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198 女子高生も雨を楽しむ

 雨。


 珍しく異世界の街は雨で覆われてた。それも結構な大雨。

 鞄に折りたたみの傘を入れておいてよかった。


「とりあえずどこかで雨宿りかな」


 そう思って街をうろうろしてみる。でも雨の央都って珍しいからちょっとだけ探索してみよう。人は殆ど歩いてない。出店の所も今日は全部お休みみたいで閑散としてる。


 空を見上げた。雲が覆ってるようには見えないけど、空の色は黒い。夜の空に見えるけどこれがこっちの天気?


 大通りを歩いてもどこにも人影はない。まるで私だけが世界に取り残されたみたい。

 雨の音がザーザーって無情に響き渡ってる。この音は結構好き。たまに動画で自然の音を聞いたりするけど雨の音はかなり好き。聞いてたら段々揚げ物してる音に錯覚してくるけど。


「あ。ここは」


 適当に歩いてたら天球塔の前に来てた。丁度雨宿りできるしここで休憩していこう。折り畳みの傘を閉じてパタパタする。そのまま階段を上がると濡れた靴跡が後にくっきり残ってた。


 一番上まで上がるとバルコニーの手すりで袴姿の黒髪のお姉さんが盃を片手に外を眺めてる。


「ダイちゃん」


「ノラ子~」


 顔がちょっと赤いけどまたお酒飲んでる?


「ダイちゃん、いつもお酒飲んでるの?」


「央都の酒はうまい」


 ここのダイちゃんって霊体とか言ってた気がするけど味覚もあるのかな。

 ダイちゃんは身体を外に出して盃をすすってる。袴が濡れてるのが気になる。


「風邪引きますよ?」


「妾は神ぞ?」


 そうだった。でも濡れるの気にしてくれないと心配になっちゃう。


「こっちで雨って珍しいですね」


「ふむ。この地は大気の乱れが殆どないからな。今回は恐らくサラマンダーが大量に海を渡ったのが原因だろう」


 海の水が蒸発してそれが降ってる? それなら雲ができそうだけど違うのかな。


「こっちの雨はあまり好かんな」


「どうしてです?」


「人が皆引きこもるから人間観察ができない」


 退屈そうにお酒を飲みほしてる。


「ダイちゃんって人が好きなんですね」


「ああ。人がいなければ妾も存在できなくなる。いわば共存する関係だ。だからこそ人を大事にするのは当然だ」


 日本だと信仰が減って実体を保てなくなったそう。異世界では同じ失敗をしないために頑張ってる?


「私は雨が好きだよ。この音、すごく落ち着く」


 普段より静かになる街も含めて雨っていいと思う。髪の手入れは大変だから毎日は勘弁して欲しいけど。


「ノラ子はどんな状況でも適応するだろうな。そして誰も彼も引き寄せてしまう。其方を見ていると飽きないよ」


 適応というか色々考えるよりはその場のノリで生きてるだけなんだよね。

 難しいことを考えるのが苦手だから、なるようになるって思うようにしてる。


 少しの間、ダイちゃんと一緒に街を眺めてた。そしたら急に階段をコツコツ上がって来る音がする。振り返ったらそこにびしょ濡れのミコッちゃんが立ってた。雨を吸ってケモミミも尻尾も萎んでる。


「ミコッちゃん。びしょ濡れだよ!?」


 とりあえず鞄に入ってるハンカチで顔を拭いてあげよう。雨を想定してなかったからタオルがないー。そしたらダイちゃんが手を叩いたらミコッちゃんに付着してた水が弾けた。

 ミコッちゃんは頭を下げてお礼を言ったらダイちゃんを見つめた。


「オオクニヌシ様、お願いがあります。雨を消してください」


「理由は?」


「気分が悪くなる」


 なんとも個人的な理由で思わず笑いそう。もっと壮大な理由があると思ってたよ。


「できなくもないが……」


「ならお願い」


「まずは落ち着くのだ。ただの雨じゃないか」


「ごめん、無理。雨を見てるとあの日を思い出すから」


「あの日?」


 思わず聞いちゃった。


「ミコットが出て行った日」


 ミコッちゃんが淡々と話す。


「雨を見るとあの光景が脳裏を離れない。それでまたミコットがいなくなるんじゃないかって考えてしまう」


 雨の日はお日様が隠れるからそれで気分も落ち込むからそれで余計なのかもしれない。


「気持ちは分からなくもないが。ノラ子、どう思う?」


 ここで私に振る?


「うーん。ようは雨の日に嫌な思い出があるのが原因だよね。だったら雨の日にも楽しい思い出があればいいんじゃない?」


「合格だ。では準備をしよう」



 ※



 噴水広場の一角。さっきまで地面がずぶ濡れだったここだけは今は雨が落ちて来ない。ダイちゃんが噴水の出る石像の上に座って何かしたみたい。


「姉さん、私仕事あるんだけど」


 ミコトちゃんを呼んで準備は済んだ。のだけど何をするかは誰にも分からない。何するの?

 ミコッちゃんを見たらダイちゃんを見て、ダイちゃんが私を見て来る。うん、誰も何も考えてない奴。


「えーと。ミコッちゃんが雨の日が苦手だからその克服的な?」


「姉さん、もしかしてあの日のこと引きずってる?」


 ミコトちゃんに言われてミコッちゃんは腕を組んでそっぽ向いてる。

 面と向かって本人に言うのは恥ずかしいみたい。


「私はもうどこにもいかないよ」


 それは本心だろうけど、不安という気持ちは簡単には晴れない。それを耳打ちしてこっそり教えてあげたらミコトちゃんが溜息吐いてる。


「だったらあれしたらいいじゃん」


「あれ?」


「晴天の舞だっけ? 晴れにできるんでしょ?」


 そんな凄技が? ミコッちゃんは舞の達人みたいだし、そういうのできてもおかしくなさそう。


「あんなの迷信。だって今朝試したのに失敗した」


 既にやってた様子。余程雨が嫌みたい。


「だったら占ってみるっていうのは?」


 天気予報的に晴れが来るなら気持ちも明るくなるかも。

 それでミコッちゃんが魔王のタロットを見せて来る。


「何度も試したけど結果が全部これ。晴れは二度と来ない」


 ずーんって目が死んでる。晴れが来ないはさすがに大変過ぎるけど誇大表現だと思いたい。

 よし、ここは一肌脱ごう。


 ダイちゃんが作ってる雨避けから一歩外に出た。そしたら全身に思いきり雨を浴びる。髪も服もスカートも靴も全部が水浸し。


「ノラ!?」


「たまにしか降らないならこういうのも楽しいよ!」


 いっそ受け入れた方が清々しくて気持ちいいんだよね。学校に置き傘してなくて帰りに大雨振った時がいい例。


「濡れたら全部がどうでもよくなるよ」


 悪い気持ちは全部雨が洗い流してくれる。そう言ったらミコッちゃんも雨の方に出て来た。それで一瞬でずぶ濡れになった。


「確かに……悪い気持ちが流れてる気がしてくる」


 来た時も濡れてたから慣れたのかも?

 それでミコトちゃんにも手招きしてみる。本人は首を横にぶんぶん振ってる。


「い、嫌だよ! 濡れたら手入れしたの全部台無しじゃん!」


「ふっふ。そんなミコトちゃんに素敵な情報をあげるよ。雨に濡れた後に浴びるシャワーとお風呂が最高なんです!」


 冷えた体だからこそ温かいお湯が全身に染みわたって生き返るんだよね。あれは中々癖になる。


「そんなの言われても嫌だし!」


 そしたらミコッちゃんが前に出て行った。ぽたぽたと雫を落として地面を黒く濡らす。


「無理を言って悪かったわ。仕事があるんでしょ? もう、行っていいから」


 それだけ言い残した。気が晴れたのかは分からないけど、そしたらミコトちゃんが変な声をあげてそれで雨の中に飛び出した。


「これでいいんでしょ! 本当今回だけだから!」


 そしたらミコッちゃんが笑って釣られて笑っちゃう。ていうか何が目的だったっけ?


「妾だけ蚊帳の外とはいい度胸だ。妾も濡れるぞ」


 それで全員がびしょ濡れになって何だか変な集団みたいになっちゃった。

 でもきっとこれでいいんだよね。だって雨の中で笑い合えるならそれはきっといい思い出になるから。


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