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209 女子高生も進路で悩む

 月日の流れは早い。


 気付いたらもう紅葉が始まって涼しくなってきてる。

 この前まで生誕祭を楽しんでたのが嘘のよう。勉強で忙しくなってるていうのもあるけど。


 学校に登校したらコルちゃんが席に座って本を読んでた。


「コルちゃん、おはよー」


「おはようございます。あれ、ノラさん髪伸びました?」


 普段は肩下くらいだけど今は胸辺りまではあると思う。


「うん。願掛けで切らないようにしてるの」


「そうなんです?」


「なんか周りでうまくいってる人って髪長いなーって思って」


 ヒカリさんはしっかりして将来も見据えてるし、リンリンは大学受験合格してるし、異世界だとリリやムツキも同年代とは思えないくらいしっかりしてる。


「髪伸ばしたら私も成功しないかなーって」


「なら私も伸ばしてみましょうか」


「いいね。ヒカリさんみたいにする?」


「やっぱりやめます」


 地雷踏んだー。どかーん。


「ノラさんは進路決めました?」


「んー。まだ」


 分かってはいるんだけど、自分が何になりたいかって考えても全然分からない。先生にも相談してるけど何かこれってしっくりこないんだよね。


「コルちゃんは決まった?」


「はい。進学するつもりです」


 そっかー。つまり大学に行くんだね。コルちゃんは頭いいから有名な所に入るんだろうなぁ。


「よし決めた。海外留学する」


「えぇ? 急ですね」


「実は英語の勉強一番頑張ってるんだよね」


 異世界言語をマスターしたから、それにちなんで英語にも取り組んだらこれが結構うまくいってる。自分で話すのはまだ発音がしっかりしてないけど、慣れたら大丈夫だと信じたい。


「そういえばこの前の英語のテストもかなり高かったですね」


「でしょー? それに異世界行って分かったんだけど、やっぱり色んな国や街を見るってすごく楽しいんだよね。だから知らない国に行って勉強したいなって」


「なるほど。ノラさんが本気ならそれも1つの道ですね」


「異世界だって神様のきまぐれで毎日……」


 あれ? そもそもダイちゃんって日本の神様だけど私が海外に行ったらその力って発動してくれるのかな。もしかして国内限定だったりするのかな。もしそうだったら異世界行けなくなる? うわー、それは嫌だー。


「なし。やっぱりなし。海外留学はない」


「さっきからノラさんおかしいですよ」


 そうかもしれない。無意識に焦ってるのかも。


「私、結局周りに流されてばかりだったんだなぁ」


 これは本当にへこむ。そしたらコルちゃんが急に席から立ち上がった。

 何事?


「ノラさん! 今日は放課後一緒にわたしの家に来ましょう!」


「ほえ?」


「暗い気分の時に色々考えてもいい答えはでないと思います。一度気持ちをリセットしましょう」


 コルちゃん、私の心情を察してくれたんだね。本当にいい友達と出会えたよ。


「ありがとう。じゃあお邪魔してもいい?」


「もちろんです」



 ※放課後



 授業が終わってコルちゃんと帰ろうと思ったら校門の前に見覚えのある白い車が止まってる。窓が開くと白髪のお姉さんがウィンクしてきた。


「話は聞いたわ! さぁ乗って頂戴!」


 何故にヒカリさんがって思ったけど、コルちゃんが根回ししてくれたんだね。

 車内に入って車が走り出したけど、その間結構重苦しい時間が流れてる。誰もしゃべらないし、気をつかわせてる?


 ともかく今は成り行きにまかせよう。そう思ってたら唐突に車が止まった。


「着いたわ!」


 外に出たら目の前に小さな喫茶店があった。個人店みたいで森の中にある洒落たお店。

 というか周りを見たら普通に田舎景色なんだけど。


「お姉ちゃん、帰宅してるんですよね?」


 コルちゃんから黒いオーラが。

 そしたらヒカリさんがてへぺろと言わんばかりに頭の後ろに手を置いてる。


「ここのカフェ一度来てみたかったのよねー。先に入っちゃうわー。店員さーん、3名様でおねがいしまーす」


 勝手に入って勝手にチェックインしてるという。

 コルちゃんが溜息吐いてた。


「ごめんなさい。やはりお姉ちゃんを呼ぶべきではありませんでした」


「ううん。多分ヒカリさんなりの気遣いだと思う」


「そうだといいのですが、何せあの性格ですから自分が来たかっただけだと思います」


 それはありそうだけど。とにかく3名って言ってたし、ヒカリさんに恥をかかせない為にも行かないと。


 中はちょっと暗めでテーブル席に大きな仕切りのある店だった。人も少なくて静かな所だ。

 ヒカリさんが先に席に着いてて手をあげて呼んでくれた。


「ここのジェラートが食べたかったのよね~。すみませーん、ジェラート3つください。あとエビカツサンドを小分けにして2つお願いします。それと飲み物はブラックコーヒーと……2人は何飲む?」


 物凄い勢いで注文していきなり振ってくるという。メニューすら見てないんだけど。

 そしたらコルちゃんがメニューを開いてくれた。


「あ。じゃあココアで」


「わたしはオリジナルブレンドコーヒーでお願いします」


「畏まりました。暫くおまちください」


 入店してから数分もしてないのに注文が終わっちゃった。初めてのお店だからもう少しゆっくり見たかったけど。


「悩んでる時は直感で動くのもいいわよ? あれやこれやと考えると余計沼に落ちていくの。だから考えるより先に行動して後悔なんて後ですればいい」


 もしかしてヒカリさんなりの気遣いというかアプローチ? 確かに注文を急かされたから何となく好きなココアを選んだけど。


「直感で選んだ答えっていうのは意外と真理なのよ。それが自分の望む答えだったりする」


「それを説明もなく実践するなんてお姉ちゃんには情がないんですか」


「まぁまぁいいじゃない。全部奢るから許して~」


 ヒカリさんが片手をあげて謝ってくる。なんか本当に気楽に自由に生きてるって感じがする。ある意味そういうのにあこがれもする。


「コルから聞いたわ。進路で悩んでるって」


「ヒカリさんは進路はどうやって決めました?」


「私? そうね。用紙に自分が好きなものを書いて数字を割り振るでしょ? あとはサイコロを転がして決めたわ」


「冗談だよね?」


 真顔で言うし、ヒカリさんならやりかねないって少しだけ思っちゃう。


「本気よ? まぁその後の大学選びやらは真面目にしたけど、最初の方針はそうだったわ。自分でも何をしたいか分からなかったもの」


「ヒカリさんでも?」


「そうよ。今だと写真を撮ったりするのが好きだけど、高校生の時なんてそれこそ趣味の域を出なかったもの。だからこんな趣味レベルのものでこの先本気になれるかって不安もあったわ」


 ヒカリさんでもそうだったんだ。でも私には何があるだろう?

 そんな人に言える趣味はないし。


 そんな時に丁度店員さんが料理を運んでくれた。

 わー、カラフルなジェラートだー。それにエビカツもトマトとレタスがトーストに挟まれてあって美味しそう。それに一口サイズでいい感じ。なんだかお腹空いてきた。


「遠慮なく食べて。コルも好きなだけ食べていいから。おかわり欲しかったらいくらでも追加注文ばっちこいよ!」


 今日のヒカリさん太っ腹だ。ううん、こうやっていつも送迎に来てくれたりするしヒカリさんはいつだって親身になってくれた。年も学校も違うのにこうして接してくれるの優しみしかない。


 涙が出そう。ジェラートが冷たいからかな。


「ノラさん、わたし思ったのですが異世界に住んでみてはどうですか?」


 コルちゃんがコーヒーを飲みながら話してくる。今なんと?


「異世界で?」


「はい。ノラさんが異世界好きなのは知ってますし、それこそ真剣で本気になれるのではないでしょうか?」


 確かに異世界だったらどんな苦難も頑張れるって思う。異世界の言葉を覚えるのも全然苦痛に感じなかったし、魔法の勉強だって毎日楽しかった。

 新しい知らないを教わる度にわくわくしたし、知らない場所に行くと心も踊った。


 でも……。


「向こうに行くって考えられないよ。皆を置いて向こうへなんて」


「ですが考えてみてくださいよ。ノラさんならいつだってこっちに来れるわけですし、時計とカレンダーがあれば大事な日に戻るのも可能です。それこそ週末はこちらに戻るという手もありますから、ノラさんが考えるほど深刻なものではないと思いますよ」


 そんなの考えたこともなかった。向こうとこっちを行き来して異世界で生きる。今まではずっとこっちだったから、それが逆になる感じ?


「ちょっとコルー。それ私が言いたかったのにー」


 ヒカリさんも同じ考えだったんだ。確かに私と言えば異世界だけど、でもそれでいいのかな。正直、将来ってなると不安もある。


「不安になる気持ちも分かるわ。でもね、向こうに行ってもノラちゃんを助けてくれる人は一杯いるんじゃない?」


 ヒカリさんに言われる。

 きっと私が困ったら助けてくれる人は片手じゃ足りないくらいにいる。

 住む家がないって言ったら住まわせてくれると思う。

 食べる物がないって言ったら何か恵んでくれると思う。

 泣きたい気持ちになったら、親身に寄り添ってくれると思う。


 いつだって助けてくれた。私にはかけがえのない人達。

 そんな異世界で住むのは正直悪い気なんて一切ない。寧ろ本望とすら思う。


「ごめん。まだ気持ちに整理がつかないかも」


「そっか。でもこれだけは言わせて。向こうで生活するのも1つの選択肢だって」


「ノラさん。わたし達なら心配しなくても大丈夫ですよ。どんなに離れても今は文明の機器があるのですから」


「ありがとう。もう少し自分で考えてみる」


 今日は2人と話して本当によかった。おかげで私も少しだけ将来のビジョンが見えた気がする。けど、どうして決意できないんだろう?

 私には何かが足りない気がする。だからそれが分かるまで答えは出せない。


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