199 女子高生も茸狩りをする
今日は久しぶりにリリの家に来た。魔法の勉強もかねて色々教えてもらってる。新しいことを覚えるのは楽しい。楽しいんだけど……。
「魔法を使いたい」
「ノノ?」
「魔法を使いたい!」
「ノノ大丈夫!?」
リリには悪いけどこの気持ちが抑えられないんだよ。
「せっかく魔法使えるようになったのに活用できる場面がほとんどないのが辛いんだよ~」
「気持ちは分かるけどね。私も新しい魔法をすぐ試したくなるし」
「でしょ? リリ、冒険しよう」
部屋にキューちゃんがいないからリリにお願いするしかない。
「いいけど魔物は危ないわよ?」
「うん。だから平和な冒険がしたい」
「矛盾してない?」
痛いのは怖い。でも冒険はしたいんだよね。そんな私のわがままにリリは真剣に悩んでくれる。そしたら手を叩いてくれた。
「そうだわ、今の時期ならマイコニドが繁殖してると思うわ」
「大きな茸の魔物だっけ?」
「そうそう。あれなら動きも遅いしノノの魔法でも倒せるんじゃない?」
確か倒したら部位を売ってお金にできるんだっけ。
「リリ前に追いかけられてなかったっけ?」
「あ、あれは魔力がなくなっただけだから! 今回はポーション持参するから平気!」
らしいから大丈夫みたい。そうと決まったら早速街の外まで行ってみよう。
スライム街道の反対側の森の中に入った。そしたら森中に大きな茸さんがあちこちで蠢いてる。これは数が多い!
「この時期になったら茸狩りに来る人もいるわ。大体は騎士隊が殲滅しちゃうから早い者勝ちね」
確かにこれだけ繁殖してたら森の中を歩くのも難しくなりそうだもんね。
それで近くのマイコニドがこっちに来たから早速魔法の杖を構えた。
のだけど、そのマイコニドの胸に矢が刺さって倒れちゃった。そしたらムツキがこっちに気づいて来た。
「ノラにリリル。来てたんだね」
「やほやほ。ムツキは仕事?」
「ううん。食材が欲しいから個人的な理由だよ」
なるほど。売らずに自分で保存してもいいんだね。ムツキさんは本当にいい意味での倹約家だね。
「私は魔法の実践を兼ねての練習だよ~。保護者もいるから安心!」
「ちょっとノノ! 私はまだ魔法資格持ってないから!」
それでも私からしたらエキスパートだからね。
「せっかくだしムツキも一緒にどう?」
「もちろん。一緒の方が色々と捗るから助かるよ」
「よーし、燃えて来たー。早速あの子をおびき出すよー」
森の中で炎の魔法を使うのは危ないから街道まで誘導しないとね。問題はどうやって誘導しようかな。瑠璃が居たら挑発してくれるんだけどなー。
そしたらリリが手から魔法の弾を発射させてマイコニドさんに当ててた。それで気づいてこっちにやってくる。
「これでこっちに来るはずよ」
「ありがとー。えーと、魔力は十分だから術式を展開して」
マイコニドさんの動きは緩やかだから私でも準備する時間はかなりある。
よし、うまく術式がかけた。
「危ないから2人は離れて~」
杖を向けたら先端から真っ赤な火の弾が飛び出した! まさにファイアーボール!
でも火の玉の動きが意外とゆっくり。ふわふわ飛んで行くのはお化け屋敷にありそう。
それで火の玉がマイコニドさんにぶつかりそう。
コツンって当たったら一瞬だけ黒い煙があがった。それで終わり。あれ?
私の予想だと炎上するイメージだったんだけどなぁ。
「基本的に魔法は人体に及ぼす損傷は少ない。そもそも魔法で生み出した炎だから本物の炎とは若干異なるのよね」
リリさんの豆知識です。そんなの初耳―。周りは凄腕の魔法使いばかりだったから勝手に魔法のイメージは普通に漫画と同じと思ってたよ。
「だからこういう工夫が必要になるわ」
リリが手から同じ火の玉を出して空中に漂わせてる。同じ魔法だ。
さっきと同じようにマイコニドさんに当たりそうだけど、そしたらリリが風魔法を起こして森の木の枝を揺らしてた。落ちて来た葉っぱが燃え移って、そしたらマイコニドさんも燃え上がった。
「魔法の炎でもこうやって別のに火を移せば本来の炎になるのよ」
なるほどー。これは私の中で魔法で戦うイメージがかなり難しくなった。そう考えたら本当にノイエンさんや魔族の皆は魔法のスペシャリストなんだって痛感するよ。
魔法棒を包みから解放してトングで掴む。それで杖に魔力を充填。これでまた魔法が使えるはず。
「それのおかげで触媒の魔力問題はほぼ解決ね」
「だね~」
今度アンセスさんにお礼を言わないと。
それでもう一度火の術式を描いて火の玉を出した。ふよふよ浮かんでるからその間に魔力を充填。マイコニドさんが火に気づいてちょっと逃げ出してる。
「ノノ、今よ! 風の術式!」
リリに言われたから術式を書こうと思ったんだけど、なんか。
目の前で必死に逃げ回ってるマイコニドさんを見てたら心が痛む。
「ノノ?」
「やっぱり無理かも。あのマイコニドさんのつぶらな瞳を見たら躊躇うよ」
「いや、目なんてないんだけど」
私には見える。心の目が。とても悲しそうに泣いてる、ように思う。
そんな躊躇してたらムツキが横からズバッと剣で切り伏せてた。あ~、諸行無常~。
「いいノノ? 生きるためには時には心を魔王にしないとダメなのよ。央都で売ってるお肉だって元はどこかで殺された魔物なんだから」
現実だって美味しい食べ物は全部そうやって殺されてスーパーに並んでる。
分かってるけどいざ自分がする番になるとこんなにも辛いとは思わなかったよ。
「私はノラのそういう所が長所だと思うよ。彼らも生きてるって意識がなくなったら、それこそ冷酷な乱獲や殺戮に昇華される。だからそうした気持ちを忘れないのも大事」
魔法使いになったけど致命的に魔法使いに向いてなかったよ。
「ムツキの言う通りかもね。よし、じゃあマイコニド狩りはこれくらいにして茸祭りをするわ!」
リリが焼けたマイコニドさんを風魔法で転がして安全な所に運んでる。それで道端の所に森の中の枝をかき集めて火の魔法を使った。焚火のできあがりだ。
「ムツキ、捌くのお願い」
「任せて」
ムツキがナイフでマイコニドさんを切り身にして、その間にリリが拾った枝を風魔法で綺麗に剥いて串を作った。それを切り身に刺して焚火の近くに立ててる。串焼きだ~。
材料も何も持ってきてないのに準備をしてる辺りが手際のよさを感じる。
切り身に焦げ目がついたらリリが取って渡してくれた。
「はい。出来立てのマイコニドの串焼きは美味しいわよ~」
そう言われたから一口。
ん~、茸なのにまるで焼いたチーズみたいに口のなかでとろける~。
「リリ、ムツキ、ありがとう。自分で言い出したのに台無しだよね」
2人とも私に気を使ってくれて茸パーティをしてくれたんだと思う。暗い気分にならないようにって。
「誰にだって向き不向きはあるわ。私なんてムツキみたいに動けないし、調合の知識もないし、料理が得意でもない。取柄と言ったら魔法くらいだもの」
「私に取柄ってあるのかな。優しいなんて誰にでもあると思う」
良い所がないから優しいって褒めてくれるみたいな。そしたらリリが首を振った。
「ただ優しいだけの人が色んな人を説得できると思わないわ。相手の気持ちすらも動かせるのは、間違いなくノノの心がこもってるからだって思うかな」
「うん。私とリリルだって本来なら会うこともなく生涯を終えてただろうけど、こうして接点ができたのもノラがいてくれたから」
「そうそう。ノノは戦いができなくても人の心を動かせる何かがあるわ。だから何も心配しなくてもいいと思うわよ」
なんでだろう、さっきまで美味しかったマイコニドの串焼きが急にしょっぱく感じた。
こんなにいい友人に巡り合えて本当に幸せ者だなぁ。




