200 女子高生も創作のアドバイスをする
異世界の図書館で魔法のお勉強をしよう。憧れの魔法使いになれたのはいいけど私には向いてない。でも知らないだけで他にやり方があるかもしれない。だから勉強が必要だね。
央都にある大図書館に来たけど相変わらずの本の多さに圧巻される。おまけに本が飛んでるし。
「とりあえず昔の人は魔法をどんな風に使ってたか勉強しないと」
そういう資料は2階以降にあるってリリが教えてくれた。でも円周に広がってる本を1つ1つ探して目当てのを見つけるのは骨が折れそう。とりあえず受付の司書さんの所に行ってみる。
「あの~。魔法の歴史について勉強したいんですけど、そういう本ってあります?」
「古代魔法ですね。少しお待ちください」
司書さんが指をクルクルさせたら空から本が数冊ばさばさ飛んできてカウンターの上に落ちた。ほえーそういう使い方なんだ、これはすごい。
「ありがとうございます。図書館で自習ってできます?」
「はい、自習空間を中央付近に設けてあります。ただ、魔法の実践に関してはお断りしていますのでご了承ください」
「はーい、ありがとうございます~」
こんな所で魔法を使うのは危ないってさすがの私でも分かる。
教えられた通り1階の中央付近は机が並んでて、そこで読書したり勉強してる人がいる。
空いてる席は……あった。隣の人は勉強してるみたいだから邪魔しないようにそうっと、ってあれ? この天使の羽は見覚えあるような。うん、青緑の髪だし間違いなくフーカちゃん。熱心に何かを用紙に書いてる。
頑張ってるみたいだし声をかけずに私も本を読んでよう。
※1時間経過※
「あれ、ノーちゃん!?」
1時間くらいしてフーカちゃんが私に気づいた。
「フーカちゃん、こんにちは~」
「もしかしてずっといた?」
「ちょっと前からね」
「そうだったんだ。全然気づかなかった」
それだけ集中してた証だろうし。
「勉強お疲れ様だね」
「あーうん。これは勉強じゃないんだよ」
「そうなの?」
「そろそろ作家としての活動をがんばってみようと思って」
つまり出版する本を書いてた感じかな。
「へー。どんな内容?」
軽い気持ちで聞いたらフーカちゃんがこっそり用紙をこっちにおいてくれた。手に取って読んでみる。
「好きだ。私も愛してる。まるでリガーのように甘い時間が私達を満たした」
「ちょっとノーちゃん!? なんで音読してるの!?」
フーカちゃんが顔を真っ赤にして用紙を奪い取っちゃった。気づいたら周りの視線も釘付けになってる。うん、心で読んだはずだけど声に出てた。
「恋愛物かぁ。いいね」
「勇者物語を書いた時、勇者と聖女と魔法使いの恋愛要素の部分がよかったっていう声が多かったから今回は恋愛部分だけで勝負してみようと思って」
「ふむふむ。でもそれならどうして冒頭で両想いになってるの?」
「え? 最初からはっきりしてた方がよくない?」
うーん。どうなんだろう? 私は恋愛物は片思いから始まってじれったく進む方が好きだなぁ。
そしたらフーカちゃんがペンを転がして突っ伏しちゃった。
「あー、やっぱり私に才能なかったー。今のノーちゃんの反応を見てこの題材は駄目って分かった」
それは時期尚早に思うけど。
「こういうのって自分はどういう恋愛をしたいかを表現した方が面白く書けそうじゃない?」
「一理あるけど私、恋したことないからなぁ」
それは私もそうだけど。
「空都だと結婚する相手も皆決まってたからそもそも好きな人と結婚するという感覚すら分からなかったし」
「そうだったんだ。じゃあフーカちゃんも許婚がいたの?」
「一応ね。ただお母様は私を女王様にするつもりだったみたいだから、かなり厳選してたみたい」
本人は全く興味なさそうに話してる。結婚相手も決められてたって今考えると本当に大変な街だったのかもしれない。
「自由な恋、か。私にはまだ分からないなぁ。ノーちゃん、何か助言してよ」
「んー。私自身は分からないけど、でもそういう娯楽本は結構読んであるからそれでよかったら教えてあげるよ」
「お願いします、先生」
先生なんてそういう柄じゃないのにからかってるね?
「まずは朝起きた女生徒が寝坊する所から始まります」
「何その状況。笑うんだけど」
「パンを口にくわえて走る女生徒が街角で男子生徒と衝突します」
「パンくわえて走るって地上人って忙しないね」
「女生徒はぶつかった男子生徒に恋に落ちます」
「は?」
だらだら聞いてたフーカちゃんが明らかに素っ頓狂な声をあげてる。気持ちは分からなくもない。
「は、え? なんで? あ、分かった。その男子生徒って片思いだった人でしょ?」
「ううん。初対面」
「えーノーちゃん、それ本気?」
「うん。これは私の国の伝統だよ」
真顔で言ったらフーカちゃんが面喰ってる。カルチャーショックだったのかもしれない。
「それで恋が成立するんだ」
「うん。始まりなんて些細でいいんじゃない? そこから始まる片思いと相手との関係が大事だと思う」
「ほう。これは恋愛上級者じゃん。ノーちゃん、本当は恋愛経験者でしょ?」
「ないんだよねー」
全部漫画で得た知識だし。
「そっか、ないんだ。じゃあさ、ノーちゃんはどんな恋がしたい?」
それは難問だ。自分でもそういうの分かってないからどう答えていいか分からないし。
ずっと唸ってたらフーカちゃんが肩を叩いてくれる。
「よかった、ノーちゃんが先に行ったらどうしようって焦ったよ」
「もうフーカちゃん~」
「でもさ、いつかノーちゃんにも好きな人ができて、その人と幸せになっていくんだろうね。私、それがちょっと怖いかな」
「フーカちゃん?」
「ううん、なんでもない、なんでもない」
落ち着きなくしたみたいで用紙にペンを走らせてる。私も10年後がどうなってるなんて分からない。明日ですらどう転ぶかも分かってないから。
「私の未来がどうなったとしても、フーカちゃんが友達っていうのは変わらないよ? それはこれからもずっと」
「うえええん!」
そしたらフーカちゃんが子供みたいに泣き出して用紙をくしゃくしゃにしてるんだけど。
「私もだよぉ。ノーちゃん、私達は一生友達だよー」
「もちろんだよ~」
「うー。もういっそノーちゃんと結婚したいくらい。はっ、そうだ! ノーちゃんを男っていう設定にして書いたらいいじゃん! これだ!」
なんかフーカちゃんが閃いたみたいでペンを勢いよく走らせてる。
後で読み直して恥ずかしくならないことを祈ろう。




