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192 女子高生も旧都へ行く(2)

海の旅が始まって1時間くらい。辺りは真っ暗になってまるで夜中になったみたい。

私の記憶だとこっちに来たのは朝だったからまだ昼前にもなってないはずだけど。


空を見上げたら黒い雲みたいのに覆われてる。


「旧都。別名影の街。特殊な大気に覆われて光が殆ど差し込まないからそう言われてる」


ムツキが察して教えてくれた。なるほど、だからこんなに真っ暗なんだ。

暗いせいかホルエールの目からビームライトみたいのが出てる。


「もうすぐ旧都に到着致します」


係員さんに言われて先を見渡した。灯篭のような輝きを放ってる所があるのが見える。

ホルエールがそのまま接近すると、船着き場に到着したみたいで止まった。

係員さんの指示で大人しくしてホルエールが沈むと来た時みたいに板で橋にしてくれて陸に上がった。


目の前には当たりどこにも街灯や灯篭の光があって、まるで夜の繁華街のよう。

街の向こうは森になってるみたいで、暗さのせいで真っ黒でちょっと不気味。

でも周辺は屋台が多くて人で賑わってる。


「きたきたー! 旧都だよ旧都! 私、生きててよかったー!」


フーカちゃんが誰よりもはしゃいでて微笑まー。でも実際そうなるのも無理はないと思う。

こんなに暗いのに住んでる人の表情は全然暗くなくて、寧ろ笑い声の方が多い。

夏のお祭りに来た気分で、きっとここだと毎日がそうなんだと思う。


「ノラ、見て。七色に光る蝋燭だって」


ムツキが近くの屋台に寄って指さしてる。置物に出されてる蝋燭の火が見事なまでに違う。個人的に緑の炎がぐっと来た。しかも近くに寄ったら香りまでする。アロマキャンドルだ!


「これ欲しい! 緑のくださーい!」


「なら私も買おうかな」


ムツキは青のキャンドルを買ってお揃い気分。


「こっちにはランタンが売ってるよー」


フーカちゃんが売り物のランタンを片手に持ってくる。かぼちゃみたいな見た目で目から白い光が。


「暗い街だから光る物が沢山売ってるんだね~」


昼前だけど暗いせいで夜更かししてる気分になって段々テンションもあがってくる。


「君達、観光客だね? ならせっかくだからこれを買っていかないか?」


屋台の店主さんが指さしたのはこれまた光る石。光る色は色々で変わった物だとスライムやラビラビをデザインされてて可愛い。


「旧都には闇払いっていう風習があってな。それで森の奥の川で灯石流しってのをしてるんだ」


「闇払い、ですか?」


「ああ。街は見ての通り真っ暗だろ? だから人の心が闇で曇らないようって思いを込めてこういう石を流すんだ。その光景は見る価値ありだから、是非ともその目で確かめて欲しい」


なるほどー。暗いからこそある文化や伝統もあるんだね。こう含みを持たせられたら行かざるを得ないね。


「これ3つください!」


「毎度!」


それぞれ違う光る石を3人で持って、店主に言われた森へと歩いた。

屋台の通りを抜けて、繁華街のような光る街に入らずに立て看板のある所の奥がまさしく真っ暗な森。一応灯篭があるから光はあるけど、まるで肝試しと言わんばかりの暗さ。


「えー? この先に行くの?」


フーカちゃんが明らかに不満そうに言ってる。確かに私もこの先に何かがあるようには思えないけど、店主さんが嘘を言うとも思えない。


「少し進んでダメだったら引き返そう」


「賛成―!」


正直こういう所はわくわくするから何もなくとも行ってみたい気持ちがある。

廃墟の街を歩くのが楽しいみたいな?


それで皆で黒い森の中に入った。灯篭があるけど中は獣道みたいで舗装は殆どされてない。

茂みが揺れる度にフーカちゃんが私の袖を掴んでくる。案外こういうの苦手なのかな。


歩いてたら枝を踏んだみたいでパキッて音が鳴った。そしたらフーカちゃんが悲鳴をあげて抱き付いてくる。乙女だね~。


「ムツキはこういうの平気そうだね」


普通に堂々と歩いてるし、魔物相手でも臆さないのも知ってる。


「うん。夜の訓練もあるしどんな時でも対応はできるつもり。だから何が出て来ても心配ないよ」


「だって~。フーカちゃん、心配ないよ」


「うぅ。暗いのは平気でも不気味なのは無理~」


空都にはこういう所はなかったもんね。そんな感じで歩いてたらムツキの足が止まった。


「ムツキ?」


声をかけても返事がない。何かいたのかな。先を見渡すけど何もない。

ムツキの顔を見てみる。何か放心してるような?


それで辺りを目を凝らして見たら、ムツキの前に白っぽい芋虫さんが糸を垂らしてブランコみたいに揺れてる。そういえば虫が苦手だったような。


芋虫さんを掴んで茂みの奥に放してあげた。そしたらムツキがハッとしてファイティングポーズを取ったんだけど。


「あいつはどこ!?」


しかも片手でナイフ構えてるし。


「もう逃がしたから大丈夫だよー。とりあえずその刃物は仕舞って欲しいかなー」


「えっ!? はっ、つい反射的に」


こんな獣道だから虫がいてもおかしくないだろうけど。


「そんなに虫が苦手?」


「寧ろどうしてノラはあれを触れるのか分からない」


慣れの問題かなぁ。でもムツキのこの様子だとこの先克服は無理な気もする。

それで虫が出るって分かったせいでムツキも私の後ろに隠れちゃったんだけど。

おかげで私が先頭を歩いてる。


「ノーちゃんってさ、恐怖の感情なかったりする?」


「魔物見ても驚かないし、ありえそう」


2人がこそこそ会話してる。私はロボットじゃないんだけど。


それで10分くらい歩いてたら先の方から光が見えた。森を抜けたらその光景を見て足が止まった。


「ふわぁ」


「え、すごい……」


「綺麗……」


目の前に川が流れてた。普通の川だけど、その川を小さな小舟が光る石を乗せていくつも流されてる。おかげで川は光る宝石のように綺麗な色をしてるようだった。

まるで灯篭流しのよう。


近くに看板が立ってる。


【小舟に光る石を投げてください。あなたの闇が払われます】


異世界文字だけど訳したら多分そう書いてある。


「よし。皆で投げよっか」


買った石をゆっくり流れて行く小舟に投げた。私が買ったのは白く光る石。ムツキは青で、フーカちゃんは緑。その石は小舟に揺られて新しい輝きを見せて流されていく。


川はまた山に登ってそしてまたここに戻って来る。新しい石が増える度に闇は照らされて光が覆って行くのかな。光る石の数だけ、ここに来て自分の闇を払った人がいるって考えたら感慨深いなぁ。


「ねぇねぇ。あれ見て」


フーカちゃんが指さした方にまた別の看板があった。


【この先、蛇神の祠】


奥に洞窟があるしそういうこと?


「行ってみよう」


せっかく来たんだから旧都を隅々まで堪能しないとね。フーカちゃんは嫌そうにしてたけど、無理矢理連れて行った。


洞窟の中に入るとすぐに行き止まりになって、仄暗くて青白い光で照らされてる。

それで目の前に大きな牙が目に入ってちょっとびっくりしちゃった。

顔を上げたら人を丸のみできそうなくらい口をあけた大蛇がぴくりとも動かずにいた。


「大丈夫、石像みたい」


「なんだ、石像かぁ」


フーカちゃんが安堵して言ってる。横には看板もあった。


【蛇神の口にお金をいれてください。悪い願いを飲み込んでくれます】


願いを叶える神様ならぬ、厄を食べてくれる神様かぁ。せっかくだし入れていこう。銅貨を一枚投げようとしたけど、大蛇の口の中に手をいれないと入らなさそう。えーい、入れちゃえー。奥でチャリーンって音がした。


「ノラって本当に勇気あるよね。迷いがない」


「そうだよ。ノーちゃんって怖いものってある?」


「んー。ピエロ?」


「ピエロ?」


「あーうん。なんでもない」


子供の頃、遊園地に連れてもらって迷子になってたらピエロの人が心配してくれたんだろうけど、追いかけられたのが今でもちょっとトラウマ。


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