203 女子高生も魔法大会に参加する
魔法大会当日。央都の魔術学園の広場には多くの人で賑わってる。
今日の為に魔法の勉強を頑張ってきた。だから優勝はできなくても自分の実力を存分に発揮したい。
周りにいる人達は皆ライバル。見るからに腕利きの人ばかりって分かる。多分この中には知り合いもいるだろうし激戦になると思う。
とりあえず離れた所で司会進行を待とう。と思ったらノイエンさんが颯爽と出て来た。
「今日もこの日がやって来たねぇ。魔法で己の芸術を示す。この日の為にあんた達は死に物狂いで努力してきたのだろう。だったらそれを見せてみな! じゃあ今回の審査員を紹介していくよ。1人目は毎年恒例このあたし、ノイエン・フェルラだ。今回も厳しく採点するから覚悟しな!」
やっぱりノイエンさんは採点側なんだね。去年は誰にも厳しい評価を送ってたからいかにノイエンさんから高得点をもらえるかがカギだと思う。
「さて。2人目の審査員は山奥の秘境地で祀られる神、オオクニヌシだ!」
「どれだけ魔法が発展してきたか見てやろう」
まさかのダイちゃんが審査員!? なんで!? って思ったけど片手に盃を持ってるから絶対にお酒で釣られて審査員になった奴。まぁでもダイちゃんが審査員はちょっと安心。
「さて3人目だが……」
「かっかっか! 人間ども、光栄に思うのじゃ! 我が自ら貴様らを審判してやるのじゃ!」
ノイエンさんが喋る前にどや顔を見せつけてる。まさかのキューちゃんが審査員側になってるなんて。ノイエンさんの言うことを聞くなんて思えないけど、って思ったら審査員の台の上に大量の食べ物が並んでる。これは絶対食べ物で釣られた奴。
「死神を名乗るコキュートス・ヘルヘイムが審査役だ」
この展開には魔術学園にいる人達がざわついてる。神に死神という実質2柱の神に審査されるという。おまけにノイエンさんもいるからこれは難題だ。
「というか何でお前が審査役なのじゃ!」
「そう怒るでない。せっかくの酒が台無しになる」
「ぐぬぬ。我はお前の隣に並ぶのは嫌じゃ!」
キューちゃんが魔法を使って自分の台を物凄い端っこに移動させてる。大会が始まってもないのに既に混沌としてきたんだけど。
ノイエンさんはそんな状況に目もくれずに続けた。
「さて。堅苦しい挨拶はこれくらいにして始めるよ! 1番は誰だい!」
ついに魔法大会が始まる。私も参加するつもりだけどまだ昼前だからちょっと早い。
とにかく今は他の人の魔法を観戦しよう。
「俺が行こう!」
そう言って出て来たのは作業着のトカゲさん。あれはスライム牧場の人だ!
トカゲさんは両手を構えて、頭上に水玉をふわふわと浮かばした。さらに両手を動かすと水玉の形が変化して誰が見てもスライムだって分かる造形に変化した!
更に素早く魔法を使って同じスライムを頭上に造って、増えたスライムを合体させて大きくさせた! それを繰り返してスライムはどんどん大きくなっていく。そして最後に指を弾いたらスライムがパーンと弾けて水飛沫が散った。きらきら光るそれはとっても綺麗。
「得点は5点! 4点! 1点! 合計10点だ!」
「は?」
その点数にトカゲさんが口を開けたまま放心してる。トカゲさんだけじゃなくてここにいる人達がざわついてる。
「いやいや! この点数は納得できないのだが!」
トカゲさんが必死に抗議してる。もし私が審査員だったら間違いなく10点を送ってたと思う。それくらい完成度が高かったしスライムもかわいかった。
「水魔法など古代の人間も扱えた。人としての進歩が感じられない」
「破壊力がまるで足りないのじゃ」
ダイちゃんとキューちゃんが見事なまでの辛口コメントを残してる。魔法大会はその審査員を攻略するのが鍵だけどこれは例年以上に厳しい戦いになりそう。
トカゲさんは落ち込みながらとぼとぼ帰ってる。
「さぁ次は誰だい!」
ノイエンさんが声を上げたけど、次の人が中々でてこない。今の採点できっと尻込みしたんだと思う。そしたら人だかりの中から手が挙がった。出て来たのは白っぽい狐さん、フブちゃんだ!
「ふっふー。ならここは私が颯爽と高得点を出して一番になっちゃいますか」
それでフブちゃんはマイクみたいのを手に持ってそしてその場で歌い出した。
いつも以上に長く、綺麗でどこまでも届きそうなくらい儚げな声で。
その声に聞きほれて魔術学園にはその歌声だけが響き渡る。きっと誰もがその歌声に聞き入ってるんだと思う。こんなに歌えるようになってたんだね。
「ご清聴ありがとうございました!」
フブちゃんが歌い終えてぺこりとお辞儀する。
気になる点数は?
「得点は3点! 5点! 1点! 合計9点だ!」
「ぐえー!」
フブちゃんが情けない声をあげて倒れてた。
「魔法大会で歌を披露するという奇抜さは評価しよう」
「破壊力が圧倒的に足りぬのじゃ」
見事な辛口コメント。というかキューちゃんは魔法大会の趣旨を理解してるよね?
フブちゃんは倒れたまま動かなくなったから、大人の人達に連れ去られてた。
「次は誰だい!?」
「ワタクシが行きますわ」
魔術学園の屋上から蝙蝠の羽が生えた子がふわっと降りてきた。ロゼちゃんだ!
「いい余興ですわね。この機会にワタクシの強さを思い知らせてあげますわ!」
片手をあげたら吹雪が舞った。魔術学園は一瞬で白銀の世界となって、ロゼちゃんは魔法天高くに飛んで空を雪で覆いつくした。見る物全てが白となった光景はまさに圧巻。なんだけど……、周りを見たら寒さのあまりに凍えてる人が続出。
「得点は3点! 2点! 1点! 合計6点だ!」
「なんでですの!?」
本人がめちゃくちゃ不服そうに叫んでる。
「美しさの代償が大きすぎる。芸術性を損ない大幅減点だ」
「魔女は嫌いなのじゃ」
お決まりの如くの辛口コメント。キューちゃんに関しては完全に私情すぎて笑うんだけど。
「ヘイム。今すぐその点数を変えなさい。そうすれば命を救ってあげてもよくてよ?」
そしたらキューちゃんが10点を取り出した。それを見たロゼちゃんが満足そうな顔をするけど、キューちゃんが別の板で10の1の部分を隠した。つまり0点。
それを見たロゼちゃんの目の色が真っ赤になってとびかかったけど、すぐにノイエンさんの魔法で場外に吹き飛ばされてる。
「次は誰だい!」
ノイエンさんの言葉で手があがった。出て来たのは金髪の女生徒……リリだ!
「リリー、がんばれー!」
リリが私を探してくれたけど人が多すぎてどこか分かってなさそう。とりあえず観戦。
リリは右手を前に突き出したら風が吹き荒れた。そしたらさっきロゼちゃんが生み出した雪が空へと飛んでいく。続けて手を上げたら青い炎が空にいくつも灯った。雪と相まってまるで氷のように見える。でも炎みたいで雪が溶けていった。
それでリリは風を操って青い炎をぐるぐると回した。空の雪はどんどん溶けて雫が落ちて来る。最後に風と炎を止めて天に大きな光が生まれた。光は雫を反射して七色の橋が架かった。虹だ!
「得点は10点! 9点! 8点! 合計27点だ!」
その点数に学園内に歓声が沸き起こった。この審査員相手にまさかの高得点!
これは拍手するしかない! 学園にびっくりするくらいの拍手が起こってリリが照れくさそうにしてる。
「素晴らしいな。前の奴の魔法を利用するとは驚いた。狙っていたのか?」
「いえ。本当は別の魔法を披露しようと思ってたんですけど、審査が厳しそうだったから急遽変更して咄嗟に思い付いて実践しました」
えーすごすぎない? 確かに審査員を攻略するのもこの大会の醍醐味だろうけど、それを見抜いたってリリお嬢様すごすぎるよ!
「咄嗟の機転が見事だったよ、リリル。あんたはいい魔法使いになれるだろう」
ノイエンさんからも褒められてる。
「かっかっか! あの魔女が無様に負けて気持ちがよかったのじゃ!」
キューちゃんに至っては完全に個人的な理由過ぎる。これはもう優勝するのリリじゃない? 実際学園の空気もそんな感じになってる。とにかく私は自分の番の頃合いを図らないと。
※夜
あれから魔法大会は続いて、色んな人が参加した。高得点を出した人もかなりいたけどリリの点数を超えられた人は誰もいない。神様と死神の期待を超えるというのはかなり難しい。実際周りの人はリリが優勝だって囁いてる。
「次は誰だい?」
学園内が静まり返ってる。時間も大分経過したからもう殆どの人が参加したんだね。
「いないのかい? じゃあ今回の魔法大会は……」
「はい」
手をあげた。静まった学園に一斉に注目を浴びた。
「えっ、ノノ!?」
「ノラ君!?」
「ノノムラ・ノラなのじゃ!?」
周りから聞きなれた声がする。ノイエンさんとダイちゃんが私の方を見てた。待ってたと言わんばかりに微笑んでる。それは私も同じ。やっと魔法を使える。夜にならないとできないから。
鞄から魔法の杖と魔法棒を取り出した。そしたらまた周りがざわざわしてる。触媒で大会に参加したのは他に誰もいなかったからね。それに私は二刀流でする。その為に練習もしてきた。
大丈夫、きっとできる。
杖の魔力は最大。さぁやるよ。
魔法棒を空に向けて構えた。杖の先端が青く光る。ここ集中。ノイエンさんに言われた通りに意識を絶やさない。私が描いた魔法を。
魔法棒の先端から小さな丸くて青い光が空に飛び出した。魔術学園の屋上も飛び越して天高くにいった。
いまだ!
魔法の杖で火の術式を描く。本来なら火の玉が発生するだけだけど、ここに新しい文字列を追加する。ノイエンさんは言った。触媒の魔力が十分にあるなら変化させるのも可能だって。だから火力は最小限にして火を起こそう。それも天高くに輝いてる光の元へ。
一瞬だけ赤く光った。
同時に青い光がドンッて爆発してはじけ飛んで赤い火花が周囲に綺麗に飛び散った。
「これって」
「すげー」
「綺麗……」
夜空に大きな花が咲いた。やった、成功した!
花火。それを魔法で実現したかったけど、うまくいってよかった。
散った火花は地面に落ちて赤い線を生み出してる。そして少しずつ消えていった。
「まだまだ行くよー」
感傷に浸る前にどんどん花火を打ち上げる。魔法棒で青い光をいくつも飛ばしてそれを魔法の杖で発火させる。そしたら夜空にいくつもの打ち上げ花火があがった。
爆発する音がちょっと豪快する気もするけど、それも風情と思おう。
周りを見たら皆が顔を上げて空を見上げてくれる。この輝きだけは異世界の人にも知って欲しかった。儚くて美しい日本の伝統。作ったのは魔法だけどね。
魔法棒の方も魔力が減ってるみたいで、次が最後になりそう。打ち上げ花火があがると、その火花が消えるその瞬間まで誰もがそれに見惚れてる。私もそう。
辺りが真っ暗になってもしばらく静寂が続いた。もう続きがないのかっていう気持ちと、もう終わったのかっていう気持ちが感傷になるんだよね。
ノイエンさん達が得点を出してた。
見事に全員が10点を出してる。
全員が無言で頷いてて余計なコメントはしないって感じ。
「30点でノラが優勝だ!」
ノイエンさんの声で学園にまた歓声があがった。自信はあったけどまさかここまでうまくいくとは思ってなかったよ。
「わーん! 今回は自信あったのにー!」
「リリ!」
「ノノ。あの魔法すごかったわ。負けたけどあれなら仕方ないって思ってる自分がいる」
「ありがとう。どうしてもこっちで再現したかったんだ」
その為に何度も練習したし、何より夜っていう条件が絶対だったから早く大会が終わったら勝てる見込みはなかったよ。
「ノラ、おめでとう。まさかあんたが優勝するとはね」
ノイエンさんが近くに来た。手にはダイヤモンドみたいな石を持ってた。
「魔法石だ。優勝者に贈呈されるものだ。受け取りな」
「ありがとうございます!」
「魔法石!? そんな貴重品が優勝賞品だったなんて……」
リリがすごく驚いてるけど私には価値が分からない。
「すごいもの?」
「そうよー。魔法石は言わば魔力を生み出すすごい代物よ! 魔道具にも使われてるけどこんなに大きなのは滅多にないって!」
「ほえー」
とりあえずレアアイテムっていうのは分かった。
「しかしノノムラ・ノラがあそこまでの火力を生み出すとはのう」
キューちゃんが疑問そうに思ってる。
「うん。本来なら扱えなかった魔法棒を使えるようになったから」
「やはりノラ子はさすがだ。妾が見込んだだけある」
ダイちゃんも満足そうにしてる。
初出場の魔法大会。そこそこの成績を残せたらって思ってたけど優勝できたのは本当に嬉しい。だから私はこんな文化を生み出してくれた日本の伝統職人さんに感謝しないとね!




