196 女子高生も秘密の扉の先へ行く
廃都にある寂れた店内の中。そこに私と3人の魔族がいる。幼い見た目に垂れた角を持った黒ワンピの子。軍服姿で威厳のある態度をしてるつり目なお姉さん。そして水色髪にゴスロリな恰好をした女の子。最後に私。皆が違う場所に座ったり立ってる。
「皆を集めたのはほかでもない。大事な話じゃ」
「死神から頼むとは珍しいな。誰かを頼るのが嫌いなお前がか?」
なんか前にも似たような光景があった気がする。ロゼちゃんは聞いてもなさそうにグラスに飲み物を注いでる。
「魔王様でも助けに行くの?」
「魔王様ですって!?」
ロゼちゃんが開口一番に食いついた。
「お前さんは何を言っておるのじゃ?」
いやー、前の流れを踏襲したらそうなるかなって思っただけ。
「聞かせろ」
「別に大した話ではない。あの扉が年々風化してな。崩れ落ちるのも時間の問題じゃろう。そろそろアレを移さなくてはなるまい」
「扉ってキューちゃんが守ってたあの扉?」
キューちゃんが無言で頷いた。
「開けるのも困難じゃったが、ノノムラ・ノラが見つけてくれてな。故に今が好機と思ったのじゃ」
「そうだったのか。最早見つからない物と思っていたがな」
ケルちゃんも感心してた。そういえば鍵を返した気もする。ずっと前ですっかり忘れてたよ。
「ワタクシには何の話かさっぱりですわ」
ロゼちゃんはずっと眠ってたから事情を知らないみたい。
「魔女。いいやグレシア。それにノノムラ・ノラよ。お前さんらも見せておくべきと思って今日は呼んだ」
気にならないって言ったら嘘になるけど、こうして教えてくれるのは素直に嬉しい。
私は部外者かもしれないけど、ここまで言ってくれるなら無下にはできない。
「じゃあ魔王様を助けにしゅっぱーつ!」
「違うと言っておるじゃろう!」
何かノリで言っちゃった。
※海岸洞窟前※
キューちゃんが守ってた洞窟に入って、大きな石の扉の所に来てた。まるで古代の遺跡の名残のようにも思える。
「そういえばずっと疑問だったんだけどいい?」
「なんじゃ?」
「魔王様って女の子だったりする?」
「何を言っておる? そんなわけなかろう」
キューちゃんが呆れたように手を広げてる。
「えーだって、皆女性だしそうなのかなぁって」
「ノラ殿。そもそも魔王様に性別はないのだが」
ケルちゃんに補足される。やっぱり魔王って感じのビジュアルなのかな。
「のらぴ! 魔王様について知りたいならワタクシに聞いてくださいませ!」
目を輝かせて詰め寄ってくる。あーこれは踏んではいけない地雷を踏んだ。
そんなこんなしてる間にキューちゃんが2つの鍵を差し込んで扉を開けようとしてる。
大地を揺らすほどの重い音をならしながら大扉が奥へと動き出して開いた。
その先に何が待ってるんだろうと思って足を踏み入れたら目の前に壁があった。と思ったら左右に道が別れてる。それで両方みたら更に道が分岐してる。迷路?
「おい死神、どういうことだ?」
「かっかっか! 誰も来なくて暇じゃから改造したのを忘れておったのじゃ! 万一の侵入に備えて迷宮にしてやったのじゃ」
そしたらロゼちゃんが一歩前に踏み出て溜息吐いてる。
「はぁ、めんどくさいですわ」
手を突き出してそこからレーザービームみたいに光線を発射させて壁を一網打尽に破壊してる。
「ちょっ! グレシア、何をやっておるのじゃ!」
「餓鬼の戯れに付き合ってあげるほど暇ではないですの」
完全に冷めた目をしてる。するとケルちゃんも拳を握ってた。
「同感だな。直進した方が早い」
それで壁を思いきり殴って破壊してる。迷宮が一瞬で瓦礫の山で一本の道になろうとしてる。
「や、やめるのじゃ! 我が100年かけて作ったのだぞ!? もう少し敬意を持たぬか!」
2人に声が届いてなくて奥へ奥へ進んで壁を破壊してる。それを見てキューちゃんが涙目になってる。まるで砂遊びの力作を破壊された子供。
「キューちゃん、どんまい」
「あやつら絶対許さぬ」
何かこの3人の関係が見てて楽しいなんて言えない。
それで後に続いて真っすぐ歩いた。それでも奥の方まで行くのに半時間はかかったと思う。
けど奥は行き止まりになってて、普通に洞窟の壁になってる。2人もさすがにそれは破壊するのを躊躇ってる。
「死神、この先はどうやって進むんだ?」
ケルちゃんの問いにキューちゃんが腕を組んでぷいってしてる。
「教えてやらぬ。お前さんらなぞ嫌いじゃ」
完全にすねてる。
「どうでもいいですわ。どうせ奥にあるのでしょう?」
ロゼちゃんが構えてビームを放った。でもそのビームはまるで何かに吸収されたみたいに消えちゃった。
「な!?」
「ふん。その程度の魔法効かぬのじゃ。万一の落盤に備えて万全にしてあるのじゃ」
それだけ厳重にしないとダメだったってこと?
「無論、お前さんらなぞには行き方を教えてやらぬのじゃ。ノノムラ・ノラ行くぞ」
キューちゃんが私の手を握ると体が半透明になって奥の壁をすり抜けた。わおー。
それで壁の中を歩くっていう新鮮な経験。少ししたら広い場所に出て、魔法の光が一点に注がれてた。光の中心には禍々しい杖と神々しい剣が交差して刺さってる。
キューちゃんはこつこつと近づいて祀られてる石段へと上がった。
「これって……」
「かつて魔王様と勇者が使った神器じゃ。和解し互いの刃の象徴である武器を収め、制約の碑を残した場所。それがここじゃ」
よく見たら武器の横に異世界文字とはまた違った文字で碑に何か書かれてる。
古代の文字なのかな。
「この武器は神の器ゆえに葬り去るのが不可能じゃった。おまけに誰かの手に渡ればそれこそ一国を滅ぼすだけの力を持っておる」
なんて物騒な代物、って思ったけど確か剣の方はダイちゃんが造ったって前に話してた気がする。
「我はこの武器を誰の手にも渡らぬようにせよと魔王様、それに勇者に言われておった。じゃからここを守っておる」
千年もここでいた理由がただ1つの約束の為だけだったんだ。
「鍵が我が手に戻り、我が同胞も集い、こうして人にこの場を見せる日が来るとはどういう因果なのじゃろうな?」
「きっと、争いが終わって平和になったからだよ」
「そう願いたいものじゃ」
そんな感傷に浸ってたら背後で壁が思いきり破壊されて大穴が開いた。中からケルちゃんとロゼちゃんが息を切らして出て来てる。
「はぁはぁ、やっとあきましたわ」
「全く、面倒な結界を作ってくれた」
結局ごり押しで来るというのがいかにも魔族っぽい。
「どうやらまだ残っていたみたいだな」
「無論じゃ。これを失くしては魔王様に顔向けできんからのう」
「それでどうしますの? 別の所に移しますの?」
ロゼちゃんが面倒は早く終わらせたいと言わんばかりに急かして聞いてる。
「そうしたいのは山々なんじゃが、そもそもこの神器は抜けぬのじゃ」
「はぁ!? ヘイム、冗談言わないでよ。貸してみなさい!」
ロゼちゃんが歩いて禍々しい杖を握った。それで思いきり引っ張ってるけどびくともしてない。挙句の果てに反動で後ろに倒れてる。
「私がする」
ケルちゃんが出て来て今度は神々しい剣の柄を握った。それで思いきり引っ張るけどやっぱりびくともしてない。足を乗せて更に力加えてる。大丈夫? と思ったら反動で壁まで吹き飛んでる。どれだけ力込めてたの?
「言ったじゃろう? そもそもこれは魔王様と勇者が誓いを果たして残したものゆえに抜けるようになってないのじゃ」
「だったらどうするのよ? 壁もめちゃくちゃに壊れてるのにどうしようもありませんわ」
「それはお前さんらがやったのじゃろう!」
「落ち着け。ここを埋めたら問題ない」
「問題大ありじゃ!」
何だか収拾がつかなくなってるなぁ。私もちょっとだけ試してみよう。
軽く剣を握って見た。頑張って力を……あれ? 力入れなくてもするする出て来るような。
抜けた。
杖の方も試してみる。こっちも呆気なく抜けた。
「抜けたよ?」
「は? 抜けたのじゃ?」
「うん」
なんでかよく分からないけど。
「そうか。この剣は魔王様と勇者の思念が混ざっているならば、その両者に認められた者でなければならない。そしてノラ殿は我々魔族に認められ魔王様にも認められたとも言える」
「勇者側であった神に認められているから剣も抜けたのじゃ?」
「すごいですわ。のらぴ、お手柄ですわよ」
ただ皆と仲良くしてただけなんだけど、まるで偉業を成したように言われるとちょっと恥ずかしい。
「じゃがこれで場所を移せるのじゃ」
「でもこの剣と杖って危ないんじゃ?」
「そう思ったのじゃが、よく見るのじゃ」
それで見るとさっきまであった禍々しさも神々しさもなくなってる。どういうこと?
「おそらく持ち主が変わって、その力を持ち主に依存されたのだろう」
つまり魔力なしの私だからただの杖と剣になっちゃった?
「かっかっか! お前さんは本当にどこまでも面白いのう!」
「でもこれで魔王様もきっと安らげますわ」
「そうじゃな」
武器がなくなればもう争うこともできないもんね。でも千年前の遺物をこのまま廃棄するわけにもいかないしなぁ。
「これ、どうする?」
「私が保管しておこう」
ケルちゃんに渡した。
「ワタクシは疲れましたわ。帰りに美味しいご飯でも食べないと気が済みません」
「それには我も同意じゃのう」
2人がちらちらケルちゃんを見てる。2人ともお金ないから完全に奢ってもらおうとしてる。
「今日くらいは別にいいだろう。ノラ殿もどうだ?」
「行く~。ケルちゃんからのお誘いは断れないよ~」
「ふっ、そうか。今日はいい酒が飲めそうだ」
まだ昼間くらいだけど飲む気なんだ。
「今日は一杯食ってやるのじゃ!」
「ワタクシも一杯食べますわ!」
「やれやれ。人間が作った飯に毒されてるのに気付いてないのか?」
こんな風にお喋りできるのも魔王様と勇者が和解してくれたからって考えたら2人に感謝しないとね。きっとこういう日常を夢見て、それとも願って約束したと思うから。
だから私はその願いをこれからも胸に残して皆と仲良くし続けるよ。




