195 女子高生も新学期を迎える
新学期が始まっていつもの学校生活が始まった。そして私は上級生の3年生。正直先輩という自覚はないけど。
そんなことよりもコルちゃんと同じクラスになれたのが嬉しい。ここの学校の生徒は少ないから離れる確率は五分五分。それでも3年間一緒になれたのは幸運だね。
「コルちゃん、今年もよろしくね」
「はい、こちらこそ。ノラさんと同じクラスで安心しました」
「私もー。まだ3年生って自覚ないんだよね」
「わたしもです。ですがこれからが大変になるでしょうね」
将来の分岐点となる所だからね。
「コルちゃんはやっぱりもう将来が決まってたりする?」
「実は……まだなんですよね」
そうなんだ。ちょっと意外かも。コルちゃんって頭がいいから自分の将来を含めてちゃんと考えてるって思ってた。
「今、意外って顔してますね?」
「エスパーだよ」
「ノラさんは顔にでやすいですから」
「勉強頑張ってるのも将来の為って思ってたよ」
「それは間違ってません。でも何をしたいかも、何をするべきなのかも考えてないんです。だから少しでも選択肢を広げる為に頑張っていただけなんです」
そっかー。勉強できたらそれだけ進学できる大学の数も増えるし、いい大学を出れたら就職の幅も広がるもんね。
「そういう意味ではリンさんが羨ましいです。自分のやりたいことを見つけて行ったのですから」
それは同感。先に大人になるって言われたけど、次会ったら本当に大人になってるかもしれない。
「ノラさんは将来を決めてますか?」
「まだなんだよねー」
しかもコルちゃんみたいに勉強もほどほどで異世界通いで本当にダメダメ状態という。
「ノラさんなら将来は異世界に行ってるかもしれませんね」
「えーそう?」
「あれだけ異世界に行ってるのですから、向こうで働くのも選択肢じゃないですか?」
確かにそうかもしれないけど、そうなったらこっちと縁を切ることになっちゃいそうで、それは嫌なんだよねー。
「異世界はないかな。あそこはなんというか旅行先というか、羽休めの場所なんだよね。今の向こうの人達との関係も心地いいから」
会いに行けば快く招いてくれて、深く干渉もしてこない。あののんびりとした雰囲気がどこか地元と似てて落ち着くんだよね。
「そうなんですね。そうなったら色々考えないといけませんね」
それは言わないでー。現実逃避したくて異世界にいってるのにー。
「そう考えたら異世界の皆はすごいよ。私と歳も殆ど変わらないのに頑張って働いてるから」
セリーちゃんなんてあんなに小さいのに酒屋で頑張ってる。レティちゃんは客足が少なくとも毎日必死に接客してる。シロちゃんは魔力がないのにそれでも自分の店を開いてる。
「皆を見習って私も頑張ろうって思う。だからコルちゃん、今日は勉強会しない?」
「新学期早々いい心がけですね。もちろん構いませんよ。ノラさんの家でします?」
「ふっふー。こういう時こそいい場所があるよ」
※異世界魔物喫茶※
私とコルちゃんは異世界にあるラビラビが住んでるカフェに来た。ちょっと暗くて落ち着いた雰囲気のあるお店で店長の猫さんもいい人。
テーブルに座って注文を済ませたら温かい飲み物を運んでくれた。
「猫さん。私達ここでお勉強したいんですけど、大丈夫ですか?」
「構いませんよ。ごゆるりと」
スーツ姿の猫さんがペコリとお辞儀してくれる。紳士だ。しかも気を使ってくれてラビラビの配置を絶妙に変えてくれて邪魔にならず、かつ目の保養になる位置にしてくれてる。
これは紳士猫。
それで早速課題を開いて早速勉強開始。とりあえず数学から。
コルちゃんは英語を開いてる。
カフェで勉強って本当に落ち着く。普段と違う環境ってより集中できたりするし。
「コルちゃん、ここ教えて~」
「ここはですね……」
※1時間経過※
かりかりってペンを走らせる音とページをめくる音だけがする。
「んー!」
同じ態勢で勉強してたから体がかたくなってきた。伸びをして店内を見回したら知らない間に客が結構入ってた。全然気づかなかった。それで向かいの席に美人なお姉さんが座ってた。
「ミツェさんだ~こんばんは~」
手をひらひらしてにこにこしてくれる。ミツェさんの笑顔って本当にすてき。
それに気づいたらミツェさんの机の前にも結構な本の山がある。
「ミツェさんも勉強?」
「人生は~学びの連続~」
見た目が美しくて、歌が綺麗で、楽器の演奏もできて、こうして自分を高める為の勉強も怠らない。
「コルちゃん、私決めたよ。ミツェさんみたいな大人になる!」
まさに私の理想像だもん。こんな大人に私はなりたい!
そしたらミツェさんが顔を赤くして首をぶんぶん横に振ってる。その謙遜な仕草もまたグッド。
「分かります。大人になっても勉強できるってすばらしいと思います。お姉ちゃんに爪の垢を飲ませてやりたいくらいです」
そしたらミツェさん更に顔を赤くして手も振り出した。うん、かわいい。
「私は~歌しかない~しがない~詩人~」
「それがいい~」
「尊敬しますね~」
ミツェさんとうとう両手で顔をかくして机に倒れちゃった。
「コルちゃん、決めたよ。私の将来の夢は歌姫!」
「そうですか。応援してます」
問題集解きながら軽く流される悲しみ。
そしたらミツェさんが急に立ち上がって私の手を取ってくる。
「あなたが~探し求めてた~歌姫なのね~」
「血を違えた~あなたの心の~妹よ~」
「この運命の出会いに~」
「明日を生きる糧~」
ミツェさんとの完璧のデュエット決まったね。私、歌姫の素質あるかも。
「ミッツェルさん。ノラさんはこちらで働かないそうなので誘惑しないでください」
「はっ、はひ!」
コルちゃんの素の毒舌がー。
「コルちゃん! いつもの優しさはどこに行ったの!」
「ノラさんは素敵な女の人だったら誰でもいいんですね! もっと身近の人に目を向けてくださいよ!」
「私はコルちゃんも好きだよ~」
「ノラさんの好きは大衆向けの好きです。もう騙されません」
何かよく分からないけどジェラシーモードだ。
「ごめんってば~。ドリンクもう1杯奢るから許してよ~」
「そんなのはいいですから。だから……もっとわたしも見てください。異世界ばかりじゃなくて、わたしも思い出してください」
そんな風に言われたらもう抱きしめるしかないんだけどー。
コルちゃんかわいいよー。死んじゃうー。
「青春だねぇ」
猫の店長さんが私達の騒ぎを遠目で見ながらお茶を淹れてる。
ここが店だって忘れてました。ごめんなさい~。




