204 女子高生もゴーレムと戦う
「ノラ殿。あなたに頼みがあります」
央都でぶらぶらしてたら急にケルちゃんに捕まった。そして開幕にこの一言。何事?
「魔王様復活?」
「さすがにそこまではない。少し問題の対処をしなくてはならなくてな」
「問題?」
「ああ。魔女が目を覚まして魔王城周辺の吹雪が止んだのは知ってるだろう?」
吹雪の原因はロゼちゃんだから今はそこにいないから当然だよね。
「実は魔王城周辺には城を守るゴーレムがいるんだ。魔王様が生み出した強力な魔導兵器とでも言おうか」
「それって危なくない?」
吹雪が止んでるなら今は誰でも入れる状態だろうし。ケルちゃんが頷いた。
「そうなんだ。ゴーレムは人を検知すると自動的に襲うようになっている。今までは魔女の吹雪のおかげでそうした被害はほぼなかったが今後はそうもいかない」
万が一お城周辺に迷い込んだ人がゴーレムさんと対峙したら下手すれば命に関わるかもしれない。確かにこれは問題だ。
「だからゴーレムの処理の手伝いを願いたい」
「そういうのはキューちゃんやロゼちゃんの方が適任だと思いますけど?」
どう処理するかは分からないけど、少なくとも攻撃してくる相手なら実力のある人の方が適任だと思う。私なんて実力皆無だし体力もない。
「あの2人にこの話を持ち掛けてみろ。後で何を言われるか分からない」
ケルちゃんが腕を組んで目を瞑る。
『かっかっか! 総司令官ともあろうものが我に頭を下げるとはのう! そうじゃな、報酬は1年分のうまい飯で手を打ってやろう!』
『無様ですわね、魔犬? そのまま土下座して犬のように這いつくばるなら考えてあげてもよろしくてよ?』
軽く想像したけど多分こんな反応。うん、これはケルちゃん的にもお願いしたくないと思う。
「ノイエンさんはどうですか?」
「それも考えたのだがフェルラ賢星は多忙だ。それにこういう雑務は引き受けないだろう」
私はいいんだ。
「引き受けてくれないだろうか? もちろん、礼はしよう」
「私でよければいいですよ。でもゴーレム相手ってなったら多分戦えないですけど」
「その点は私が守るから問題ない」
相変わらず頼もしい。どの道、こっちですることもなかったし引き受けよう。
「それとノラ殿の知り合いでゴーレムを解読できるものはいるか?」
「解読ですか?」
「ああ。ゴーレムは言わば機械人形だ。だからその仕組みを理解できるならば手間も大きく省けるだろう」
そうなったら適任者は1人しかいない。
※魔王城麓・荒野前
「今回はご協力いただき感謝します」
「私で役に立てればよいのだが」
ゴーレム作戦で呼んだのは魔道具の博士さんことアンセスさん。この手の道に詳しいからきっとケルちゃんの要望にも応えてくれると思いたい。
早速荒野の森を歩き始める。吹雪が止んでるせいで本当に前と同じ所なのかって思っちゃう。枯れた木と勾配のある坂が続く。そんな道を歩いてたら遠くで丸くて鈍色の土偶のようなのが座ってる。近づくにつれてそれが私の背丈の何倍もあるのが分かる。
「早速発見したな。運よく壊れていたらいいのだが」
ケルちゃん、それはフラグって言うんだけど。ぴくりとも動かないゴーレムさんだったけど、額にある青い宝石みたいのが赤く変わった。そしたらゆっくり立ち上がる。
「まずいな。私の傍を離れるなよ」
ゴーレムさんが立ちあがると目が白く光っていきなりビームを放ってきた。おまけに右手を突き出して火の弾を飛ばしてくる。うわー、完全にヤバい奴だー。
暴走するゴーレムさんだったけどその攻撃は全部ケルちゃんの魔法で軌道を外されて明後日の方向で爆発する。急に帰りたくなってきた。アンセスさんも顔が真っ青になってるし。
「仕方ない。一度大人しくさせるか」
ケルちゃんはゴーレムさんに向かって火のビームを放った。胴体に命中したけど、なんでかビームが反射したみたいに別の方向に弾かれた。
「魔法反射か。ならばこれならどうだ?」
ケルちゃんが右手を光らせてゴーレムさんの頭を思いきり叩きつけた。すごい爆音がして黒い煙があがる。でも激しい音は止んでないからゴーレムさんは動いてる。
「参ったな。ここまで凶悪とは知らなかったよ」
ケルちゃんがこっちに戻って来た。
「おそらくあの額のが核となるだろう。あれを破壊すれば動きは止まるかもしれない」
アンセスさんが説明してる。
「しかし魔法反射され物理攻撃も効かないのだが」
「ふむ。これが古代の兵器ならば現代の魔法を反射させるだけの装甲を持つとは考えにくい。おそらく内部に強力な術式が組み込まれているのだろう。内部から破壊すれば或いは」
「それならば死神でも呼ぶべきだったか」
確かにキューちゃんならその手の魔法は使えそう。
「一度引き返します?」
「いいや。私のプライドが許さん」
そう言ってケルちゃんが突っ込んで行っちゃった。戦闘が激化してるけどゴーレムさんが倒れる様子はなさそう。困ったなぁ。そうだ、あれを試そう。
「アンセスさん、私の後ろに隠れてください」
「分かった」
鞄から魔法棒を取り出したら、アンセスさんがびっくりしてる。
「大丈夫です。扱い方はノイエンさんに教わりましたから」
「そ、そうか。ならいいのだが」
「ケルちゃん! 避けて!」
魔力解放! 魔法棒の全出力をゴーレムさんに届ける!
本来なら意識と想像で操作しないといけないけど、これだけの相手なら本来の力でも大丈夫なはず!
魔法棒の先が青く光ったらレーザーが飛び出した! ケルちゃんが慌てて木陰に逃げて、レーザーはゴーレムさんの胴体に命中! そして大爆発!
魔法棒を向け続けてる限りこの爆発はずっと続く。片手で魔法石を持ってるから魔法棒の魔力は実質無尽蔵。黒煙が舞い上がってるけどその中からゴーレムさんが地面に転がってきた。胴体に大きな穴が空いちゃってる。
「なるほど。魔法反射される前に爆発させ、反射の術式を無理矢理破壊したか」
アンセスさんが感心してるけど、完全にごり押しだったよ。
「ノラ殿。そういうのは先に教えて欲しかった」
万が一作戦が失敗してゴーレムさんがこっちを向いたら大変だったからなんて言えない。
「しかしよくできたゴーレムだ。千年も前に造られた代物とは思えない」
アンセスさんが倒れたゴーレムに近付いて空いた胴体の中を観察してる。中は空洞みたいだけど砕けてる破片を見たら術式みたいのがびっしり書かれてた。
「これは驚いた。旧式の術式でここまで可能とは」
それは私も分かるかもしれない。ここ最近ずっと旧式の術式の練習をしてたから、それでここまで機能するなんてすごすぎる。
「おそらく核にある魔法石のおかげだろう。これのおかげで実質魔力問題は解決している」
それってつまり私も魔法石があるから新しい魔法を扱えるようになるんじゃ?
これは今度こっそり試してみよう。
そんな風に呑気に会話してたけど不意にゴーレムさんの内部が白く光った。ケルちゃんが慌てて構えたけど、どうにも砕けた破片が再生してる。
「自動修復もあるのか。これを考えた者は相当優秀だ」
「当然だ。あの方は実力知能すべてを兼ね備えた存在だからな」
ケルちゃんが自信満々に言ってる。術式を組み込んだゴーレムを生み出せるって魔王様とんでもない。
こんな兵器があるならもしも全面戦争になってたら本当に大変だったと思う。
「核を壊した方がいい?」
「いや……ここは私に任せて欲しい」
アンセスさんが内部に触れて何か術式をいくつも書き加えてる。その間に内部も体も再生してる。ケルちゃんはいつでも動けるように構えてた。
そしてゴーレムさんは完全再生を果たした。ゆっくり立ち上がって、あたりをキョロキョロして立ち止まった。額の核の色も赤から青に戻ってる。
「とりあえず人を敵と認識する術式を書き換えた。これで襲っては来ないだろう」
「そんなこともできるんですか?」
「魔道具制作の応用だったがうまくいったようだ」
アンセスさんはやっぱりすごい。こんな短時間でそこまでできるなんて。
「すばらしいな。あなたほど優秀な研究者は早々いないだろう」
「私なんて大したことはないよ。他に優秀な者などいくらでもいる」
「ご謙遜を。私ですら知らなかった術式を一瞬で解読して書き換えるなど普通の者には不可能だ」
失敗するリスクも考えたら正常な判断もできないと思う。
「未知の術式を見たら試したくなるんだ。それに私こそ礼が言いたい。ここに書かれていた術式はいずれも私が知らぬ物ばかりだ。総司令官、これを譲っていただけないだろうか?」
「構わない。ゴーレムはまだ無数にあるからな」
「どれくらいあるんです?」
嫌な予感しかないけど。
「軽く100は超えてるな」
1つ抑えるだけでも大変なのにそれが後100もあるなんて。つまりこの危ない橋を100回しないといけないのかぁ。
「その点についてだが、うまくいくかもしれない。このゴーレムの術式を組みかえれば他のゴーレムの内部を操作するように動かせるかもしれない」
「本当か?」
「まだ試作段階故に試さなくてはいけないが」
すると止まってたゴーレムさんが辺りをキョロキョロするとゆっくり動き出した。
その後を皆で付いていったら枯れ木の奥に別のゴーレムが倒れてた。
「2人はここにいてくれ。私が確認しよう」
そっか。ケルちゃんは魔族だから敵対されないんだね。それでケルちゃんとゴーレムさんが仲良く歩いて行ってるのがなんか微笑ましい。
それでゴーレムさんが倒れてるゴーレムさんに向かってビームを放ってる。それが暫く続いたら倒れてるゴーレムさんが立ちあがった。ケルちゃんも手を挙げてくれてるからうまくいったのかな。
「アンセスさん。世界平和に一歩前進しましたね」
「そうか。私の知識が役に立ったのか」
立ち止まったから振り返ったらアンセスさんの瞳から少しだけ涙が零れてた。
「アンセスさん?」
声を掛けたら慌てて白衣で目元を拭いてる。
「ああ、すまない。誰かの役に立てるのも悪くないと思ったんだ」
「転職しちゃいます?」
「それもいいかもしれない。だけど……平和になった先に必要なのは人を笑顔にする魔道具だろう。やはり私にはこっちが性にあってるよ」
そう言うとアンセスさんは笑ってた。きっと世界が豊かになっていくのは、こういう人がいるおかげなんだって思う。
だから今は、そんな人達の役に立てたらいいなって。




