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212 女子高生も異世界人の優しさに触れる(2)

 酒屋を出て次の場所を目指そう。セリーちゃん達のおかげで目が覚めた。悩んで立ち止まっても何も始まらない。私は今まで色んな人に助けられて来た。

 だったら1人で悩まず、正直に皆に話そう。どんな風に言われたとしても隠したままお別れになるのはきっとお互い辛いから。


 街角にある道具屋さんの扉を開けた。


「おめでとうございます! 祝1万人目のお客様です! あっ、ノラ様!」


 レティちゃんが紙吹雪をばら撒いて、何かいつも通りで安心する。


「こんな早くからご来店ありがとうございます! 本日は1万人記念で全商品半額ですよ!」


 1万人。私が知らない間にレティちゃんはこつこつ頑張ってたんだね。思わず頭を撫でちゃう。


「ノラ様―」


 表情が緩んで笑ってるのがまたかわいい。このままずっと撫でていたいくらい。


「あのね、レティちゃん。今日は大切な話をしに来たの」


「話、ですか?」


「うん。実はもうすぐレティちゃんとお別れしないといけないかもしれないの」


 それと言ったらレティちゃんが大袈裟に叫んでカウンターの方に後ずさってる。


「お、おおお別れというのは一体……。はっ! まさか私があまりに不甲斐ないせいでノラ様がついに愛想を尽かしてしまったのですか!? ノラ様、それだけはなにとぞー!」


 勝手に妄想して暴走するのもいつものレティちゃんらしい。


「ううん、違うよ。レティちゃんをそんな風に思ったことなんて一度もないから。私が異世界から来てるってのは知ってるよね」


「はい。以前にお伺いしましたから」


 そういえば高校1年の時に夏祭りで一緒に行ったもんね。


「私がこの世界に来れてたのはダイちゃんのおかげだったの。でもダイちゃんは私の世界だともう力が使えないから来年になったらこっちに来れなくなるの」


 そう話したらレティちゃんはぽかんと口を開けたまま放心してた。その気持ちは分かる。私もダイちゃんから話を聞いてそんな反応だったから。


「そんな……ではもう二度と会えないのでしょうか?」


「一応この世界で残る選択をしたら皆と一緒にいられるんだよ。でも、そうしたら今度は私の家族や友達と別れないといけない」


「そう、なんですね」


 レティちゃんは耳と尻尾を曲がるくらい垂れて落ち込んでる。こういう風に思われるって分かってたけど、あらためて話すのはやっぱり辛い。


 そしたらレティちゃんはすぐに顔をあげた。


「ノラ様はどうするつもりなんですか?」


「私は……まだ決心がついてない。どちらかを選ぶってどちらかを見捨てることだから、それが辛くて」


「ふふ、ノラ様らしいですね。1つ、私の話をしてもいいですか?」


 そしたらレティちゃんが急に語り始めた。


「私、小さい頃はなんの取柄もなくて本当にダメダメだったんです。周りを見たらフランは裁縫ができて、シャムは体力があって、モコはパンを作れて。そんな皆が眩しくて羨ましかったんです」


 まるで今の私みたいな状況だ。


「そんな私でも央都に行けば変われるって思って1人旅立ちました。それで央都に着いたのはいいのですが右も左も分からず、おまけに寝床もなく、何をすればいいかさっぱりで毎日路頭に迷うような生活をしてました」


 レティちゃん、そんな過酷な生活をしてたんだ。


「そんなある日、とうとう食料も底を尽きて生き倒れたんです。それで偶然にもお師匠様の目に留まって私を助けてくれたんです。事情を話したら弟子にしてやるって言われて、それからはもう目まぐるしい毎日でしたね。魔法の勉強やら修行で毎日が一瞬でしたよ」


 お師匠様ってノイエンさんだったよね。


「お師匠様のおかげで今の私があります。それでお師匠様に道具屋を預けられて、今に至ります。ただでさえ知識も何もないのに、経営なんてできるか不安しかありませんでした。今でも不安になるときがあります」


 もしかしてレティちゃんが普段明るく振る舞うのって不安な気持ちを抑える為だったのかな。今までそんな風には全然見えなかった。


「でも! そんな時にノラ様と出会えたんです! 客も来ず、売り上げもでないお店で道具屋経営なんて向いてないって思ってました。それでもノラ様は私の為に色々教えてくれました。私、はじめてこの仕事をして楽しいって思いましたよ」


 レティちゃんと初めてあった時は本当に閑散としてた記憶がある。客もほとんど来ないって。それで協力して客寄せ頑張ったんだっけ。懐かしいなぁ。


「私、今はここで働くのが嫌いではありません。ノラ様がそう教えてくれたのですから」


 知らない間にレティちゃんも成長してたんだね。見た目は小さいのに本当にしっかりしてる。


「ノラ様とお別れするのは辛い所ではありますが、でもノラ様がどんな選択をしても私はその選択を応援したいと思います。私に力を貸してくれたように、今度は私が力になりたいです。不安な気持ちがあるかもしれませんが、聞くくらいならできます! いつでもここに来て愚痴でも何でも吐いてください! 見ての通りお客さんは誰も来ませんので!」


 ああ。なんて優しい子なんだろう。もう泣かないって決めたのに、また涙腺が緩んじゃう。

 助けられたのは私の方だよ、レティちゃん。


 そんな時、道具屋の扉が急に開いた。振り返ったらそこにシャムちゃんが立ってた。


「ノノムラ……今の話本当でやがるですか」


 話を聞いてたみたい。シャムちゃんは今にも泣きそうな顔をしてる。


「嘘でやがるですよね!? 嘘だって言うです!」


「ごめん、シャムちゃん。全部本当なんだ」


「な! そんな薄情です! なんで今頃そんなの言うです! こうなるって分かってたら僕はお前と仲良くなったりなんか……」


 いつもは強気なシャムちゃんの瞳から涙がぽろぽろ落ちてる。

 私もこうなるって最初から知ってたらどうしただろう。

 ううん、きっと今と変わらない。あの時シャムちゃんが倒れてる所にポーションを届けに行ってたと思う。


「ノノムラ! こっちに残るです! 僕は離れるなんて嫌です!」


「シャム。ノラ様が困ってますよ」


「レティはいいでやがるですか! ノノラムと二度と会えなくなっても!」


 そしたらレティちゃんがシャムちゃんのほっぺをビンタした。まさかの展開にシャムちゃんもだけど、私もびっくりしてる。


「シャム。今のあなたは冷静さがありません。これを飲んでください」


 レティちゃんが有無を言わせずにポーションを押し付けてた。シャムちゃんは何か言いたそうだったけどそれを受け取って一気飲みしてる。

 それで少し落ち着いたみたいで顔をあげた。


「悪かったです。取り乱したです」


「いいよ」


 それだけシャムちゃんが私を大事にしてくれてた証だもんね。


「ノノムラ、本当にいなくなるです?」


「分からない。どっちに残るか考えてる途中なの」


 そう言ったらシャムちゃんが俯いて沈黙する。なんて言おうか迷ってたらシャムちゃんがランドセルを下ろして中から小さなカップを取り出す。圧縮魔法で縮んでたけど、大きくなってそれはカップケーキみたいだった。それを私の手に強引に押し付けてくる。


 それでランドセルを背負い直して扉の方へ歩いて行った。


「ノノムラ。1つ言ってやるです! もしこっちが心配で気になるからとかくだらない理由で残るなら僕は一生お前を許さないです! 残るなら納得できる理由を用意しとけです! あとそれ食べて元気出せです!」


 言いたい放題言って出て行こうとした。


「シャム。荷物を届けに来たのではないですか?」


 レティちゃんに言われて顔を真っ赤にしてランドセルから荷物を出して置いて行った。それで今度こそ店を出た。


「シャムなりに気にかけていたんだと思いますよ」


「そうだね」


 それで少ししてからまた店が開いた。シャムちゃんが戻ってきたのかなって思ったけどフランちゃんだった。息を切らして中に入って来る。


「なんか大声で騒いでたけど大丈夫?」


 さっきのシャムちゃんのが向かいのお店まで響いてたみたい。


「フラン。ノラ様ともうすぐお別れしないといけませんよ」


「えぇ!? どうして!?」


 それでフランちゃんにも事情を説明した。そしたらシュンって狐の耳と尻尾を垂らしてる。

 ケモミミさん達はその辺にも感情があるのかな。


「そっかぁ。お別れかぁ。ノノムラさんにも生活があるし仕方ないよね」


 なんか思ったより普通な反応? レティちゃんとシャムちゃんを見た後だからすごく大人っぽく感じる。


「フラン、寂しくないのですか?」


「寂しいけど、でも仕方ないような気もするよ。それに住んでる世界が違うならそういうのもあると思う」


 なんだか達観してるなぁ。一応同年代だよね?


「本当はノノムラさんの世界の服をもっと見たかったんだけどなぁ」


「フランちゃんは本当に服が好きだよね」


「そうだよ! 服を見たらその世界を知るっておばあちゃんが教えてくれたから! だからノノムラさんが色々貸してくれたの本当に嬉しかった。私、あんまり活発じゃないから外にでないし。だからこうやって服を見てその世界を知るの。それでその世界はどんな気候でーとかどんな文化でーって想像するんだよ」


 なるほど。もしかしたらフランちゃんの才能って案外そういう好奇心な部分にあるのかもしれないね。


「だからノノムラさんがいなくても昔借りて作った服があるから寂しくないよ! それを見てノノムラさんを思い出すから! だから……だから! 元気でね! それじゃあ!」


 フランちゃんは言い終えたらすぐに振り返って店を出た。

 最後の方、目が潤んでたように見えたけど、もしかして無理して笑顔を装ってくれてたのかな。泣いたら私が困ると思って。


 ありがとう、フランちゃん。その気持ち確かに受け取ったから。


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