。
「これでもノラ殿には感謝しているんだぞ?」
「本当ですか?」
今までの言動からは分かりにくい。
「ああ。何せ道の違えた魔族を1つにして、そして人と生きる道を示した。かつて魔王様でもできなかった偉業をあなたは成し遂げた」
そんなつもりは全然なかった。ただ目の前の問題に向き合うので精一杯で人とか魔族とかそういうのまで頭は回ってなかったよ。結果的にそうなっただけ。
「おそらく、この先もあなたは困った者に手を差し伸べ、種族を超えて親しまれるのだろう。私はそんなあなたを尊敬する」
ケルちゃんが笑った。私に初めて見せてくれた笑顔。こんなにかわいい顔もできるんだ。
思わず見惚れちゃう。
「この先どんな困難があろうと、どうかそのままのあなたでいてくれ。私の願いはそれだけだ」
そう言ってケルちゃんは静かに立ち去って行った。私のままで……。迷って悩んで流されて、でも私らしい何かに気づいてないだけであるのかもしれない。
ケルちゃんと別れてちょっと歩き続けで疲れてきたなー。そうだ、外壁の所にベンチがあったからあそこで休もうかな。
それで街の外に出る門の壁沿いに階段があるからそこを上った。ベンチがあって休もうと思ったけど外壁の上に座ってる小さな黒ワンピの子がいた。
「キューちゃん」
「ノノムラ・ノラか」
死神さんがこんな所にいるなんて驚き。キューちゃんはずっと遠い所を見てる。
「何してるの?」
「世界の果てを見ておる」
意味が分からず疑問符しか浮かばない。
「どうやらお前さん、憑き物が弱っておるな」
前にも言われた。確か廃都で幽霊騒ぎが終わった後だったかな。
それでせっかくだから今の状況を教えてみた。そしたらキューちゃんは感慨もなく外を眺めてる。
「やはりか。神の加護があったならば納得じゃ」
つまり憑き物っていうのはダイちゃんの加護を言ってたのかな。
「私、どっちかを選ばないといけないの」
「好きにすればよかろう。そんな選択は些細じゃ」
「キューちゃんは私と会えなくて寂しくない?」
正直私は寂しい。でもキューちゃんの態度は素気なかった。
「人の一生など精々100年が限度じゃ。今更別れを惜しむほど情もなかろう」
確かにキューちゃんは私何かよりも長生きしてるから、そう思うのかもしれないけど。
「それとも我に悲しんで欲しかったか?」
「むー。じゃあ私も悲しまないもん。キューちゃんなんてしらなーい」
「かっかっか! それでよい。下手に情を持つと後で後悔するぞ? 人であるならば尚更な」
「キューちゃんは私のこと嫌い?」
なんかこんな態度をされたら気になっちゃう。
「そのような感情などとうに捨てたのじゃ。何の意味もなく、価値もなく、ただ悲しむだけならば不要なのじゃ」
長生きすればするだけ価値観も変わるのかもしれない。
それでももう少し何か感情があるって思ってた。
死神なんて呼ばれても笑ったり冗談言うのも演技じゃないって思いたかった。
やっぱりキューちゃんは……。
「待っておるのじゃ」
「え?」
キューちゃんは外壁から飛び降りて私の横に立った。相変わらず小さくてかわいいけど、その表情はどこか微笑みに感じる。
「お主の一生はまだあるじゃろう? こんな所であきらめるとは我の見立て違いかのう。ノノムラ・ノラは不可能を可能にする人間だと思ったのじゃが」
言ってる意味がいまいち分からない。
「我は死神じゃ。お主が望むなら10年じゃろうと、100年じゃろうと、1000年でも待とう。お主だけは特別じゃ」
その時のキューちゃんの表情は忘れられない。まるで人間みたいに、本当の感情みたいにただ純粋に笑ってた。
そっか。勘違いしてた。死神とか魔族とかそんなの関係ないって自分で思ってたじゃない。
キューちゃんも同じなんだ。
「さすがに100年もしたら死んじゃうよ」
「ふん。だったらそうならぬよう頑張るのじゃな」
キューちゃんなりのエールなんだね。分かったよ、その気持ち確かに受け取ったから。
だからありがとうは今は言わない。その言葉を本物にしたいから。




