207 女子高生も生誕祭で料理を振る舞う(2)
忙しい時間がやっと落ち着いてきた。スマホで時間を確認したらもう2時を回ってる。
「疲れたわー」
「こんなに頑張ったのはいつ以来でしょうか」
「ぴー」
「みー」
人が来なくなったからお昼ご飯に余ったおにぎりと味噌汁を食べる。瑠璃とミー美には店長さんからもらったリガーをあげた。私は天むすが食べたいから家で揚げた小エビを温めたいから火鉢で弱火で熱してる。
「人も来なくなったし、ノラノラも見てきたらどうだ?」
「店はわたし達が見てますよ」
私の親友はどこまでも気遣い上手。でもそれに甘えるわけにはいかない。
「ううん。今日は2人と一緒がいいから行かないよ」
「コルコ。本当に私が見ない間にノラノラ変わったぞ」
「あの異世界大好きノラさんはどこに行ったのでしょうか?」
勝手に何か言われてるけど気にしない。それに今回は私のわがままに付き合ってもらってるんだから、1人で遊びに行くわけにもいかないよね。
「瑠璃。この袋を鳥の店長さんに届けてくれない?」
おにぎりはまだ結構あるから食べて欲しい。瑠璃は不服そうな顔をしてる。疲れて動きたくないかー。
だったら。
「そっかー。行ってくれたら焼き立て天むすをあげようって思ったんだけどなー」
「ぴ!」
そしたら瑠璃がスーパーの袋を取って全速力で飛んでくれた。分かりやすくていい子。
それでのんびりとしてたら、石橋の向こうから緑髪の小さな女の子がぱたぱた走ってきた。
手には大きなボックスを抱えてる。
「やっぱりノリャお姉ちゃんだ!」
「セリーちゃん。いらっしゃいませ~」
まさかここに顔見知りが来てくれるって嬉しい限りだよ。
「店の方は大丈夫?」
生誕祭だからセリーちゃんの所も出し物をしてるだろうし。
「店の方でお客さんが美味しいお店があるって噂してたの! だからたいしょーに偵察を頼まれたの!」
なるほどー。そんな所まで届いていたとは。
「それは嬉しいなぁ。リンリンー。おにぎりあるー?」
「ほいよ」
それでおにぎりとお味噌汁を出してくれた。そしたらセリーちゃんの目がきらきら輝いてる。
「すごーい! 知らない食材ばかりだぁ! ねぇねぇ食べてもいい?」
「いいよ~」
それでおにぎりを一口食べたらこれまた目を輝かせて笑顔になってる。
「おいしー! ほかほかふわふわ! 中から黄色いの出て来た!」
具は卵焼きだったね。コルちゃん作のだし巻きだから味は保証されてる。
「こっちのスープもすごい! なんていうか優しい味!」
セリーちゃんがずっと嬉しそうにしてるからこっちもほっこりしちゃう。
それでセリーちゃんがボックスの箱を開けて、中からジョッキみたいな容器にパフェの如く盛り付けられてるリガーやら果物の山を置いてくれた。
「私が作ったのはデラックスポーション!」
ジョッキで底が見えなかったけど中は緑の飲み物になってる。
「やっば。これスタバとかにありそうじゃん」
「わたし、写真撮りたいです」
「あー私もー」
それで早速食べよう……なんだけどどこから手をつけよう? 色々上に乗せてあるから手をつけにくい。よし、まずはそのまま飲んでみよう。
んー、これいいかも。ほどよく果物の味がポーションに染みて、それでいてポーションの苦味も損なわれてない。
果物も輪切りにして挟んでくれてあるから食べやすい。うん、このリガー甘くておいしい。
「いいね。セリーちゃん、これはグッドだよ!」
「丁度疲れてたのでこういうの助かりますね」
「だなー。何か飲んだら元気でてくるし」
そう言ったらセリーちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんしてて可愛い~。
「そうだ。狼さんや鴉さんにも食べて欲しいからオニギリいくつか袋に包むね」
「わー、ありがとー! きっとたいしょーもクウロも喜ぶと思う!」
それでセリーちゃんに手を振って別れた。パタパタって走っていく姿は本当に子どもみたいで癒される。
「いやー若いっていいなー」
「リンさん、お年寄りみたいになってますよ」
実際、セリーちゃんも同じ条件で頑張ってるだろうし、あれだけ動けるのはちょっと羨ましいって思うのは分かる。
「よし! ポーションも飲んだし次もがんばろー!」
「おー!」
それから少しして瑠璃が戻ってきて、一目散に私の傍で待機してくる。早く天むすを寄越せと言わんばかりの顔だったから私が食べようと思ってたのをあげた。
瑠璃はガツガツ食いついて満足したみたいで橋の手すりに座り込んでる。頑張ってくれたし休ませてあげようかな。ミー美も頑張ってくれてるし、焼けたエビをあげよう。
「あー! ノラ様―!」
「やっぱりノラ君だったねー」
声がしたから目を向けたらレティちゃんとフブちゃんが寄ってきてくれて、珍しい白白コンビ。
「2人も来てくれたんだねー」
情報も何も出してなかったから気づけたのはすごい。
「瑠璃様が見えたものですからこれはノラ様がいると思ったんです」
「右にね。いやー美味しそうなの作ってるじゃないかい。ちょうだいー」
せっかく来てくれたのだからもてなすのが料理人だね。
リンリンとコルちゃんが手際よく準備してくれてお味噌汁とおにぎりを出してあげた。
「ふわ! これおいしいです!」
「うまっ! なにこれ。私の所負けたんだけど」
「私も負けましたー。やはり貧乏人には食材の時点で敵いません!」
なんだか勝負心を挑んで食べられてたみたい。
「この食材は全部市販で買えるものばかりだよ」
「だなー。寧ろ安売りしてるのばっかだしな」
「調理法も特別というわけでもないですよ」
それを聞いてレティちゃんとフブちゃんが更に驚いてた。
「聞いた、レティ君? これ完全にこっちの心折りに来てるよ」
「貧乏になると心まで貧しくなるんですー! 撤退します!」
「シロに報告だー!」
2人がご馳走様って頭を下げて走って行っちゃう。
「あー待ってー! 皆の分もあるから分けてあげてー!」
せっかくだからシロちゃんやフランちゃんにも食べて欲しい。そしたら2人が慌てて戻ってきてくれて、袋を受け取ってからまた走り出した。なんか面白い。
それで時間がまた過ぎて石橋の方に綺麗なピンク髪のお姉さんが歩いてきた。近くのベンチに腰を下ろそうとしてたけど、私の店に気づいて歩いて来てくれた。
「ミツェさん~いらっしゃいませ~」
「天使は~私の心を読んだのね~」
「ここは~羽休めの場所~」
多分どこかで歌を披露しててここに休憩しに来たんだろうね。こうして出会えたのは偶然通り越して運命。
せっかくだから料理を提供~。
出された料理にミツェさんが目を丸くしてた。初めての料理で驚いたのかな。
それでおにぎりを一口食べてくれた。すごく上品に小鳥くらいの量を食べてる。あれだと中の具まで到達するには10分はかかりそう。
でもミツェさんが笑顔で魔法線で花丸を描いてくれた。とってもかわいい! ミツェさんが!
「お礼に一曲披露します~」
「いいよいいよ。私らも好きでやってるだけですから」
「はい。食べて喜んでくれるだけで嬉しいです」
私が言う前に友人が即答してくれる。きっと2人もミツェさんが疲れてこっちに来たって察してくれたんだね。
「最高のパートナーね~」
「ミツェさんもだよ~」
それでミツェさんは石橋のベンチに座って休憩しながらおにぎりとお味噌汁を食べてくれてる。せっかくの生誕祭なんだから誰にも無理して欲しくないからね。
「おい、魔犬! 我はもっとうまい飯が食べたいのじゃ!」
「黙れ。どこの店も食らいつくして苦情が来てるんだ」
「知らぬ! そういう祭りじゃろう!」
「それよりのらぴは来てないですのー?」
街の方で騒がしい声がしたと思ったら魔族の皆さんが通りがかってる。それでみんなと目が合ったから手を振ってみた。そしたらロゼちゃんとキューちゃんが一目散に駆けつけてくる。
「のらぴ!」
「うまそうな匂いなのじゃ!」
そんなノリにケルちゃんが頭を抑えてやってくる。完全に2人の保護者状態。
「いらっしゃいませ~。ノラの秘密のお店にようこそ~」
「まさかお主も店を出してるとはのう。道理でどこにも見かけないわけじゃ」
「そういうのは最初に言って欲しかったですわ! こちとら探し回って……」
ロゼちゃんが言おうとしてケルちゃんとキューちゃんの視線を感じて顔を赤くして口を閉ざしてた。
「せっかくだから皆にもご馳走するよー」
お味噌汁とおにぎりを提供してあげたら全員がなんだこれって顔をしてる。
そんな中でキューちゃんがまっさきにおにぎりを頬張ってる。
「ほう。うまいのじゃ」
「本当ですわ。こんなスープ初めて飲みますわ」
「ノラ殿は料理も得意だったとは意外だな」
各々が感想を言ってくれる。
「私よりリンリンとコルちゃんのおかげですよー。私は提供だけで殆ど何もしてませんからー」
「違うぞ。ノラノラには一番大事な役がある。料理に愛を注いでるんだ。だから美味しくなってる」
そしたら魔族の皆が「愛」と口をそろえてる。
さすがにリンリンの冗談だって気づくよね?
でも皆納得したみたいに頷いてる。あれー。
「ノノムラ・ノラ。我は追加が欲しいのじゃ。もっと寄越すのじゃ」
キューちゃんが詰め寄ってくる。キューちゃんの胃袋だと一個だと足りないのは知ってたけど、材料も残り少ないんだよねー。そしたらケルちゃんがキューちゃんの首の襟を掴んで引きずっていった。
「ではノラ殿、失礼した。料理も大変美味だったぞ」
「ありがとうございます~」
ケルちゃんからそう言ってくれると作った甲斐があったよ。
「ま、待つのじゃ! そうと分かっておったらもっと味わって食べたのじゃ! 今のはノーカウントなのじゃ!」
聞いてもらえずに街の方に引っ張られてる。そんな様子を見てロゼちゃんが軽く溜息吐いてた。
「ロゼちゃん、これ持っていって」
袋に沢山おにぎりを詰め込んで渡した。
「孤児院の皆にも食べて欲しいから」
「あなたって本当にお人好しですわね」
くすって笑いながら受け取ってくれる。
「ワタクシ、そういう心は嫌いでしたけどあなたを見てたら違うのかもしれませんわね」
「ありがとう。皆で食べてね」
ロゼちゃんが蝙蝠の羽で飛んで手を振ってくれた。ロゼちゃんも初めて会った時と比べて変わったと思うよ。
それからまた時間が過ぎて4時過ぎくらい。
「あー! やっと見つけたわ!」
聞きなれたお嬢様の声がした。そしたらリリとムツキが店の前にやってきた。
「ノノ! 店を出してるなら教えてよ! ずっと探してたんだから!」
「ごめんね~。急にやりたくなって」
「だったら使い魔で教えてよー!」
あーその手があったねー。全く頭になかったよ。
「こうして会えたんだから問題ないよ」
「リンリンー。コルちゃんー」
「分かってるよ。ほれ、リリルお嬢様には特別サービスだ」
「リンー! でも今日はお嬢様呼びを許してあげる!」
リリがおにぎりとお味噌汁を前にして寛大な心を見せてくれた模様。
「ムツキさんもこちらをどうぞ」
「ありがとう」
それで2人がおにぎりを食べてる。
「わ! ふわふわだわ! それに中から辛くてぷちぷちしたの出て来た!」
「お。当たりだな」
リリが食べたのは明太子味だね。
「これはちょっと酸っぱい。でも何だか癖になる」
「日本と言えば梅干しですよ」
ムツキは梅味だったんだね。それで今度はお味噌汁に手をつけてくれた。
「すご! 今まで飲んで来たスープと全く違うわ!」
「うん。それにさっきのとすごく合う」
お米は基本なんでも合うけどお味噌汁との相性は抜群だと思う。
「こっちも美味しいから食べてみて~」
2人に私のおすすめの天むすをあげた。そしたらまた驚いてくれる。
「えっ、おいしい! さくさくしてるし、この白いのと合うわ!」
「すごい。具が変わっただけで味が全然違う」
そこがお米さんの強み。どんな具材も包容力を持って引き出してくれる。今日みたいに色んな人に提供するにはぴったり。
材料の具材もこれで底を付いたから最後に2人が来てくれて本当によかった。
これで悔いなく生誕祭を終えられるね。




