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210 女子高生も途方に暮れる

 時間の流れは残酷。色々考えたいのに全然待ってくれない。

 カレンダーを見たらもう12月になってた。

 皆からアドバイスをもらっても結局ずるずると時間だけが過ぎていく。


 部屋でぼーっとしてたらドアがノックされた。


「ノラ、入るよ」


「はい」


 そしたらお母さんが難しい顔をして私を見て来る。


「あなた、まだ進路決まってないそうね」


「うん」


「進学するにしても出願期間があるわ。仮に就職するならお母さんは何も言わない。でも何となくで選んだ道なら全力で反対するから」


「お母さん、ごめん。自分でも分かってるんだけど、まだ心に整理がつかないの」


「家の心配なら大丈夫よ。たとえあなたが家を出て行ったとしても、柴助達の世話はしてあげるから。でも瑠璃ちゃんやミーちゃんは責任持ちなさいよ?」


「それはもちろん。でも違うの。私が言いたいのは……」


「ノラ。もし本気でやりたいことがあるならお母さんは応援するわ。それがどんな道だったとしてもね。言いたいのはそれだけだから」


 そう言ってお母さんは部屋を出て言った。結局言えなかったな。異世界のこと。

 言っても信じてくれないだろうけど。


「気分転換に異世界に行こうかな」


 特に理由もなく異世界に来た。今は遊んでる暇はないって分かってるのに結局ここに戻ってきちゃう。まるで何かに引き寄せられたみたいに。


「はぁ。進路どうしようかなぁ」


 誰かに相談してもいいんだけど、こればっかりは自分で考えなくちゃいけないし。

 央都をぶらぶら歩いてたら、鳥の店長さんの出店の前を通りがかった。


「お。嬢ちゃんじゃねーか!」


「こんにちは」


「どうした? 今日は元気ないな」


「はい。少し自分の将来について悩んでまして」


「そうか。嬢ちゃんは真面目そうだしあまり深刻に考えるなよ」


 そう言ってリガーを投げてきた。慌ててキャッチしちゃう。


「見た感じあんまり食べてねーんじゃないのか? そんな時こそリガーを食べて元気だせよ。なにせうちのリガーは……」


「栄養満点、ですよね」


「おう、そうだ!」


 鳥の店長さんが笑顔で言ってくれる。それで財布を取り出そうとしたけど部屋に置いたままだった。


「代金ならいいぞ。俺はこの仕事をしてるのも金儲け目的じゃないからな」


「じゃあどうしてですか?」


「リガー食って笑顔になってくれたら、それって最高だろ?」


 ああ。こういう風に仕事してる人もいるんだ。生き方なんてそれぞれだし、そして何よりこの世界はどこよりも自由だ。そんな街だったから私も惹かれたのかもしれない。


「ありがとうございます。私、店長さんと出会えて本当によかったです!」


「お。やっと元気になった。嬢ちゃんは笑ってる方が似合ってるぞ」


 そう言って手を振って別れた。やっぱりいい人だ。思えば鳥の店長さんは私が異世界で初めてお話した人。あの人がいなかったらここで他の人とうまく接するのもできなかったかも。


「やっぱり美味しい」


 何度食べてもこの味は忘れられないし、飽きない。


 どこに行こうかな。今は誰とも会いたい気分でもない。というか会ったらうまく話せる自信がない。


 ふらふら歩いてたら天球塔を上ってた。あそこならバルコニーから風を浴びれて静かだし。

 屋上まであがるとバルコニーにダイちゃんが手摺に両肘をおいて遠くを眺めてる。

 そうだった、ここは分社があるからダイちゃんがいるんだった。


「ノラ子、来たか」


 まるで私が来るのを知ってたかのよう。


「其方に大事な話があるのだ」


「私に?」


 みたいだから隣まで歩いた。それで黙ってたけどダイちゃんはずっと遠くを見たままで何も喋らない。


「ダイちゃん?」


「あー、うー。そうだな。今日はいい天気だな」


 確かにいい天気だけど、大事な話が天気?

 それでダイちゃんはどこかぎこちない態度ばかりしてる。


「大丈夫です? お酒飲み過ぎてません?」


「問題ない。今日はまだ飲んでない」


 まだって飲むつもりなのがちょっと笑う。


「それで話って?」


 そしたらダイちゃんが大きく深呼吸してる。それで私の方に向いて見つめてくる。今までにないくらい真面目な顔をしてる。


「ノラ子。これから妾が話すのを落ち着いて聞いて欲しい」


「はい」


「其方はもうすぐ異世界に来れなくなる」


「は……い?」


 一瞬何を言ってるか理解できなかった。ううん、理解したくなかった。

 異世界に来れなくなる? どういうこと?


「どういう、意味ですか?」


 辛うじて言葉が出た。ダイちゃんはまた遠くを見つめた。


「其方を異世界に転移することが出来なくなるんだ」


「えっ、嘘……」


 そしたらダイちゃんが小さく溜息を吐いた。

 頭が真っ白になっていく。


「其方は中学の頃、妾に毎日願ってくれたな。故に妾も其方の願いは叶えてやろうと思った。だが信仰の減ったあの国では十分な力は使えない。だからせめて其方が願ってくれた期間、つまり3年間は異世界に連れてやろうと思った」


 ダイちゃんは何を言ってるの? 急に何を話してるの?

 何かのドッキリ? いつもの冗談?

 頭が考えるのを拒絶してる。思考を躊躇ってる。


「正直、向こうで妾が力を振るうのはもう難しい。こちらから向こうに送るのは可能だが、日本からこちらに転移させるには日本での力が必要なのだ。故に来年になれば向こうで転移の力は使えない」


 ダイちゃんが腕を組んで静かに目を瞑る。

 そんな……じゃあもう皆に会えないってこと?

 二度とこの世界に来れないの?

 誰とも会えず死ぬまで一生?


「ダイちゃん、嘘だよね? いつもの酔った勢いの冗談だよね? 嘘だって言ってよ。私……皆と離れ離れになるなんて嫌だよ!」


 涙が溢れて止まらない。やっと仲良くなったのにそれも全部無駄だったの?

 私がしてきた高校3年間は一体なんだったの? 全部空白になるの?


「だから其方に進言する。この先、どちらかを選ぶのだ」


「選ぶ、って?」


「日本で残るか、この世界に残るかだ。其方はそれを選ばなくてはならない」


 そっか。異世界に残ったら皆と別れなくて済む。でもそうなったら今度は日本にいる皆と別れなくちゃいけない。家族やリンリン、コルちゃん、ヒカリさんと二度と会えなくなる。

 そんなの……。


「情けない話だ。以前の妾ならばノラ子が死ぬまで不自由なく転移をできたというのに。こんなタイミングでの告白になってすまない。これを話せば其方は悲しみに暮れて行き場をなくすだろうと思ったのだ」


「ダイちゃんは何も悪くないですよ」


 元はと言えば私が異世界に日帰りの旅行をしたいって軽い気持ちでお願いしたのが始まりだったんだから。それもちゃんと実現してくれたんだから、ダイちゃんを恨む方がおかしい。


 こうなるのを予測できなくて不用意に異世界の人と仲良くなった私が全部悪かったんだ。


 でも……でも……こんなのって……。


「まだひと月はある。ゆっくり考えるのだ」


「はい……」


 私は……私はどうしたらいいんだろう。


もうすぐ完結します。ハッピーエンドで終わりますので、どうか最後までお付き合いください。

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