208 女子高生も生誕祭で料理を振る舞う(3)
夜。
生誕祭も終わりが近づいて来た。材料も完全になくなったらお店もお開きにして片付けを済ませる。荷物はミー美が運んでくれるそう。いつもありがとうね。また帰ったらご飯をあげよう。
「そんじゃリリル達と合流するか?」
「そうだね」
片付けも終わってゴミもないのを確認して石橋を後にした。
街は魔法でできた光の球体があちこちに浮いてる。どこもお店はお開きで歩いてる人もほとんどいない。でも皆どこかで休んでる。
まだ生誕祭の一大イベントが残ってるからね。
「ノーちゃん!」
空から声がした。見上げたらフーカちゃんが屋根の上から飛び降りてくる。両手にはパンやら串焼きの袋を抱えてた。かなり満喫してたみたいだね。
「フーカちゃん、生誕祭楽しんでるね~」
「もち~。こんな面白いお祭りがあるなんて地上に来て本当によかった」
しみじみ言ってる。美味しいご飯は生きる上でかかせないからね。
「えっと、ノラの友達か?」
「うん。フーカちゃんだよ」
「フーカ・リッケだよ。フーカでもリッケでも何でも呼んでね。肉サンド食べる?」
フランクに接して食べ物あげてる。距離感がフレンドリー過ぎる。
「リンだ。よろー」
「空井コルです。よろしくおねがします」
2人ともパンをもらって頬張ってる。それで私にもくれた。丁度お腹減ってたんだよね。
「にしても残念だな。もう少し早く会えてたら私らの所の料理食べれたのに」
「えーうそー! ノーちゃん料理出してたの!?」
愛想笑いで誤魔化そうと思ったけど、フーカちゃんががっくりうなだれちゃった。
保存も考えたけどこういうのは冷めたら美味しくないからなぁ。
「ごめんね。また今度作ってあげるよ」
「本当!?」
お味噌汁とおにぎりならいつでも作れるからね。
それで一緒に街の奥へと歩いた。
「皆はどこへ行くの?」
そっか。フーカちゃんは生誕祭が初めてだから知らないんだね。
「魔導砲って言ってすごく綺麗な光を見られるんだよ。動かすには魔力が必要だから皆で魔力捧げに行くの」
「私らは魔力ないけどな」
「意味なしです」
そこは気持ちの問題だよ。捧げた1人になったという事実が大事だと思う。
それで大通りを歩いてたら小さなリスの子と白衣の人が歩いてる。シャムちゃんとアンセスさんだ。でもアンセスさんがシャムちゃんに手を引っ張られてふらふらしてる。
「シャムちゃーん、アンセスさーん!」
声を出して呼んだら振り返って気づいてくれた。
「ノノムラです。どこにも見かけないから来てないと思ったです!」
「今回はお店出しててね。レティちゃんから聞いてない?」
「今日は博士と一緒に回ってたです」
なるほどー。去年もアンセスさんと一緒だったみたいだし。アンセスさんの方を見たらすごいげっそりしてる。子に連れまわされて疲れ果てた親の図。
「シャム。私はもう帰りたいのだが」
「ダメです! まだ魔導砲が残ってやがるです!」
それを聞いてアンセスさんが項垂れてる。
「アンセスさん。魔導砲は魔道具ですし変わった造りをしてるんですよ。一緒に見ませんか?」
「本当なのか!? シャム、急いで行くぞ!」
「なっ、博士急に元気になるなです!」
アンセスさんが一目散に走り出した。やっぱりその手の話になったら気になるんだろうね。
走り出してたけどすぐに息切れ起こしてシャムちゃんに介抱されてた。
辺りも暗くなってお城のある前に来た。大きな階段の前にノイエンさんが立ってて、その近くにロケットみたいな大砲があって、石板みたいのも置かれてる。
「ノノ! 来たわね! わっ、リッケさん!」
リリとムツキが仲良くこっちに走ってきた。今年も一緒に見られそうで嬉しい。
「今年はどこまで飛ぶか楽しみだね」
ムツキが言う。それは私も同じ。
「ノラ様―!」
「ノノムラさん!」
レティちゃんとフランちゃんもご登場。
「フブキ! 早くしないと魔導砲の魔力装填に間に合わないのです!」
「急がない急がないー。ていうかシロは魔力ないから別にいいんじゃない?」
「それは言わないで欲しいのです!」
シロちゃんとフブちゃんも向こうからやって来た。
「ヴァル。まだ何か催しがあるのですか?」
「ああ。今年は約束があってな」
「ただの光じゃろう? 我はあれに価値を見出せないがな」
魔族のロゼちゃん、ケルちゃん、キューちゃんも来た。
周りを見たらベンチの所でミツェさんがハープを演奏してて、その隣にセリーちゃんが座ってた。別の所には鳥の店長さん、スライム牧場のトカゲさん、鴉の店員さん、狼の大将さん、熊の店長さん、山羊のおじいちゃんおばあちゃん、猫の店長さんも集まってる。
「オオクニヌシ様。いい加減飲むのやめてください」
「祭りで飲まずに何が祭りだー!」
「はぁ。これで本当に神様って信じられない」
ミコッちゃん、ダイちゃん、ミコトちゃんもご対面。私の知ってる顔見知りが大集結だ。
「騒ぐのは結構だけど早くしてくれないかい? こちとら早く準備したいんだけどねぇ」
ノイエンさんがやれやれって感じで言って来る。ならすぐに済ませよう。右手に魔法石を握った。これなら魔力のない私でも注ぐことができると思う。
石板に手を触れた。そしたら魔法石の魔力を吸収して石板が青く光る。
そんな時、私の手の上にリンリンとコルちゃんが乗せてくる。2人の想いも乗せよう。
さらに近くにリリとムツキも来て一緒に魔力注いだ。瑠璃とミー美も近くに寄って来る。
それで私がまだ終わってないのに他の皆もどんどん寄って来て石板に触れてすごい密集状態になるという。順番待ちって知らないんですかー。
でも悪い気はしない。今までは顔も名前も知らなかったけど、今はこうして一緒に同じイベントを楽しんでこの場に集まってる。
ケモミミのある人、獣人、魔族、神様、そして人間。種族も考えも性格もバラバラだけど、今は1つの目的の為に集まってる。
きっとかつての勇者さんと魔王さんはこういう世界を望んでいたんだと思う。
だからその願いも込めて石板に魔力を捧げる。
石板は全体が青く輝くとその光がロケットに注入されてる。だから石板から離れて後は見守るだけ。
ノイエンさんが近くに立っていた年配の人に合図を送ると、ロケットは空に標準が向いて先端部分に白い粒子が溜まる。それを見守るように静寂が流れた。
瞬。
目の前に真っ白な光の柱が出来た。その輝きは央都全体を照らして誰もがその輝きに目を奪われる。光は輝きを失わずに空を目指して飛んだ。
空へ空へ。高く高く。
天の頂きを目指して真っすぐ。
まだまだ、まだまだ遠く。
光がまだ見える。どこまで行くんだろう。どこで消えるんだろう。
消えない。光は消えない。
光が小さくなっていくけど、消えたんじゃない。遠く離れて見えなくなったんだ。
きっと光はまだまだ飛んでる。
私の目にはもう光は見えないけど、きっとずっと先を目指してるんじゃないかな。
「すご……これ過去一番じゃない?」
リリの声だ。それは何となく私も思う。ここまで光が途切れずに飛ぶなんて、きっと誰も予想してなかったと思う。
実際、この場にいる年配の人達はまだ空を見上げ続けてる。私には見えない何かが見えてるのかな。
「皆で協力したからだよ。誰か1人が欠けたらきっとダメだった」
あの光はきっと神様に届いたと思う。あれだけ遠くへ行ったんだから、あれを見つけられなかったら神様は相当目が節穴だよ。
「私の願いも届いてたらいいな」
「ノノは何を願ったの?」
「んー。内緒」
「えー?」
異世界に来れて私は色んな人と出会えた。今ここに集まってる人と出会えたから、今日まで笑顔でいられた。
だからこの先も皆と笑い合えたらいいなって、そう願いを込めた。
どうか、届きますように。




