214 女子高生も異世界人の優しさに触れる(4)
シロちゃんのパン屋を後にして街をふらふら歩く。
そんな時、騎士の制服を来たケモミミさんを見つけた。
「ミコトちゃんだ」
「ノラじゃん。こんな時間に会うなんて珍しいね」
ミコトちゃんはパンを片手に持って食べ歩きしてる。制服を着てるし仕事中なのかな。
「仕事中?」
「まだ始まるまで時間あるからぶらぶらしてる。家の中にいるより出歩いてる方が性に合うんだよね」
元々風来坊だったもんね。ミコトちゃんとの出会いは確か西都で同じ店に寄ったのがきっかけ。他愛のない話をしてそのまま別れて。
「ねぇ、ミコトちゃん。もし、私がこの街から……この世界からいなくなったらどう思う?」
「急にどうしたの? らしくないじゃん」
確かにそうかもしれない。でも言わなくちゃいけない。
「んー。寂しいかな。でもその内会えるでしょ?」
それには無言を貫くしかなかった。
「もしかして何かあったの?」
それで事情を説明した。それでもう会えないって知ったらミコトちゃんはパンを食べる手が止まった。
「ふーん、そう。それは災難だったね。ご愁傷様」
なんて他愛ない返事。
「別に好きにしたらいいんじゃない? もし私がノラと同じ立場だったら誰かの意見を聞いて考えるなんてないけどね。自分の生き方を誰かに指図されるなんて嫌だし」
ミコトちゃんは元々そういう風に各地を歩いてたもんね。ある意味こういう言い方をしてくれるのは気を使ってくれてるのかもしれない。
「私はミコトちゃんと会えなくなったら寂しいよ」
「人の脳なんて10年か20年もしたら忘れるでしょ。それで綺麗さっぱりにしたら?」
「できないって言ったら?」
「それだけあなたにとって大切だったってことでしょ。じゃあそれでいいじゃん。私もノラを覚えてるかもしれないし」
ぶっきらぼうな言い方だけどこれがミコトちゃんなりの気遣いなんだね。
「お人好しなあなただからどっちかを見捨てるって考えてるんだろうけど、そんなの自分の人生なんだから周りなんて関係ないよ。自分の好きにしたらいい。それで迷惑かけたなら謝ったらいいじゃん。それで仲直りできるって教えてくれたのあなたでしょ?」
ミコッちゃんとずっと会ってなくてそれで仲裁して関係が戻ったんだよね。
私が思ってたよりミコトちゃんはずっと周りを気にかけてたんだね。ううん、考え過ぎたからこそ家を出たんだったね。
「私はもう行くよ。引き止めたら選び辛くなるだろうし。あ、そうだ。さっき買った串焼きあげるよ。じゃ」
マイコニドの串焼きが入った袋を渡して颯爽と消えちゃった。私もあれくらい飄飄と生きられたらなぁ。なんて考えてる暇はない。それから街を歩いて路地裏みたいな所に来てた。
そこでテントみたいのを張ってテーブルを置いてる占い屋さんがある。
「ミコッちゃん!」
「ノラ。ひさしぶりね」
ミコッちゃんは今日も占いしてるみたいでタロットカードを並べてた。
せっかくだから占っていこうかな。
「ミコッちゃん、占ってもらっていい? 私の将来について」
「分かった」
それでミコッちゃんが私にタロットカードを渡してくる。運命を切るんだっけ。
それで軽くシャッフルして返した。
「運命の結果はいつも正直。常にいい結果が出るとは限らない。けれど運命を変えることもできる。あなたにその覚悟がある?」
「ある」
そしたらミコッちゃんがニコッて笑ってカードを一枚出した。
それは剣と盾を持った人のカード。
「勇者。あなたの道はあなただけのもの。誰にも縛られない。されどその道は困難を極める。でも諦めてはいけない。運命はいつもあなたの手の中にある」
まるで今の私の心を見据えたみたいに結果を告げられる。
「まだ引く?」
そっか、運命を変えてもいいんだっけ。
「ううん。大丈夫、ありがとう」
そしたらミコッちゃんがカードを戻した。
「ミコッちゃんの占いはすごいね。まるで私の状況を当てたみたいだったよ」
「そうなの?」
それで事情を説明するとミコッちゃんは驚いてたけど、すぐに拳を握ってた。
それで椅子から立ち上がった。何事!?
「ちょっとあの神様をぶん殴ってくる」
「えー!? ダメだよ!」
「自分勝手すぎて腹が立った。せめて文句言わないと気が済まない」
ミコッちゃん豪快過ぎだよ。神様に喧嘩売るのはさすがに罰当たりだから、なんとか引き止めて座ってもらった。
「いつから?」
「あとひと月くらい」
「そう」
ミコッちゃんは耳と尻尾が項垂れてる。素気ない所もあるけど誰よりも感情的なんだよね。
初めて会ったのは東都だったかな。そこでも占ってもらって、あの時はどんな結果だったかな。でも結果が当たってたのは覚えてる。
「ねぇ。勇者のカードが出たけど私に運命を変えられると思う?」
その結果の意味が比喩なのかそのままの意味かは分からない。
「思う」
即答だった。
「あなたは誰よりも運命を変えている。だって私の運命が変わったから。神子という役柄で友達もいなかったのに、それを支えてくれた。妹も説得してくれた。そして神も。あなたならどんな運命にも立ち向かえる。自信を持って」
ミコッちゃんが堂々と言う。この占いの結果がどうなるかはまだ分からない。でも悪い結果じゃないのは確か。だったらその運命を信じてみるのもいいかもしれない。
「ミコッちゃん、ありがとう。私がミコッちゃんの占いが誰よりも当たったって証明するよ」
「本当にお人好しね。でも、あなたならきっとできる」
運命も占いもその先の答えを信じてみよう。私に足りなかったのは信じる心だったのかもしれない。だから顔を上げればまだ前に進める。




